episode.19 追憶の神器(レガリア)
結・~Musica(ムジカ)~永遠の暁
日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~
(連載小説)
(イラスト・小林ユキト)※イメージイラストはアマテライザーを持ったテルヒコとユタカ
(小説版キャッチコピー)
「灼熱のなか真実が蘇るー!」
神代~弥生、平安、戦国、令和と繰り広げられる
魂ゆさぶる伝奇スペクタクル、
愛を巡り戦う戦士たちが紡ぐ群像劇(ドラマ)ー。
(あらすじ/邪馬台国の戦火を逃れ残った神秘の鏡、アマテライザーに導かれる記憶を失った青年テルヒコと彼を導く女神ユタカの壮大な歴史の波を駆ける大河アクション小説。台詞後ろ=( )キャラ名)
登場人物(テルヒコ/本作の主人公。記憶を失った青年。その正体は滅びた邪馬台国のかつての王子。)
(ユタカ/鏡を通してテルヒコを導く謎に包まれた女神。かつての卑弥呼の後継者。)
(石上雅也/魔界に魂を売りテルヒコと彼の祖父大善らと対立するライバル。九頭竜と契約し後に令和の世において冥王イブキとなる。)
画像・戦国時代、耳川の合戦にて初期創聖者三人。(テルヒコ・シマコ・サクヤ)
中央/テルヒコ
(記憶を失い戦国の世を彷徨う王子テルヒコの創聖した・スサノヲアームド形態。自ら戦う理由、愛する者たちの記憶一切を忘れており闇を討つその本能のまま修羅の如く闘い続ける。)
右側/シマコ
(邪馬台国時代のテルヒコの親友シマコこと浦島太郎が創聖した水神ワダツミ。テルヒコからかつて神器を渡されており海底の龍宮で特殊能力を身に着けた。)
左側/サクヤ
(神器継承者として宮崎を代々守護してきたコノハナサクヤヒメの後裔、姫神サクヤ。公私ともに使命に生きサクヤを名乗る。蔦のような重火器、カグツチを愛用するスナイパー。)
(※本作品はフィクションです。本小説に登場する人物および団体事件いっさいは実際に存在するいかなる人物および団体とも関係はありません。)
(※以下エピソード本文)
「耳川の戦い」-。戦国時代、宮崎県は現在の高鍋~木城町間を流れる県央(小丸川)の流域、
また、県北耳川の2ヶ所において繰り広げられた通称、(西の関ヶ原)。九州を二分する最大の合戦と言われた空前絶後の戦である。
のちに高城川の戦いとも呼ばれたその戦は、元来実質友和的な同盟関係にあった(大友家)と(島津家)、
また伊東家を巻き込む軍事衝突(伊東家が自らの領地を条件に大友家に助けを求めたことが導火線となった)が発端となり各陣営の思惑、滾る欲望の末引き起こされた血みどろの戦であった。
中でもキリシタン大名大友宗蘭は元来傾倒していたキリスト教王国を日向国に建設する夢を描き、
宮崎を(自分の国)と呼び本拠地を(無鹿/ムシカ)と名付けた。(※ラテン語の音楽/ムジカ=Musicaが語源)
当時日本ではキリスト教になじみのない武将が多かったこともあり、当然ながら宗蘭が描く夢のため命をかけ戦うことへ
不満を募らせ、嫌々ながら戦へ参加する武士たちは多くいた。
日本の戦ではじめて使用された大砲であるフランキ砲の導入、4万を超える兵力で戦にのぞんだ(大友家)は、この戦いにおいて絶望的な少人数の、高城城主、山田有信ら(島津軍)に大敗する。
この時点で、大友軍の兵士たちは(4万人)なのに対し、高城を護った島津軍の兵士たちの数は(500人)であったー。(最終的に鹿児島より島津の援軍が到着したがこの高城での防衛戦が島津軍最大の勝因となったと言われている)
高城防衛戦において、なぜこれら(絶望的差)であった少数の兵たちが、数万の兵を率いる宗蘭に打ち勝つことができたのかー。
耳川の戦いの裏には、人の想像では測り知ることができぬ力が働いていたのかもしれない・・・。
