ニコニコ動画と『思想地図β』のコラボイベント『ニコ生思想地図 出張編』を、新宿・紀伊國屋サザンシアターにて見学してきました。
『思想地図β』を率いる気鋭の思想家、東浩紀氏。『早稲田文学』の主幹を務める市川真人氏。旬の論者が「震災から文学へ」をテーマに語るシンポジウムで最大の注目は、作家の高橋源一郎氏でした。
高橋氏といえば『さようなら、ギャングたち』『優雅で感傷的な日本野球』など、80年代に一世を風靡した印象が強いですが、3.11後、にわかに言動が注目を浴びつつあります。
高橋氏に限らず、人気経済番組『カンブリア宮殿』でMCを務め、主宰するサイト『JMM』でも社会的発言を続ける村上龍氏。そして、もはや作家ではなく政治家としてメッセージを発信し続ける新党日本代表の田中康夫氏など、80年代の文壇スターたちがいま、元気に言論界をリードしている印象です。
では、高橋氏はどのような発言をしているのか? 実際に、シンポジウムでの印象的な発言を拾ってみました。
「震災以降、ほとんどの小説が読めなくなった。『ああ、書いてあるな』という感じしかしなくて、読んでも頭に入ってこない。『こんなに世界が大変なのに、なんで真面目な顔して小説を書いているんだよ。もっとふざけろよ』みたいな」
「今の若い作家たちは、文章がきれいすぎる。『もっとこの世界について見たい、知りたい』と思ったら、言葉は崩れておかしくなる。きちんと書けるということは、文章のことしか見ていない」
「僕はあるところでは原発反対のアクションをするし、別のところでは『原発があってもいい』とも言う。この複雑な現実で、どっちか決めろと言われても困るんだよね。だから、あちこちへ行って矛盾することを言えばいいんじゃないか。矛盾を覚悟する、それが文学の言葉じゃないか」
「僕はできるだけあらゆる場所へ出かけていって、言葉を使いたい。3.11で思ったのは、みんな呆然として言葉を失っている時こそ、続けて発信すること。どこでも発信すること。何でも発信すること。それが文学者の大きな役割だと思う」
……壇上で東氏が指摘していたように、高橋氏が80年代からこだわってきた「バカバカしさ」が、震災を経ていっそうパワーアップしたようにも感じました。
御年61歳の高橋氏、だてに4度の離婚を経験しておりません。不謹慎さが話題を呼んだ『恋する原発』、3.11以降のTwitterのつぶやきをまとめた『「あの日」から僕が考えている「正しさ」について』……最も旬な「震災文学」の担い手、それが高橋氏かもしれません。