[筆者コラージュ作成]
年が明け、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は2014年に侵略したウクライナのクリミア半島と、昨年10月にすでに併合手続きを体面上は完了したとするウクライナ東南部4州から、ムイコラーイウ、オデーサ州。そして南部までロシアの支配地域を延ばしつつある。狙いはモルドバ東部に位置する「沿ドニエストル共和国」まで領土を繋げることにある。
他方、ウクライナのウォロディミフ・ゼレンスキー大統領も妥協しない。昨年11月にロシアとの停戦交渉を再開させる前提条件として、ウクライナ領土の回復や国連憲章の尊重、戦時損害賠償、戦争犯罪者の処罰、ロシアによるウクライナ再侵攻を禁ずる保証の5項目を提示した。
だが、年始の三ヶ日も終わらないまま、ロシアによるドローン攻撃が再開され、ゼレンスキー氏は全ての爆撃機を撃墜したとの報道から新年をスタートさせた。
[出典:YouTube「MAHANOLOGY」]
プーチン氏 NATOの脅威をモルドバ東部の自治領強奪の野心へ転換
ロシアのミハイル・ガルージン外務次官はモルドバに対し、NATOと協力すれば次はモルドバになる可能性があると警告。
モルドバの当局者は「2023年にロシアの攻撃が予想される」と述べた。
インタビューに応じたガルージン氏はモルドバに「ウクライナの悲しい経験を思い起こさせ、次の可能性があるという同国の疑惑を確認するベールに包まれた脅迫を行った」とした上で次のように述べた。「経験が示すように無謀な西側諸国の武器の増強や、その領土へのNATO部隊の展開はその国の安全と主権を強化するものではなく、逆に大惨事に近づけるものだ。モルドバの土地からのウクライナの悲しい経験は、非常にはっきりと目に見えると思う」
NATOとのより深い協力に対する警告としてガルージン氏は、軍事的及び軍事技術的協力がモルドバの安全を損なうと述べた。
モルドバ安全保障理事会のアレクサンドル・ムステアタ議長は「ロシアがモルドバに侵攻し、NATOとの国境をさらに強化する準備をしている」という以前のコメントを繰り返した。ムステアタ氏はモルドバが2023年に攻撃されると信じており、「ロシアは国際的に認められた別の親ロシアの飛び地である「沿ドニエストル」と国を結ぶために、領土を通る回廊を作ろうとしている」と述べた。この警告は、ロシアがモルドバに計画を保有し、次に侵略される可能性があることを示す最初の強力な兆候であり、NATOはこの脅威を真剣に受け止めてモルドバを保護するために活動するのか、それともNATOへの関与を撤回するのかという疑問を残している。NATOのイエンス・ストルテンベルグ長官は「ボスニア、グルジア、モルドバは、ロシアの圧力に直面している3つの重要なパートナーだ」と3カ国の安全保障をめぐる議論を闊達化させた。
[出典:YouTube「MAHANOLOGY」]
国連のグテーレス事務総長を「仲介役」に2023年2月末に平和サミットを開きたいウクライナ
だが、ウクライナ側に新たな進展があった。2023年2月末までに「平和サミット」を開きたいと要望しているのだ。丁度ロシアの侵攻から1年を迎えるにあたって。ウクライナ戦争の終焉を目標とするサミットのロシアの参加抜きでは成り立たない。ウクライナの外相は可能な限り国連のアントニオ・グテーレス事務総長に仲介役として立ち会ってもらうことを望んでいる。唯一の道はロシアがその「平和サミット」に招かれる道のみだ。国際司法裁判所(ICJ)でモスクワが最初の戦争犯罪を訴追されることになるだろうとウクライナ側は見做している。
[出典:YouTube「UNTV」]
2023年3月20日…「イラク戦争」開戦から20年
[出典:朝日新聞社「論座」(2016年6月10日)]
そして2023年。3月20日には「イラク戦争」開戦から20年を迎える。
予てから米英の「イラク戦争検証公聴会」で当時の各国首脳が弾劾裁判に応じる中、日本の外務省はA4数枚の紙っぺらで事を済ませたことにした日本政府の不誠実な姿勢。政府がやらないのであれば、ジャーナリストや有識者レベルからでも着手しようと戦場ジャーナリストの志葉怜氏が主催した「イラク戦争検証公聴会」第一回に当時の防衛官僚だった柳澤協二氏を招致したのだ。
2016年6月9日に拙記事「参院選目前に『イラク戦争検証公聴会』第一回開廷 安保法制と憲法改正の是非を有権者に委ねよ」がボツになった時、「イラク戦争検証」の座長は在英国特命全権大使の石川和秀氏を座長としたもので、NPO「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長が情報公開請求して部分開示された外務省側の当時のイラク戦争に関する安全保障上の「法的根拠」をまとめたページを確認したところ、決議1441で日本のイラク戦争支持を固めたことが繰り返し記載されていたという。「2002年に外務省は安保理決議678、687だけでなく、1205とか1137とか、1284、1154などいろいろなものを取り寄せながら、おそらく様々な経過を報告していたのではないかとみられる記述がある。ただ、それをどう検討したかという記録が出てこない」と当時暴露していた。この時、筆者は持病の急性増悪によって頭脳労働や外出などの行動を著しく医療制限され、自宅で訪問看護を受けながら、この生中継配信を自宅で這いつくばるように視聴してメモをとって原稿を書いていた。たとえ当時はボツであろうと、この「イラク戦争検証公聴会」は「安保法制」を止める「決め手」になるのではないか、と本気で思っていたからだ。しかし柳澤氏召喚以降、他の誰一人も政府関係者は弾劾されていない。