当時の大友軍の軍配者、角隈石宗(つのくませきそう)はこの耳川攻略戦で戦況を(占った)折に非常に悪い(謎の気)を感じ、日向への進攻作戦を止めるよう宗蘭に助言したが、全く相手にされなかったという。
彼(助言をした角隅)は当地耳川で無念にも討ち死にしたが、彼が占いの際に見た悪しき(気)の正体は、敵ではなく主に(大友軍/味方内部)から放たれている(気)であったという意外な逸話は、あまり知られていない。
(軍配者※戦国時代の軍師。出陣・戦闘開始の日時など軍事行動を卜筮(ぼくぜい=占い)し、その結果を指示するといった呪術的行為を行った。また角隈は人格者だったともいわれ島津義久と友人であった。)
放たれていた、悪しき(気)の正体・・・。
この時数で勝る大友軍に致命傷を与え、急遽日向より撤退を余儀なくされた最大の理由が、聖地の力を身に受けた3名と国衙総本家率いる部隊の干渉によるものであったということは、アカデミックな日本史において当然誰一人として知るものはない。
過去、現在そして未来において
聖地の盾となる三神器の、時空間を越える力(創世力/ユニバース)。
宗蘭はこのとき無尽蔵なその恐ろしさを知らずにいた。
その神の力を身魂(みたま)に宿し戦う闘士たちを創聖者(そうせいしゃ)とよぶ。
同年11月。争いが激化する高城川(耳川)周辺・・・。
高城(城主・山田有信※現在ではクロウ宮崎支部がある時計台)-。
麓より大砲を構える大友軍。
三方を崖に囲まれた難攻不落の大要塞であった高城は、この地における島津軍の本拠地であった。
高城は唯一空いている西側にも深い掘があるという、なかなかに攻め落とせぬ鉄壁ぶりであった。
その時テルヒコ、シマコの二人は身柄を隠し都万宮神社(※モデル=都万神社)の末裔である神女、姫神サクヤの傘下に迎え入れられ
彼女ら総本家の指揮下により行動した。かねてより都万宮神社を参拝するなど親交のあった島津義久ら、
島津軍の護った日向国新納院(合戦の主戦場)一帯を防衛すべく、彼ら三人は高城にて島津の兵たちより戦の説明を受けていた。
※ハナの先祖であるサクヤ本人の家は宮崎市、恒久にあり耳川の合戦時は遠く離れた日下部邸を駐屯地として滞在、
現地の戦闘に参加していた。恒久の神社は現在もサクヤヒメを祀り総本家こと都万神社の分社である。
見晴らしの良い城の高台から見える地上の景色。ドライブスポットとしては絶好の地である。
平和な世であったなら。
天守閣の兵たち。自分が天から現世を見下ろしている錯覚に陥るようなきれいな自然の絶景、
川をまたいでゾロゾロと進軍する大友の兵士たち(数万人に及ぶ)が見える・・・。
その日の日中、宮崎の広大な平野は合戦場と化していた。
無限大に見える麓の平野に、どこまでも無限に見えるアリンコのような大友軍たちの鎧が、
ガシャリガシャリと金属音を打ち鳴らし、どこからともなく戦を告げるラッパの音が戦地に響き渡る。
あれだけ進軍に気乗りしていなかった4万人の大友軍のうち、その大多数の兵の眼の色がこの日、この時間になるころには
既に狂暴な闘争本能、快楽を求める欲動の眼差しに変転していた。
ゴリリッギャア、ブゥウーン!(鎧を脱ぎ捨て次々に羽化を果たし、戦場にせり出す土蜘蛛軍)
血を求め殺戮を繰り返し、その血を受け育つ魔物たちの羽音。
耳川一帯を敷き詰めていた数万の土蜘蛛軍団は、見事に羽化を果たし、
現在同胞であるはずの自軍、大友の兵士たちの血肉を喰らっている真っ最中であった。
「うっひょ~ありゃ勝ち目がねえな・・・!(シマコ)」
「うっ・・・・おぞましや、餓鬼道じゃ・・・この世の末じゃ・・・あれは。(島津兵)」
「あ、あんな化け物どもに太刀打ちできるのか、我らは。(吐き気を催す島津兵)」
「縁起でもないことを、言うでない!・・・本当に貴様ら、大丈夫だろうな・・・。(高城城主・山田有信)」
