怪しいネットワークビジネスを追え! ~3

  by mexicona  Tags :  

全国各地で「副業でがっり稼ぐ」「ネットビジネスで経済的自由を手に入れる」といった事をテーマにしたビジネスセミナーと称するものを開催し、ネットワークビジネスの手法で盛んに勧誘活動を行っているNtBカレッジ(仮称)という団体があります。
その活動実態は「ネットビジネスで稼ぐことを教える」というものを商品とした連鎖販売取引を行っているわけですが、前回指摘した商品そのものの問題点の他にも、法的に様々な部分で問題がある様です。今回は少し法律を絡めながらその実態を見ていきましょう。
 
 
NtBカレッジの規模は?
  
NtBカレッジは会員数の推移を一般には公表していませんので、その規模を考えようとすると様々な資料から類推するしかありません。
 
まず目につくのが配布していた月刊の対談レポートです。その中で2015年2月のプレオープンの時点で既に約800人の会員がいた話が代表のS氏の言葉として語られています。また、かつて公開されていた公式サイトの”よくあるご質問”のページによると「平成27年6月末の時点で会員数は約3,000人となっており、年内には1万人の会員登録数を見込んでおります」とありました。
20015年8月29日のグランドオープン時には会員数について約4,200名というアナウンスがあります。その後は会員数の増加は頭打ちになったようで、2016年の2月にS氏が複数の場所で行った求人依頼には「現在、会員数は5,000名を超え」という表現を見つけることが出来ます。
 
これらの数字を信じて入会金と各月の登録人数から計算してみると、NtBカレッジは2015年の2月から2016年の7月までの間で少なくとも12億円程度のお金を集めていることになります。もちろんこれは低く見積もった場合で、新規入会と入れ替わりで退会した人の数は考慮していません。『入会金』は『月謝』よりも高額に設定されているので、辞めた人が多ければさらに多くのお金を集めていることになるはずです。
※2016年の2月から5,000人を維持している場合。
  
 
  
NtBカレッジの問題
  
NtBカレッジが行っている連鎖販売取引は、購入者が販売員となって新たな人を勧誘して行く販売方法で『特定商取引法』において厳しくその活動の規制を受けています。
実際に勧誘を受けて、事業説明会といった名目のセミナーなどに参加した人の中にはNtBカレッジの事業内容に対して「違法では無いのか?」と怪しむ方も多く、そうした人に対して勧誘者側は「一言一句弁護士を雇って法的チェックをしている」といった言葉で合法性をアピールしているケースが見受けられます。また代表であるS氏も2016年の1月に自身のフェイスブックにこうした投稿を行っています。

サイトの表記は全て専門の弁護士にチェックを依頼し、また社内でもコンプライアンスを重視して運営を行っています。

  
※ちなみに2015年の2月からスタートしたNtBカレッジの公式サイトに、顧問弁護士の記載が登場するのは2015年の11月に入ってからになります。
 
しかし本当にコンプライアンスを重視して弁護士による十分なチェックを行っているのかという点には、いささか疑問があります。今回は書面と中心に具体的な問題点を指摘していきます。
 
 
 
怪しい概要書面
  
『ネットワークビジネス』を行おうとすると、『特定商取引法』の37条において契約の前に連鎖販売業の概要を記載した『概要書面』というものを消費者に渡さなくてはならない事が定められています。とりあえず形だけ渡せば良いというものでは無くて、その記載内容に関しても主務省令で定めるところにより書かなくてはならない内容が指定されています。
※37条の「主務省令で定めるところ」に該当するのが省令第28条第1項になります。
 
具体的に連鎖販売取引で扱う”商品”に関して『概要書面』に記載しなければならないと定められている項目の部分を抜きだしてみましょう。
 

3.商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する重要な事項)
4.商品名
5.商品の販売価格、引渡時期および方法そのほかの販売条件に関する重要な事項(権利の販売条件、役務の提供条件に関する重要な事項)

 
『ネットワークビジネス』を行う際には、『概要書面』にこういった事柄の記載が必要なわけですが、NtBカレッジが2016年の5月ごろまで使っていた『概要書面』を見ると、驚くことに商品名として『入会金』と『月謝』という記載の他、その”金額”と獲得できる”ポイント”しか書いてありません。

 

 
まず法律で必要と定められている”商品の種類”、”性能”、”品質”に関する記載が無い点が大きな問題です。
また”商品名”というのも「他の者の販売する商品と区別するために用いる名称」である必要がありますから、『入会金』や『月謝』という一般名詞を概要書面に”商品名”として記載するのも問題がありそうです。
さらに付け加えると、取り扱う商品がインターネットを活用した『ネットビジネス』に関するものですので”役務の提供条件”として通信環境等に関する記述はあった方が良いかもしれません。
 
