ガザ危機から約2年―「ガザ人道財団(GHF)」配給で狙い撃ちされる「死の罠」を止めよ

  by tomokihidachi  Tags :  

[©️CNN <ガザ人道財団(GHF)の配給所から救援物資を運ぶ人々=6月8日、パレスチナ自治区ガザ地区中部/Eyad Baba/AFP/Getty Images>]

 2025年10月7日でガザ危機から約2年が経った。
ガザの「保健省」によるとこれまでに6万7000人以上が命を奪われ、その内2万人以上は子どもだという。ハマスの拠点だとして38ヶ所の病院が攻撃を受けるなど医療従事者約1700人も死亡している。犠牲者数拡大の主たる原因は燃料、食糧、水、医療物資などが危機的に足りない状況に物資搬入を意図的に遮断されていることにある。

[筆者撮影]
「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)」に対する執拗な法的・制度的な攻撃が止まず、国際職員も中に入れず東エルサレムの学校も閉鎖してしまった。ヨルダン川西岸(東エルサレムを含む)にあるUNRWAの倉庫には3ヶ月市民を養える小麦粉と6ヶ月分の医薬品があるが、飢饉にもすぐに対応できるものが100km先に貯蔵されていてもガザからアンマンは100kmの距離なのに、移動手段が絶たれて通常の倍も時間がかかるので様々なパートナーに物資支援の協力を呼びかけてきた。「UNRWAなくして教育支援や外来治療などの人道支援はならず、他に代わるものはない。今、起きている『飢饉』は止められるので、一刻も早く止めてほしい」と訴えるUNRWAの清田明宏保健局長は次のように指摘した。

「今のガザ戦争の一番の特徴は人道支援が兵器として使われていて人々の命を代償にして物資のやり取りを決める姑息なやり方で戦争が続いていることだ」

 今まで400箇所あった人道物資の配給場所を4つに絞っている。そこで配給を取りに来た一般の人々が狙い撃ちにされていたり、人道援助のやり方に反した行動が横行しているのだ。
例えば「ガザ人道財団(GHF)」は国連によれば5月下旬に設立されて以来、配給で毎回パレスチナ人が殺傷されており、少なくとも1400人以上が殺害され、4,000人以上が負傷している。配給場所の近くにあった「国境なき医師団(MSF)」の診療所2箇所には28人の死者を含む1380人の負傷者が運ばれた。その内、銃創を負った子どもが71人、MSFも同僚を一人失った。
 食料配給場所にいたある患者は「主な配給場所はいずれもイスラエル軍の完全な支配下にある4箇所。人々が避難させられた跡地であり、サッカー場ほどの広さが、監視所、土塁、有刺鉄線に囲まれ、出入り口は1つしかない。GHFの作業員はバレットや食糧の入った荷を降ろしてから、フェンスを開け、何千人もが食糧に殺到する配給のアナウンスから終了までわずか10分。完全な修羅場である」と惨状を語る。
また「アル・マワシ保健センター」コミュニティメンバーのハニ・アブ・スード氏は
「多くの人が直接撃たれていました。これは援助ではない。死の罠だ。彼らは私たちを一人ずつ殺そうとしていた。私たちは飢えていて、子どもたちを食べさせるだけで精一杯です。他に何ができますか?」と証言している。
「国境なき医師団(MSF)日本」アドボカシー/メディカル・アフェアーズ/緊急対応部門ディレクターの末藤千翔氏は「MSFはGHFによる配給制度の即時中止を求めると共に、国連の調整による物資配給メカニズムの回復を求める」と強く訴えた。

[筆者撮影]

 緊急を要する患者をガザ地区外に「医療搬送」させることも重要な緊急課題の一つだ。
重症外傷のほか、先天性疾患、心疾患、腎不全、がん、その他の慢性疾患の患者も必要な医療が受けられないまま、命の危機に直面している。その中には食糧の枯渇による栄養失調で治療が困難になる人たちもいる。
医療搬送が必要な患者の待機数は2025年8月時点で約15,600人に上る。その内、25%が子どもで、少なくとも740人が搬送を待つ間に死亡している。
 「世界保健機関(WHO)」によれば「(患者の)受け入れ先が決まれば9割以上はイスラエルから許可が出る」との内情もある。
 それでも末藤氏は「イスラエル政府が域外への医療搬送を制限している」と問題提起し、「各国は一人でも多くの患者の受け入れに門戸を開く必要がある」ことに触れて次のように提言した。「安全でかつ基準が明確で公正な医療搬送システムを確立し、患者に家族合意の上で付き添いを認めることが重要だ。また患者と介護者の権利を尊重し、尊厳ある生活を送ることができる環境を整えること、治療後に安全で、自発的な尊厳ある帰還の権利を確保することが求められる」。

