わたしたちはすぎなみの街並みの作る会という杉並区や中央線沿線にて地域の人たちと街づくりを行う建築家の団体を立ち上げて、地元杉並の街づくりや建築を通した活動と実践を行っています。国際的な展開をしていた近代建築において、個人や地域などを踏まえて、地域主体の現代建築を目指しています。
0.地域から始まる建築
1.地域性 ~各々のベクトルの個のあつまり~
2.外の時代 ~収益性~
3.接続性 ~つなぐものとはなれるもの~
4.環境性能 ~個々の建物の性能値を上げるー
5.制度 ~地域の特色に合わせる~
6.個と環境の時代へ
0.地域から始まる建築
地元の人たちにとって「建築家」は本当に必要なのだろうかと真剣に考えていました。
都心部で住宅を依頼することを考えると不動産価格が5000万と高すぎて建物を入れると建設費が2500万近くしてまず注文住宅を作れないので、建築家に頼むよりも、建売住宅購入するという構図ができています。また年収が1000万以上の高所得者層はほとんどの場合は注文住宅を相談するときに大手ハウスメーカーに頼むのが定番となっています。街づくりなども行政の街づくり課や駅などが依頼するのは組織設計事務所です。
いまだに建築家は友達や親戚、建築雑誌、プロデュース会社と組んで仕事を受注するという構図が成り立っていて、ほとんどが地元の外に出て郊外や海外に出て仕事しているのが現状としてあります。建築家と地域とのつながりがない現状に対して何かアクションを起こせないだろうかというところからスタートしました。
そこで「地域から始まる建築」を地元の杉並を舞台に作れないかと考えました。建築展やまちづくりを行った経緯は地元の建築家と地域の人たちとつなげるために開催しました。5年に渡る活動を通して、建築、まちづくり、建築プロデュースという構図ができ、現在では数件の案件を地元の建築家で協業という形で実践と活動を行っています。
コロナ下では杉並区の商店街での飲食店の屋外テラス席の提案と設置、高円寺商店街のビルの活用、杉並区役所内での建築・まちづくり展・提案型のワークショップを通して「地域から始まる建築」についての議論などを通して具体的な方法論を実践してきました。
1.地域性
地域性というのは各々のベクトルを持った
個が集まっているのだと思います。
コロナ前では箱の中に集まる、仕事場と住まいを切り分けるが当たり前でした。20世紀の現代都市は仕事場と生活の場を切り分けて、決まった時間に家を出て、電車などの交通網を使い、オフィスビルに人が集まって仕事をする概念がありました。これはいかにして合理化をすることで資本主義経済の中で利点のあるライフスタイルでした。
しかし、コロナ下にて労働環境が家主体になったことや、地域のコンビニやスーパーといった労働環境が近くなったこと、SNSやZOOMなどの情報ツールの発達で場所を限定せずに働けるようになったことで時間の地域との関係性がこれからはとても重要になってくると思います。
オフィスビルといった箱をして与えて、集まって仕事をするという観点から、より地域との関係性を意識するようになり、自分の方向性や時間に合わせてある種の同じ目的を持ったベクトルが各々できていき、そこから波状するようにプロジェクトや人のコミュニティができていく時代になっていくと思います。2点のベクトルについての活動を紹介します。
まちはくについて
すぎなみにて杉並区都市整備課と協働で行う市民団体です(通称:まちづくり博覧会)。毎年産業商工会館、地域区民センターを通して行いますが杉並区(都市整備部)の共催で、年1回の「まちはく」(旧まちづくり博覧会)を企画・実施することを主な活動としています。また、イベント当日だけでなく参加団体や実行委員会の情報交換、交流を兼ねてまちサロ(まちづくりサロン)を年3回開催しています。
まちはくでは区内のまちづくり関係団体、まちと様々な関係をもって活動する団体(約50団体以上)の活動紹介と交流を主な目的としています。
防災・まち・福祉のまちづくりワークショップ
自分達の住まいやまちへの
提案を市民で集まって提案書作成、発表を行う。
杉並建築展について
杉並区を中心に地域住民を対象として、まちづくりワークショップや展覧会の開催を通じて、市民の声を具体化し、行政や企業に提案する場を作っています。住民・企業・行政を専門家を通じてつなげることで、地域の活性化を図り、地域のコミュニティを形成し、もって市民と全国の地域におけるまちづくりの発展に寄与することを目的とする団体です。
主に地元の商店街・商工会館・区役所などのストリートでの展示により、地域の人々に波及を行い、実際に来た公共案件を具体的に市民参加型などのワークショップなどを通して行政に提案するという活動を行っています。
杉並区役所区民ギャラリー 建築・まちづくり展
杉並のまちづくりのトークイベント・討論会
若手建築家+聴講者
討論のテーマ:建築の領域をこえて
これからの価値 ~コロナ下における展覧会の実践~
1回目の非常事態宣言が空けたあとに杉並区役所でコロナにおいてどんな影響を受けたのか、どんな建築が可能なのかを議論する場を展覧会と討論会を設けることで行いました。
展覧会概要
展示 期間:9月1(火)〜9/11(金)(開館時間9:00〜17:00)(8/30日は休館日)主催:杉並建築展 後援:杉並区役所
スポンサー:タキロンシーアイ
場所:杉並区役所内2階区民ギャラリートークイベント 予定 開催日時:9/5 (土) 17:00~20:30 ZOOM、YOUTUBE
(展覧会のテーマ)
「コロナ禍によって現在、今まで当たり前だったことがどんどん見直されています。住まい方や働き方、人との距離感など、当たり前として受け入れていたことが、実は不要だったり、逆に意外と重要だったり、みんなそれぞれ色々な気づきがあったはずです。時代の転換点として、少なからずこれから先の建築を考えるにあたって影響を及ぼすでしょう。そこから生まれてくるポジティブで新しい価値、つまり「これからの価値」とはなんでしょうか。また、建築とはその時代のその場所から常に「これからの価値」を探求して未来へと投げかける行為である、とも言えるでしょう。つまりこれは建築の根源的な問い、とも解釈できます。「これからの価値」について一緒に展示し、議論を交わしました。
杉並建築展2020
アルドロッシ、円形闘技場を転用した集合住宅
杉並でのワークショップ・トークイベント・討論会
また展覧会と並行して杉並区にてまちづくり団体として
登録しています。いくつかの杉並区役所に対して公共事業の提言について行っており、杉並区議会での富士見ヶ丘小学校の改築計画の要項の提案を行いました。これらは全て地域の人の声を集めて、専門性を持った地域住民によって主体的に提案し、民間企業や行政に働きかけることで建築、まちづくりにつなげるという役割を担っています。大きな資本や行政主導の都市計画から、各々のコミ二ティで好きなときに働く、各々の趣向や地域の特色に合わせて建築ができていく、そんな現代建築がこれからは普及していくと信じています。
2.外の時代 ~事業収益の変化~
コロナの影響により、少なからず建築のあり方も変化がありました。在宅で仕事することが多くなり、特に交通機関の移動が劇的に減ったように感じます。また飲食店には必ずポリカかプラスチックのプラスチック板が間仕切りとしておかれるようになり、人と人との間隔も離れるようになったと思います。またインバウンド業界では海外からのお客さんが検液でビジネス客以外の来訪者はほぼ入れなくなり、海外客をターゲットにしていた旅館関係者は大打撃を受けて、国内の日本人をターゲットにしたキャンプやグランピングなどのアウトドア観光事業にお金の流れが移りつつあります。これからワクチンを接種して、観光業や交通機関はコロナ後に戻るものもあると思いますが、戻らないものもあると思います。
コロナ後は仕事場とお金を稼ぐ場が内側から外側を利用するようになると思います。集合住宅を企画していますが、海外の事例ではパリやロンドンのバルコニーが広い集合住宅の家賃が高騰しているという事例もあります。また郊外戸建の需要が世界的に増えており、アメリカ・中国の戸建需要の増加により、世界的に木材不足に陥っています。ロックダウンや交通機関の制限によって自分の住まいにいる時間が長引くことで開放的な空間が求められてるようです。
これからの都市は公共歩道やバルコニー空間などの事業に見立てなかった外側をうまく活用して建築計画も考えられる時代になると思います。高円寺の商店街などでは広く飲食店は外部空間にてテラス席などを設けるようになっています。
GOLDEN DESK 既存のビールビンケース利用
また国土交通省でも公共歩道にテラス席などを設けることを推奨しており、それらが全て許可を受けてるとはいいがたいですが、公共の隣地境界の外が新しい事業空間の場となっています。また、すぎなみの街並みを作る会の活動として、杉並区都市整備課と連携をして、杉並区の高円寺商店街の飲食店に声かけを行い、屋外テラス席のワークショップ等を行いました。実際の飲食店ではよく使用するビールケースやビンケースを活用して、屋外家具作成のワークショップ等を行いました。
GOLDEN CHAIR 金塗装をおこなう
これらは学生達とともに杉並区地域区民センターの工作室を借りて作成し、商工会館で展示したあとに、実際の飲食店にて設置を行いました。具体的に本当にオーナーが必要としてるものであればこちらから仕掛けても受け入れてくれることを活動を通して知りました。外部による公共空間を活用した事業収益の在り方を真剣に考えることは今後の都市計画において重要になってくると感じます。屋外テラス席は飲食店利用だけにとどまらないと思います。
カフェの屋外コワーキングスペースなどとして利用し、スパの屋外サウナやリラクゼーションスペースとして利用できるはずです。
事業計画で内部を敷き詰めて家賃収益を上げる、容積を限界ぎりぎりまで敷き詰めて、レンダブル比を上げて室内を優先してから、その不随として1階に広場やアートを設けるという従来の不動産価値の考え方や融資のありかたも更新していく必要があると感じています。
3.接続性 ~つなぐものとはなれるもの~
接続するもの、分断するもの
また従来の隣地境界の中の提案は、外部とのつながりを考えても隣地境界内だけに留まっていましたが公共空間や歩道の提案なども積極的に提案することが大事だと思います。
再開発は契約上止まれない仕事も多く、品川の再開発などは従来のオフィスビルに箱詰めして、輝く都市のようなピロティを設けて、容積めい一杯に箱をつめるという従来の20世紀型の都市計画はいまだに作られていますが、電通やリクルートがオフィスビルを売却して分散型のオフィスを奨励してるように仕事場の価値観が大きく変わると考えられます。
人形町などの雑居ビルをいくつか購入して分散型の事務所として活用する事例が日本の大企業でも出ています。
軽井沢と高円寺での二拠点居住の実践
都市の分散化 場所を選ばないで仕事を行うことが可能
現在、設計事務所として杉並と軽井沢にて二拠点居住を行っています。東京に仕事が集中しているので1カ月に1度行く程度ですが、仕事自体が在宅で作業が可能なので軽井沢でもwifiやウェブ環境が整っていれば違和感なく仕事することが可能です。
ここで論じたいのは生活の接続が自らの身体を通して行っていた旧来のありかたから、facebook、amazon、zoom、yahoo、youtube、iphoneなどの情報ツールによって繋がることで身体を切り離して仕事や生活を行うことが可能になったという点です。
これは仕事の仕方、生活の仕方を飛躍的に進歩させるものとなったと思います。コロナ渦で海外との仕事は断絶されたかのように感じますが、zoomができたことでオンラインにて直接会うという手間が省けて、現場でも遠隔の映像捜査により遠く離れていても現場打合せ等も可能になりました。
コロナ渦による、技術の進歩があるとするならばこの遠隔でのコミュニケーションの広がりだと思います。
50年後には自動運転が当たり前になり、AIが進歩して人工知能も人と変わらない鉄腕アトムのようなロボットができたり、無人販売が当たり前になり、ホバーバイクが進化して、空中交通など、出入口が屋上になる革命ができるかもしれません。だがこれは僕自身の妄想にとどめておきます。
コロナ下においては、生活と仕事は接続しているけども、離れている状態を作り出しています。いままさに軽井沢では設計事務所での原稿や図面作業しながら、遠隔でzoomにて杉並の現場に指示を出すという新しい生活スタイルができています。
接続と分断というのは情報化によって場所を選ばないで生活できることが可能になったことであると感じています。
4.環境性能 -個々の建物の性能値を上げるー
アメリカ・中国でコロナの影響により戸建を作り、分散して暮らすようになり、木材需要が増えて、世界的な木材不足になっていますが、環境に配慮した住宅に焦点があてられています。
建築が情報ツールで繋がりながら分散することにより、地方郊外での生活を成り立たせるためにも、より断熱性能や自然環境への配慮を意識した建築の需要が出てくると思います。
外部からと室内を分けて室内の数値だけを考えるのではなく、郊外だと虫などが入ってくるので網戸なども重要になりますが窓を開いたときにも風や自然光によって快適な環境作りが大事になると考えられます。
