息子たちがズラリ!仲違いしていた親友と久々の対面
源氏から大事な話があるらしいと聞き、頭の中将は大きな息子たちを10人以上引き連れて登場。背も高く肉付きもよく、体格も顔も歩き方もいかにも大臣らしい、立派な恰幅の紳士です。息子たちも既に役職についており、皆華やかで堂々としています。
これに対して作者は源氏の服装や光り輝く美貌を決まり文句で褒めていますが、息子たちをズラリと並べた頭の中将の威勢に抗すべく、主人公なんだから褒めておかなきゃ、という気配すらします。
最近は後宮での争いや夕霧と雲居雁のことで気持ちが通わない2人でしたが、お酒が入り、昔話に花が咲き出すと昔の親友同士に戻ったようになりました。大宮も二人の様子を見て、亡き娘・葵の上が生きていれば…と思って泣いています。
「昔は公私を問わず親しくさせていただいたのに、大人になって身分が重くなるにつれ、気軽に会えなくなったことが残念でした。いろいろな事があったけど、私からあなたへの友情はずっと変わりません」と源氏が言えば、頭の中将も仰る通りだと応じます。しばらく会っていなくても、話せば分かり合えるのが友達のいいところですね。
そしてついに、源氏は玉鬘のことを切り出します。頭の中将は大変驚いて「まるで奇跡のようなお話です。若い日にちらとお話した昔の恋人との間の娘が、こうしてあなたに養われていたとは!……生きているなら再会したいと思い続けていた子でした」と涙を拭います。
こうして思い出話が尽きぬまま深夜になり、ついに会談もお開き。「懐かしすぎて帰る気になれない」と名残惜しいお別れになりました。
「ちょっと待てよ?」冷静になって考えた実父の結論
玉鬘のこともわかり、久々の昔話も楽しかった。頭の中将は来た時同様、大勢で賑やかに帰っていきます。父が妙にゴキゲンなのを、詳細を知らない息子たちは(父上は急にどうしたんだろう?)(今度は太政大臣になってくれとか、そういう話だったのかな?)。いや、君たちに新しいお姉さんができたんだよ!
でもちょっと引っかかるのが、夕霧と雲居雁の話はなにもなかったこと。(わざわざこちらから言うのもアレだと思って黙っていたが、結局その話はなかったな)。てっきりこの件だと思って気合入れて来たのに、実際は違ってちょっとモヤモヤ。
ともあれ、玉鬘には早く会いたくてたまりません。でも、本当の親だからと、今から急に引き取るのもどうだろう。更に冷静に考えていくと(そもそも、源氏があの子を大事に世話してくれたのも、要するに下心がコミだったからではないのか。とすれば、既に手を出しているに違いない。
他のご夫人方の手前はっきり愛人とはせず、とはいえ世間体もあるので、まずは私に打ち明けたということなのだろうな。)さすが親友、源氏の魂胆をズバリと見抜いています。
続けて、玉鬘の今後についても(太政大臣夫人となるのは悪くない話だが、宮仕えの件は少々厄介だ。弘徽殿女御とその母親(=頭の中将の正妻)が不快に思うだろう。何にせよ、育ての親の源氏の意向に従うほかない)。
弘徽殿女御の母親は、頭の中将の正妻で朧月夜の姉。その昔夕顔に嫉妬して、実家(当時の右大臣家)に頼んで脅迫し、頭の中将との連絡をつかなくさせた張本人です。
正妻さんからすれば、玉鬘の宮仕えは「かつて追いやったはずの愛人の娘が、うちの娘の邪魔しに来た!復讐のつもりか!!」くらいの剣幕になってもおかしくはない話。うーん、誰にとっても嬉しい話というのは、なかなかないのですね。
なんとかのひとつ覚え!またも要らないプレゼントと和歌
玉鬘の裳着は年明け、2月16日(旧暦)と決まりました。ちょうど桜の花の頃で、お祝い事にはいい日取りです。源氏は着々と準備を進めます。
玉鬘は実父が真実を知ってくれたこと、裳着の腰結(成人女性の正装・裳の紐を結ぶ役。縁故のある身分高い人物が行う)をしてくれることが心から嬉しく、源氏に感謝しました。長年切望していた父との対面が、自分の成人式でやっと叶う喜びです。
源氏は夕霧にも真相を打ち明けます。(玉鬘の姉上は、本当は従姉だったんだ!あの時は父上をいかがわしいと思ったけど、それなら納得がいく)。そして父と抱き合っていた玉鬘の、雲居雁よりも美しかった様子を思い出しては(いけない!もう姉弟じゃないからって、変なこと考えちゃダメだ)。相変わらず可愛いですね、夕霧。
裳着の当日には、大宮からも贈り物が届きました。「裳着の式おめでとう、ささやかですがお祝いを贈ります。あなたは私の大切な孫娘ですよ」というメッセージがついていましたが、その筆跡は随分乱れています。相当具合が悪いようです。
秋好中宮や六条院の女性方からも立派な贈り物がたくさん。皆さんセンスには自信のある人ばかり、ここぞとばかりに趣向を凝らした素晴らしい品々が、玉鬘にも女房たちにもプレゼントされます。
他方、2軍落ちの二条東院の女性達は例によってお祝いを差し控えたのですが、今回もあの人だけは贈ってきました。末摘花です。またかよ!……やっぱりと言うべきか、今回も時代遅れな、古臭い色あせた衣装のセットでした。いらないよ!!
