
◆宇宙経由、お台場行き!?
とある週末、お台場でちょっとした用事があった筆者。せっかくの休日である。電車でもいいけれど、たまにはリッチに移動してみようかしら、と新宿発2,300円のツアーバスに乗ったのがいけなかった。
宇宙に連れて行かれたのである…!(ぶるぶる)
乗車したのはWILLER TRAVEL社の「STAR FIGHTER(スター ファイター)」という“バーチャル宇宙ツアー”が体験できるバス。(平日は1,800円。要確認)
設定はこうだ。
20XX年、宇宙観測衛星が、B-551の宙域にナゾの秘宝「クリスタル」を発見。古文書によると、その「クリスタル」には不思議な力が宿っているらしい。この輝きを放ちつづける伝説の秘宝を手に入れるため、宇宙旅行事業を展開しているWILLER-Xなる会社(架空)が、トレジャーハンティング用の新型宇宙船を開発した。それがこの「STAR FIGHTER」なのだ。
む…。
早い話が、バスで移動するあいだにゲームをして「クリスタル」とやらを見つけ、パスワードを集めるなどして、記念品をゲットしてしまおう! という試みなのだ。ふむ。
「楽勝さ…」バスの待合室でひとり笑みをこぼす筆者。暗号が解読できたら何がもらえるのかしら。ふっふふ。

やる気になっていたのもつかの間、乗り場に到着したバスの車体を見た瞬間、筆者は絶句した。
窓がない…。
通常、バスというのは側面や背面に大きめの窓があるはずなのだが、宇宙船を模して造られたであろうネズミ色の車体に、そんな野暮なものはなかった。密室…。乗り物酔いとかは大丈夫なの。
バスの内部も、普通のバスとは、えらく雰囲気が違っていた。
SF映画を思い起こさせるような色味や造りである。座席は3列シートで、ひじ掛けにはジョイスティックが配備。一人ずつにゲーム用の液晶画面が。まるで遊園地のアトラクションだ。
乗客は親子連ればかりで、小学校低学年くらいの男の子が一番多く見られた。どうやら大人一人で参加しているのは筆者だけのようだ。
ま、負けるもんか…。
周りにいる楽しそうな親子たちを勝手にライバル視した筆者は、一つでも多くの「クリスタル」やパスワードをゲットし、子供らから羨望の眼差しを浴びてやろうと心に決めたのだった。
◆こなせぬミッション
バスがお台場に向かって発進すると同時に、秘宝探しのプログラムもスタートした。バスの前方はカーテンでぴっちり閉じられ、外の光は完全に遮断される。あたりが暗くなると、座席の背もたれが青くピカピカ光り出した。
まるで宇宙船にいるような…。
なお、乗組員は筆者を入れて24名。その他に、キャプテンのホーク(42)と副操縦士のピース(年齢不詳)という二次元キャラクターが同乗している設定。液晶画面から適宜指示を出し、トレジャーハンティングの旅を案内してくれるのだ。
それにしても…。雰囲気は宇宙船っぽいんだけど、揺れかたはやっぱりバスだから、変な感じ。ちょっと息苦しくなってきた…。慣れない密室空間に動揺し、水ばっかり飲んで辺りを見回していた筆者。
すると突然、キャプテンから、
「いん石を避けるんだ!」
などと命令され、慌てたのであった。
ゲーム画面を食い入るように見つめ、ジョイスティックをぶんぶん振ってみるのだが、いん石とぶつかりまくり。コントロールが難しく、避けるどころか自分から体当たりする始末。散々である。
隣に座っていた男の子たちはゲーム慣れしているのか楽勝ムードの様子。
…くっ。
そのあと、何やらクイズに答えろと言われ、それが当たったら「クリスタル」のパスワードをゲットできるとのこと。しかしそのクイズがまたやっかいなのばかりだった。
「すい星はナニで出来ているかな?」
わー。理科が大の苦手な筆者には、サッパリわからぬ難問なのだ! 一応、ヒントはくれるのだが、いくら考えても泥沼に…。
ウンウンうなっていた時、筆者の隣の席の男の子たちが、何か言いたげに、じーっとこちらを見ていることに気づいた。
利発そうな子供らである。
こんなバスに乗ってくるぐらいだから、宇宙とか科学とかそういう理系っぽいことが好きなのかな。
『た、助けてくれるのかい…?』
必死に目配せする筆者。
出題されるクイズは皆同じだが、画面に書かれているヒントは一人ひとり違うのである。だから友達同士でヒントの見せっこをすることは推奨されていた。この子もどうやら、筆者にヒントを見せてくれようとしているのだ! そう直感し、身を乗り出したのだが…。
サッ。
隣の画面をのぞき込もうとしたら、少年に、手でガードされたのである!
