大学の卒業旅行でアメリカを訪れていた森美 咲。
ホワイトハウスに、コインを投げ入れようとして、警官に咎められるのだが、そこにひとりの青年が現れる。
記憶喪失の彼は、彼女を助ける。全裸で。
咲は、彼のことを不審に思いながらも、コートを貸す。
いや、もしかしたら、この段階で彼女は……。
青年は、自分に関する情報を調べ始める。手がかりは、携帯と拳銃。
それに自分が住んでいたであろうアパートのクローゼットにある無数のパスポート。
どれも、自分の写真が添付されているが、ひとつひとつ記載されている名前が違う。
そんな彼の下に咲が訪れる。貸したコートにパスポートが入っていたから。と。
彼は、そこで、彼女と近い年のパスポートを選び、滝沢朗と名乗ることにする。
滝沢は、咲とともにアパート後にする。
もうすぐ帰国するのだという咲に、一緒に帰ろうと誘う。
滝沢は咲にワシントンへ旅行に来ていた理由を尋ねる。
彼女は、日本には、自分たちではもうどうすることもできないような重い空気があったからだと言う。
だから、世界の中心ワシントンに、お願いに来たのだと。
そんな彼に、少しの親近感を抱き始めた彼女は、彼のことを自分の「王子様」ではないかと思い始める――。
帰国のために訪れた空港のロビーで映し出されていたのは、東京がミサイル攻撃に遭っている惨状だった……。
帰国して、滝沢は自分の持っている携帯がノブレス携帯という携帯であることを知る。
そう、とあるゲームに参加させられていることを。
100億円の電子マネーが装填されたノブレス携帯を持った参加者、つまりセレソンに選定されていることを。
彼らは、その100億を元手にこの国を正しき方向へ導かなければならない。
その任を勝手に放棄してしまうとサポーターというセレソンによって、死がもたらされてしまう。
サポーターはセレソンのうち、他のセレソンの行動を監視するためにおかれた、ただ一人の存在だ。
ただし、セレソンたちの誰がサポーターであるかは、本人にも知らされていない。
互いが互いを信じられない状況に追い込まれ、相手の行動を読み合う。
ひとつの正義と正義がぶつかりあう形のようである。
滝沢は、この国を覆う閉塞感を打破することができるのだろうか。この国を救うことができるのだろうか。
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作品内で、この国(日本)を覆う閉塞感というのが、実は現実社会にそっくりそのまま当てはまると考えている。
先の見えない不安。希望の欠如。
咲の例をとっても、就職に困る。そう、現代の若者と同じように。コネまで取り付けたのに。それでも、担当者にバカにされる始末。
決意だけでは、思いだけでは、この既存の国にあるラインにのっていても、もう何も変わらない。
滝沢は作中でこう述べる。
「この国は、どの道いったんは誰かが何とかしなきゃならないほど、おかしなことになってんだからさ」
まさに、そうなのだ。
小手先だけの変更だけでは何も変えられない。閉塞感をぬぐいきれない。
もう……すべて変えなければならないのだ。
彼のように、悪者になって、裏切られて、記憶を消して。
それくらいのダイナミックさがないともう、この国は変わらない。のかもしれない。
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ネタバレ
――
彼、滝沢は結果として王様になる。
「ああ。この国には頭のいい連中がいっぱいいるのに損な役回りやる奴がいないんだ」
「出来れば俺だってあんましやりたくはないけどさ。ひとりだけ信じてくれた子がいたから」
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誰かひとりでも信じてくれたら、それ以外の人に裏切られても、この国に希望を持てるかもしれない……。
この国を変えられるかもしれない。
そんな示唆に富んだ作品である。
――
それにしても、大杉君。
かわいそうだな。
ぼそっ……。