【安保関連3文書】「防衛力強化の罠」に嵌るな「 軍拡競争より民生企業の『守り』を固めよ」 

  by tomokihidachi  Tags :  

[出典:軍縮科学技術センター「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第13回「日本の防衛産業が抱える基本問題と解決策-国際競争力の向上をめざして」]

 2023年3月5日に「平和構想提言会議」の有志による連続講座「憲法研究者と市民運動家が安保3文書を読み解く」第3回目ウェビナー講座が行われる。議題は「防衛力整備計画」。時の中曽根政権が1985年に施行したが、今般の改訂で防衛大綱が定める防衛力の目標水準の達成のために、今後5年間の防衛経費の総額や主要装備の整備数量を示す文書に改訂された。
こんな時勢だからこそ、防衛産業の第一人者と言われる同志社大学の村山裕三名誉教授の講演を聴講した。題目は「軍縮科学技術センター」主催の「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第13回「日本の防衛産業が抱える基本問題と解決策-国際競争力の向上をめざして」だ。
どうしても権力ウォッチと批判に傾きがちな市民運動には受け入れ難い内容になることもあり得よう。だが、多様な知見を集約して偏りない叡智を持ち寄り、一流の論客から有識者ばかりではない草の根レベルでもできる議論のアジェンダ・セッティングとして提示できれば甚幸である。
 

日本の防衛産業は「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」の統計によれば、日本の三菱重工業、川崎重工業、IHI Corp,富士通が世界TOP100位の軍需産業に食い込む。
 だが、主要な武器輸出国は1位米国(39%)、2位ロシア(19%),3位フランス(11%)が続くが、武器輸入国としても1位インド(11%)、2位サウジアラビア(11%)3位エジプト(5.7%)から遥かに及ばない10位に日本(2.6%)が入る。日本の防衛産業の顧客は防衛省・自衛隊関連のみと言っても過言ではなく、日本の防衛市場が根本的にコスト削減でインセンティブが働かないシステムになっている現状に対し、ロッキード・マーティン社やボーイング、ジェネラル・ダイナミクス社などを擁する軍産特需を十八番とする米国。またBAEシステムで知られる英国、ネイヴァル・グループのフランス他、欧州諸国のように軍事企業に特化した世界の貿易競争から地球の二周回遅れでいる。その内情は次の2点に集約される。
(1)冷戦後に世界的な防衛産業の再編の際、日本は取り残された(2)米国や中国などと比較して優れた民生技術が防衛装備に本格活用されていない。
2019年から2021年間だけでも日本の防衛産業は小松製作所、ダイセル、三井E6S造船、住友重工業が相次いで市場から撤退した。中でも2022年11月、「防衛力整備計画」を含む「安保関連3文書」及び防衛費増額の国会論戦中に「島津製作所」(航空自衛隊部品製造)による突然の撤退表明は業界関係者に衝撃を与えた。

[出典:「SIPRI YEARBOOK 2022」Armaments, Disarmament and International Security ]

中国、北朝鮮、ロシアの軍拡競争包囲網にこそ「専守防衛」の国防を

[出典:「毎日新聞」(2023年1月1日)]

 今や中国、北朝鮮、ロシアは日本国防の脅威であり、各国の軍拡競争を鋭敏に捉え分析して有事に備えることが往年の懸念事項だ。

 中国の習近平国家主席体制は米本土を射程内に10個の核弾道搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」を保有する一方、日本を射程圏内とする地上発射型中距離ミサイルの保有数も約2200発増加。さらに既存のミサイル防衛(MD)で迎撃困難を克服した極超音速兵器を搭載可能な「東風(DF)17」まで米国を凌ぐ技術開発の域に及ぶと見做される。また海上艦隊は約350隻に。航空戦闘機は1270機まで大幅増加した。
2022年8月には米国のナンシー・ペロシ下院議長が訪台した際、同月4日に中国人民解放軍が台湾周辺海域を包囲し空海合同軍事演習を行なった。また同日、9発の弾道ミサイルを発射。その内5つは沖縄県の波照間島南西沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下している。
 一連の中国軍の脅威の高まりに対し、米国のジョー・バイデン大統領は2023年会計年度の国防予算の大枠を定める国防権限法案で、台湾軍事支援のため5年間に最大100億ドルを充填すると打ち出した。

 北朝鮮は2021年に新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射し、変則軌道で飛翔する新型短距離弾道ミサイル(SRBM)も立て続けに発射。2022年〜2023年現在までには37回のミサイル連続発射を行った。うち三月の新型ICBM「火星17」は10月の弾道ミサイルも同様、日本の上空を飛び排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
 ロシアは2022年のウクライナ侵攻後、国際社会から締め出しを図られてきた。だが、ウラジミール・プーチン大統領は同年5月に日米豪印の「QUAD」4カ国首脳会談に当て込み、中国軍と爆撃機の合同軍事演習を日本海周辺で実施した。また9月上旬には極東地域での戦略的軍事演習「ボストーク2022」を打ち出し、中印兵士ら約5万人を動員した。また北方領土にも2016年から2020年にかけて国後・択捉両島に地対艦・地耐空ミサイルまたスホイ35S新型戦闘機を配備してきた。

