[筆者・写真撮影/「もうひとつの平和の会」提供]
「専守防衛」の原則が揺るぎかねない令和の国家安全保障政策に国会閉会後、「安保関連3文書」が一切の国会での議論も尽くさず閣議決定され同時改訂した。
基本指針となる「国家安全保障戦略」、防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」、装備品の数量や経費などを定めた「防衛力整備計画」だ。
背景にあるのは北朝鮮のミサイル連続発射37回(2022〜2023年現在)と中国人民解放軍による日本の領海侵犯の脅威で高まる台湾有事である。
「個別的自衛権」と「専守防衛」に則って政府は相手国国土の破壊のみに供する「攻撃的兵器」の保有は「いかなる場合にも許されない」としてきたが、米国製巡航ミサイル「トマホーク」は該当しない曖昧戦略を取る。実は去年5月、秋葉剛男・国家安全保障局長から「トマホーク」の売却を打診され、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当官)が合意していた。
2014年の「集団的自衛権」閣議決定後から米国は日本の国防にとやかく口出ししなくなる。その翌2015年「安保法制」が施行された時、イージス・アショアの秋田や山口県設置計画と掛け合わせで登場した。だがそれも2020年には中止された。実現したところで効力が期待されないとの内情があったが、矛盾したように突然「敵基地攻撃能力」が代わりに降って湧いた。有事の際、「武力行使の3要件」に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域で有効な反撃を加えられるよう「スタンド・オフ」防衛能力などを活用した自衛隊の能力と定義される。
「平和構想提言会議」が提言「東アジアに敵を作らない共通の安全保障」を!
[出典:「平和構想提言会議」]
「抑止力の限界」などを議論する「平和構想提言会議」を創設した同会議の共同座長でもある、学習院大学の青井未帆教授(憲法学)は、憲法及び国際法の範疇で行動計画を策定。「東アジアに敵を作らない共通の安全保障の促進と市民が参画する多国間の安全保障」を提言する。2023年1月29日に「もう一つの平和の会」があきる野市のルピアホールで主催した「戦争ではなく、平和の準備を」の講演に登壇した。
東京大学の石田淳教授(国際政治学)は「軍拡競争が高じれば戦争になった時に国民の犠牲が甚大になる。その反省を経て今の憲法があるはずなのに、『防衛力強化を隠蔽するお題目に使われている』」と指摘。また旧安倍政権下で元内閣官房副長官補の兼原信克氏は「憲法論は1959年の砂川事件判決で決着済みだった」と斬り捨てた。
今、問われているのは台湾を巡る米中間で起きている「米軍との武力行使の一体化」の深みに嵌められ沈みゆく日本の軍靴の道だ。日台はそれぞれ「日本台湾交流協会」と「台湾日本関係協会」を設けており、経済・貿易・技術・文化などの実務関係への寄与を果たしてきた。政治面での交流では、2021年2月に自民党の外交部会が「台湾政策検討プロジェクトチーム」を新たに立ち上げ、台湾の「経済関係強化」や議員交流のあり方検討を始めている。台湾の孤立化を狙う中国の国策に対し、米国は国交を断絶した直後に「台湾関係法」を制定。他方、日本は2020年1月に「日台安全保障パートナーシップフォーラム」の枠組みでオンライン初会合を開いた。日本版「台湾関係法」を制定すべきではないかとの議論もある。今般の「国家安全保障戦略」では、台湾海峡の平和と安定について中国の軍事動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付けている。日米に留まらず台湾を日米豪印の枠組み「QUAD」や米英豪で作る「AUKUS」の枠組みに組み込むことで東アジア諸国全体の安全保障に寄与できる希望を見る。
米国の「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」は同盟・友好国保有の情報や装備も活用し、相手国のミサイル攻撃に反撃・迎撃する構想を謳う。そのIAMD能力は日本も「国家防衛戦略(NSS)」で強化を掲げてきた。