「将軍殿、この男(テルヒコ)、先刻どこかで相まみえ・・・。(島津兵)」
「ん、なんか言った?(クルっと振り向く山田)」
「いいえ、あの・・なんでも・・・。(こいつって・・・こないだのヤツじゃね?・・・)(どよめく島津兵)」
(こいつ暴れたら俺たち・・・)
「・・・大丈夫、取って喰いはしない。俺は殺生を好む輩は嫌いだ・・・。(笑顔で答えるテルヒコ)」
「?!(島津兵)」
静かな笑顔で答えるテルヒコに、城主であった山田有信はモノ言えぬ彼の特異なオーラを感じ取った。
「・・・似つかわしくないな。一つ尋ねるが、貴様、もとの生まれはどこだ?(山田)」
「ここの出だよ。ずっと・・・それでここで死ぬだろう。(テルヒコ)」
「俺はますます気に入ったよ、この場所が。(テルヒコ)」
※のちにこの近くは地方創聖プロジェクトの事務所、ひなた宅がたつことになる。
火野により告げられた矢文に綴られていた計画、島津陣営に味方として入り込んだ
テルヒコ、シマコ、サクヤたちの三人は高城を拠点としつつ大友軍の将、宗蘭の影に蠢く魔の王、
戦国の世に再び現れんと暗躍するイブキの計略を討つため、マガツカミ掃討の作戦という名目で(高城)に集まっていた。
「そ~だっ!よういったお前は!これ(戦)が終わったら一杯やって、姫の荘園で一緒に百姓でもやろう!(シマコ)」
「俺がいろいろ、遊びを教えてやるよ!・・・こんな下んねえところで死ぬなよ。(シマコ)」
「訳ありに見えるが、それなら都で仏門に帰依すればよい。なぜそのほう(※あなた)はこんな物騒な戦に・・・。(島津兵)」
「奴等(マガツ神)がジャマ臭くてね。こうでもやらないと安心できないんだ・・・。
俺に何かのことがあれば姫君(サクヤ)が、焼き殺してくれるさ。(冗談のように笑うテルヒコ)」
「この私が願を掛けたから大丈夫!むざむざ皆を死にはさせん・・・。(サクヤ)」
「その者も、全く何の頼りも無いよりはましになるだろう。それでは我が島津軍、総本家の姫と都万宮大明神の加護にあやかって・・・ひとつ、力添え頂こうか!(山田)」
「テルヒコ、シマコ・・・・いくわよ!(サクヤ)」
「承知した!(シマコ・テルヒコ)」
三人の掌に光る神器の力が、数万の土蜘蛛軍を見下ろす高城高台(天守閣最上階の縁側)にて、解き放たれた―!
「創聖!!!(サクヤ・シマコ・テルヒコ)」
(ソウセイセヨ・・・!※ライザーポータブルシステムのシステム音)
―皆の者、いざ出陣!(サクヤの号令)
「うぅおおおオオオオオオ!!!(テルヒコ・シマコ・総本家の護衛兵)」
ダダダダダダッッ!(走り駆け出す戦士たちの足音)
日中の眩しさの中、神器によって変質させた姿を曝す二体の戦士。
黒鉄の鎧武者=王子テルヒコ(スサノヲアームド)。
「あ、あいつはやはり先刻の鎧武者・・・もうひとりは、・・・竜(水神か)?!(島津兵)」
竜宮の主ワダツミの神(豊玉彦)により護られた、シマコのバトルスタイル(水神ワダツミ)
風雲剣叢雲(ムラクモ)と竜王の玉が宿る杖、蓬莱斬(ホウライザン)を構えた二体の戦士は、
高速のスピードで数百の土蜘蛛たちの群れの中を、
どちらが果たして多くの数捌けるか競うように潜り抜けてゆく。
鈍重なる鉄の香り、返り血も戦いの勢いと照り付ける日の光の熱気に蒸して、瞬間のうちに瞬足で乾ききってしまう。
「なんだよ、タカがハエトリグモじゃねえか!(シマコ/ロッドを高速で振り回すワダツミ)」
「油断するな!川の対岸は姫に任せてある!俺たちは援軍が来るまでの防波堤だ!(テルヒコ/シマコの背後にいるスサノヲアームド)」
「わかってるってェエ!(シマコ)」
「行けェエ!者ども!(城主・山田)」
「うぉおおーーーーーーーー!ハアアー―――ッ!(島津兵)」