「パレスチナ国家承認」を巡る日本と国際社会の動向

 今年9月12日に国連総会はイスラエルとパレスチナの「二国家解決」の実現を目指す決議「ニューヨーク宣言(NY statement)」を142カ国の賛成多数で採択した。同宣言は同年7月にフランスとサウジアラビアの主催で国連本部において開催された国際会議の成果であり、次いで国連では9月22日にフランスのエマニュエル・マクロン大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が共催する形で「パレスチナ問題の平和的解決及び二国家解決実現のためのハイレベル国際会合」が開かれ国家承認を発表した。
実際にはサルマン氏は不参加でファイサル外相が代読したものの、約10カ国―フランス、イギリス、カナダ、オーストラリア、ベルギー、ルクセンブルク、モナコ、マルタ、ポルトガル、アンドラーが参加した。米国とイスラエルは棄権している。
 このハイレベル国際会合については岩谷毅外務大臣(石破前政権当時)から「『パレスチナの経済的自立性の分科会』を日本が担当していたので政府の財政状況に対する改善」を強く訴えた」とし、一貫して「『二国家解決』の前提が崩れかねない極めて深刻な状況にあることについても明言した」その上で「日本政府としては新しい決定はしない」と発表したが同様に「国際社会に対しても説明し、『二国家解決』をしっかりサポートする」と強く表明したと強調した。

 その翌日9 月23日には石破茂前首相(当時)が国連総会一般討論演説を行った。パレスチナ問題を提起した文脈から一部、抜粋する。

[©︎内閣府広報室]

「今般のイスラエル軍によるガザ市における地上作戦の拡大は、飢餓を含む既に深刻なガザ地区の人道危機を著しく悪化させるものであり、我が国として断じて容認できず、この上なく強い言葉で非難を致します。作戦の即時停止を求めます。イスラエル政府高官から、パレスチナの国家構想を全面的に否定するかのごとき発言が行われていることには、極めて強い憤りを覚えます。

(中略)我が日本国は、これまでもガザの傷病者の方々の日本での治療を始めとする人道支援を通じ、常にガザの人々の命と尊厳に寄り添い続けてまいりました。(中略)

 我が国にとり、パレスチナ国家承認は、『国家承認するか否か』ではなく、『いつ国家承認するか』の問題です。イスラエル政府による一方的行為の継続は、決して認めることはできません。『二国家解決』実現への道を閉ざすことになる更なる行動がとられる場合には、我が国として、新たな対応をとることになることを、ここに明確に申し述べておきます。最も重要なことは、パレスチナが持続可能な形で存在をし、イスラエルと共存することであり、我が国は、二国家解決というゴールに一歩でも近づくような現実的かつ積極的な役割を果たし続けてまいります。

(中略)パレスチナを国際社会の責任ある参画者として招き入れる以上、パレスチナ側も責任ある統治の体制を構築しなければなりません。9月12日の総会決議でも確認されたとおり、ハマスは人質をただちに解放し、武器をパレスチナ自治政府に引き渡すことを強く求めます。

 我が日本として、パレスチナの国づくり、すなわち、経済的自立と有効な統治の確立を強力に支えてまいります。我が国が支援して立ち上げたヨルダン川西岸地区のジェリコ農産加工団地では、現在、パレスチナ企業17社が300人以上の住民を雇用しており、オリーブを加工したサプリメント、食品や医薬品など、付加価値を高めた産品の輸出を行っています。経済的自立は確保していかねばなりません。」

 その同月25日に国連本部で行われた「パレスチナ支援調整委員会(Ad Hoc Liaison Committee :AHLC)閣僚級会合」ではさらに踏み込んだ具体的な議論が行われた。

[©︎外務省]