源氏はもうみっともないやら恥ずかしいやらで、自分の方が真っ赤です。玉鬘に向かっては「この人はね、宮家の出身でおっとり育てられた方なので、空気が読めないんだ。だからってこんなことしなくていいのに…でも気の毒だから、お返事はしてあげて下さい」。
しかし添えられた和歌は「わが身こそ恨みられけれ唐衣 君が袂に馴れずと思へば」。相変わらず唐衣で決めた、源氏への恨み節です。他に枕詞、知らんのかい!しかも字は以前よりも更にゴツく、太く、固くなっています。それも逆にすごい。
源氏は怒りを通り越しておかしくなり、これだけ詠むのだって大変だったろうと思いながら、「こんなお気遣いはもう結構。唐衣また唐衣唐衣 かへすがへすも唐衣なる」と書きます。本当にあなたはいつもいつも、唐衣唐衣ばっかりですね!……本当に、なんとかのひとつ覚えとはよく言ったものです。
玉鬘もあまりのことに笑いながら「お気の毒ですわ」。「いいんだよ、あの人はとにかく唐衣が大好きだからね。こちらも真面目に返しただけさ」。末摘花は至って通常運転ですが、今日もこうして笑いものにされるのでした。まあ、元気で何よりです。
深夜の儀式…夢にまで見た感動の親子対面!
裳着の式は午後10時からスタート。ずいぶん遅いですが、イベント時は夜通しオールが貴族の常で、上流階級の来賓が詰めかけます。
頭の中将は「急ぐなんてみっともない」と、いつも定刻より少し遅れて来る人なのですが、今回は一刻も早く会いたいという気持ちから、珍しく時間通りに来ます。フランスでは約束の時間通りに来るとかえって相手に失礼とか聞いた気もしますが、平安貴族の時間の感覚も興味のあるところです。
深夜とは言え六条院は昼間のように煌々と輝き、何もかもが格式以上の装いです。頭の中将は(本当に心からしてくださっている)と感じ入る一方で、(やはりここまで気合が入っているのは変だ)とも。まずは宴会が始まり、酒や肴が振る舞われます。
そしていよいよ父娘の対面。腰結の時には、灯りを通常よりも明るくしてはっきりと顔が見えるように気を利かせてありました。頭の中将は感極まって落涙します。
そばの源氏は「まだ外部には真実を公表しないので、とりあえず普通に済ませてください」と言うのですが、そんなの無理。「本当に、腰紐を結んでやる以外には出来ることもなくて……なんと感謝申し上げてよいかわかりません。よく無事で、生きていてくれましたね」。
玉鬘は夢にまで見た父との対面に、緊張で上手く返事ができません。そこを源氏がフォローしたりして、時間が経過。事情を知らない他の来賓は、頭の中将がなかなか宴席に戻ってこないのを妙だと思いはじめます。ただ腰紐結ぶだけなのに、何してるんだろう?
頭の中将の息子たちのうち、長男の柏木と次男の紅梅だけは真相を聞いていました。「血の繋がった姉上だったなんて。焦ってモーションかけなくて良かったぜ」「源氏の太政大臣って養女を拾って宮仕えさせるのが趣味なのかな。やっぱ変わってるよな~」。
その声は源氏の耳にも入りますし、裳着を済ませたら結婚を延期する理由はないと、蛍宮も本気で迫ります。でも、あくまでも源氏としてはしばらく真相を伏せたまま「帝の意向で宮仕え」の方針を貫くつもりで、頭の中将にも協力を要請します。ちょっと強引に”お上の意向”を持ち出しちゃってますけど、いいのかな?
式も無事終わり、頭の中将は(あまりじっくり顔を見られなかったが、美しい娘のようだった。あの夢占いの”他所で養われている娘”とはこのことだったのだ。もっとゆっくり会いたいものだが)と思いつつも、玉鬘が宮仕えとなれば長女の弘徽殿女御への影響が気がかり。とりあえず今は女御にも事情を話し、源氏の出方を伺うしかありません。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/