いよいよ冬コミの当落が公表され一喜一憂する季節がやってまいりました。時節は霜月。来月は師走で年末でつまり冬コミ到来ですよ。気が早いと言われる向きもあるかもしれませんがそんなことはないのです。準備する側からみれば戦いは既に始まっています。
そこで冬コミまでに何回かにわけて「同人誌の基礎知識」を記事にしていきたいと思います。ただしすでにサークル活動されている方には常識的な内容です。中には今回の冬コミで「初めて」同人誌を買いにイベントに行く一般参加の層もあるかと存じます。そういった初心者のためのガイダンスになれば幸いです。ここでは特に同人誌の普及を最高最大に担っているコミックマーケット視点における同人表現について案内していきます。たまに筆者のしょぼい体験などもまじえつつ。
サークル参加の方は初心に戻るつもりでお手柔らかにお目通し頂けますと幸いです。いやこのような記事にかかずらっている暇があれば表紙のラフにでも着手してくださってかまわないのですよ? 応援しているのです。
同人誌って?
そもそも同人誌は元々文芸用語でした。盛んになりだしたのは明治時代の頃から。現代では漫画のイメージが定着している同人誌ですが「同人」とは同好の士の寄り集まって形作る文芸表現の媒体だったんです。有名どころでは夏目漱石や正岡子規の参加した『ホトトギス』など。宮沢賢治も『アザリア』といった同人誌を学生時代に仲間たちと発行していました。国語便覧で見たこともあるでしょう。時代は巡りまくって色々あって今では漫画表現、特に二次創作が主流となっています。内容も形態もまったく別物ですが「同好の士」が集まって作るものということだけ覚えておきましょう。
さて、今回のテーマは同人誌の「種類」です。
個人誌とは?
主流の個人誌。一個人が主体となって作成する同人誌を個人誌と呼んでいます。昨今では同人誌といえばほとんど個人誌がメインです。個人誌のメリットはお金の許す限りページ数が割けるのでストーリー性のある物語が展開できること。印刷費用はもちろん発行者が負担します。友人にイラストや漫画を頼んで描いてもらう場合もあくまでも出資者は発行者なので招致された側を「ゲスト」と呼ぶことがあります。
合同誌とは?
実は同人誌発足時は大変盛んだった合同誌。複数の同好の士が印刷費用を出し合ってページも個々で負担しあうというスタイルです。メリットは費用負担が少ないこと。ひとつのジャンルやテーマを主題として作品を持ち寄るわけですから楽しくないはずがない。ネットがない時代では実際に会える距離の仲間たちが寄り集まって作るということが多く80-90年代頃までは分厚い合同誌の発行は創作の花でもありました。しかし印刷事情が変わり個人でもゴージャスな本が出せるようになり、更にネットの台頭により複数人での同人誌はアンソロジー形態が増加しつつあります。筆者が学生時代に参加しはじめた頃にはまだまだサークルも同人誌も複数の友達同士でお金を出し合って…という形態が主流でした。ネットがないので学校の友達の友達と……といった知らない人たちと突然仲良くなるという熱狂的な気持ちのうちに頑張って作成するという雰囲気です。楽しかったなあ。
アンソロジー
主催者が印刷費を負担して複数のゲスト原稿により形成される同人誌のことです。合同誌の違いは出資者が個人である主催者であること。個人誌との違いは中身は複数人により形成されていること。先述のようにインターネットの普及により遠方の地域への同好の士への呼びかけやデータのやりとりが可能になりました。そこでより多くの愛好者と出会い主催者は表現の場を提供し参加者は作品を提供することが可能になりました。しかし出資者はあくまでも主催者。主催者にとってのメリットはテーマやジャンルや傾向を自分好みで方向付けられること。一方で進行管理など大勢をまとめるという責任があります。わいわい寄り集まって好きなものを…というより冊子全体をプロデュースするという色合いが強いんです。つまり主催者にはお金だけではなくそれなりの同人誌作成経験と印刷知識とジャンルへの愛と信頼関係が必要です。トラブルが起きて途絶する…なんてことも。アンソロジーは宣伝効果は高いのですが、けして初心者に作れるようなものではありません。
ここでちょっとしょっぱい話を。筆者も某ジャンルのアンソロジーに誘われて二月発行なので締め切りは一月くらいか? と思っていたらクリスマス締め切りで冬コミ原稿ともろかぶり、ひいひい言いながら冬原稿のページを削って締め切りを守ったことがありました。好きだったからね!