今日ある「自衛権」と「自衛隊」とは、日本国憲法には日本の国内外の安全を守るための政府の義務を規定した憲法第13条「幸福追求の権利」がある。国内の安全を守る「個別的自衛権」行使を認める作用法上の根拠となる。武力行使は禁じられているが憲法第13条の「例外規定」を法的根拠として国内の安全を守るための武力行使は許容される解釈の余地が残る。自衛隊は憲法上の「軍」に非らず、国際法上の「軍」と解釈される。2015年「安保法制」国会論戦中、何度も取り上げられた「武力行使の3要件」⑴切迫⑵着手⑶被害発生の3段階が想定されてきた。法的には自衛隊法第3条「直接侵略」の事態に同法第76条「防衛出動」、同法第88条「武器等防護」が該当する。そして国家の「危機的事態位置付け」が以下の3つの明確な事態想定に分類された。
⑴「重要影響事態法」:放置すれば我が国の平和と安全に重要な影響を与える。
⑵「存立危機事態法」:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされる明白な危険がある。
⑶「武力攻撃事態法」:我が国への直接の武力攻撃が発生している。
今般の「安保関連3文書」では台湾危機を「中国の軍事動向等について『これまでにない最大の戦略的な挑戦』」と位置付けた。上記の内、最も卑近な事態とされているのが、「存立危機事態」である。同法に新設された第3条4項において、「日本国憲法第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならない」と定められている。[出典:「検証・安保法案 どこが憲法違反か」長谷部恭男編/大森政輔・柳澤協二・青井未帆・木村草太共著<有斐閣>]
だが2021年7月に当時の麻生太郎副総理兼財務相が「中国が台湾に侵攻した際、安全保障関連法が定める『存立危機事態』に認定し、限定的な『集団的自衛権』行使もあり得る」との認識を示した。
2014年に閣議決定された「集団的自衛権」は「自衛のための最小限度」の中に「集団的自衛権」の一部が含まれるという政府見解になっている。だが「集団的自衛権」は「他衛権」であって「外国の自衛のために行使」するものだ。日本の自衛のためにやるとすれば「先制攻撃」となり、違法行為と見做される。
国際法上も正当と言えるか甚だ疑問だ。「集団的自衛権」の行使容認について判断した「ニカラグア判法」《国際司法裁判所(ICJ)》の判決によれば、「集団的自衛権」の行使が正当視されるには、被侵害国が侵害国により武力攻撃を受けた旨を宣言すること。次に被侵害国が防衛の協力を要請することの2点が必要とされている。ところが旧安倍政権下ではこの点が明文化されなかった。この点にこそ、現在の「敵基地攻撃能力」の争点が凝縮されている。
日米同盟の見直しも問い直さなければならない。主権国家同士の条約「日米安保条約」第3条「相互援助」いわゆる「自動参戦条項」によって憲法上の範囲内の規定従事を前提条件に、日本の「集団的自衛権」行使は法的に免責されてきた。
「憲法論は決着済みだった」に疑いの目を!イラク航空自衛隊輸送活動は憲法違反
「憲法論は決着済みだ」との前出の兼原氏の表現に青井氏は言及した。だが、2008年4月17日には名古屋高等裁判所がイラクでの航空自衛隊の輸送活動につき、「米国の『武力行使と一体化』したものだ。日本自らが憲法9条1項が禁じた『武力行使』をしたと言わざるを得ない」として憲法9条1項違反の判決を出している。
筆者が「北朝鮮や中国などの敵性国家が日本領土に届くミサイル・核攻撃を行う脅威を想定して政府は『集団的自衛権』を後付けではなく初めから行使する政策方針を打ち出している。仮にそうなれば日本を攻撃してもいいという『口実』を敵性国家に与えるようになってしまう。その上、誤った舵取りをして国民をミスリードしたら、米国と共にモニタリングをし、『自動参戦条項』含め、攻撃機能使用可能国家になってしまうのではないか?過去の戦時下と同じ過ちを繰り返さないためにも日本の国防なりヒューマンセキュリティーの課題を包括した在り方を模索すべきではないか?では、どうするか?」と