さらに、この書類をじっくりと見ていくと『概要書面』としても奇妙な点が幾つかあることに気がつきます。その一つが”その他”の項目としてある以下のような記載です。

本規約は、2015年1月1日より実施するものとします。本契約、本規約に関して訴訟等の必要が生じた場合は、東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とします。

2016年3月1日改定

 
そもそも『概要書面』は事業の内容を説明するためのもので、契約書ではありませんので「本規約は、」と言う記載は少し奇妙な気がします。しかしそれよりも気になるのが「2016年3月1日改定」されたものを元にして、1年以上前の「2015年1月1日より実施する」としている点です。
NtBカレッジのスタートは2015年2月からです。こういった書面ですと改定日以降の実施が一般的になると思いますので、単なる誤字の可能性も考えなくてはなりません。ただ、この2016年の3月の改訂の版は3回目の改訂であり、度重なる改訂を経て「2015年1月1日より実施する」という誤字が1年以上放置されている状況というのは普通の会社では考えにくいと言えるでしょう。

仮に誤字で無いとすると、遡及契約(契約の効力を遡って有効にさせる)をやろうとしている事になりそうです。しかしこれだと、また別の問題が出てきます。NtBカレッジは2015年11月に入会金をそれまでの54,000円から64,800円へと値上げを行っていますので、この『概要書面』に沿った契約が有効になっているとすれば、従来の会員に対して入会金の差額分の追加徴収の話が出てきてしまうのです。
 
実際には追加徴収があったという話は確認する事が出来ませんでした。実は以前NtBカレッジは「2015年8月のグランドオープンの後には129,600円に値上げする」というアナウンスを行っており(実際の所は、値上げの時期はずれ込み値上げ幅も縮小されました)、勧誘者が「今のうちに入会した方がお得だ」という事を言って盛んに勧誘を行っていた経緯があります。ですからたとえ1万円であったとしても追加で徴収を行うのは無理だと判断したのかもしれません。ただ出来もしない話なのに、どうしてわざわざそんな問題になりそうな日付を入れたままにしているのかという点で疑問は残ります。

この日付はお金に影響する重要な部分ですから、普通はチェックにチェックを重ねるべき所なのです。仮に誤字のまま運用し続けていたとすると、信じられない位に”いい加減に運営していた”という実態が明らかになります。逆に誤字で無ければないで、契約上ややこしい話が発生してしまうわけですから、いずれにしろ「一言一句弁護士のチェックを受けている」という話には疑いが出てきます。
  
 
 
概要書面の正体を考える
 
さらに細かい所を見ていくと、他にもおかしな点を見つけることが出来ます。2015年11月に改訂された版(2016年3月まで使用)を見てみると、新規の勧誘実績や、配下のピラミッド状の組織を構成する人数によって得られる報酬の部分の”マーケティングプラン”の説明に奇妙な点があります。配下にいる現役会員の数を計算する”アクティブ(アクト)”の条件として、こういう記載があります。
 

契約が締結していること。
当月100pt以上の自己購入実績があること。

 
 
NtBカレッジには100ptの入学金と100ptの月謝しかありませんから、”100pt以上の自己購入実績”というのは不自然です。確かに”自己購入実績”という言葉は、化粧品や健康食品などを扱う『ネットワークビジネス』の『概要書面』ではよく目にする言葉かもしれませんが、『月謝』を取って「ネットビジネスで稼ぐ方法を教える」というNtBカレッジのビジネススキームとはそぐわないものです。
 
ボーナスの種類の説明でも、”新規紹介手数料”に関してその計算対象が”新規登録時の商品”という記載があります。さらに「直接紹介した会員が、対象商品を購入すると10,000円の新規紹介手数料を取得する事が出来ます」と書いてあります。新規登録時の商品と言ってもNtBカレッジの場合は『入会金』だけです。新規入会かどうかの話に、こういう書き方をするのは不自然です。
また”ベースコミッション”の計算対象などにも”ポイントのついている商品すべて。”という説明が見られます。商品と言ってもNtBカレッジの場合は『入会金』と『月謝』しかありませんから、これも不自然なものを感じます。
どうも全く別の『ネットワークビジネス』のビジネスモデルを説明した『概要書面』をベースに適当に”コピペをしただけ”のように思えます。

 
『概要書面』は連鎖販売取引ビジネスを行う上で基本中の基本となるもので、その不備は行政処分の理由の一つになる場合もある位に重要なものです。
少し調べれば、こうした連鎖販売取引に関する法定書面を作成を手がけている行政書士などをいくつか見つける事が出来ると思いますが、どうやらNtBカレッジは、十分な知識も無いままに自分たちで他社の連鎖販売取引の『概要書面』を適当にコピぺして、内容の検討もろくにせずに一部だけを変更して1年以上使用し続けていた疑惑がぬぐえません。
少なくともNtBカレッジの言う「法律の専門家によるチェックを受けている」という主張をそのまま信じることは難しいと言えるでしょう。
 
※さすがに2016年5月に入り『概要書面』の大幅な修正がありました。修正版についての話は改めて取り上げます。
 
 
 
不自然ななWebの記載
 
もちろんNtBカレッジの場合、『概要書面』だけがおかしいというわではありません。
たとえば前回も少し指摘したのですが、公式サイトに用意されている”特定商取引法について”というページから気になる部分を一部を抜き出してみましょう。

商品の販売価格商品紹介ページをご参照ください。
商品代金以外の必要料金・商品の荷造り・配送料金
・代金引換便に伴う規定手数料
・振込手数料(銀行振込み決済の場合)
・お客様都合による商品返送時の配送料金
商品の引渡し時期通常1週間以内を目処にお送りいたします。
商品(役務)の種類入学金、月謝
取引に伴う特定負担に関する事項入学金64,800円(税込)、月謝16,200円(税込)
返品について商品は役務(サービス提供)となるため、返品対象となるものはありません。

 

まず「商品の販売価格」の部分ですが「商品紹介ページをご参照ください」と言われても、公式サイト内にその”商品紹介ページ”というものを見つけることが出来ません。かろうじて、この”特定商取引法について”というページに価格が記載されているだけです。
また「返品について」ですが「商品は役務(サービス提供)となるため、返品対象となるものはありません」としています。しかし、その前段には「・商品の荷造り・配送料金」や一週間以内に商品を送るという話が書かれています。送られた”商品”は返品する必要の無い類いの(例えば使い捨てのような)ものですとこうした記載もあり得るでしょうが、送られてくるのは”スターターキット”と称した教材DVDボックスだったようです。
 
実際に私は2015年の10月にNtBカレッジをクーリング・オフしようとしたAさん(仮名)からご相談を受けたのですが、Aさんによると、クーリング・オフに際してこのDVDボックスの返却を求められたとの事です。つまり、事実と異なる表記を行っているという事になります。
 
さらに、このページの変遷を調べていくと奇妙な事がわかります。
実はNtBカレッジの公式サイトにあるこのページは、2015年の8月頃までは「返品」に関して以下のような記載を行っていました。

返品についてご購入後、保証期間内にご連絡の上、商品をご返送頂ければご返金致します。
※保証期間等は商品ごとに異なります。

  
まず、複数の商品があるわけでは無いので「※保証期間等は商品ごとに異なります」というのは不自然なのですが、この「商品をご返送頂ければご返金致します」という記載は、何故か2016年の8月頃から消えてしまいます。
この8月にはNtBカレッジの”グランドオープン”というのはありましたが、概要書面などの更新状況を見る限り商品内容の根本的な変更があった訳では無いようです。また”商品の荷造り・配送料金”の話は残ったままの事から考えると、どうも”返品”による”返金”の話の部分を無かった事にしたいという意図の元、実際には行っている返品の話を意図的に消した疑惑が出てきます。
このこのとは虚偽の記載によるクーリング・オフの妨害を意図しているのではないかという懸念にもつながっていきます。
  
少し視野を広げて調査を行うと、Yahoo知恵袋などの質問サイトでNtBカレッジについてのクーリングオフに関する質問があった際に、この公式サイトの記載を元にして「クーリング・オフは難しい」という回答がなされているケースを幾つか見つけることが出来ました。
確かにNtBカレッジが用意している”特定商取引法について”というページには連鎖販売取引を行っている旨は書かれておらず、一見、普通の通信販売を行っている所の様に見えます。連鎖販売取引の場合はクーリング・オフの期間が設定されていますが、消費者が自ら商品を探し買い求める形の通信販売ではクーリング・オフの制度はありませんから、アドバイスを求められた第三者が公式サイトのこの記載に基づいて判断すると「クーリング・オフや返品は難しい」という実情からズレた回答になってしまうのも無理も無いことです。ネットの掲示板や質問サイトなどでは、事情を知っている方からの指摘が入る余地がありますが直接個人的に相談を受けた場合などは、事情にそぐわない回答のままになる可能性があります。
少なくとも事実として、ネット上の回答事例が発生していますので、事実上「偽の記載によるクーリング・オフの妨害」になっている状態にあるという点は指摘できるでしょう。(このことは、クーリング・オフ期間の延長の可能性につながっていきます)
  