 日本とは2国間外交の面でも連携する国連の議長国でもあるノルウェー王国のエスパン・バット・アイデ外務大臣はじめ他国の閣僚らと共に、日本としてもパレスチナの財政問題に取り組んでいくことを訴えた。
 またニューヨークで刮目すべき動向が一つあった。同日、「パレスチナ自治政府(PA)の財政持続可能性のための緊急連合」が急拵えで立ち上げを発表したことだ。国連総会ハイレベルウィークの機会に12カ国の外相が共同声明を出し、日本も参加を表明したのだ。
 その内訳は日本、ベルギー、デンマーク、フランス、アイスランド、アイルランド、ノルウェー、サウジアラビア、スロベニア、スペイン、スイス、英国だ。
 この中でまだ「パレスチナ国家承認」をしていない国はスイス、デンマーク、ベルギー(条件付きの承認に限る)、日本。
 日本は「二国家解決」の会合と同様のラインだが、強い危機感を伝えつつ、「日本が行ってきた支援を新規の1千万ドルの拠出を決定した」と発表。また日本は「AHLC」で唯一のアジアからのメンバー国であり2025年7月にマレーシアで岩屋外務大臣(石破前政権時)が参加する形で「パレスチナ開発のための東アジア協力推進連合(CEAPAD)」も使いながら取り組む意向を示していた。

[©︎外務省]

 UNRWAの清田氏は前出の「財政持続可能性のための緊急連合」を刮目していた。道路封鎖や新たな検問で移動や生活が著しく制限されている。その中でもガザの現地に留まり必要な援助を届ける「寄り添い続けるUNRWA(Stay and Deliver)」を掲げて人道支援を続けてきた。             

「©️外務省/筆者撮影」

 UNRWAに対する政治的な信用は高いのだけれども、向こう6ヶ月、2億ドルの資金不足が続いている。厳しい活動制限の危険性、数百万人の命が危機に晒される教育・医療・食糧支援が停止する危機に直面している。UNRWAの職員は3万人弱いて、その半分しか給料が支払われていない状況。清田氏がUNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長の発言をスライドで紹介し「資金のないマンデートは無意味だ。マンデートがきちんと実際行われるべきUNRWAが崩壊すれば、せっかく起こってきた停戦の機運も低調に向かうかもしれない。それが中東をさらに不安定化させることになるかもしれずUNRWAを支える唯一の道は資金だ」と代読して窮状を訴えた。

ガザ紛争終結のための「20項目の和平案」の行方

 一方、9月29日に「米・イスラエル首脳会談」において「ガザ紛争終結のための包括的計画」いわゆる「20項目計画」が協議された。それを順番に1から着手していくと「二国家解決」に辿り着くという包括的な和平案になる。

[©︎トランプ政権「ガザ紛争終結のための包括的計画」 20項目の全文訳<朝日新聞>]

 9月23日に米国のドナルド・トランプ大統領がサウジやカタール、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、トルコ、インドネシア、パキスタンというアラブの国、ムスリムの国の首脳を集めて最初に議題に乗せたら同諸国から支持を得た経緯があり、同月29日にワシントンでトランプ氏とイスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が会談し、この和平案を議題に乗せたところ、ネタニヤフ氏からも「これでいい」という運びになった。
 周辺諸国も含め日本も「歓迎する」との声明を官房長官からも発言があった。「日本としても「人道状況の改善、停戦、人質解放、イスラエルの一方的な行為の停止」などを実現する上で『二国家解決』に向けた重要な一歩だ」と言うことで日本としてはこれを高く評価し発表したが、『パレスチナ自治政府(PA)』も歓迎するなど基本的に国際社会全体から幅広い支持を得ている。

