ミニ四駆を走らせ、バトルえんぴつを転がし、スーパーファミコンやゲームボーイで遊んでいた子ども時代。たまごっちや初代ポケットモンスターなど様々なホビーブームが巻き起こるなか、忘れられない思い出のひとつが「ハイパーヨーヨー」だ。
バンダイから発売され、少年たちのバイブル「コロコロコミック」でハイパーヨーヨーを題材にした漫画『超速スピナー』の連載が始まり、のちに朝の子ども向け番組「おはスタ」でアニメ化も果たしている。アクション性や競技性の高さ、なにより次々に繰り出される技が格好良く、ヨーヨーの達人である中村名人を始め、全国レベルのプレイヤーが繰り出すトリック(技)の数々に目を輝かせていた。
今思い返すと、自分では大したトリックはできなかったが、友だち同士で腕を競い合い、学校で披露しては先生に没収された日々はいい思い出である。同じような青春時代を過ごした方も多いことだろう。
そして時は流れ2022年。完全にヨーヨーから離れていい年の大人になってしまったが、ひょんなことから「2022年全日本ヨーヨー選手権大会」というヨーヨーの大きなイベントがあることを知る。興味本位で取材に行ったところ、現代の競技ヨーヨーがトンデモナイ進化を遂げていることに大きな衝撃を受けてしまった……。本記事では、その時の興奮をレポートとしてお届けする。
見れば言いたくなる「なんかスゲェ!」
2022年6月4日~5日、神奈川県・横浜市教育会館で開催されたヨーヨーの全国大会「クラウドネイティブプレゼンツ2022年全日本ヨーヨー選手権大会」。西日本、中部、関東、九州、北海道の5地区で行われた予選を勝ち上がった総勢134の猛者が一同に集い、日本一のプレイヤーを決めるという一大イベントだ。1999年より毎年開催されており、今回で24回目だという。
どんな形で技を競い合うのだろうかと会場で配られたパンフレットを確認したところ、そこからすでに昔とまったく異なる形になっていた。大会で行われるのは「競技ヨーヨー」と呼ばれるもので、3分間の⾳楽に合わせて演技を⾏い、技術とパフォーマンスを審査し競う「フリースタイル競技」となっている。
さらに近年ではプレイスタイルによって⼤きく5つの部⾨に分かれているというから驚きだ。ヨーヨーといえば1つを巧みに操って行うモノだと思っていただけに、競技が始まる前から驚かされた。
ここからは6月5日に行われた各部門の優勝者たちの競技中の写真と共に紹介していく。
1つのヨーヨーを極めた「1A部門」
1A部門は「ワンハンドストリングトリック」と呼ばれる、1つのヨーヨーとストリング(ヒモ)を操るトリックの部門。誰もが最初に通る馴染み深い部門で、競技人口も最も多いという。その昔、中村名人が見せていた「ストリングプレイ スパイダーベイビー」くらいなら分かるぞ……!と思っていたが、トンデモなかった。
とにかく速い! そしてダイナミック!! 正直トリックひとつひとつは凄すぎて分からない。だけど超カッコ良い! というのが感想だ。それがかなり重要で、分からなくても見た目の派手さと勢い、次々に繰り出される見たこともないトリックたちに思わず目を奪われる。「今のヨーヨーすげぇ!」と釘付けになってしまった。
https://youtu.be/s61hoNNxC4M?t=49
2つのヨーヨーでダイナミックに魅せる「2A部門」
2A部門は「ツーハンドルーピングトリック」と呼ばれる、2つのヨーヨーで弧や円を描くトリックの部門。両手で持ったヨーヨーを投げ出すダブルループなどを中心に、よりダイナミックな技が次々に繰り出される。
後日、個人的にやってみたのだが、これがメチャクチャ難しい。競技を極めたプレイヤーたちが軽々とやってのけるトリックひとつひとつの難易度が高く、かなり華やかに思えた。
https://youtu.be/GitZOrS9FSc?t=52
巧みな技術力で競う「3A部門」
3A部門は「ツーハンドストリングトリック」と呼ばれる、2つのヨーヨーをストリングに乗せる、または引っ掛けるといったトリックの部門。ヨーヨーのプレイスタイルで最も難しいとされており、プレイヤーの技術力や練習量が試される。
2A部門以上に複雑に絡むストリング、その一挙手一投足が高速で行われ、会場が激しく湧く場面も多く見られた。
https://youtu.be/1rLXOc4dBj8?t=36
トリッキーな離れ技が魅力の「4A部門」
4A部門は「オフストリングトリック」と呼ばれる、ストリングから離れたヨーヨーを使うトリックの部門。中国ゴマをイメージすればわかりやすいだろう。
空中に投げられたヨーヨーをキャッチし、再び空中へ。身体の間を通したりと、とにかく見た目の動きが面白い。いかに落とさず離れ技を魅せるかという、リスキーでスリリングなトリックに目が離せなかった。
https://youtu.be/vHxYnVGKNeY?t=58
ヨーヨーとおもりを操るエクストリームな「5A部門」
5A部門は「カウンターウェイトトリック」と呼ばれる、ストリングを指に付ける代わりに「おもり」を付け、ヨーヨーとおもりの両方を操る部門。
イメージとしてはヌンチャクや鎖鎌のような感じで、ヨーヨーとおもりが描く円の軌跡が非常に美しい。これまでの部門とは異なる独自のダイナミックで派手なトリックが魅力だ。
https://youtu.be/73mHvaYHAFM?t=76
技術・パフォーマンス・芸術力が求められる競技性
ハイパーヨーヨー世代から見た、今のヨーヨー界はまさに異次元。なにより、技術だけでなく、限られた時間で音楽に合わせてトリックを披露するというバレエやフィギュアスケートと似た競技性の部分に驚かされた。
素晴らしいトリックが決まったときには会場から大きな歓声が湧き、それを追い風にするようにプレイヤーのテンションも上がり、さらにパフォーマンス力を上げていく。
もちろんヨーヨー本来の楽しさは変わらない。しかしながら、様々な部門が設立されているようにヨーヨーが持つポテンシャルの幅が広がっていると感じた。言葉を着飾らないのであれば、メチャクチャ楽しそうに見えた!
