【映画】現代人を魅了する、岡本喜八監督作品の「反骨心」と「面白さ」

http://www.nhk.or.jp/gendai/yotei/index_yotei_3724.htmlより引用

近年、岡本喜八という映画監督の作品が、密かなブームとなっているらしい。
10月28日、NHK『クローズアップ現代』において彼を特集した番組が放送されたのだが、
老若男女が岡本喜八作品を上映している小さな映画館に列を作っている映像が映し出されていた。

岡本喜八といえば『新世紀エヴァンゲリオン』等で知られる庵野秀明監督が
度々オマージュしていることで一部のファンには知られていたが、
ある程度の映画的知識を持った映画ファンのコミュニティを除いて、
現在においては決して知名度の高い監督ではなかった。

それが何故、近年突然注目を浴びることとなったのか。

NHKの特番においては、戦争映画の巨匠としての一面を重点的に取り上げていた。
なるほど、近年の安保改正などに対する問題意識が、岡本喜八映画に視野を向けさせたのかもしれない。
だが、単なる政治的動向だけで、それまで微塵も興味を持たなかった人々の注目の的となるだろうか。
確かにそれも理由の一つではあろうが、やはり他にも動機が考えられるのではないか。

なぜ今、岡本喜八の日本映画が注目されているのか。
その魅力を改めて見つめ直すと、それは自ずと見えてくる。

おそらく、彼の作品に共通する「反骨心」そして何より作品の「面白さ」が、
現代の人々を引きつけているのではないかと思う。

岡本喜八作品が持つ反骨心への共感

http://www010.upp.so-net.ne.jp/tohoscope/gurentai.htmlより引用

岡本喜八の映画に登場する主人公たちは、そのほとんどが社会からのつまはじきものである。
ヤクザ、はぐれ軍人、プー太郎、浪人他もろもろ・・・。
世の教育ママ達が、子供に絶対なってほしくない職業ばかりだ。

だがはぐれ者ゆえ、彼らには「反骨心」がある。
社会に対して「へえへえ、あたしの暮らしをなんとかしてくだせえよ」
と従っていれば、自分たちは最低限「食わせてもらう」ことはできるだろう。
だが、それではよくないのだ。
それは彼らにとって、生きることではないのだ。
反骨心を持つ彼らにとって、それは許せないのだ。

だから彼らは奮闘する、あらゆる方法で世の中に傾いてみせる。
だから、『独立愚連隊』の記者はどの陣営にも属さず荒野を陽気にかけ回り、
『大誘拐』の老婆は己を誘拐した犯人に荷担し、
『大菩薩峠』の机竜之介はあらゆる人々を無慈悲に切り捨て、
『ダイナマイトどんどん』の菅原文太はヤクザ同士の野球大会で暴走する。

岡本喜八映画の主人公たちは、皆社会の訳わからぬ規則や定め、
その時代の空気に逆らい続けているのだ。

現代日本に目を向けてみれば、どうだろうか。
かつては当たり前だった正社員という立場がまるで特権階級のごとくもてはやされ、
ネット上では暴力と差別が蔓延している。
税金はどんどん上がり続けているのに、生活は一向によくならない。

そのような空気になんとなく不満及び不安を感じている人々に、
岡本喜八作品が内包する反骨性は非常に共感し得るのではないだろうか。
彼の映画で描かれる登場人物たちのエネルギーは、不満に圧迫された現代の人々に対し、
ある種のあこがれを感じさせるのかもしれない。

岡本喜八の映画における「面白さ」

http://www.jion-net.com/blog/2015/05/post-1519.htmlより引用

NHKの特集でも中心的に扱われたが、岡本喜八は戦争映画を多く手がけた。

日本の戦争映画と聞くと、悲しげなテーマとともにスローモーションで
主演俳優が何やら道徳的なことを叫ぶような、
非常に退屈でうんざりするものを思い浮かべるかもしれない。