二人の若武者(テルヒコ・シマコ)の背。そびえたつ天守閣の縁側からその銃口を構える女将軍、(姫神)サクヤの姿-。
「ひっさしぶりに遠慮なくぶちかませるわ―!ゆけ、カグツチ!(サクヤ)」
ドッガァア――――――ン!(大噴火するサクヤの重火器・カグツチの爆発音)
「ンッッガギャアアアアアアアアアッッッ!(飛び散る土蜘蛛の八足、胴体)」
耳川を包囲する土蜘蛛たちの進攻は、5キロ離れたサクヤの天守閣からの砲撃で次々に火の海となり、打ちのめされてゆく。
「そなた(敵の正確な射撃位置が)視えるのか?!(山田)」
「勘よ。(サクヤ)」
※カグツチによる長距離への無差別砲撃はサクヤの第3の目(視えざるものを見る感性=センシティブ)によりなされる。
「えっ・・・・・(本当に大丈夫なのか?!!)(島津兵)」
その時川の向こう岸では・・・。
「うっわあーーーー!(カグツチの爆発で飛び上がるテルヒコ・シマコ)」
「だ、大丈夫か・・・!(サクヤの護衛兵)」
「ああ・・、なんとか!(あいつ結構適当だな~汗)・・・ありがとう、優しいんだな・・・。(テルヒコ)」
「・・・と、当然だ!(カアッと赤くなった護衛兵)」
本当にその正確な射撃は、(大丈夫)であった。
もうこの時すでに、大友軍は人間の姿を捨てた魔性の軍勢と変貌していた。
魔性に堕ちることなく正気を保っていた兵の大半は
怯え何処かへと逃げるか、土蜘蛛の餌となるか。
狂乱し敵味方無差別に斬り合う・・・。
もしくは自害、降伏のどれかとなっていた。
「ゴゥアァグルルル!(人の姿から土蜘蛛へ変貌してゆく大友兵たち)」
兵士たちの鎧の中から、マガツカミとしての悍ましい肉体が湯気とともに現れる。
「仏罰が下ったのじゃ・・・・・。俺は、俺は知らんぞ・・・・・(大友兵)」
仲間が土蜘蛛へ堕ちるさまを見て腰が抜ける者や立ち尽くす兵、気が触れ向こう岸で酒盛りを始める兵もいた。
(※大友兵が戦前より死期を見悟り酒盛りをしていた記録がある。)
戦意を失った兵士の数を差し引いても、いまだがぜん多く耳川全域を敷き詰める大友の土蜘蛛軍・・・。
バキバキィイッ!(高城天守閣内で土蜘蛛が羽化をする音)
無差別に発生する闇の力は、陣営の垣根を払いのけ襲い来る。
「ギャアア!(土蜘蛛となった味方=島津兵)」
「う、うわああー!(仲間の変貌に狂乱する島津兵)」
「構わぬ!斬りなさい!(サクヤ)」
「ですがこの者は・・・(島津兵)」
「ハァアーッ!(瞬時に伸びた熊手=爪先で蜘蛛を斬り殺すサクヤ)」
迫る土蜘蛛に回し蹴りを喰らわすサクヤの顔は(もう慣れっこ)といわんばかりであった。
「・・・だから、ダメなのよ!あんたらは!(サクヤ)」
「敵はどこに紛れているや知れぬ!気を引き締めろ・・・!(オッカネェえー―!)(城主・山田)」
蜃気楼のなか迫ってくる、生ぬるい邪気の気配を戦士は直感する。
「・・・・・やつは・・・(振り向くテルヒコ)」
ザッザッザ・・・・・(戦地にこだまする大友宗蘭の足音)
(こいつ、こいつは・・・俺の追っていた・・・!)テルヒコの心の声
「・・・(シマコ)」
戦慄したテルヒコ、彼の様子がただならぬものであることを、シマコは真っ先に勘づいていた。
(テルヒコの様子が・・・!)※シマコの心の声
混迷極まる戦場にて、自軍のシンボルである逆十字を首元に下げたその男、キリシタン大名にして九州きっての覇王、宗蘭がついに現れた。
「将軍が参ったぞ!皆の者ォオー!(大友兵)」
「主がついにデウス様の礼拝堂から来られた・・・!
皆の者、祈りの”しるし”があったぞォオオオ!(感涙し喜ぶ大友兵)」
「ついに・・・!ついにィヤッタアギャアアア!(歓喜し次々と禍々しい魔物へ変貌する大友軍勢)」
「あんなやつが神かよ、うっさんくせえヤローだ!(シマコ)」
その男。
大友宗蘭、来襲・・・!
