ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)菌が、胃潰瘍や胃がんの原因になることは広く知られるようになってきました。
ところが、東京大・京都大の研究チームによって、心筋梗塞などの循環器疾患の原因になることがわかり、医師をはじめとした専門家の間で話題になっています。
本来、胃の中は胃酸で満たされているため、生物が生き続けることは困難です。そのため、83年にピロリ菌が胃の中から検出された報告があった当初は、報告の信憑性を疑う意見も多数ありました。現在では、ピロリ菌が胃の中に存在する尿素を酵素によってアンモニアに変化させ、胃酸を中和するために厳しい胃の中の環境でも生きられることがわかっています。
また、ピロリ菌は、胃の内側にとりつくと、ごく小さな針を出し、胃の上皮細胞に刺し、Cag(キャグ)と呼ばれるタンパク質を注入することがわかっています。胃の細胞内部で、Cagがリン酸と結合すると細胞を増殖させる酵素SHP2と結合し、がんの発生につながることが明らかになりました。
今回、分析にあたった東京大学・京都大学の研究チームは、ピロリ菌に感染している患者の血液に含まれる成分に注目。
血液の中に含まれるエクソソームと呼ばれる分泌物をチェックしたところ、胃の中に存在するピロリ菌が分泌したCagが存在することが明らかになりました。
細胞を増殖させ、がん化させる作用があるCagが血液に乗って全身に回ることで心筋梗塞や狭心症が起こることは合理的な説明がつきますし、一部の医師は循環器疾患だけでなく血小板が急激に減って出血しやすくなる難病「特発性血小板減少症」も、ピロリ菌と関連があると指摘されています。
ピロリ菌が人体に寄生して生きてきた歴史は古く、二足歩行を始めた時期からの歴史とも言われています。今回の発見は、がんだけでなく、まだ原因が分からない難病について、新たな解決方法をもたらすかもしれません。
写真はイメージ 足成より http://www.ashinari.com/2009/04/26-017743.php