防衛分野の民生企業との「橋渡し役=『プロジェクトマネージャー』」育成が急務

 同志社大学の村山裕三名誉教授は、今回開催されたウェビナー講演において次のような論旨で「日本の防衛産業の未来」に向けた提言をした。
 「同盟国間の協力として持続可能なサプライチェーンを構築し、そこに先端技術がいち早く導入されるようにして戦略的自律性や不可欠性を持つ防衛力のあり方が望ましいであろう」とした上で、まず、日米関係で安保共通課題となっている「中国」の脅威で浮上した「台湾危機」にも触れた。
 村山氏は「日本が優勢な材料・部品、生産・補修技術などを総力として防衛装備品の生産・保守の拠点を東アジア諸国含む日本にも置くこと。それは米国のジョー・バイデン政権が望むことでもある。それが引いては輸出戦略や競争力強化、市場での重要なプレーヤーとしての地位を日本にもたらすのではないか。そこで鍵を握るのは『GOCO(Government Owned Contractor Operated)』だ。言わば、政府が施設所有し、運営は防衛企業に一任する有効活用である。これによりコスト高で限定顧客の『使われない兵器』から、「防衛装備品」の「輸出戦略」について同盟国や友好国で協力し合う『国際競争原理』の働く『ビジネス化』を図ることになるだろう」と解説した。

 他方、村山氏は「『国際共同開発』も含め、多額な防衛費増加だけを強制されるだけの『防衛力強化の罠』に嵌り、結果的にR&Dが機能せず米国製兵器主体の防衛力に塗り替えられていくリスクを負うことも一考すべきだ」との問題認識をも示した。
 
 その意味でも、「防衛生産・技術基盤戦略」(2014年)時点で既に打ち出されていた日本が保有する経済力と技術力を活かした防衛力強化の「経済安全保障政策」の見直しが必要だろう。2013年の安倍晋三政権下「特定秘密保護法」公布や海外で先進例のあった「ファイブ・アイズ」の問題などが取り沙汰される以前から日本の防衛省自衛隊は日米間の「MSA協定(日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法)」があるが?という疑念が不意に湧いた。

 ウェビナー聴講者が思うことを先読みしたかのように、村山氏は「『セキュリティークリアランス』のシステムを肝要とし、防衛分野の民生企業との『橋渡し』のできる『プロジェクトマネージャー(PM)』なる優秀な人材育成が急務だ」と指摘と提言で応じた。
[出典:軍縮科学技術センター「経済・技術安全保障ウェビナー・シリーズ 第13回「日本の防衛産業が抱える基本問題と解決策-国際競争力の向上をめざして」]

「台湾積体電路製造(TSMC)」と連携深め、日本の半導体サプライチェーンを強化せよ

 ―台湾有事が取り沙汰されているが、経済面からも「台湾積体電路製造(TSMC)」が半導体争奪戦のシェア拡大増大傾向にある。地政学的リスクの面でも日本の半導体関連企業との技術連携は日本にとっても大きな波及効果を生み出しているという認識がある。日本は台湾のCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)加入実現にも尽力すべきではないか。そうすることでサプライチェーン再編にも寄与し、経済安全保障強化にも有意義なものになるのではないか?と筆者が質疑すると、

 村山氏は「TSMCとの連携を深め、日本にとっての半導体サプライチェーンを強化することはきわめて重要であるが、その際にCPTPPのような自由貿易協定がどの程度役立つかについては、議論の余地がある。現在までのところ、国同士のこの種の協定とサプライチェーン再編がまだ明確な形でつながってはおらず、台湾が「CPTPP」に加入することで間接的な影響を与えるかもしれないが、サプライチェーンの再編に直接的に影響を与えられるとは現状では言い難い」と答えた。

[出典:「中央日報」(2021年11月4日)CPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)]

 その上で2022年12月に政府が閣議決定した「安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」の内、特に「防衛力整備計画」の議題について村山氏は「『専守防衛』という日本の『旗印=守りの分野』ならば、コストがかかり使われずに撤退するという課題を解決でき、圧倒的に弱小化してきた民生企業も入ってきやすくなる。あまり言及されていないが、大体の方向性は打ち出されている。だが、実際いかに落とし込んでいくのか、という詰めが甘い。『防衛生産技術基盤戦略』とでも呼称して『防衛三文書』のようなものを防衛産業などの領域まで落とし込んでいく文書がもう一つ必要になってくるのではないか。その盲点こそを詰めるべきだ」と提言した。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライターとして執筆しながら16年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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