魂の救済、赦しという深遠なテーマを真正面から問う映画『赦し』主演・尚玄インタビュー「物事は一面的ではない」

  by ときたたかし  Tags :  

娘を殺された元夫婦と、犯行時17歳だった加害者の女性———。癒やしようのない苦しみに囚われた3人の葛藤、魂の救済、赦しという深遠なテーマを真っ向から描く映画『赦し』が、現在公開中です。

本作はあくまでオリジナルのフィクションではあるものの、被害者遺族と加害者双方の視点を取り入れ、罪と罰という根源的な主題を鋭く探求。観る者の感情にずしりと訴えかけてくる問題作となっています。

癒やしようのない責め苦を負った者は、その罪や悲しみを乗り越えて生き直すことができるのか。人と人は互いにわかり合い、憎むべき相手をも受け入れることができるのか。今回、娘を級友に殺害されて以来、現実逃避を重ねてきた主人公・樋口克を演じた尚玄さんに話を聞きました。

■公式サイト:https://yurushi-movie.com/ [リンク]

●とてもシリアスで難しいテーマの作品でしたが、最初出演が決まられた際は、どのような印象をお持ちになりましたか?

アンシュル監督とは長年の友人関係でもあり、ずっと「いつか一緒にやろう」と話していたんです。監督の作品をご覧になった方はわかると思うのですが、かなり激しい内容なんですよね。

痛みを伴うストーリーが多い。今回の『赦し』はまた違った作風ではありましたが、俳優として演じる上で大変な役柄であるなと思いました。

●もしも自分ならば…と考えてしまいますよね。

自分自身が赦せるだろうかと問いかけた時に、僕は正直なところ赦せる自信がなかった。だからこそ樋口克という役を演じてみて、その先にあるものを見てみたい、というのが率直な最初の僕の想いでした。

●最初に完成した映画を観た時はいかがでしたか?

僕は最初、釜山で観たのですが、(役としての)傷がフラッシュバックしてしまうなか、監督と松浦さんとティーチインへ参加しましたが、もう、うまく話せなかったですね。初めてビッグスクリーンで観たこともあったせいか、かなり辛かったです。隣に松浦さんもいたわけなので(苦笑)。

●今回の樋口克という役を演じるにあたって、監督はどういうリクエストをされたのでしょうか?

監督は最初にフォトショップで加工した僕の写真を送って来たんです。加工して太らせて、髭を足して、樋口克にはそういうイメージを持っていると。それで10数キロ太り、髭も長い間、生やしたままでした。

監督は撮影が始まる数週間前から克の衣装を渡してくれたので、それを着て生活していました。衣装から見えてくるものもありましたね。

●アンシュル監督には『コントラ』の際にお話をうかがったことがあるのですが、とても情熱的な方だなという印象でした。

そうですね。衣装も数センチ単位で調整するほどで、克のイメージを作り上げるために、彼の音楽のプレイリストも作っていました。澄子(MEGUMI)の分も作ってあり、それを聴いて(撮影までの)日々を過ごすようにと。

●そして最初の質問の答えをうかがいたいのですが、<その先にあるもの>は見えましたか?

この映画の結末についてはあまり話したくはないのですが、観ていただいた方がそれぞれの判断をしてほしいですかね。僕自身は彼を演じてみて、一歩踏み出せたところはあると思っています。

彼は加害者の夏奈(松浦りょう)と対面して自分自身を問うわけですが、それは僕自身にも言えることでした。違う見方が、多少はできるようになったかなと思います。

●今日はありがとうございました。最後に映画を待っている方に一言お願いいたします。

僕らスタッフ・キャスト一同、人を赦すということに、真摯に向き合いました。大切なことは、他者の視点に立ち、そこで思いやりを持って考えてみることだと思うんです。僕は、赦す赦さない以前に、役を通してそれを実践することができて、自分自身の成長につながったと思うんですね。物事は一面的ではないので、この映画を通して、いろいろなことを想像して、自分自身の赦しに向き合っていただければと思います。

■ストーリー

7年前に娘をクラスメートに殺害されて以来、現実逃避を重ねてきた樋口克(尚玄)のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者、福田夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられたというのだ。ひとり娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子(MEGUMI)とともに法廷に赴く。しかし夏奈の釈放を阻止するために証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至った動機が明かされていく…。

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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo