人は何故旅に出るのだろうか?
この根源的な問いを、人間はどれほど繰り返してきただろう。
今から16年前、小沢健二さんの『ぼくらが旅に出る理由』という曲がヒットした。
-ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり 誰もみな手をふってはしばし別れる
ここに歌われているように、何らかの“理由”があって私たちは旅に出る。本能的なものかもしれないし、はるか昔、アフリカに誕生したと言われる人類の祖先が、新たな土地を求めて旅立った経験が脈々と受け継がれているのかもしれない。いずれにせよ、その思いは、自分自身の内面から湧き出てくるものと考えてよいだろう。
この曲に限らず、旅をテーマにした曲は数多くある。
中島みゆきさんの『時代』、谷村新司さん、加山雄三さんの『サライ』、友部正人さんの『どうして旅に出なかったんだ』、渡辺満里奈さんの『大好きなシャツ(1990旅行作戦)』など。
あらためて聴いてみると“旅に出ることによって出会うことができるもの”について歌われている曲が多い。その対象は“同じように旅に出た人”であったり、“たどり着く場所”であったり、“故郷”であったり様々だけれど、共通しているのは“旅に出なかった人は決して出会うことができないもの”であるということだ。
別れることは悲しいけれど、旅立つ人を見送るのは嫌いではない。そして私自身、旅に出るのも大好きだ。だから、旅に出ようとするとき、ワクワクした気持ちになる。しかし、それと同時にほんの少しの怖さも感じる。
旅立つことをせずに、そこにとどまっていれば楽かもしれない、でも、少しの勇気を振り絞って一歩足を踏み出してみれば、新たな楽しみが見つかるかもしれない。そんな葛藤が生まれる。
この場合の“旅”は、単に遠い場所への旅行を指すのではないではない。たとえば、生まれて初めて入る地下のライブハウスの重い扉を開けた時、初めて誰かに想いを伝えた時、いくばくかの勇気は確かに必要であった。しかし、生の音楽に触れたいとか、気持ちをわかりあいたいという好奇心に押され先に進んだ。そこでたくさんの人や音楽に出会い、新たな世界が広がったのである。
旅に出た人は、旅に出た人にしか見えない景色を見ることができる。その世界を共有することができるからこそ、旅をする人たちは心を通じ合わせ、喜びを分かち合うことができるのだ。
もちろん、現状に満足して旅をしない生き方も否定はしない。しかし、そこにほんのわずかでも迷いがあるのなら、勇気を振り絞って旅に出ることを勧めたい。そこから見る景色は、今まで想像もできなかったくらい美しく、刺激に満ちあふれたものであるはずだから。
歌詞は、『ぼくらが旅に出る理由』(作詞/作曲:小沢健二)より引用
画像はflickr from YAHOO!より http://www.flickr.com/photos/hyougushi/66451228/