当然NtBカレッジは、会員から直接クーリング・オフに関して聞かれた時には、会社としてきちんとした回答をしなくてはならず、申し出かあれば適切な対応をしなくてはならない立場です。しかし公式サイトなど、誰にでも見られる所に具体的な活動内容の掲載を避けている状況などを踏まえて考えると、外部にいる第三者からの適切なアドバイスをなるだけ排除しようとしている姿勢があるように思えます。

もちろんクーリング・オフに関しては『概要書面』の記載や、本来なら勧誘時にも説明がなされているはずです。しかし今回指摘してきた法定書面にある大きな問題点や奇妙な部分を考えると、契約書などの書面を注意深く読む人は、その時点で色々と怪しいと気がつくはずですから、それでも契約に至ったという人は、きちんと理解した上で申し込んでいるのか疑問です。
例えば経験の浅い未成年であったり、契約書などを注意深く読まない人、あるいは強引な勧誘で十分な説明を受けていないまま契約に進んだ人がいるかもしれません。たとえ勧誘者が懸命に説明したとしても、”ネットビジネスで得られた成果の話”や”魅力的な報酬プラン”に気を取られてクーリング・オフなどに関する説明は聞き流しただけで、十分に理解しきれていないまま契約に誘導された可能性があります。
 
 
いずれにしろ、こうした点を考えていくと「サイトの表記は全て専門の弁護士にチェックを依頼」して「コンプライアンスを重視」しているという代表のS氏の言葉そのものに疑問が浮かび上がってきます。特にS氏の言葉がNtBカレッジの勧誘に使われている現状などを考えると、お金の動きに直結しているわけですから、そうした言葉が虚偽であった場合には大きな問題となる可能性が出てきます。
 
 
 
NtBカレッジの実態
 
NtBカレッジは、一応ビジネススクールという事になっているようですが、『概要書面』一つを取り上げても、驚くほどいい加減な実態が浮かび上がってきます。
しかし、どうしてこんないい加減な実態で、わずか1年半ほどの間に5000人以上もの会員と10億円を超える規模のお金を集めることが出来たのでしょうか?そこには『ネットビジネス』の甘い誘惑や、『連鎖販売取引』特有の勧誘方法や、会員の管理術、マインドコントロールに類する手法の存在などが見え隠れしています。

一般的に、”夢”や”成功”といったものを強調する一方で、ごく常識的な指摘を「ネガティブな情報だ」としてシャットアウトし、誤魔化すために用意された”都合の良い説明”を信じ込んでしまった人たちが積極的に勧誘を行うことで『ネットワークビジネス』の組織は急速に成長していきます。
 
また勧誘などに際して、不正や嘘、誤魔化しやオーバーな演出、あるいは都合の悪いことを隠したりする事などを「些細なこと」と軽視するような価値観の植え付けを行っているとすれば問題です。価値観を組み替えられた勧誘者は、頭から「自分は誠実なビジネスをしている」「許される範囲の巧言令色である」と思い込んで、積極的におかしな活動に関与して深みにはまっていくことになります。
 
もちろん一般社会では、NtBカレッジの様なおかしなビジネスはそうそう通用するものではありません。匿名で内部告発をされている方の投稿などを見てみると、やはり退会率は非常に高いそうです。こうした匿名の話をどの程度信用すべきかという問題はありますが、NtBカレッジは全国規模で盛んに勧誘活動を行っている割には、昨年の夏以降からは会員数の増加がそれほどは無いようですので、入会後すぐに退会している人が非常に多い可能性があります。
 
仮に新規入会の報奨金が目当てのリクルートが常態化しているとすると、NtBカレッジは入会金を取り込み既存の会員に分配する一方で、指導している『ネットビジネス』で成果が出ないことに対しては「自己責任である」と新規入会を突き放し、すぐに退会させてしまう形で組織が回っている懸念があります。

恐ろしいことですが価値観を組み替えられるようなマインドコントロールが行われている場合、こうした悪徳ビジネスの実態があったとしても、それを肯定してしまう事が珍しくありません。騙されている被害者の事は目に入らず、自分が利益を享受している集団の一員であるかの様に思い込み、一部の集団に吸い上げられる利益を作り上げていくことが自己の成功だと錯覚してしまうことも珍しくはありません。
 
もしNtBカレッジの中に、そうした状況が生まれているとすると、これは非常に問題があると言えるでしょう。
 
 
続きます。
 
 
※本稿では現時点で正式な名称を記載する予定はありませんが『NtBカレッジ』は2016年7月現在も活動中です。読者の皆様には賢明なご判断をして頂ければ幸いです。
 
 
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