「あれが・・・・敵将、大友宗蘭(そうらん)か・・・!(テルヒコ)」
現れたその影から放たれる邪気を受け、生き生きとした生命力を復活させてゆく大友軍。
「メギャガアア――――ッ!(土蜘蛛達の声にならない声)」
※(訳)メシア様―――!
絶望に陥る戦地の大友軍(土蜘蛛軍)の中に、その待ちに待った救いの主はついに降臨した・・・。
士気の高揚、否、狂気(狂喜)の果てである。
その主、宗蘭の手に握られた武骨な凶器=刀(骨喰藤四郎/ほねばみとうしろう)・・・。
上機嫌に微笑む悪漢、大友宗蘭の反対の手に握られたマガツの神器。
(後の八竜院マモルが使用する邪神召還器・エデンリジェクター)の前身、黄泉戸喫(よもつへぐい)メイカイザー。
「堕天(だてん)せよ!(大友宗蘭)」
(ダテンセヨ・・・!※システム音)
バッキィイィィィイイ―――――ンッ!(※現れたるマガツ将軍)
テルヒコの黒(スサノヲ)に対抗するかのような白い体色。そして究極に嫌味なまでのゴールド(豪奢な金の南蛮ローブ)。
グロテスクな禍々しい角、鮮血に染まった6つの赤の瞳は開かれ、つり上がっていた。
白金の眩さに包まれた、マガツの将イブキはその穢れた不気味な輝きと共に数百年の月日を経てテルヒコ、
シマコ含む島津軍らのまえに突如として「登場」したのだった・・・。
キリシタン大名大友宗蘭が本来求めていたもの。
幼少より彼が不純なく欲した力(ゆめ)が、いまここに実現されていた。
彼が本質的に求めていた(神の力)は、ついに彼が信じたもの(デウス)を超克し、彼そのものを、(当代最強のマガツ神)へと進化させていたのだ。
(神罰を恐れてかようなことができるか・・・!)※宗蘭の心の声
「私は今日という日からお前たちに洗礼を授ける!我はデウスさえひれ伏す新たな・・・唯一絶対マガツ神(シン)となる!(宗蘭/イブキ)」
「新たなるマガツ教団の神、逆十字聖・フランシス(腐蘭死師・洗礼名)!・・・私の名は、マガツ将軍イブキ!(宗蘭/イブキ)」
「・・・わが聖霊(土蜘蛛)の御霊は、この体の滋養としてすべて昇天した!(宗蘭/イブキ)」
「ま、マガツ将軍・・・・・イブキ・・・・!教団だと?!悪魔の分際で・・・!(テルヒコ)」
「ミサを始めよう!(大友宗蘭/マガツ将軍イブキ)」
「フィナーレを飾るにふさわしい・・・盃を用意したぞ!
愛しきわが聖霊たちよ!食むがいい肉を、その血を・・・聖女の御霊(みたま)を!(大友宗蘭/マガツ将軍イブキ)」
大友軍の用意した巨大なる十字架が戦地にて立ち並ぶ。磔にされた人々の姿が見える。
「ガァオオオオ!!!(こぞって零れ落ちる血をすする土蜘蛛達)」
土蜘蛛たちが啜る血・・・・・。
将軍イブキの横に立ち並んでいた巨大な十字架には、大友軍のシスターと思われる、聖女たちが磔とされているようであった。※当時シスターは主にキリシタン比丘尼とよばれた。
「ぁあああ!!!(女達の悲鳴)」
邪鬼と化した兵たちにより槍で突かれる磔の女達から流れた血。
「聖なる血で自らを清めよ、我が神の兵よ!(宗蘭/イブキ)」
聖女たちの中にも、憎しみの瘴気からマガツカミへ変じる影が見えた。
「日下部殿、い、いま何が起こっている?!(山田)」
「なんてことなの・・・・獣たちめ・・・!・・ゆるせないわ・・・・許せない!(サクヤ)」
「・・・ひでえことしやがる。よりによってあんな戦わねえやつらに!オレの一番気に食わねえやり方だ!(シマコ)」
「・・・まだ増えてる、化け物が!(島津兵)」
「フハハハハ!!血を吸い世を満たせ!わが聖霊よぉー!(イブキ/宗蘭)」
(こ、これはッ!!)※テルヒコ
その時であった・・・。
テルヒコはその衝撃の光景を目の当たりにした。
「・・・・・・・・彼女、・・・・(テルヒコ)」
ドサッ!(落ちた叢雲の剣)
(なぜ、オレはこんなに・・・動揺しているんだ・・・)※テルヒコ
(なぜだ・・・・・)
(なぜ、体が・・・言うことをきかない!)※テルヒコ
(この女はいったい・・・!)
