モノがないのにどうやって体験しろと?『失われた香りを求めて 最初で最後の異端のビール』を無理やり疑似体験してみた

  by 古川 智規  Tags :  

サッポロビールの子会社であるジャパンプレミアムブリューがクラウドファンディングを利用して『失われた香りを求めて 最初で最後の異端のビール』と言うものを醸造しようとしている。
目標金額を3700万円に設定し、9月10日までの募集だ。
募集しているコースは13000円、30000円、50000円と70000円。取材日現在では3万円と7万円コースは完売。残るは13000円と50000円コースのみとなる。
何が違うのかというと、13000円コースは350ミリリットル缶1箱24本と参加記念カードがもらえる。50000円コースはビールが2箱48本、参加記念カードにオリジナルグラス1個、缶への名入れ(6ポイント文字)が付く。
単純計算すると概ね1缶あたり500円から600円となり、一般的なビールの倍額にもなる。

本来であれば記者が飲んでレポートするべきではあるが、なにせクラウドファンディングが達成されないとビールが醸造できないので、現物がないのだ。もちろん、試作や研究のために完成品に近い形のものを飲んだ人はいるので、まずは話を聞いてみた。

サッポロビールとジャパンプレミアムブリューを兼務する新井健司さんにインタビューした。
--なぜこのようなビールを醸造しようと思われたのですか?
「このビールの”失われた香り”とは、ジアセチルという成分の香りのことなんです。ワインには必修の香りとされていますが、ビールには向かない香りと言われています。メーカーは長い時間をかけてこの香りを消す技術を模索してきました。その結果、現在ではジアセチルの香りはほとんどありません。なので失われた香りなんです。しかし、本来ある香りをあえて残して美味しいビール造りはできないものだろうかと考えたのがスタートです」

--なるほど。だから大手メーカーが一般販売するビールとして開発するのは無理がある。いわば遊び心と捉えても良さそうですね
「そう思っていただいていいと思います。このジアセチルの香りは一般的にバターのような香りと言われています。ひとことで言うとそれが最大の特徴であるともいえます。ビールにはあってはいけない香り。それを残しても美味しいビールにしたい。そう思っています」

--試飲したいのですが、ないんですよね?では疑似体験できませんかね?バターで
「え!バターそのものですか?さぁ、そういうことはやったことがありませんので、あくまでもバターのような香りという意味でして…」

--いえ、やっていただきます。飲んだ人が他にいないので新井さんの舌と鼻に頼るしかないのです
「わかりました。そこまでおっしゃるのならやってみましょう、疑似体験。ただし、結果の保証はできませんよ(笑)」

ということで、記者が用意したのはビールと有塩バター。今回は一般的なビールの代表としてサッポロ黒ラベルに登場していただく。
食べ合わせの実験として、バターと言い張るのなら、パン。ザ・リッツ・カールトンのベーカリーでその日に焼かれた食パンを購入。
結果的に値段の高いビールなので、おつまみも高級志向で疑似体験。そこで、世界三大珍味であるキャビア、フォアグラ、トリュフを用意。
さらに、6種類の高級チーズを準備して疑似体験開始。

件のビール缶も写っているが、これは空缶で中身はない。
新井さんは顔は笑っているが、心なしか引きつっているようにも見える。それはそうだろう。いきなり取材を申し込んでバターとビールで疑似体験しろと無茶を言っているのだから。

記者も飲んだことがないので、ルールは皆無。
一般的なビールを飲む前にバターを食べてもらうとしか言いようがない。新井さんの五感に任せるしかない。

「うーん。ん?いや、近いですね。ちょっと感度の低い人にはわかりにくいかもしれませんが、少しだけバターを舌にのせて、溶け始めたくらいのタイミングで
ビールを飲んで、鼻から抜ける香りがそれに近いですね」

ということは、一般的なビールでも感度が高ければなんとか疑似体験はできそうな感触だ。

であれば、バターにはパン。

いかがですか?
「このパン美味しいですね」

--いや、そうではなくて
「焼いてあるパンであれば合うと思いますけど、プレーンの食パンであれば普通のビールが合うと思います」

お次はチーズ。

「バターもチーズも同じ乳製品ですから合うと思いますよ。ただ、クセの強いチーズのほうがいいと思います。例えばブルーチーズのような特徴的なチーズにはぴったりだと思いますね。このビールはキレよりも味と香りのほうが特徴的なんです」

「キャビアはこのままですと、塩味がきつくて合わないですね。フォアグラは何とも言えません。焼いてソテーにすれば合うかもしれません。この中で一番合うと思うのはトリュフです。やはりクセのあるモノのほうが合う感じがします」

高いビールだからと言って、高いおつまみが合うというわけでもなさそうだ。クセのあるものがいいようだ。
ここまでは、一般的なビールとバターの組み合わせで行った疑似体験での話だ。最後に現物を飲んだ感想を聞いた。
「色は一般的なビールより少し濃いです。香りは全く違います。グラスに注いだ瞬間から違うのがわかるはずです。味は若干の酸味が感じられますが、酸っぱいという意味ではなくワインなんかでよく表現される酸味です」

13000円コースでも24本あるので、自分に合った特別なおつまみをゆっくりと見つけるのも楽しみの一つだろう。手の込んだ料理でなくてもクセのある山海の珍味を用意して至福のひとときを味わいたい。
もし、迷われたらバターを用意して疑似体験をして決断を下すのも楽しいかもしれない。

※クラウドファンディング詳細ページ
“失われた香り”を取り戻す、「最初で最後の異端のビール」へ挑戦します。
https://camp-fire.jp/projects/view/32793 [リンク]

※写真はすべて記者撮影

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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