 外務省中東アフリカ局の武田善憲中東第一課長はこうした情勢を先読みする。

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「72時間以内に48人の人質を全員解放する(48人のうち生存していると言われている人は20名。あと28名はもう死亡しているのではないか)これが行われると両者が受け入れた段階で『停戦』はそこから始まる。」と、どのタイミングなのかは解釈できる立場にないが…と前置きして「イスラエル軍が必要なラインまで下がる。人質が解放される。次にパレスチナ人の捕虜とか囚人が何人かは解放される。そしてフェーズが同時進行で進んでいる人道支援が再開される、というような形で進んでいくことが想定されている。もし上手くいけば、人道支援もラファ検問所から入ることになるし、一定度の人道状況の改善も見込まれるだろうと考えられ、日本政府としても『重要な一歩』として歓迎できると表明している」との流れを説明した。さらに武田氏は「20項目」和平案を読み進めていくと「重要なのはガザは、あくまで『十分に苦しんできたガザ住民のためのもの』だと明示している。ガザの住民に強制的な退去はしない。その後ガザにそうした専門家の人たちが政治的に何か委員会のようなものを立ち上げて統治をする。そこにはハマスに役割はない。」との断言を踏まえて「イスラエルはガザを占領、併合したりしない。パレスチナの方も改革を進めればいずれPAが統治の方に関わっていく。それがずっと進んでいくことで『二国家解決』に向けた条件が整い道筋ができてくる」と国際社会の多くの政府と共有できるはずだと認めた。

イスラエルが更なる蛮行に及んだら日本政府は「パレスチナ国家承認」の基準を策定せよ

[筆者撮影]

 他方、2025年10月1日に「超党派 人道外交議員連盟」第15回総会が開かれた。
「れいわ新選組」の伊勢崎賢治参議院議員が、かねてから公約に掲げていた「パレスチナ国家承認」の日本政府が見せてきた動向についてコメントした。
「石破茂首相(当時)は長い(国連)一般演説の中のパレスチナの文脈で、まず最初にイスラエルに対する糾弾から始まっている。『(ここに触れた)そういう表現でのスタンスを担保しますので許してほしい』と。本当は僕は無条件でパレスチナ国家承認して欲しかったけど、それは飲んだわけです。それでまず、イスラエルの国家非難を言葉を尽くして非難して、なおかつそれでも『今はできない』と。イスラエルがもっと酷いことをやったら、次の段階にいったら、絶対に新しいメージャーをするということは『国家承認をする』こと。『パレスチナ自治政府(PA)』の自己改革をもたらす国づくりのこと。だから岩屋外務相(前石破政権時)の発言と石破氏(首相当時)が言ったこととは違うんです。」と強調した上で、今着手すべきこととして伊勢崎氏は次のように提言した。
 「まず、日本政府としてはイスラエルがやっていることに言葉を尽くし難いほどの糾弾をし、責めることを前提にイスラエルがもし、もっと酷いことをやったら絶対に国家承認する。ここで自動的に外務省としては何がその基準になるのか?イスラエルの酷いことがまた次の段階にきて、日本政府がやむを得ず、もう国家承認しなくてはならない段階での基準は何なのか?これは国家として新たな指針を我々(国会議員)は出さなければならない。それは多分、1週間、2週間でやらなければいけない」と意欲を滲ませた。
 また伊勢崎氏はトランプ氏が示した「20ポイントの和平案」について強く批判した。
「僕はこれほど暴力的な和平案を見たことがない。大変暴力的です。でもそれしか停戦の域を出ないものはない。あえて公にしないでおこうと思うけれど、『20ポイント』あれをもし、やる段階になったとしたら…イスラエルがもし、さらなる酷いことをしてしまったら…日本政府としては自動的に『国家承認する』という基準を作って発表してください。」
 結語として「せっかく石破前首相(当時)が国連総会で演説した発言内容も岩屋氏(前石破政権時)の各会合での発言内容も2日後にはそれを踏まえて内容を変えた、それを活かした意味がなくなってしまう。僕から見たら100点満点中、本当は50点もいかない。無条件でやるべきだ。だけれども、すでに発言してしまったんだから基準を作ってイスラエルをオブザーブしてください」と、自身が参議院議員選挙の街頭演説で「当選したら万歳なんて言いませんよ。そんな状況ではない。もう当選したその日からパレスチナ国家承認に向けてすぐに着手します」と力強く宣言した公約を議員になった伊勢崎氏は着実に実行に移していた。

 日本初の女性首相、高市早苗現政権誕生により茂木敏充氏が新たな外務大臣として入閣の人事を固める意向で、外交経験が少ない高市氏のデメリットを補えるか、ガザ危機を巡る安全保障と外交政策がしっかりと引き継がれるのか注視していく必要がありそうだ。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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