その人物の前で、青年は立ち尽くす。
十字架に掛けられた(その人物)の前に立ち唖然となるテルヒコの掌から、剣は落ちていた・・・。
彼女は、ふたたび現れた―。
「・・・テルヒコの気配がない・・・?!もしや(サクヤ)」
生きているか、死者なのかさえも判別はつかない。
だが(再会した)。その十字を見た時、彼の中ですべてが考えられなくなってしまった。
刻は止まり彼のなかで一瞬のうち激しい走馬灯がながれた。
青年は・・・十字架にかけられた一人の女性に彼の記憶の景色にいたユタカの姿を見たのであった。
(・・・・・!)
その悲壮な様は青年の胸を締め付けた。
(どうしてオレはこんな風に、くそ・・・!)
痛ましい痣、傷だらけの肌・・・。
「動け、オレの体・・・・・何が恐ろしいというんだ・・・・・・・すべては・・・・・!(戦慄するテルヒコ)」
「やめろ・・・・・それ以上は、やめろォオ――――――――――――――――ッ!(テルヒコ)」
「はあ―――ッ!(宗蘭/イブキ)」
「・・・・・!(血を流すユタカ)」
槍はユタカの腹部に、イブキの手によって打ち込まれていた。
「そんな・・まじかよ・・・(シマコ)」
シマコの眼にも、見えていた光景。
マスクで表情が見えずとも、友の失意茫然とした顔が鎧の向こう側からはっきりとシマコには映った。
「・・・・・み、みえるわ・・・・・なんなのよこれ・・・・鬼、邪鬼より猛烈な・・・・荒ぶる力・・・・!
テルヒコなの?!それとも・・・(サクヤ)」
サクヤの尋常ではない様子に、山田、島津兵らも同様に戦慄した。
「・・・・・みんな、逃げて!(サクヤ)」
そのときイブキの手により完全に、死んだはずの彼女(ユタカ)に、ある異変が起きた。
(・・・・・・・・・)
「・・・・・!(ユタカの顔をみたテルヒコ)」
「(お願い、逃げて!)(ユタカより発せられた念波)」
「あ゛ァアア゛ア゛アアアアァア゛ーーー!(ユタカ)」
ギリギ・・・・・・・(鎖の軋む音)
突如走る紫電。
グシャァアーーーン!(へし折られ弾け飛び、蒸発する十字架。)
解き放たれた彼女(ユタカ)は、恐るべき姿の巨大な黒き鉄鋼の魔神(まじん)へと変貌した・・・!
鎖は解き放たれ、魔神はヨモツシコメのような邪鬼へ変わる修道女(隣のシスター)たちを巨大な爪で
殲滅させてゆく・・・!
「・・・・・・・・・・・!!!(テルヒコ)」
ギギギギギギリ!(軋む巨神の装甲)
「ギャアアアアア(叩き潰される土蜘蛛・大友兵)」
「アガアァアアア!!!(怯え騒ぐ土蜘蛛共)」
善も悪も越えた、真の神がそこにいた。
超古代、数万年もまえより日本を護った最古の女神・・・。
魔の策略によって、本来の輝きを封じられたその神の力は、戦いの犠牲となった少女の人間としての魂、意識のなかに留まるにはあまりに巨大すぎた。
マガツカミも本能的に察する、絶望的な覇気を纏う巨大な姿。
体長3メートルの混沌、巨大な長い爪、幽鬼の如く揺らめく黒い闘気。
彼女、ユタカの変じた巨大なマガツヒノカミ。
混沌を打ち砕く災いを巻き起こすマガツヒ、突然の襲来。
「・・・な、なにぃ・・・この女は・・・・・・ぐうわあ゛あぁ!!!(宗蘭/イブキ)」
マガツヒから発せられたその強烈に張りつめたオーラに、イブキはふと前夜軍配者に日向国進攻を反対されていたことを思い出した。
「わたしは、わたしは唯一絶対のォオ・・・!ひっ!(イブキ/宗蘭)」
「・・・・・・・・!(ユタカ/マガツヒ)」
ーッツ!グサッー・・・・・(宗蘭の肩を打ち抜いたマガツヒの爪の音)
「ぐべらっグッフゥオエエエエ!!!(イブキ/宗蘭)」
(えっ・・・。)
(違うでしょ・・・普通・・・))※イブキ/宗蘭
空中に放られる宗蘭(イブキ)
(もっと、こう・・・!)
