ゲームプログラマが語る「プロ棋士に勝ったAIは、タクシー基本無料化をもたらす?」

  by Izumisawa  Tags :  

人工知能、所謂「AI」による囲碁ソフト『AlphaGo』と、世界トップ級プロ棋士との対戦の結果、AIが勝ち越すというセンセーショナルなニュースが飛び込んできた。

囲碁や将棋といった、ランダム要素の無い純然たる思考ゲームにおいては、理論的にはどんなゲームでも、コンピューターによる完全解析が可能とされている。
オセロにおいては盤面6×6まではそれが成されており、最適手を打ち続ければ後手必勝となる事が数学的に証明されているし、
一定条件下における五目並べならば先手必勝となり、はさみ将棋ならば必ず千日手となるなど、様々なゲームにおいて解析は進められている。

囲碁や将棋といった盤面やルールの複雑なゲームにおいては、今現在完全解析は成されていないが、これは単純に計算能力の問題だ。そう遠くはない将来、コンピューターの性能向上に伴い、いずれはこれらも達成されるだろう。
コンピューターと人間が戦う事は既に、知的スポーツという観点のみにおいて言えば、意味を成さない時代へ突入していると言えるかもしれない。

AIの進歩

しかしながら、これらのニュースから学ぶべき事は、そう単純な話ではない。

本対局最中、AIは、解説者にも説明の付けられない手を打つことが、幾度となく在った。それら打ち筋の意味はどれも、数十手先になって判明する。
こうした局面を幾つも経て、結果的には世界トップクラスの棋士を打ち負かしたわけだが、
この事より、現時点のテクノロジーにおいて既に、AIには、人間には見えないものが見えているという事が読み取れる。

まるで、SFの中の出来事だろうと揶揄されていた「テクノロジカル・シンギュラリティ」。所謂「技術的特異点」。
つまり、人工知能等の能力が人類を超えるというラインを指す言葉だが、それはもう目前に迫っているのだ。

そもそもAIとは?

こうしたAI技術を構成するテクノロジーは、一般的に、“ディープラーニング”等と称される。
“ビッグデータ”“ニューラルネットワーク”を組み合わせたこの技術、詳細は種々丁寧に解説されたサイトへ譲るが、古くより脳や視覚野に関する研究より生まれた、コンピューターによる深層学習テクノロジーの総称だ。

例えば、手書きで書いた数字を認識する、という場面を例に挙げてみよう。
落書きのように書いた数字の「9」をカメラで撮影し、それが「9」であるとコンピューターが認識するにはどうすれば良いだろう。

「上の方にあるあの丸みは2かもしれないし3か8か9か0かも」
「下の方にある、右から左へにゅるんとしたあのカーブを合わせると3か9か?」

と、勿論、こんな事が行われているわけでは無い。
数字の「9」ならばこれで上手くいくかもしれなが、では、「猫とトラを区別しよう」等とした場合は、こんな手法ではお手上げだ。

ディープラーニングの行っている事は、実装としては意外とシンプルだ。
誤解を承知でものすごくシンプルに表現するならば、「0」から「9」までの、手書きなどで描かれた無数の画像を事前に全部解析しておく。
その数、数億枚とかそういうオーダーだ。

そうした大量の「0」~「9」という画像から、その特徴を数学的に蓄積していく行為をディープラーニングと呼び、今、目の前にある画像が数字の何なのか比較する為に利用される。
サンプルが多ければ多いほど、正解率が上がっていくという仕組みだ。

余談だが、こうした大量のデータを扱う為には、インターネットという媒体は大変親和性が高い。沢山の画像はネットの海で文字通り無数に手に入る。だからこそ、インターネット界の覇者『Google』は、こうしたAI技術にも強いと言えよう。

尚、『iPhone』等に搭載されている『Siri』や、各社のそうした音声対話インターフェイス等も、まさにこうした技術の上へ形成されている。

車の自動運転へ

こうしたディープラーニングは更に、自動車の自動運転技術にも利用されている。自動運転される目の前に展開される風景は常に画像解析され、運転行動の決定に利用されている。これはまさに、ディープラーニングの基本的な応用だ。
一般の方には馴染みが薄いかもしれないが、我々技術者にとってみれば、自動運転が未だ完全実用化されていない事の方が不思議に感じられるレベルで、これらの技術は既に充分に昇華されている。

車に搭載された沢山のカメラによるリアルタイム光学画像解析、車体に搭載される各種センサーから得られる速度・姿勢等の情報、GPS情報、道路情報、各信号機が発信する周辺情報。
また、近くの車体同士が通信を行い相互の情報を補填し、インターネットを経由しビッグデータセンターへ接続し包括データの取得する。
挙げていけばキリが無いが、様々なデータはどれも既に実用段階であり、課題は法的整備等を含めた運用上の問題だけだ。

10年後、何が起こる?

