ある日、同い年の姉弟ができた?  思春期の繊細な心と現在の家族像を収めた力作映画「鉄の子」 福山功起監督インタビュー

この冬は、良質な映画作品のリリースが続いている。2月13日より劇場公開される福山功起監督作品「鉄の子」もその一つだ。
 故・相米慎二監督の「お引越し」で両親の離婚に翻弄される少女役でデビューした田畑智子。彼女が、子連れで再婚する母親役を演じるというのも興味深い。
本作の見所は、なんといっても、両親の再婚で、姉弟となる多感な時期の少年少女を真正面から捉えていることだろう。諍いを通じて、ゆっくりと心が近づき、真の姉弟となっていく姿を、映像表現ならではの手法で見事に描き切っていることは、ぜひ見ていただきたい箇所の一つだ。

わたしたちドウメイを組まない? 両親をリコンさせるの

 ストーリーは、鋳物工だった夫を亡くしたやよい(田畑智子)と紺(裵ジョンミョン)の再婚から始まる。

 やよいの息子・陸太郎(佐藤大志)と、紺の娘・真理子(舞優)は姉弟になる.同じ学校に通う事になった二人は、クラスメイトの悪ガキから「夫婦、夫婦」とはやし立てられる。

 両親の再婚に納得していない真理子はおとなしい陸太郎を半ば言いくるめる形で、紺とやよいの離婚を企てる「リコンドウメイ」を結成。

 ところが、二人を離婚させる作戦は、ことごとく失敗。皮肉にもそのことを通じて継母となったやよいと真理子は、心が少しずつ重なっていくこととなる。
 やよいが使っているメイクセットをみつけた真理子は、見よう見まねでメイクをやってみる。たまたまその場を見つけたやよいは、叱ることなかった。
「わたしもね、真理子ちゃんと同じ歳くらいの頃だったかな? お化粧してみたいこと思ったことがあるよ。」

 思春期の少女が、おしゃれに関心を持つようになることは成長の証であり、当然のことである。

やよいは、優しく諭しながら、真理子の失敗したメイクを拭き取り、愛用の口紅を渡す。二人の心がゆったりと近づき、母娘になる瞬間を、映像ならではの方法で、見事に表現仕切ったと言っても過言ではない見事なシーンである。

 一方、定職についていなかった元役者の紺も不動産会社で働きはじめ、四人は家族の形を作り始めていく。

 だが、陸太郎は、亡くなった父が忘れられない。亡父の職場で働く飯塚高史(スギちゃん)を慕って、亡父の職場に通う陸太郎。
「おじちゃんが、お父さんになってくれたらいいのに」とこぼした陸太郎に、飯塚は「新しい家族と暮らしていけ」と諭す。

成長する思春期の男の子に大事なことを伝えるスギちゃんの快演
 男の子は、父親だけでなく周囲の大人から人生の大事なことを学び取るものだ。
 本作では、新しい父親になじめない陸太郎に、飯塚(スギちゃん)が、陸太郎の成長のために大事なことを伝えるシーンがちりばめられている。
 かつての時代は、そういった大人がいたものだが、最近では極めてまれな存在となった。本作は、再婚する家庭が幸福を築くプロセスを描くストーリーではない。家族として共に生活するための様々な問題に直面するシーンも多数現れる。

 そのこともあってか、他人が家族になり、一つ屋根の下で生活していく中で守るべき大事なことを、見事に映像に昇華している。
 本作で、筆者がもっとも心に残ったのは、同居することになった陸太郎と真理子が姉弟として心が通った瞬間をとらえたトンネルの中でのシーンだ。思春期の少年と少女の難しい心情を、よくぞこれだけの短い映像で捉えたものだと思う。
 本記事では割愛するが、劇場に足を運ばれた方の心に響くシーンになるに違いない。

 親御さんが、思春期を迎えるお子さんの教育に悩むことも多いといわれる。その保護者の方々にとっても、本作は、親として子供に伝えるべきことを、たくさん見つけられるにちがいない。

家族になる瞬間とは? 福山功起監督に聞く

「鉄の子」は、真理子ちゃんが陸太郎君を半ば強引に巻き込んで、両親を離婚させる「リコンドウメイ」を結成することから、ストーリーが展開していきますよね。それがことごとく失敗していく中で家族として心が重なるシーンが見事に描かれていたと思います。
 特に、陸太郎君と真理子ちゃんがトンネルで見せてくれるシーンは、強く印象に残りました。思春期の難しい年頃の男の子と女の子が、姉弟になった瞬間を見事に描いていると思います。

 実は、脚本こそ書いていますが、本作は僕が体験した実話がベースになっています。本作を撮るきっかけになったのは、5歳の時に1年半ほど一緒に暮らした妹からメールをもらったことなんですね。
 僕自身、映画をやってますからネット上にメールアドレスを公開していたんですよ。それで彼女が、コンタクトをとってきたわけなんですけど。

とはいえ、5歳の時に別れた妹からメールがきたら驚きますよね。
 一緒に住んでいたのは覚えているわけですけど、まだ小さい時だったので、記憶があいまいになってるんですよね。
「当時どのあたりに住んでいましたか?」とか「お父さんのこと恨んでますか?」とか。
 彼女は結婚して子供がいるんですが、自分の子供が5歳になって、僕と一緒に住んでいた5歳のころのことを思い出すようになったと言っていました。僕の名前をネットで検索したら、みつけた僕のページに載ってる写真が、当時の面影に重なる。
「ひょっとして兄ではないか?」ということで、メールしてきたんですね。