昨年突然の凶弾に倒れた生前の安倍晋三政権の「安保法制」との闘い。学生、市民運動、リベラルメディア、「非戦」を掲げる有識者などが共闘した反戦運動の「新・黄金期」だったと言える。その当時より格段に「軍靴の音」が卑近となった現代の地政学戦争論。昨年2月24日にロシアがウクライナ侵攻して以来、既存の常識を覆す欧州の「新・戦争論」一色で平和が塗りつぶされてしまった。
北朝鮮の突出したミサイル連射に 急速な「安保関連3文書」怒涛の決議
[出典:「東洋経済」「新春合併特大号」(2022年12月24-31日)]
昨今、北朝鮮が日本付近に到達する「IRBM(中距離弾道ミサイル)」を含むミサイルを2022年12月初旬までに76回以上突出して発射実験をしている。
岸田文雄首相はこれを受けて「安保関連3文書」を迅速に打ち出すしかなくなった。「新・安保関連法制」を目の前にして、何より「世界平和統一家庭連合(旧統一協会)被害者救済法」が罰則などを除く形で1月5日に施行を急ぐ岸田政権へのマスメディアの追及ばかりが目立つ。日本人の尊い人命を預かる「安全保障の危機」よりも、そんなにスキャンダルの追及が重要なのか。確かに「世界平和統一家庭連合」問題を叩く限り倒閣ドミノは新年になっても続くだろう。だが、岸田氏が意識しているのは2024年9月の自民党総裁選挙で再選されることだ。「ポスト岸田」不在では、あるとすれば23年内に解散総選挙に打って出る可能性だけが政治生命に関わる。
それよりも、今年5月19〜21日まで広島県で行われる「G7広島サミット」のホストを務めることになる岸田氏の米国のジョー・バイデン大統領の顔色を伺うような形だけのサミットになりかねない危惧を国際世論の形成で圧力をかけ続けることの方が重要ではないか。以前、筆者がサーロー節子さんの記者会見を取材した時、サーロー氏は「広島県出身の岸田さんが私たち被爆者の声を聞いてくださるから、今後に期待したい」と首相になる以前の岸田氏に頬を紅潮させて話していた。「核兵器禁止条約」が発効した際に「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のベアトリス・フィン事務局長が「日米同盟を結んでいる日本が米国の顔色を伺わず『核廃絶』を主導していく姿勢が求められている」と「核保有国と非悪保有国の『橋渡し役』にさえなっていない日本の姿勢」を強く牽制していた。同様の史実が繰り返される願いが明瞭としてくる。「核兵器禁止条約」提案国のニュージーランドは米・豪とも軍事同盟「ANZUS(アンザス)条約」を締結しているが、日本とは違って米国に対しても「非核政策」をとるように堂々と働きかけてきた。日本は「唯一の被爆国」ではなく、「唯一の<戦争>被爆国」だ。他に「実験被爆国」も無数に存在している。「被爆者」の苦しみに答えるには、かつて軍縮を進めたニュージーランドのデビッド・ロンギ首相が言うところの「核兵器によって攻撃されるよりも危険なことが一つだけある。それは核の傘によって守られていることだ」。核抑止の話になると「恐怖の忌避」戦略が必ず論争に伴う。今のプーチンのウクライナ戦争においても一目瞭然だ。
だが、筆者が「オフレコ」で著名なジャーナリストらに伺った範囲では「プーチンは核を使わないと思う。なぜなら核を使うことによって自国の受けるダメージが計り知れないからだ」と皆口を揃えて回答した。あの2017年「第四次米朝核危機」のブログを入院中に2か月かけて書き上げた際、論点整理の付箋に書いた当時のプーチン氏のスピーチを書き留めていた。「北朝鮮が始めようとしている惑星存亡をかけた核戦争はあってはならない」十分に核抑止の危機感を抱いていた理性的な指導者だったと言っていいだろう。
しかし、今のプーチン氏はただの見境のない正気を失った暴君だ。ロシアのウクライナ戦争「部分動員」徴兵に<対抗する文化(カウンター・カルチャー)>としてロシアの草の根レベルの市民らは命懸けで「音楽」や「ペンキ塗り」「骸骨のコスプレ」など創造的な表現手段でプーチンの戦争と闘い続けている。
在日ロシア人であっても、彼らはロシア当局の監視下にあり、帰国したりすればたちまち、収監されてしまうことが横行しているのだから。
[出典:「Radio Free Europe Radio Liberty」]
<対抗文化(Counter Culture)>
ある社会の支配的文化に対し反逆する下位文化(サブ・カルチャー)を一般に「対抗文化(カウンター・カルチャー)」あるいは「敵対的文化(アドバーサリー・カルチャー)」と定義する。社会のメインストリームを形成する支配的な文化に対置される「反権的な文化」の総称。
(了)
筆者から謹賀新年のご挨拶に代えて
昨年、ロシアがウクライナに侵攻する前日に在日ウクライナ人の反戦集会をペンとカメラで取材したのが、この戦争との関わり合いの発端だ。当時から少しずつ「ウクライナ反戦キャンペーン記事」を5本書いてWEB上で発表してきた。その私が斬新なアングルから「独創的な表現の自由」にてらって「非戦」を訴えていこうと目をつけたのが、「音楽」で時事問題を斬ることだった。なんとか動画編集と格闘し、出力して変換するところまではいったが、機械オンチなりに約33分の映像制作という試みを最終的に「DVDに焼く」という最後の砦でメンテナンスが悪いのか、つまづいた。試行錯誤して12時間かかっても問題は解決しなかった。
著作権の問題もあり、ペンではなくカメラは生半可なので、大胆なアプローチの中にも慎重を期して成し遂げたい。
今度こそ、明日にはDVDに焼き上がった企画「時事おと 地球の慟哭」ロシア ウクライナ侵攻反戦歌をできる限り多くの方々に届けたい。