だが、岡本喜八の戦争映画は、断じてそうではない。
戦争の中にあるのは、悲哀だけではない。

『独立愚連隊』のような孤高な男の冒険、『日本の一番長い日』のような
手に汗握る瀬戸際の駆け引き、『血と砂』のような凸凹の人間関係が織りなすユーモア。

岡本喜八は、そうした人間的悲喜劇を、極めて映画的な面白さを以て描く。
はっきり言おう、岡本喜八の戦争映画は「面白い」のだ。
笑っても構わない、ハラハラしても構わない、それが映画だ。

そうした要素があるからこそ、真に悲哀が生きてくる。
戦時中に過酷な経験をした岡本喜八は、決して戦争を賛美しない。
それまでバカをやったり必死で駆けていた人間が、無慈悲な炎で無差別に焼かれていく。
そんな戦争の恐ろしさも、しっかり描く。
だからこそ岡本喜八は、真の意味で誠実な映画監督といえる。

もちろんだが、戦争映画だけが面白いのではない。
岡本喜八の映画は、そのほぼ全てが非常に高い娯楽性を誇っている。

心地よいテンポの早さ、登場人物の絶妙な掛け合い、斬新なアイデア、
巧妙なカメラワークの数々は、見ていて実にスッキリする。
白黒映画だからつまらないなどと思うと、予想外の衝撃を受けるだろう。
現代日本の映画監督で、岡本喜八に勝る娯楽映画の作り手はいないのではないか。

岡本喜八映画の「面白さ」を担う俳優たち

常連俳優陣も強力だ。
中代達矢に三船俊郎、小林桂樹に中谷一郎、
加山雄三に寺田農といった日本映画を代表する名優達が度々顔を出す。

中でも注目すべきは、彼の作品の常連俳優である天本英世だ。

http://www.geocities.jp/takahajime2003/k-hideyo-amamoto.htmlより引用

『仮面ライダー』の死神博士で知られる彼は、
岡本喜八映画においてすさまじい怪優ぶりを見せる。
中でも心に残るのは二つの作品。

まず一つは『殺人狂時代』
ブラックユーモア風味の不条理性が見所のこの作品において、
天本英世が演じるのは謎の精神科医溝呂木博士。

風貌からしてただならぬこの人物は、クライマックスにおいて
「スペイン式決闘」なる、鎖で互いの腕を繋ぎつつ刃物で戦う
という情熱的な決闘を主人公に挑む。

もう一つは、岡本喜八映画の最高傑作の声も高い『大菩薩峠』。
この映画で天本英世が演じるは狂気に染まった旗本、神尾主膳。

若い娘を己の屋敷に閉じこめた彼は、銀に光る刃を取り出し、
やにわに放つ言葉は「ふふふ、たけのこ遊びを教えてやろう」
切れ味するどい日本刀で、娘の着物を切り裂いていこうというのだ。

「ゆくぞ、たけのこ!」暴力性とユーモアを兼ね備えた
狂気の台詞とともに、彼は刀を振り下ろす――。
出番こそ少ないが、そのインパクトは主演の中代達矢すら上回っているかもしれない。

痛快さすら覚える怪演を見たいのなら、岡本喜八の映画を見ればいい。
天本英世がきっとそれを叶えてくれる。

岡本喜八映画のススメ

以上、岡本喜八という映画監督について語ってみた。

昔の日本映画の監督というとよく黒澤明の名前が挙げられるが、
岡本喜八は更なる評価を受けるべき、邦画の鬼才である。

もし拙文をお読みになられて岡本喜八の映画作品に
興味を持たれた方がいらっしゃったのなら、
まずは『ダイナマイトどんどん』と『大誘拐』の二本をオススメしたい。

両作品ともカラーであり、粗筋も明確かつ二転三転、存分に楽しむことができるだろう。
それから、どんどん他の作品に入っていただきたい。

この岡本喜八ブーム、どの程度の規模のものかは私には分からないが、
是非とも大きく長く続いて欲しいものだ。

大阪府在住。 知られているようで知られていない大阪という場所の面白さや、 日々思うことを記事にしていきます!

ウェブサイト: http://writingjob.xsrv.jp/

Twitter: lazeengine_0088