今話題の「ぼぎわん」って何?

  by 白田まりこ  Tags :  

 最近Twitterを中心に、「ぼぎわん」という文字をよく目にするが、一体それって何?

 答えは、第22回日本ホラー大賞受賞作「ぼぎわんが、来る」の中に出てくる、化け物の名前。
 日本ホラー大賞といえば、貴志祐介や岩井志麻子など名だたる作家を輩出してきたことでも有名な、由緒ある小説賞。歴代受賞作は、時代時代の読者を戦慄させてきた。
 今作にでてくる化け物「ぼぎわん」も、先輩モンスター同様、私たち人間に近寄ってきて、その命を脅かしにかかってくるわけだが、ここ数年に編み出されたモンスターの中ではとりわけ話題に上っているように思う。それはなぜか。
 筆者が思うに、その要因は類い希なる「説得力」にある。
(下記一部ネタバレを含むので注意)
 化け物がババーンと現れる話なんて、一見して作り物に思えるはずなのに、ちっともチープじゃない。あり得る。日常の世界と地続きに感じられる。それだけ作者が作った想像物に、全部「もっともらしい」説得力があるのだ。
 化け物に関する逸話には、16世紀の史実を織り込まれ、筆者など「へえ~、そんなことあったんだ」とのんきに信じ込んでしまっていた。化け物を呼び寄せるのに使うといわれる呪具についても、あまりに自然に語られるので、思わずどこが発祥のものかと調べたら、それも創作ではないか!
 細かいところでいえば、この化け物がロックオンする最初のターゲット・田原秀樹。自称「イクメン」の彼の化けの皮を剥ぐ小道具として「パパ名刺」なんていかにもアリそうなものが用意されている。今でこそ「ママ名刺」やら「パパ名刺」なんて言葉はメジャーになったが、この原稿が応募された当時には、少なくとも「パパ名刺」なんて言葉はまだ生まれていなかっただろう。
 そうやって小さなところから、大胆なところまで、至るところに「説得力」を重ね着させていった結果、現実よりも現実らしい恐ろしいホラーワールドが完成する。

 恐ろしい。
 作家いわく、この作品はここ最近書いた物らしいが、「ぼぎわん」には間違いなく、もう何百年という歴史がある。実はぼぎわんは大航海時代、日本にきた宣教師たちが呼んでいた「ブギーマン」がなまったもの、という説明なのだが、たとえば「母偽腕」と当て字をしてもしっくりくる(詳しくは内容を読んでほしい)。全然歴史のないものなはずなのに、既にこの単語一つにも諸説ある。
 この作家は、小説だけでなく、放っておくと歴史まで作りかねない。

「ぼぎわんが、来る」(KADOKAWA)
http://www.kadokawa.co.jp/sp/bogiwan/
画像:歌うカメラマン/PIXTA

出版社勤務後、フリーライター、翻訳家として活動中。フリー編集者として、児童書の制作も手掛ける。