「おもてなし」を差し置いてでも世界に伝えたい日本語とは?

  by 社会人ライター研修プログラム  Tags :  


日本語はつくづく便利である。ひとつの言葉で多くを表現でき、また、ひとつの事象を様々な言葉で表すこともできる世界に誇れる言語ではないだろうか。そんな我が国の言葉の海外輸出が盛んだ。「おもてなし」や「もったいない」など、海外メディアに取り上げられる言葉も出てきたが、筆者には是非輸出したい、推しメンならぬ、推し言(おしゲン)がある。

それは、The「Okinodoku (お気の毒)」

「お気の毒」との出会い

2005年夏、筆者は単身アメリカ留学へと飛び立ったのだが、乗継便の航空券を誤って購入し、Los Angeles到着時にはすでに乗継便が出発してしまっていたのである。16歳の小さな日本人が空港で立ち往生する様は、さながらターミナル in real life。ご存知ない方は、トム・ハンクス主演の映画『ターミナル』を是非ご覧いただきたい。

英語の苦手な少年にとって、マクドナルドでの注文なんて、初恋の告白よりもハードルが高い。お金もある、時間もある、ただ「チーズバーガープリーズ」の一言が出せないゆえに空腹に悩まされる、そんな自分を思い出すと、今でもふふっとなってしまう。ふふっ。

そんな中、大きなスーツケースとリュックを抱えた少年を不憫、いや不審に思ったのだろうか、空港職員が声をかけてくれた。彼の名はブランドン。

「Hi, little boy! Where are you from? 」

「No.」

最低な英語力である。今でもなぜ留学できたのか不思議でならない。

彼は親切に航空券手配を手伝ってくれた。なにより筆者の幼稚な英語、いや、もはや音の羅列でしかない何かを笑顔で聞き続け、出発までの約10時間を共に過ごしてくれたナイスガイである。応えるように筆者もちょっと大げさに笑ってみるが、基本的に何も理解していない。夕飯も勧められるがままにベーコンサラダという有様。その中、唯一聞き取れた言葉、それは。

「I’m very sorry.」

なぜ彼が謝るのだろう? そればかりか、彼が連れて行ってくれたフードコートの店員、航空会社のお姉さん、彼が事情を話すと皆そろって「I’m very sorry」。筆者、自己嫌悪待ったなしである。繰り返すが、悪いのは航空券を誤って購入した筆者なのだ。

なぜ? その答えは忘れた頃に唐突に

2013年、社会人2年目の春。定期入れ紛失、パソコンの全データ消失、先輩の怒号、終電を逃して会社で就寝、そして始発の切符紛失、という不幸てんこ盛りな肌寒い小雨の日だった。憔悴しきった筆者にかけられた駅員さんの言葉が、眠っていた過去を呼び覚ます。

「気の毒なんでそのまま改札出ていいですよ。気の毒なんで……」

そう、これである。8年前の「I’m verry sorry」が鮮やかに蘇った。それは、決して「ごめん」ではなかった。ブランドンたちはまさに「お気の毒」と言っていたのだ。

改めて言おう。日本語は素晴らしい。

相手の境遇や気持ちすべてを察し、たった一言で包み込める言葉、「お気の毒」。誠意はあるが、仰々しさはなく、厳かでいてさっぱりしている、日本が生み出した究極の表現。まさに世界へ輸出すべき日本語ではなかろうか。「ごめん」と「お気の毒」をまとめて「I’m sorry」と言ってしまうなんて、それこそMottainai。

何? 「I’m regret……」という適切な言い方が英語にもある? ……そう思った諸君には猛省を促す。一言で容易に発声できることがキモなのだ。分かるだろう? 近い未来、世界を席巻することを願ってやまない。

そして、本記事を目にした外国人は、大人にもなってアホみたいなことをつらつら綴っている筆者の姿を思い浮かべ、その心中を案じてつぶやくのかもしれない。

「Ah…Okinodokuね」

そんな日が来るとしたら、100点満点です、と拍手を送ろう。

執筆:ヘルメットぼうや

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