青井氏に「自動参戦条項」について質すと「その始まりの恐れがあまり知られていないことがポイントなのだと思う。まるで日本にはまだ決定権があるかの如く思われている。実際には日本の裁量は小さいという点がかなり大きなポイントであり、だからこそ在日米軍基地使用の法体系として『事前協議』が効いてくるという話に繋がっていくのではないか。在日米軍基地を特に『東アジア地域での紛争』に対しても使えなければ、アメリカも作戦には踏み切れない」と述べた。
その上で「専守防衛」の定義における受動的な防衛戦略の姿勢における『憲法の精神』とは、権力に縛りをかける最高法規の『前文』と『平和主義』を斬り捨て真逆の意味にし、「武力行使」可能との政府憲法解釈論の限界を直視せねばならない。「他衛権」のために「先制攻撃」を現行憲法上でもなし得るものにした。
[出典:「『台湾有事』を起こさせない沖縄対話プロジェクト」]
今、「『台湾有事』を起こさせない沖縄対話プロジェクト」が注目を集めている。「2度と沖縄を戦場に変えて『捨て石』にしてはならない」。沖縄県庁の平和事業で沖縄の学生と台湾の学生が互いに議論し合うものだ。
沖縄県平和啓発事業従事の仲本和さんは「台湾の学生からは必要なのは軍事援助や独立ではなく中国と経済的に切り離せるよう、近隣諸国に経済依存脱却へ向けた協力を支援して欲しい」と望む声が上がったことを紹介した。さらに台湾、済州(チェジュ)島、沖縄、広島、長崎、ベトナム、カンボジアの学生が各々集まって被害の経験を共有し合うプログラムについても触れ「日台で報道のあり方が食い違っている。いくら日本メディアが台湾有事を煽り立てても、台湾のことは現地の人の危機感を聞かなくては真実が分からない。日台の学生、ユース中心としたディスカッションを見せながら、シニア・有識者の見解をすり合わせてぶつけていき、可視化させる。その『パイプ役』を沖縄ユースが担うと言う形を目指すべきだ」と今後の展開に意欲を滲ませた。[出典:ISF「沖縄対話プロジェクト:台湾有事を起こさせない若者とシニアリアルトーク」(2023年1月13日)]
[出典:筆者スクリーンショット<ISF>「沖縄対話プロジェクト:台湾有事を起こさせない若者とシニアリアルトーク」(2023年1月13日)]
2023年2月12日には同団体が主催する「第1回沖縄・台湾対話シンポジウム」が「沖縄タイムスホール」で行われる。当日は台湾からの研究者も数名招く予定だという。
「戦争回避には重要な対話力」の実例にも触れた上で青井氏は「岸田首相は国会の施政方針演説で『国民の理解を求めて丁寧に説明していく』と仰ったが、『特定秘密保護法』施行後(2013年以降)だから機密扱いも多く、政府は決して市民には全容を説明しない。台湾有事になったら在日米軍基地を使わなければ有事の際、アメリカは効果的な作戦を遂行できない。市民自身が一人一人の良心に従い、声を上げて発信していかないと『事前協定』含め政府は何も動かない。昨今、日頃見聞きする情報源がかつてと比べ圧倒的に増えた。みなさんの知恵を寄せ合い是非、闊達な議論をしましょう」と憲法学者というよりは同じ時代に生きる人の声として、1部2部構成とした「講演会+対話と質疑」の催事に参加した中高年齢を主とする140人の胸に届いた。
<案内>
「もう一つの平和の会(MAP:meeting for alternative peace)」
私たちの国で、世界で、核抑止力や軍事力によって強いる「平和」が、大きな声で叫ばれています。私たちの前には今、そのような「平和」しか、選択肢にないのでしょうか?
世界のどこの人々も、平和を意味する言葉をもち、平和を希求してきました。それらはどれも、いつの時代でも、心の安らぎ、愛と信頼、豊かさ、人間らしさそして希望を込めて、語られるものでしょう。決して、恐怖や憎悪や不信や欠乏や絶望とともに語られるものではありません。私たちは、もともとの平和の意味を想い、穏やかに話を聞き、語り合う中で、「もう一つの平和(alternative peace)」を探りたいと考えています。
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