(・・・・なんで、なんで・・・オレこんな簡単にィイ・・・・!)※イブキ/宗蘭
(・・・・・オレの軍の、聖女(やつ)に・・・?!)
ガッシャァアーン!
砲丸投げよろしく容易く勢いよく投げ飛ばされた、豪奢(ロイヤル)な魔軍の将、イブキ。
地に打ち付けられた姿は無様な醜い姿を晒していた。
先ほどまでの、華々しい降臨が嘘であるかのように・・・。
(!!!!!!!))※イブキ/宗蘭
ガーッッツ!!(迫るマガツヒの影)
ドッシャラアアアアアッ!(角が欠け落ち、激しく地面へ飛ばされるイブキ/宗蘭)
「(・・・・・!)(九頭竜王)」
天下の覇権を握りたいという夢想(ロマン)・・・。
絶望、憎悪の伴わないただの
ちいさな人間風情の(野心=夢)。
魔王の腹心たるイブキ(九頭竜王)の眠れる魂は、今現在宿る(九州一最も野心の強い男)の利用価値を見定めていた・・・。
「ひっ・・・・・・・な、ナンダ・・・・なんなんだこの声は!コイツ!くるな・・・(宗蘭/イブキ)」
その恐怖が、彼の本質を表現していた。
彼という人物の限界、そして力量。
イブキが憑依した大友宗蘭の(器)・・・
「ギイイ!(畏怖する土蜘蛛共)」
「・・・認めねえぞ、そんな事・・・(そんな、あいつが、ユタカが・・・)マガツ神になっちまうなんて。オレは嫌だぁあー!(シマコ)」
(シマコ・・・・・!)※テルヒコ
(・・・いけねぇ、やつら(二人)もいるのに!)※シマコ
ガッ!(頬を殴る音)
シマコは思わず叫んでしまった己を恥じ、自分を思い切り殴った。
「そうだ、こんなことでダメだあ、オレは・・・戦士なんだ。(シマコ)」
「オレらは・・・!(シマコ)」
「本当に・・・マガツカミになっちまったのか・・・。(震え驚くシマコ)」
(いいや・・・!あの巨神は・・・マガツ神では!)※テルヒコ
「・・・・(そんな、絶対にそうじゃない・・・!こいつは)(テルヒコ)」
「・・・・・・・・・・・・(静かに闘気を放つマガツヒノカミ)」
(・・・・・・・・!)
巨大なる爪から放たれる斬撃の音は、半径数キロに響く衝撃となって、大地をえぐった。
(グゥウウワアアアアアーーーーッッッツ!!!
ギィヤアアァアアアアァアーーーッ!!!)※テルヒコ・シマコ・サクヤ総本家・宗蘭・大友・島津全陣営
自らの力、そのあふれ出る黄泉の穢れのパワー=災厄を抑制できぬその巨大な女神は、
無言で周辺の対象物、すべてをなぎ倒し死滅させていった。
完全なる秩序が破壊される。
それを止められるものなど、いるはずはなかった。
荒ぶる神の力を前に、マガツ神、人間はもとより創聖者たちさえも・・・。
その甚大なる被害はまさに「災害」であった。
戦いはマガツヒ一騎の介入により半ば中断され、大友島津共にその大部分の土蜘蛛共は壊死し、完全な灰となって死滅していた・・・。
地割れにより崩壊してゆく家屋。
核爆発に匹敵する振動波、一閃の光は何もかもを凪ぎ払っていた。
「・・・・・あれだけの騒がしかった念波(ザワメキ)が・・・!(サクヤ)」
「おい・・・・・みんな・・・(シマコ)」
シューン!(高速で切り抜けるマガツヒ)
ドガッドガーン!(山々を巻き込む爆発音)
「山が・・・切り崩されてら・・・(シマコ)」
「あわわ、わわあ・・・(失禁する島津兵)」
「あー!あ、あー。キャアアアア!(いかれて逃げ出す島津兵)」
「ウワアアア!ちょっとまてっよぉおっとっとぉおォオーーーーーー!(マガツヒの巻き起こす爆撃を潜り抜け全力で走るシマコ)」
震源地にてテルヒコ、シマコ、サクヤ総本家の仲間たちを護っていた力。
神器の波動により奇跡的に災害規模の爆風から一命を取り留めた彼らであったが、倒れ重なる死体の山の向こうから、黒く光るマガツヒの姿が弾丸となりテルヒコたちめがけ突撃してきた。
「な、なな何ちゅう野郎なんだ!・・・こんなん真正面から行くとか・・・・うわあ!
