ラップバトルで勝ち上がれ! 実在するアーティストの半生描いたインド映画『ガリーボーイ』ゾーヤー・アクタル監督に聞く

  by ときたたかし  Tags :  

実在するアーティストの驚愕の半生を描いて世界中で喝采を浴びた映画『ガリーボーイ』は、インド最大のスラム街ダラヴィに暮らす主人公がラップと出会い人生が一変、ラップバトルで優勝を目指す物語だ。次世代の<キング★オブ★ボリウッド>との呼び声もかかるランヴィール・シンを主演に、北インド映画界の実力派女性監督ゾーヤー・アクタルが描くドラマは、インド社会が抱える格差、宗教的差別から解放されたいと願う若者の現実や、親との衝突、友や恋人とのきずなを通して成長していく姿を写し出す。来日したゾーヤー・アクタル監督に、さまざまな話を聞いた。

▼ストーリー▼
ムラド(ランヴィール・シン)は、雇われ運転手の父を持ち、スラムに暮らす青年。両親はムラドが今の生活から抜け出し成功できるよう、彼を大学に通わせるために一生懸命働いていた。しかしムラドは、生まれで人を判断するインド社会に憤りを感じ、地元の悪友とつるみ、内緒で身分の違う裕福な家庭の恋人と交際していた。ある日大学構内でラップをする学生MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)と出会い、言葉とリズムで気持ちを自由に表現するラップの世界にのめりこんでいく。そして“ガリーボーイ”(路地裏の少年)と名乗り、現実を変えるためラップバトルで優勝を目指す事を決意する。

●本作はインド映画のイメージにはないような、ラップをモチーフにしていることでも注目を集めていますね。

「ラップだ!」と驚く人もいれば、拒否反応を示す人もいて、いろいろです(笑)。ただ、これは人間ドラマであり、ひとりの青年の成長物語であり、自分の声を上げていくという作品なの。だから、口コミでもなんでも、そういう内容だということが伝われば、「ラップだ!」と表面的なことだけでなく、深い部分にも気づいてもらえると思うの。

●おっしゃるとおりですね。公開後の反応で、興味深い意見はありましたか?

インドに、こういう“シーン”があるということね。ラップというとパーティー的で商業的なレベルでの露出はあるけれども、意識を高く持っている人がいるということと同時に、スラムの若者たちが自分たちのストーリーを吐き出して、録音して、動画を上げているということを初めて知った人が多いのよ。その反応は新鮮でした。つまり、マスメディアで誰も報じていないから誰も知らないわけで、彼らのストーリーがとても説得力があるものだということを、わたし自身も初めて知ったのよ。

●これまでどちらかと言うと富裕層の物語が多かったところ、本作のような世界に興味を持ったのはなぜでしょうか?

ストーリー性があるからよ。いわゆる忠実な再現ドラマ、伝記ドラマにするつもりはなく、それぞれ聞いた話を散りばめることで、フィクションを構築しようとしたの。21歳の青年が自分で詞を書いて、わたしがまったく知らない世界を書いて歌い続けている姿に引き込まれてしまったの。音楽業界にいる友人のツテを頼って、彼と会うことになったのよね。そこでちょっとあいさつをするつもりが、あっという間に3~4時間(笑)。

●貧富でいう貧のほうを扱うことで、社会的なメッセージを投げかけたかったのでしょうか?

そうじゃないわ。肝心なことは、良いストーリーよね。背景については、中流・上流であれば知っている範囲内で書けないこともないけれど、要は王族であろうが貧困であろうがストーリーが重要であって、それは自分の興味が赴くままに選びたいもの。肝心なことは、ストーリーよ

●インド映画界は、監督が自由に映画を撮れるところですか?

確かに検閲はあるわ。だけれども、ほぼ問題なく描けるとは思う。真正面から政治を描くことやヌードは、100パーセント引っかかるけれども、上手くかいくぐって撮ることは、規制の中でもないことはないけれど。わたしの場合は、描きたいモノは描けているわ。ただ、この映画の場合、普通に話している言葉をそのまま使うとレーティングが付いてしまうので、年齢制限がかかる。そうなると衛星で売れなくなるわ。誰が観ているかわからないから。そうなるとかなりのテリトリーを失うので、プロデューサーとしては避けたかったこと。

でも、この映画が映画として成立するために、そこは上手くかわすのよ。直接的にそういう単語を使わなくても、インパクトがあって伝わる方法を探したの。

●スラムを扱っているので、「遠回しに政府の経済批判をしている!」みたいなことを言い出す役人はいなかったので?

それはないわ(笑)。ほかの人に比べて、映画のことをわかっている人がチェックしているはずだから。

●最後になりますが、この作品、どういう日本の方に受け取ってほしいですか?

外国の映画を観ることは、異文化を学ぶということだと思うの。いろいろな生き方、存在のあり方があり、その違いを知ることと同時に、人間というレベルでつながることもできるということ。そのことでインドという文化圏を近くに感じるわけで、理解を深めてほしい。インド、ムンバイの都会の憧憬を描いてもいる。そこには何か、訴えるものがあるはずよ。

映画『ガリーボーイ』
公開中
公式サイト:http://gullyboy.jp/

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo