2019邦画の超新星か?! 11月30日公開「種をまく人」

不況になると邦画が輝くという映画業界のジンクス

昨年から今年に渡って、家族をテーマにした邦画作品が好調だ。

昨年6月に公開され、パルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」は記憶に新しい。

それに加えて、千原ジュニア・平尾菜々花主演の「ごっこ」は、川谷絵音が率いるindigo la Endがサウンドトラックを書き下ろしたこともあり、公開から一年を過ぎた今でも注目を集めている。

さて、本年はどうか。日本の映画業界では、不況になると世界で評価される邦画作品が出てくるというジンクスがある。そして、期待を裏切らず登場してきたのが、今回紹介する「種をまく人」だ。

第57回テッサロニキ国際映画祭 日本人W受賞 最年少主演女優賞の偉業 世界が驚いたネクスト万引き家族「種をまく人」

本年の最終コーナーを回って出てきた本作は、邦画の超新星と言っても過言ではないだろう。

鬼才 竹内洋介監督が放つ本作「種をまく人」は、世界の映画人が注目する第57回テッサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞・最優秀主演女優賞のW受賞。

主演女優の竹中涼乃は11歳での最優秀主演女優賞受賞となり、歴代最年少というから驚きだ。

本作の見所について触れる前に、ストーリーの概略について触れておこう。
本作は、主演女優の知恵(竹中涼乃)と叔父の高梨光雄(岸建太朗)を軸に動いていく。

3年ぶりに病院から戻った高梨光雄は、弟・裕太(足立智充)の家を訪れる。

再会を喜ぶ姪の知恵(竹中涼乃)、その妹でダウン症の一希に迎えられ束の間の幸せを味わう光雄。 翌日、知恵は光雄と遊園地に行きたいとせがむ。

裕太と妻・葉子はそれを快く受け入れ、娘たちを光雄に預けるが……幸福な時間も束の間、遊園地で突然の不幸が訪れる。

その後、家族は徐々に迷走を始め、狂気すら感じる激しいぶつかり合いを見せる……

これ以上の紹介は避けるが、家族ならではの暖かさ、愛憎劇の描写が、パルムドールを受賞した「万引き家族」を超えたという声も増えている。

社会での試練 女性の育児負担 安心できない家庭 その先に待っている幸福なシーン

本作の冒頭は、快いほど暖かいシーンが続く。兄との再会を喜ぶ弟。叔父との交流を深める姪。

一昔前では当たり前に見られた風景だが、令和のこの時代では、貴重な存在になったともいえる。

それだけに、不慮の事故によって、家族が衝突を始めるシーンは、一瞬一瞬が胸に刺さるようで辛い。

特に、母親の高梨葉子(中島亜梨沙)が我が子を守ろうとするあまり、狂気に満ちていく様は圧巻だ。

また、不慮の事故によって、家族の暖かさに癒されていた光雄が追い込まれていく様も、徹底した役作りがなされていることがわかる。一瞬一瞬の演技が、網膜の底に刺さるようだ。

さすがに世界が驚愕した作品だけあって、演技には容赦がない。

加えて驚かされるのは、スピード感あふれるドラマの中で、今の日本が抱えている社会での居場所のなさや、女性だけに負担がかかる家庭、育児への不安といった問題を見事に投影していることだ。

もちろん、ただ単にすさんだシーンが続くだけではない。ラストには、鑑賞者が予想できなかった幸福なシーンが待っている。

そのシーンは劇場で目にしていただきたい。試練の最中にある方や、家族や仕事の問題で悩んでいるあらゆる世代の方が共感できるはずだ。

■2019年 日本作品 11月30日より 東京 池袋 シネマ・ロサで公開
■オフィシャルサイト 種をまく人公式サイト

■前売り券好評発売中
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シネマ・ロサ

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 ロサ会館内
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松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長