 その後、メールのやり取りが続いて、35年ぶりに会うことになったんです。笑い話なんですけど、彼女、僕と似たような商売に就いてたんですよ。
 メールのやり取りを始めて実際に会うまでの1年半って、掘り下げるともっといろんなことがあったんですけど、これは映画になるんじゃないかと。それで、もともと、僕の中で撮りたかったストーリーと重ねて作品にしたんですね。鋳物工業が盛んだった川口市が舞台になっているということで、「鉄の子」という作品タイトルにしたんですが、家族や子供の成長を鉄に例えたという理由もあります。

本作では、思春期の男の子の成長が見事に描き分けられているのが印象的でしたが、親御さんと子供の関係を意識して撮影されたことはあったんでしょうか。
 映画であれば、新しく父親になった紺と陸太郎の関係を強く描くべきかなとも思ったんです。
 作品を鑑賞していただくとお分かりいただけると思うんですが、紺は陸太郎を育て上げる強い父という存在ではないですよね。むしろ、再婚したやよいが紺の母親として接するような時すらある。どちらかといえば頼りない父親です。

 彼は役者の道を捨てて、不動産会社の営業マンとして働きはじめるもののそれでも結局、家族と向き合えない。やよいもやよいで、二人の子供を育てるのに疲弊して、一日だけ母親を放棄するシーンが出てきます。

 とはいえ、親である以上、子供のことを思わない親はいないと思うんですね。今、お子さんを育てていらっしゃるお父さんお母さんは、疲れ切るまで無理をしすぎず、時には家族の摩擦を恐れないで感情をぶつけあってもよいのではないでしょうか。

紺に代わって陸太郎の成長に必要なことを伝える飯塚(スギちゃん)の演技もほのぼのとしていて、個人的にはとても好きです。

 本当はね、小林薫さんのような、いかにも職人肌という感じのしぶい役者さんを起用しようと思っていたんですよ。
 でも、このお話では面白くて気さくな感じの方がいいんじゃないかということで、スギちゃんにオファーを出させていただきました。
 実は昔、演技をやっていたことがあったそうで「今回は、芸人のスギちゃんではなくて、役者のスギちゃんでお願いします」とお願いしました。 
 実は、撮影が1日だけだったので、かなりハードだったと思うのですが、実にいい演技をしてくださいました。
 カメラテストをした時は、コントをやっておられたせいか、かなり演技が硬く感じたんですよね。30分の休憩をとって屈託なくお話をさせていただいたら、いい演技を見せてくれました。 

 亡き父の面影を追いかけて通い続ける陸太郎に対して「もう来るな」と告げるシーンがあるんですが、特にあのシーンは肩の力が抜けていて、自然な演技になったと思っています。

親子関係といえば、やはり、やよいと真理子が邂逅するシーンが印象的でした。
 真理子が、やよいのメイクセットを勝手に引っ張り出して、いたずらするシーンのことですよね。年頃の女の子にしてみれば、継母との関係というのは、非常に難しいと思うんです。

 ですが、真理子が女性へと成長する瞬間を、やよいが母親の目線で見守る姿が描けていると、評価をいただいています。劇場にお越しいただいた時は、ぜひ、楽しんでご覧いただきたいですね。

本作に出てくる家族は、円満は家庭とは程遠い存在だ。だが、家族が抱える問題や、親としての悩み、そして一つの家で過ごすことについて、カタルシスを与えてくれるのは間違いない。
 いわば、現代の家族の行間を見事に描いた作品である。本記事では触れないが、特にラストシーンは印象的だ。2月13日の劇場公開後に、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。

2月13日(土) 角川シネマ新宿、MOVIX川口ほか全国順次公開

©2015 埼玉県/SKIP シティ 彩の国ビジュアルプラザ

□出演:田畑智子、佐藤大志、舞優、裵ジョンミョン、スギちゃん
□監督:福山功起 □脚本:守山カオリ/福山功起
□エグゼクティブプロデューサー:瀧沢裕二 □プロデューサー:桝井省志/土本貴生/山川雅彦 □撮影:谷口和寛 □照明:森紀博 □美術:塚本周作 □録音:米山靖 □音響効果:齋藤昌利 □音楽:三宅彰 □編集:鈴木理
□タイトルデザイン:赤松陽構造 □助監督:山口晃二 □製作担当:島根淳 □エンディング曲:「大人になったら」GLIM SPANKY(ユニバーサルミュージック/アムニス)

□製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ □製作協力:デジタル SKIP ステーション/SKIP シティ国際 D シネマ映画祭 2015 □製作:埼玉県/SKIP シティ 彩の国ビジュアルプラザ
□配給:KADOKAWA 2015 年/日本/ビスタ/74 分 ©2015 埼玉県/SKIP シティ 彩の国ビジュアルプラザ

○公式サイト: www.tetsunoko.jp ○Facebook: www.facebook.com/tetsunoko ○Twitter: @tetsunoko_movie

松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長