では、近い将来。我々の生活には一体どんなイノベーションが起こるのだろう。
まず、おそらくは10年先といったオーダーで、街中には自動運転車が溢れている事だろう。
走行中の車、その運転席の人物がぐっすりと眠っていたり、映画を見ながら食事をしているなんていう光景は当たり前になっている筈だ。
繰り返すが、それは、10年後だとかそういうレベルであると筆者は確信している。

しかし、自動運転には“ラスト・ワンマイル問題”が残っている。
ある程度の広さを持った道路や、高速道路ならば、近い将来全て自動運転可能となるであろうが、
例えば、現在でも『Google』社のサービス、『グーグルストリートビュー』が入り込む事が出来ていない様な小さな道や、田んぼのあぜ道、山の中の獣道の様なところまで網羅していく事は、技術的難易度が相当に高い。
ある程度までは自動運転出来るが、「その超狭い道を曲がって、ちょっと行ったトコが我が家。あとめっちゃ狭いけど車庫入れもしてほしい」という”最後の100メートル”つまり”ラスト・ワンマイル”に関しては、流石に10年やそこらでは解決する事が難し課題だ。

タクシー

この事から、自動運転におけるイノベーションは、タクシーから始まるのではないかと、筆者個人は確信している。

2026年の今頃、きっと”日本”の街中においても、まるで自宅の中を自動で掃除している『アイロボット』社の製品『ルンバ』の様に、沢山の”無人の自動運転タクシー”が徘徊している事だろう。

手を挙げれば、タクシーのAIはそれを画像認識し、目の前に停車してくれるだろう。
乗り込んで目的地を告げれば、背面モニターへ確認ダイアログが表示されるだろう。
スマホやクレジットカードをかざすことで支払いに紐付き、車は自動運転で目的地を目指すだろう。

完全電気自動車であるこのタクシーは、電力が減ってくれば、各所に設置されたチャージセンターへ自走し、自動でコネクタへ接続し、自動充電するだろう。
人件費が全くかからず、しかも24時間365日延々と無休で働くこのタクシーは(厳密には定期メンテナンスがあるだろうが)、タクシー業界という産業そのものをイノベーションするであろう。

更に、この業界はかなりの短期間にてレッドオーシャン化し、各タクシー会社による企業競争が激化していく事だろう。
乗り心地や社内サービスが向上し、安全度は更に増し、料金は目を見張る様な速度でディスカウントされていくだろう。

そして、現在のスマートフォンゲームやその他のサービスが辿ってきた様に、ディスカウントされ続ける料金はやがて臨界点を迎え、とうとうフリーミアムモデル時代がタクシーにもやってくる。

これが、“タクシーの基本無料化”だ。
乗客は、乗り込んだタクシー内で数々の広告を見る事になるだろう。
気に入った商品があれば、タッチする事でその場で購入可能だ。

疲れている客は、有料の「広告カット+リラクゼーションBGM再生オプション」を購入するかもしれない。100円程度が相場だろうか?

長距離移動の客は、有料の「映画鑑賞オプション」を購入するかもしれない。500円程度にて一本見る事が出来、映画の途中で目的地へ到着した場合は、その事がスマホからセンターへ記録され、次回搭乗時や、自宅から、無料で続きを鑑賞出来るかもしれない。

そんな、荒唐無稽な未来がやってくる筈がない?

20年前の貴方は、殆ど全てのゲームが無料化され、ICカード一枚でどんなバスにも電車にも乗れ、掃除機が自分で掃除する事を想像出来ただろうか?

イノベーションが開花する直前の姿とはいつの時代も、突拍子もない空想めいて見えるものだ。
なんとも、楽しみな時代がやってきた。

画像:『無料画像 Mode&Fashion』 より
http://free-gazo.com/12103

本業はPS4やスマートフォン等の次世代機ゲームプログラマ。 平行し、趣味のゲームアプリを沢山制作しています。

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