え~っ。
しかし子供らは、どういうわけか相変わらず筆者の方を見てニヤニヤしていた。まさか、自分たちのヒントは見せないが、筆者のヒントは盗み見る気じゃないだろうねえっ…!?
そうこうしているうちに筆者の画面からは「ブッブー」という忌まわしい音が。不正解の合図である。
反対に、「やったー」と雄叫びを上げる隣の少年ら。クイズに正解し、パスワードを手に入れたらしいのだ。うっうっ。ちょっと冷たいんじゃないのかね…。

◆復路もゲーム三昧
お台場に到着後、4時間半の自由時間のあと、バスは再び新宿へ。復路も同じようにゲーム三昧であった。
しかも話がどんどん物騒になっていくのである。宇宙海賊が出たぞ! など、キャップと副操縦士のピースが恐ろしいことをアレコレ言い始めるのだ。しかし、いくら頑張ってみても、ゲーム下手な筆者の攻撃はなかなか的にかすらない。
隣からは弾を命中させた「ドドドォー」みたいなカッコイイ音が聞こえてきて、ますます焦ってくる。そんな時、
「ようし、撃破したぞ!」
なぜだか突然、キャップからホメられた筆者。
たしか、指示通り「ハイパーエネルギー砲」なる危険極まりない兵器をぶっぱなした時だったと思うのだが…。たぶん一発も当たってないのである。何の役にもたってない部下を、義務感からか、お愛想でホメめてくれるキャップ。「あんた、誰にでもそういうこと言うんじゃ…」始終、疑惑の念を抱かずにはいられぬ筆者なのであった。
副操縦士のピースはクイズの度に明るい口調で
「隣の人と協力してねっ!」
と周りの人らとヒントを教えあった方がいい旨をしつこいほど繰り返すのだが、筆者の隣には天敵しかおらぬ。
孤立する筆者。
寂しくなんかない…。
結局、筆者が「クリスタル」を入手しパスワードをゲットしたのは1つだけだった。
隣では、全問正解した子の答えをトレジャーシート(パスワードをメモする紙)に書き写すなどし、はしゃぐ子供らの姿。暗号は解けたようなのである。う、うらやましくなんか…。筆者は乗組員の中で一番足を引っ張っている存在だったので、誰にも見向きはされないのだった。
旅が終わりに近づいている合図だろうか。
キャップに頭上を見るよう促され、顔を上げると、星がシャワーのように降りそそいでいたのである。
これは「ヘブンスター」といい、永遠の愛を誓うと成就すると言われている現象らしいのだ。っていうか、そんなことより、「このバスどういう構造してるんだ…!?」そっちの方に興味が行ってしまいキョロキョロしまくりの筆者。ピースにある女性との仲を茶化され、顔を赤らめるキャプテン・ホーク。そんな小ネタを聞き流していたら、バスは新宿に到着していた。
記念品は、缶バッチであった。
パスワードに不備がある筆者も、子供らに紛れてもらうことができた。
この缶バッチを見るたびに、宇宙ツアーで感じた無力感をまじまじと思い出さずにはいられない、筆者なのであった。