一夫一婦制を取るようになったのは性行為感染症のせい? カナダの研究者ネイチャーに論文発表

  by 松沢直樹  Tags :  

今でも一部では一夫多妻制が許されている国がありますが、大体の国は一夫一婦制をとっています。
その昔、人間が狩猟時代を過ごしていた時は、今のような状態ではなく、乱婚状態がふつうだったとされています。

それがなぜ一夫一婦制になったのか。文明とともに進んだ宗教や道徳の影響なのかと考えられていましたが、決定的な証拠はないとされています。

カナダ ウォータール大学のクリス・パウフ博士は、少人数で狩猟生活を送っている状態から、大多数で定住して農耕生活を送るようになった際に、性感染症の蔓延を防ぐために、一夫一婦制が定着したという趣旨の論文を、英国の著名な科学雑誌ネイチャーコミニュケーションズに発表しました。

パウフ博士によると、数理モデルを使って実験。30人以下の集団では乱婚状態であっても、性感染症の蔓延は起こりにくく、仮に起きても短期間で収束するとしています。
しかしながら、大多数が定住して共同で農耕生活を送るようになると、性感染症の蔓延は深刻になり、収束が難しくなるそうです。梅毒などの性行為感染症の治療法が確立していなかった時代ですから、乱婚状態によって性行為感染症が蔓延すれば、コミニュティ全体が絶えてしまう可能性もありえます。

なにより農耕を中心としたコミュニティは、全員が労働力として貴重な存在となります。一人でも欠員が出れば、コミュニティの存在が危うくなるわけですから、全員が性病に罹患するとなると、文字通りコミュニティの存亡にかかわってきます。

このことから、行動の規範が自然に規制され、一夫一婦制が定着したというものです。

パウフ博士は、病気の蔓延をはじめとした自然環境の要因が、社会規範や、人間の集団的な判断能力に強く影響を及ぼすとしています。

そういえば、豚肉をはじめとした食事の習慣について戒める国が少なくありません。荒唐無稽なことではなく、豚は人間に感染するウイルスを保有しやすいため、経験的にコミュニティを守るためにこのような習慣が生まれたのではないかという意見があります。

そのことを考えるとクリフ博士の主張は説得力があるといえますね。ただし、クリフ博士は、性行為感染症の問題が解決されたとしても将来的に現在の結婚制度が変わり、一夫多妻制が復活するとはいえないとしています。

人類のナゾとされている問題ですが、真相はどこにあるのか今後の研究を待ちたいですね。

※写真はイメージ 足成より http://www.ashinari.com/2009/06/14-022293.php

松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長