相手に、なんねえよ・・・・・・・コイツなんだよ!こんなことになるなんて聞いてねえぞ~!(シマコ)」
ギシャアアン!(爪で真っ二つに断ちきられる高城天守閣)
「姫様!うわあー!(総本家の護衛兵たち)」
「き、キャアァアーーー!(サクヤ)」
ジャキィン!(銃口を構えるサクヤ)
「・・・こんのォオッツデカブツが!(カグツチを構えるサクヤ)」
ドッゴガァアーン!!(爆破される城の縁側)
「もろとも砕けちれぇえーッツ!!(サクヤ)」
ダダダダダダドッゴァアーン!!!(カグツチの爆裂音)
「あのデカブツ、消えた?!(山田)」
巨体に似合わず空中を回転するマガツヒの掌から放たれた光線が、城をはじめ戦士たちを無差別に巻き込んだ。
「わーーーッツ!!(サクヤ)」
ズガガガガカガガガカ!!(連射音)
「逃がしゃしないよ!・・・火術(かじゅつ)じゃ、アタイの腕が上なんだよォオー!(サクヤ)」
※火術=銃火器・鉄砲、大砲など火薬を用いた術。忍者らの間で体系化された。(なお薩摩方面の方言では男女共にアタイという者は多かった。)
瓦礫の中で空を飛ぶマガツヒを狙い打つサクヤであったが、エネルギーの激しい消耗により、それより先は火球を撃つことができなかった。
「ハアアアアアアアア!!くそっ!・・・(次こそは・・・)(サクヤ)」
神器から放たれた波動、思念にのせテルヒコがサクヤに告げた。
「サクヤ!やつは敵じゃない・・・!攻撃をやめてくれ!(テルヒコ)」
「二人とも今すぐにここを脱しなさい!(サクヤ)」
「でも・・・!あんなの野放しにしたら・・・くそおどーすりゃいんだぁ!(シマコ)」
スウッ!(現れたマガツヒ)
「・・・危ない!(シマコ)」
「・・・・・・・・・!!!(テルヒコ)」
爆発の中煙に包まれハイスピードでテルヒコの前に現れた(巨大な黒き女神)は、黄泉からの使者のように王子の眼前に接近してくる。
(まるで・・・、オレを怨んでいるかのようだ・・・!)※テルヒコ
鋭く赤く光るマガツヒの目。
テルヒコにはその赤くつり上がった眼が、なにかを強い意思で訴えているようにおもえた。
暫しマガツヒと鎧武者の中に流れる時間はものの数秒にかかわらず、青年には永久に感じられた。
鋼鉄の神を前にしたとき
暴れ出る力(災厄)を押さえきれず荒ぶる女神(マガツヒ)の黒き爪は、その時(彼女)の意思、願いとは裏腹の望まぬ方向へ、急速に振り下ろされてしまっていた・・・。
「ぃゃやああああああ!!!!(ユタカ/マガツヒ)」
ガシュジャガアアアアッ!(マガツヒの爪により斬りつけられるテルヒコの胸部装甲)
「うっぐゥうわあァアアアアーーーーー!!!(テルヒコ)」
激しく飛び散る火花の中。
ガッ!(巨神の装甲を掴む音)
「・・・・・・?!(マガツヒ)」
「・・・・行かせるか・・・もう、二度と!(テルヒコ)」
次の瞬間、死力を尽くしたテルヒコはどうにかその巨神(ユタカ)の鉄鋼の胴体にしがみつき、突風の中抱きしめていた。
「・・・・・・・・・・!(マガツヒ)」
自分でもなぜだか、わからなかった。
なぜそんなことをしてしまったか・・・。
ただ、不意に彼は思念のなかその鋼の巨神にめがけ叫んでいた。
それこそ自分でもよくわからないような、完全の無我夢中のことであった。
戦地の果てで
このとき彼は、自らの死地をようやく見つけた。
(次回へつづく!)