ちなみに、大会2日目の様子はニコニコ生放送「クラウドネイティブプレゼンツ2022年全日本ヨーヨー選手権大会」のタイムシフトにて視聴可能。こちらの放送は世界チャンピオンによる実況・解説付き。絶対に「おお、すげぇ!」という声が漏れるので、ぜひ見て欲しい。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv336961615
ゲストで登場した中村名人に直接インタビュー!
なんと本大会には、ゲストとして中村名人が登場。中村名人は、プロスピナー(プロ競技者)としてコロコロコミックのハイパーヨーヨーのコーナーを担当し、漫画『超速スピナー』でも登場。数々のイベントや番組などでトリックを披露し、ハイパーヨーヨー時代を牽引した、まさにカリスマ的存在だ。
そんな中村名人に今回、特別インタビューを実施。90年代から令和の今に続く、ヨーヨーが紡ぐ進化と魅力について伺った。
名人に憧れた世代が今を作るヨーヨーの絆
ハイパーヨーヨー最大のブームとなったのが1997、1998年。今回のイベントを見た上で、明らかにスピード感やトリックの難易度が変わっていた。
どんな進化を遂げてきたのか質問すると、競技だけでなく本体そのものも大きく変わっていたことがわかった。
まずは本体。以前はプラスチック製だったものが、2000年代に金属に変更され、実現可能なトリックの幅が広がったという。
そして驚いたのがヨーヨーの戻し方だ。ハイパーヨーヨーはヨーヨーを下に投げたあと、ストリングを引き寄せれば自動的に戻ってきた。しかし、現在は「バインド」というストリングを本体に擦りつけて引き戻すという、特殊な動作をしないと手に返ってこない。この特性により本体の回転がより長く続くようになり、長くトリックできるだけでなく、引いても戻らない性質を利用したストリングを使った技も映えるようになったという。
https://youtu.be/T-Wu3acQ9fI
https://youtu.be/9PItxl5CZfk
「変わった点でいえば、部門が増えたことだね」と中村名人。以前は2部門しかなったが、現在は1A~5Aまでの5部門あり、それぞれで異なる魅力を持っているという。部門ごとに専門性がまったく異なり、大げさにいうと将棋、囲碁、チェスぐらいの違いがあるとのことだ。
ここからは中村名人という人物、そして歩んできた道について質問を投げかけてみた。
<写真:1990年代の中村名人>
時の人とも言っていいほどヒーローだった1997年、1998年。そこから数年後、「当時、このブームが終わったら、僕はいなくなるなと思っていた」と話してくれた。実際に、ブームが去ってから2008年ほどまでヨーヨーをまったく触らない時期があったという。
しかし、ある時に大ブームの頃からずっとヨーヨーを遊び続けた子から連絡が入る。「今クラブでヨーヨーをやっているので、ぜひ遊びに来てください!」と誘われた中村名人は、せっかくなのでと足を運んだ。そこで今のヨーヨーの面白さを知り、再びヨーヨー界に戻ってきたのだ。
中村名人に憧れた子どもたちが成長し、今のヨーヨー界を支えている。実際に、今回のイベントスタッフもハイパーヨーヨー世代の方が多く見られた。ヨーヨーが世代を越えて人を紡ぎ、大きなムーブメントを起こしている様はなんとも感慨深い。「当時、イベントに来てくれた子どもたちと、今では居酒屋で飲んだり、プライベートで釣りに行ったりもしているよ」と語ってくれた中村名人は、とても幸せそうだった。
最後にハイパーヨーヨー世代の方にメッセージをお願いしたところ、「もう一回やってみると面白いかもしれないよ! ちなみに大会に来てくれればサインは対応させて頂きます。その昔、撒かれた人たちもぜひ」とコメント。たしかに当時は大ブームすぎて、イベントに行っても中々相手してくれなかった思い出が……。当時悔しい思いをした方がいれば、ぜひ今のイベントに参加して、中村名人にその時の思いをぶちまけよう!
なお、翌2023年の世界大会は日本が舞台となる。さらなる盛り上がりが約束されているので、ぜひ注目しておこう!
▲一緒に撮影をお願いしたところ快く承諾してくれた中村名人。めちゃくちゃ優しい。