2009年9月、浅草で開催された『第2回したまちコメディ映画祭』で、一本の不思議な映画が上映された。
タイトルは『魚介類 山岡マイコ』。海からやってきた、魚介類の女子高生マイコが巻き起こす騒動を描いた20分ほどの短編で、最後のオチも含めてぶっ飛んだ面白い作品だった。
監督と脚本は、映画『ピョコタン・プロファイル』や、アイドルDVD『マジカル☆スイッチ』シリーズを手掛けた梶野竜太郎さん、主演はアイドル佐武宇綺さんだ。
今年の10月22日、その作品が新たなエピソードを加え、82分の長編映画として劇場公開された。
完成した映画は、前作にも増して不思議で謎めいたものになっていた。
“そもそも『魚介類』で『女子高生』ってどういうこと?”
見る前のそんな疑問は、海の中からずぶ濡れになって歩いてくる佐武さんの姿を見れば吹き飛んでしまう。
まるでつげ義春さんのマンガ『ねじ式』のオープニングのように、海をバックにしたその姿で全てが納得させられてしまうのだ。
魚介類であるマイコは、常に濡れていなければならず、なぜかいつも黒ネコのぬいぐるみを持っている。また、出世魚のため、ある一定の時間が過ぎると、次の形態へと変化する。
とにかく謎なシーンやエピソードが次々と出てくる。それでもこの作品が単なる“トンデモ映画”ではなく、見事なファンタジーになっているのは、彼女の才能あってのことだと思う。
これだけトリッキーな役であるのに、演じている佐武さんは実に自然体だ。まるで“マイコを演じている”というよりも、元々彼女の中にあった“マイコ”の部分を梶野監督が見出し、そこから物語を作っていったように思える。
実際、初日の舞台挨拶で、梶野監督は佐武さんのことを「小魚のようだった」と評した。
持ち前の明るさと、くるくると変わる表情、時おり見せるちょっと不思議な言動、そんな彼女を表した見事なたとえだと思う。
実際の佐武さんも、ユニークな一面があるようだ。毎日お風呂は2時間以上入るし、お酢が大好きでいつも“マイお酢”を持ち歩き、食事には大量にかけて食べているとのこと。魚介類かどうかはともかく、何か常人とは違った感覚を持っているのは間違いなさそうだ。
現在は、女優業の他にグラビアでも活動中。8月に発売された最新DVD『うっきーSUMMER!飛び出せ!佐武さん!』は、TBSのランク王国で月間売上第一位に輝いた。また、川島海荷さんらが所属するダンスパフォーマンスユニット『9nine』のメンバーでもあり、そちらでの活動はもう丸6年。男女問わず人気を集め、現在のユニットアイドルの中でも実力派として独自の地位を築いている。
そして、彼女の際立った才能が遺憾なく発揮されるのが握手会だ。
一般的に“握手会の対応がいい”という場合、ファン心理をよくわかっていて話がしやすいとか、一人一人とじっくり話をしてくれる、というようなことを指す。しかし、彼女の場合はそれだけにとどまらない。
もちろん個人のイベントの時はそれなりに時間をとって、ゆっくりと話はできるが、何人かのメンバーが参加して高速で握手会を流していく場合でも、彼女の真価は少しも変わらない。
一人の人の握手が終わると、次の人に目を向けて、瞬時に何か話しかけてくれる。服装であったり、髪型であったり、イベントの感想を尋ねたり、とにかく反射的に言葉が出てくる。そうして優しく手を握った後、自身の左手で相手の手首のあたりを軽く『ぽんぽん』と叩くようにして送り出す。それらの所作が実に自然にできているのだ。
文面だけでは伝わりにくいが、一度でも彼女の握手を受けるとクセになることは間違いない。
“天才”というのは、確かにいるのだ。それは、例えば『歌が上手い』とか『演技力がある』というような一般的な言葉では言い表せないようなものについても。
彼女のように周りのクリエイターに独自の物語を想起させ、手を握った瞬間にファンの心をがっちりと掴む、まだ名前もつけられていないような才能を持ったアイドルが、間違いなく存在するのである。
映画『魚介類 山岡マイコ』は、シネ・リーブル池袋で上映中。
※画像は『魚介類 山岡マイコ』公式サイトより http://yamaokamaiko.com/index.html