ウェス・アンダーソンすぎる風景展でエモかわいい写真を満喫(辛酸なめ子)

  by 辛酸なめ子  Tags :  

GWは家にいるかユニクロをブラブラするかでいつの間にか終わっていた……そんな日々の中、ニュース番組などで海外旅行に行ってきた人の姿を見ると、羨望の念にかられますが、この展覧会に行ったおかげで「映え欲」は満たされたかもしれません。

寺田倉庫G1ビルで5月26日まで開催されているのは「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」。『グランド・ブダペスト・ホテル』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ムーンライズ・キングダム』など、数々の名作を送り出した映画監督ウェス・アンダーソンが、いかにも撮影しそうな風景や好きそうな風景、約300点を集めた写真展です。

ウェス・アンダーソン的な写真を投稿するインスタコミュニティ「AWA(Accidentally Wes Anderson)」が写真展の形になって巡回。韓国ではZ世代を中心に25万人も動員したそうです。

ウェス・アンダーソン監督の作品は1本くらいしか観ていませんが、Z世代の映えセンスを取り入れたくて展覧会に行ってみました。こちらの展示は写真撮影もOKで、もしかしたら自分が旅行したかのようにアルバムに残せるかもしれません。ウェス・アンダーソンっぽい風景とされているのは、シメントリー、ノスタルジック、はっきりした模様、ポップなパステルカラーなど。いわゆる「エモい」写真も入りそうです。

ウェス・アンダーソン監督もこのムープメントのことを知っていて「偶然にぼくであるとはどういうことか、よく理解できた。どうもありがとう」などと写真集にメッセージを寄せています。少し気になったのは、様々なインスタグラマーの写真が集められているので、展示の収益はどうなっているのか、ということ。写真集もかなり売れたようです。やはりこの「AWA」の活動を最初にはじめた夫妻が仕切っているのでしょうか。映えがあふれている今、キャッチーなテーマを思い付いた人の勝ちかもしれません。

会場は結構広くて、旅をテーマにZONEが1から10までわかれています。ノスタルジックな写真やターミナル駅、乗り物の写真、ホテル、アメリカやヨーロッパの風景、遺跡、プールなど……。電車の車窓を疑似体験できるスペースや、『グランド・ブダペスト・ホテル』のフロントを再現したセットなど、写真だけでなく映えスポットもありました。展示会場はZ世代のスマホのシャッター音が鳴り響いています。

印象的な写真をピックアップすると、まず最初のノスタルジックな風景のコーナーで視界に入ってくるのは、「SUGAR」「MILK」「COCOA」と書かれたピンクのエモかわいい貯蔵タンク。オハイオ州のマリーズチョコレート工場のタンクだそうで、原材料がシンプルなので信頼できます。

日本のナガシマスパーランドのジェットコースターの写真も。木製のホワイトサイクロンというコースターで今は営業を終了しているそうです。木造構造物というのが味わい深いです。

続いて、ターミナル駅のコーナー。海外の駅の写真を見ているだけでも、旅行した気になれます。海外の駅はどこもおしゃれに見えます。イタリア・ミラノのトゥラーティ駅は赤い丸いベンチがかわいいです。

日本の駅は地味なのでは? と思えてきますが、次の乗り物のコーナーで新幹線の写真が! 一部分を切り取ってみると、色合いもそこそこおしゃれに見えてきます。

世界各国の車窓や、電車内の風景、乗り物などの写真を見て、脳内疑似乗車。元気なZ世代はインスタですぐ検索して、実際に海外に乗りに行ったりしそうです。

世界各国の風景写真のコーナーも、シンメトリーな建物などが映えていました。

印象的だったのはナミビア南部のゴーストタウン「コールマンスコップ」の写真。もとはダイヤモンド採掘場があったゴーストタウンです。「砂の女」のように建物の中に砂が侵入している風景を見学できるようです。正直、砂埃がすごそうで実際に行くのは気が引けるので、写真だけでも満足です。

ホテルのコーナーでは、『グランド・ブダペスト・ホテル』のフロントのセットをはじめ、各国の幻想的なホテルの写真が展示。シカの剥製が大量に飾られているホテルのホールや、アルプスに佇むホテル、スロバキアの狩猟小屋など、どれも非現実的なビジュアルでした。

インスタなどで人の旅行の映え写真を見ると、だいたい自己顕示欲ばかり感じてしまいますが、この写真展では不思議と、自慢されている感じはしません。旅をした人が写っていないし、余計なハッシュタグもついてないので、純粋に風景をシェアしたいという思いが伝わってくるからでしょうか。ただ風景と対峙できる写真展です。

他にも、ホテルのブールの写真、ウェス・アンダーソン感が強いピンクとターコイズブルーの写真、各国の絶景スポットの望遠鏡写真、そして灯台や小屋の写真コーナーなど、展示は盛りだくさんです。ちょっと小旅行したかのような疲労感が。

映え写真を大量に見たので、どこに行きたいのかわからなくなってきました。どこにも行かなくても、会場近辺の天王洲のデッキなどでも十分満たされます。展示を見たあと、何気ない風景の中にも、エモさを見つけられる目が養われた気が。インスタでも見られる展示を天王洲に見にきた、というだけでも旅行欲が満たされました。

「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」
寺田倉庫G1ビル
2023年4月5日(水)~5月26日(金)11:00~19:00
最終週(5月22日~25日)は20:00まで

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。