「珍発明ばかりが舞い込む特許取得代行屋」に話を聞いてみた

どうもどうも、ライターの丸野裕行です。

発明ブームをつくった『王様のアイデア』の全店が閉店したのは十数年前のこと。日本中が、発明で一攫千金を狙う勘違い発明王を作り出してしまいました。特許を取得して、その使用権で億万長者になれる――見果てぬ夢を追いかける自称・日本のエジソンたちは、いまだ日本中にたくさんいます。

その箸の棒にもかからないクズ発明といったら、ハンパではありません。

今回は、そんな特許代行を行う業者・山川さん(仮名/47歳)に、彼の元を訪れる発明者たちのことを聞いてみました。

とにかく小難しい特許出願の手順

丸野(以下、丸)「いつから、このお仕事をはじめられたんですか?」

山川さん「平成16年春ですね。国家試験に合格して、“弁理士”になってから、13人のスタッフを抱える中規模の特許事務所に就職しました。この道を選んだ理由は、経営のイロハを知って、独立すれば儲かるからです。代理で、特許取得のお手伝いをする“弁理士”は、特許庁を相手に権利を保護するのが仕事です」

丸「特許って簡単に取得できるものなのですか?

山川さん「いえ、特許取得するには、かなりハードルが高い“特許要件”を満たすことが重要なんです。ですから、発明品の本質を理解し、法律的・技術的な知識を利用して、無理やりでもいいから、付加価値をでっち上げなければならないのです。それが特許事務所の役割になります。発明っていうのは、すごく抽象的なものなんです。それを文章に起こさなければいけないので、結構苦労しますよ」

丸「すごく難しいお仕事なんですね」

山川さん「一番気を遣うのは、発明後に起こるかもしれない侵害訴訟裁判で、“発明明細書”というのが有利にも不利にもなります。さらに、外国に出願するときも多いので、語学力も必要になります」

丸「へぇ~、大変ですね。1日のタイムスケジュールは?」

山川さん「仕事は朝9時スタートです。ホームページや紹介で訪れる顧客から受け取った“発明提案書”の内容を出願するべきかを審査して、特許の可能性を検討して、打ち合わせに入ります。特許技術スタッフと図面担当者、事務担当などと入念に打ち合わせを繰り返し、関連書類をすべて作成して、特許庁に提出します。企業向けの特許出願の仕事が4割。これは十分もうけが出ますが、あとの6割はどうにもならない代物です」

発明の意図すら説明できない出願者

丸「実用化するにはどれほどの料金がかかるんでしょうか?」

山川さん「企業の案件は、実用化可能のよく練られた発明ですが、個人での相談はただの思いつきだけでありませんね。やっぱり発明構想しても、既製商品で世の中に出ている商品や技術ばかりです。特許出願基本手数料や図面代、印紙代など含め、料金が25万円ほどかかるんですが、その他には、成功した場合の報酬などかなりお金がかかります」

丸「どれほどとんでもない発明品が、山川さんの元に届くのでしょうか?」

山川さん「国際特許事務所にやってくるのは、ビックリするような発明品の数々です。高い特許出願費用を支払っても、印税生活を送りたいという発明者ばかりがきます。メールや電話相談だけでなく、発明品の数々を送ってくることもあります。それがこれですね」

≪山川さんに相談があった珍発明の数々≫

・あご下にペットボトルを装着し、ハンズフリーでジュースが飲める技術
・寝たままでオシッコができる『男性放尿スキン』
・危険から身を守るためのフルステンレス製ロングコート
・猫舌用の熱い食べ物を一瞬で冷やすプラスチック氷のう茶碗
などなど

丸「ヒドいですね

山川さん「特許庁に送った瞬間に、代行資格剥奪されるようなどうしようもないガラクタばかりです。発明者に総じて言える口癖は“発光ダイオードの件もあるし……”。全然レベルが違うのに、大きな勘違いです。しかも発明意図も説明できない人ばかりです」

NASAなら喜んで買ってくれる!

丸「一番困ることってなんですか?」

山川さん「困るのは、直接、国際特許事務所にやってくるケースです。一応、弁護士さんのように30分5,000円の相談料を取るんですが、話につき合い続けると、精神的に参ってしまいます。来客室にムリやり入って、居座る依頼者もいますしね。多いのは、生活の知恵で発明をしようとする主婦層です。彼女が持ち込んだのは、“夜中に徘徊する認知症の高齢者を手すりに繋ぎ止めておくゴムの鍵付ベルト”でした。“超高齢者社会の必需品になる”と言っていましたが、モラル的に最悪です」

丸「まるで、犬扱いじゃないですか

山川さん「極めつけの発明者は、仙人かあの新興宗教の教祖みたいな白いヒゲの老人でした。“これは温暖化の地球を救うリーサルウェポン。特許を取っておかねば……”と、地球と月、太陽、電気ビリビリと描かれたイメージ図。それが、地球の自転を利用して、オルゴールの要領でネジを巻いて巨大なエネルギーに変えるという宇宙規模の一大プロジェクトでした。“NASAにならすぐに売れるだろう”とのたまいました。ホント、疲れます」

いかがでしたか?
僕たちが知らない商売が世の中にはたくさんあるということをわかってもらえたと思います。
確かに儲かる商売ですが、誰か山川さんに「トンデモ発明者が寄りつかない装置」を発明してあげてくれませんか?

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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