どうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
2019年5月、大津市の国道で保育園児の列に乗用車が突っ込み、2人の園児が死亡するという痛ましい事故が起こりました。2月17日、業務上過失運転致死傷の罪に問われた新立文子被告(53)に対し、大津地方裁判所は「基本的な安全確認を怠ったことで、幼い命や未来を突如奪った」と指摘して、禁錮4年6ヵ月の実刑判決を言い渡しました。
“懲役刑”は、刑務所に収監されて刑務作業をしながら規則正しい生活を送る、というのはなんとなくわかるのですが、今回の判決で言い渡された“禁錮刑”というのは一体どのようなものなのでしょうか?
今回はあまり知られることのない禁錮刑について、解説していきたいと思います。
禁錮刑は「逆に地獄」とも
禁錮刑と懲役刑は、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰になります。
それぞれの決定的な違いは、懲役では“所定の作業を行う”のに対し、禁錮刑は“単に監禁(拘置)する”ことだけが定められています。さらに禁錮刑は原則的に独房で一人の時間を過ごすことになります。
しかし、禁錮刑に強制労働はないといえども、単独房の中での自由な時間を過ごすことは許されておらず、動き回ることなどはできません。
就寝時間以外は、看守の合図によって1日中、正座と安座の繰り返しになるとのこと。常に監視下にあり、不用意に姿勢を崩したりすれば、厳しい指導がなされます。ですから、かなり過酷な精神負担を伴ってしまうので、捉え方によっては懲役刑よりキツい刑になるという人もいます。
あまりにやることがなく精神的に参ってしまうため、受刑者自身の請願によって、刑務作業を行なうことができます。これは、“請願作業”や“名誉拘禁”と言われて、ほとんどの受刑者が請願作業を望みます。2017年までの調査では、約89%の受刑者が作業に従事しているそうです。
このため現在では、懲役刑と禁錮刑を分ける意味はないという議論まであるとのこと。調髪(男は丸刈り)や全裸になる身体検査は禁錮刑でも強制されるので、懲役刑とあまり変わらないと言います。
禁錮刑のほとんどは、政治犯や過失犯に科されている
昔から禁錮刑というものは、政治犯の選挙違反や内乱罪、交通事故を起こしたことによる過失犯に科され、懲役刑は、殺人や窃盗、強姦など人道的に非難されるべき犯罪に対し、科されるものと理解されてきました。
しかし、今では必ずしもこんな解釈ではないのです。その判断は、裁判官にゆだねられています。
刑事裁判で下される判決は3種類。
・生命刑
・自由刑
・財産刑
“生命刑”は簡単にいえば、死刑または極刑。“財産刑”とは有罪になった受刑者の財物や金銭、物品を奪う刑に当たります。
懲役刑や禁錮刑などが当てはまる“自由刑”は、受刑者の体の自由を奪う刑罰になります。刑務所や拘置所に収監され、その人の生活に幅広い制限をかけることになるわけです。ちなみに、最近では自由刑といえば懲役が適用されるケースが多く、禁錮刑の言い渡しは減少傾向にあります。
さらに、自由刑の中には、禁錮、懲役、拘留の3種があり、刑が最も軽いものが拘留刑になり、1日~30日未満の期間で自由が奪われます。
禁錮刑と懲役刑は、共に30日~20年以下の期間を刑事施設で過ごすことになります。
拘禁反応を示してしまうことも……
これらをふまえると、今回の判決は新立被告に対して厳しい判決になったのかもしれません。
禁錮刑はとにかく何もやることがなく、退屈で仕方のない刑です。何もない空間で自由も利かずにいると息が詰まります。
雑居房であれば他の受刑者との会話が許されますが、単独房ではそうはいきません。病院などの薬袋づくりやデパートの紙袋づくりといった軽作業をしながら、ひたすら時間をつぶすわけです。
その他の時間は、とにかく読書や手紙を書くこと。読書のための書籍は購入したり、図書部から貸し出してもらったりできますが、それでも時間は余ります。就寝までの定められた時間にテレビの視聴やラジオを聴いたりすることも可能ですが、指定チャンネルやビデオのみです。
その他の時間は、担当看守の指示通り、正座と安座。
独居の空間で数年間1人であれば、独り言がだんだんと増えていき、見えない相手と会話をしたりして、拘禁病を患ったりすることあるそうです。
拘禁病は、捕虜収容所などの強制収容所や監禁施設、閉鎖精神病棟などで起こる一種の精神障害で、神経症や気持ちの変調、妄想、幻覚など様々な症状が現れる病気です。
気晴らしに散歩に出ることもできず、食事も入浴も単独で誰とも会わない。禁錮刑というのは、まさしく自由を奪い、長く長く反省を促す刑罰といえそうです。
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