一方で主催者はライブや何かで遊びまくる模様をブログにあげるなどしておりました。てっきり原稿は完成しているものかと思いきや自分の原稿の遅れのために締め切りを延ばすという事態。しかもその後の頒布状況も不明のまま完売前に突然に頒布停止された…ということがあります。…いったい、何だったのだろう。好きだったのにな。
今だから言えます。冬の原稿を削ってまで別ジャンルに時間を費やす必要はなかったのではないか? しかし全ては自分の見極めの甘さにもよるもの。ただし自己弁護するならマイナージャンルでの活動では母数の少なさから場合によってはやむなく強引な主催者に牽引されて同調圧力で断りきれず…といったことも起こりえます。しかもそうした主催者はマイナージャンルでうわさが広まるとパッと新ジャンルへ鞍替えして同じ行為を繰り返します。現に筆者の知る主催者も鞍替えしました。
今考えれば向こうは色々考える余裕がなかったのかもしれないなーと思うところもあるのですが、とにかくそれは本人が大変な人なだけなので自分は断っておけばよかったのです。
同人趣味はあくまでも好きなものを主題としているので「好きだから」という心があるならやりましょうという気持ちになりやすいもの。しかも新ジャンルだと見る目の定まっていない若い参加者が多数います。そこへ付込むようにも見えるのです。自分の場合は単に見間違えていました。ゲスト参加を要請された場合は必ず主催者の人物を見極めて信頼関係を築けそうか考えましょう。そもそもが好きなものを好きなように行うのが同人活動です。いわば感性の密林。
人が集まる以上そこは考えながらやっていきましょう。企業組織ではないから理不尽が起きても止める人がいないと大変なことになります。作業時間は必ずとられるもの。無理そうだったら周囲に相談したりやんわり断る勇気も必要です。
振り返ってみて助言できるとすれば初心者やニワカを自任する人はきっかけがどんなに小さなジャンルでも即売会の折には大きなジャンルやプロの作家活動にも目を向けておくのが良いでしょう。サークル全体の雰囲気やいい作品やいい活動をする作家をたくさん知っておくこと、自らの目をいい場所で培うことが悪質な同人活動から免れる最短ルートです。第一楽しいですし勉強にもなりますし、プロや大手の作品を見るととっても謙虚な気持ちになれますよ。大手作品はへこむからといって注目しない方もいますがそれは個人の自由であくまでも初心者向けのアドバイスです。
グッズ
漫画や小説の同人誌だけではなくグッズもコミケットでは扱っていますね。イラストは描けるけど印刷費用が…という学生さんはこのあたりから入るのがいいのではないでしょうか。カラープリンタがあればポストカードが作成できます。かつてはラミネートフィルムを使って個人で作れるラミカが人気でしたが最近は小ロットでつくってもらえるアクリルキーホルダーが多い模様。ラミカもアクキーもアニメっぽさが際立ってきゅるっとしてかわいいんですよね。
最近は色紙に手書きイラストをいれて持参する方もあるようで、これも以前はなかった流れだなあと感心しています。
他
小説や同人ゲームやアクセサリー、コスプレ、音楽もコミケットでは表現手法として頒布の場を与えられています。筆者も小説表現で参加していました。最近は文庫本サイズが個人で刷れるようになって本当にすばらしい。
パソコンの普及によりCG集や同人ソフトの頒布はもはや珍しくありません。同人ソフトが商業化して大ヒットしたり有能なクリエーターが発掘される流れもあります。
アクセサリーも好きなジャンルのキャラクターのイメージで作成されたりスーパードルフィーの台頭によりドール衣装とセットで売られたりと多様化しています。同人音楽に至っては個人がコンセプトアルバムを発表して従来と異なる音楽手法を生み出す場を与えられています。あのRevo様もかつては同人音楽から活動を始めたのですよ。またボーカロイド普及により一般の人が労せず作曲やPV制作をできるようにもなり格段に表現の幅が広がっています。
そしてコスプレ。いやー…毎年コミケっていうとコスプレの画像ばっかりあげて取材した気になっているメディアが多いので腹が立っているんですよ。実際コスプレはコミケットでは「自己表現の一環」として許される表現手法として規定されているんです。それを撮影するのも表現手法の一環として許されているだけなんです。太ももやおっぱいを映すなとまではいいません。コスプレは良いものです。しかし、せめて内容を理解した上での取材をしてほしいものです。
そもそもは漫画同人誌もかつては発表の場をもたない媒体でした。コミケットを発端として同人誌即売会で入手できるようになったのです。コミケットは年に二回、夏と冬に行われますが…実際の開催は8月と12月。夏コミから冬コミまでの準備期間は約4ヶ月…いや実際にはサークル当落発表から印刷所の締め切りまでを見込むと2ヶ月あるかないかくらいの時間量になるわけです。昨今は秋葉原や池袋の同人ショップで常時販売されるようになりましたが同人誌を作成するのは基本的には「有志」の「個人」です。頒布する側のサークル参加される作り手は本当に大変な時期です。
一般参加の方も作り手さんの心を慮りながら楽しめるよう参考になりましたら幸いです。
こんな長文にお付き合いありがとうございます。
次回のテーマはサークル参加にかかわる「お金」のお話です。
写真素材:足成 http://www.ashinari.com/ 【リンク】