あなたも無関係では済まされない!大人のビジネス教養として知っておきたい「人工知能」

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「キーワードで読み解く人工知能 『AIの遺電子』から見える未来の世界』」(MdN刊)では、人間とヒューマノイドが登場する山田胡瓜先生のSF医療物語『AIの遺電子』(少年チャンピオン・コミックス 全8巻/秋田書店)、『AIの遺電子 RED QUEEN』(別冊少年チャンピオンで連載中/秋田書店)の漫画キャラやストーリーとともに、大人がビジネス教養として知っておきたい「人工知能」の基本を、わかりやすく解説しています。
本書の「産業AI」の項目では、すでに人工知能が活躍している業界の現状や今後の展望を紹介しています。

産業AI

【関連ワード:自動運転車、ディープラーニング】

執筆:松本健太郎

『AIの遺電子』の世界では、ヒューマノイドと産業AIとの間は厳密に区分されている。同じAIでも、後者は「何らかの形をした道具として人間の暮らしをサポートするAI」として登場する。あくまでも「道具」であって、ヒューマノイドのような心はもたない前提で運用されていると言ってもいいだろう。

▼自動運転車が普及しているが、人間が自分で運転することもできる(第1巻 第1話「バックアップ」より)

作中、主人公の須堂光は自動運転車を使ってハンドルを握らず目的地まで走行し、ジェイと呼ばれる医療AIにアドバイスを求める。小さな子供はAIが内蔵されたヌイグルミと触れ合い、企業のカスタマーサービスでは産業AIが人間のクレームに対応している。『AIの遺電子』で活躍する産業AIは、今私たちの身近にある道具を少しだけ進化させている。

ではこうした産業AIは、2018年現在から見れば「近未来」の話だろうか。決してそんなことはない。すでに、あらゆる産業で活躍し始めている。

リアルでもネットでも活躍する人工知能

ディープラーニングなど主に機械学習を用いて、人工知能はデータを学習しながら「認識」と「運動」を獲得しつつある。
認識とは主に画像認識、音声認識、言語認識だ。例えば画像や動画を見て何が写っているか把握したり、言葉に反応して対話したりする。つまり、人間の目・耳・口にあたる機能を獲得したと考えればいいだろう。運動とは主に握る・掴むなどの手の動作や、走る・屈むなどの足の動作、バク転などの全身を使った動作を指している。

要は、人間の身体的感覚・特徴が、人工知能として再現でき始めているのだ。これからは言葉で説明できなかった暗黙知(※1)やちょっとした誤差の感覚も、人工知能を使えば表現できる可能性を秘めている。

「認識」や「運動」は現実の世界でこそ大いに活躍する。有名なのは自動車だ[図1]。運転者を不要とする「自動運転技術」は、世界中で開発合戦が繰り広げられている。人工知能を、主に乗用車に搭載して運転を不要にするケースと、輸送車に搭載して運転手不在で乗客だけが存在するケースの2種類が考えられている(詳細は本書の次節で解説)。

(※1)言葉に表せず他者に説明できないが、自分自身ではもっている知識であったり、身体が動いて自然にできてしまうといった状態を指す。

第3次人工知能ブーム以前から人工知能が活躍していたのは医療の分野だ。レントゲンの画像を診断してガンがあるかどうか発見したり(画像認識)、患者から症状を問診して合致しそうな病名を予測したり(音声・言語認識)、さまざまな活用事例がある。ディープラーニングを用いた結果、精度が大幅に上がり、人間の診断結果を上回るまでに成長した事例もある。

物流では、最適な荷物の配達ルートを考えるだけでなく、ドローンを使って遠隔地まで商品を届ける実験や、倉庫内の運搬作業を人工知能が搭載されたロボットと人間で分担する実験も始まっている。特に人間の動作を真似するロボットは、実験が成功すればかなり重宝されるだろう。

一方、インターネットのサービスでは「運動」を使う機会はないが、その分だけ「認識」領域が高度に発達している。有名なのは金融だ[図2]。株式取引から、資産運用、融資審査など、数学を用いて判断可能な仕事は、多くが人ではなく人工知能が代わりに計算をしている。判断自体を人工知能が行っている場合もある。

私たちが普段使っているアプリにも人工知能が活躍している。例えばFacebookに友達が写った画像を投稿すると、何も操作していないのに勝手にその友達がタグ付けされる場合がある。これは画像を認識して、つながりの中にいる誰かなのかを自動で判断しているからだ。Google翻訳ではディープラーニングを導入して、従来の翻訳精度を一気に高めた。例えば英語からスペイン語への翻訳は、人間の翻訳に近い精度に達している。

産業AIの今後

誤解してほしくないのだが、「人工知能」と呼ばれる産業があるわけではない。実際にはディープラーニングのプログラム言語を開発する企業があるが、ごくわずかだ。これから先は、既存の産業が人工知能によってアップデートされていくと考えればいいだろう。

こうした状況はインターネットの登場に近いとも言われている。Amazonは本屋から始まり、Googleはネット上の情報を調べる検索から始まった。どちらも今まで存在した業態の1つだった。しかしインターネットの普及と共に、瞬く間に巨大企業へと成長した。

インターネットを使えず、キーボードを人差し指で押していた年配の人々を、私たちはどこか見下していた。しかしこれから先、人工知能を使いこなせない私たちを若者は影で「無能w」と笑う日が訪れるかもしれない。進化しない業界はないと考えてもいいだろう。

POINT:あなたの仕事も無関係では済まされない

インターネットを使わないビジネスがないように、これからは業種や取引形態を問わず、人工知能を取り入れるビジネスがどんどん登場するだろう。残る問題はいつ取り入れるかという時間軸ぐらいだ。あなたの仕事は人工知能を使っているだろうか? あなたは人工知能を使いこなせるだろうか?

*以上の記事は「キーワードで読み解く人工知能 『AIの遺電子』から見える未来の世界』」からの抜粋です。
*本記事で使用されている『AIの遺電子』の画像の著作権は、すべて原作者である山田胡瓜氏に帰属します。

「キーワードで読み解く人工知能 『AIの遺電子』から見える未来の世界」
著者:松尾公也、松本健太郎
定価:(本体1,500円+税)
エムディエヌコーポレーション刊

PROFILE
松尾公也
ITmedia NEWS編集部デスク、ポッドキャスター。『MacUser』編集長などを経て、現在はITmedia NEWS編集部デスク。プライベートではテック系ポッドキャストbackspace.fmに参加。妻が遺した録音をもとにした歌声合成で「新曲」を作る、マッドな超愛妻家。妻との新しい思い出を作るため、AIの発展を願っている。

松本健太郎
株式会社デコムR&D部門マネージャー。龍谷大学法学部政治学科、多摩大学大学院経営情報学研究科卒。株式会社デコムで、インサイトリサーチとデータサイエンスを用いて、ビッグデータからは見えない「人間を見に行く」業務に従事。野球、政治、経済、文化など多様なデータをデジタル化し、分析・予測することが得意。テレビやラジオ、雑誌に登場している。

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