近年同世代の友達が住宅作りを行うので相談に乗っていますが、一般にもYOUTUBEやテレビなどで環境性能に配慮した住宅がコロナとともに重要になってきています。耐震等級3や長期優良住宅などを住宅ローン減税の制度として用いるのではなく、積極的に活用することで分散した建物1つ1つが快適な住まいや仕事場を作っていくことが必要です。
また既存建物も再生活用が進むと思いますが、既存の建物の内側にセルロースやネオマフォームをLGSや床、壁に覆うように行い、サッシもまたインプラスなどの2重サッシを活用することで断熱性能を向上させるような断熱改修も増えてくると思います。
等級は各地域によって異なりますが、環境団体のHEAT20の設定している断熱性能の基準である、G2、G3等級の建物が標準装備になり、電気代やガス代などが従来の30~40%減ることで生活費を減らし、なおかつ地球全体で問題になっている温暖化や二酸化炭素減少などの環境対策にもなると思います。
5.制度 ~地域の特色に合わせる~
これからは地域独自の文化や風土にあった素材を積極的に用いることで地域独自のまちや風景ができていくと思います。またこれらは奇抜なものとして捉えるのではなく、自然なものとして形成していくことが大事だと思います。
また軽井沢のように行政が主体的にまちや景観について考えていくことも重要だと感じています。軽井沢では、軒の出が決まっており、屋根勾配なども明確に決まっています。また1000㎡の敷地に対して建ぺい率20%、容積率20%など地域の条例で大きな建物を作れないようにすることでリゾートなどの乱開発を防止して、景観法や地域独自の条例を地域住民や地域の専門家で考えることで自然と溶け込み統一した街並み形成が可能になると思います。
入札主体ではなく、提案主体であること
多くの公共事業は手間もあるので公共のプロポーザルになることはなく、金額と実績ありきで入札で公共事業が決まっていきます。これは新規参入しづらいという弊害もありますが、公共建築を安全に効率よく作る上で合理的な仕組みです。
従来の入札制度で金額ありき、名前ありきで決まるのではなくプロポーザルなどの要綱も市民参加型のワークショップ等を事前に行うことで反映していくことも大事だと感じています。
公共の建設委員会の策定
なお公共事業こそ実験的な試みを考える場所にもなるはずです。まだ実績の無い業者が参加しやすいように公共事業における建設委員会を外部で設けて、案ありきで事業者を決めた後は金額が大幅に上がらないよう、工期を円滑に進めるために専門の委員会が補助していくことも重要になると思います。案ありきで決まることで本当に市民にとって必要なものができると信じています。
6.個と環境の時代へ -21世紀の現代都市を目指して-
コロナで都市は変わるのか、変わらないのか
コロナにより都市は変わったのか、変わらないのかの議論を杉並区の建築家で集まって議論しましたが、公共歩道や隣地境界の外を考えることが大事だという言葉にハッとしました。いままで室内や土地の中から外部とのつながり、都市の関係性を考えていたので歩道や街路を提案することはほとんど発想に無かった。そこから外を意識して、公共の制度や歩道や街路などに対しても積極的に提案していくことが大事になると感じました。
横浜若葉町WHARF 大道芸
若葉町WHARFというゲストハウス併設の劇場のプログラムとして道路使用許可を取って伊勢崎モールの公共歩道にて大道芸を行いました。
AMEBA CHAIR JR西日本でのうめきた地下鉄の休憩所
提案型コンペにて人の体形に合わせて可変可能な人の健康状態を図る家具を駅の公共空間にて提案しました。
現代の都市形成を見ているといまだに1919年初頭に設立されたバウハウスや1925年にできた国際建築、1927年のインターナショナルスタイルなどの影響を引きづっているように感じます。100年前の同時期にもスペイン風邪が流行し、その次のドイツ帝国解体とともにヴァンデ・ヴェルデから継承して、グロピウスがドイツにバウハウスと呼ばれる建築学校を立ち上げました。
その時代もスペイン風邪のまっただ中であり、外や換気の配慮についての考察は十分にされていますが、産業革命、大量消費、自動車による交通革命という資本主義社会に適したものとして19世紀の装飾を表面に纏う新古典主義を否定して、新しい構造をむき出しにして、鉄・ガラス・コンクリートを新建材を用いて資本主義にあった形で新世界の建築を彼らは提案しました。だが現代ではオフィスビルに集まり、決まった時間に仕事場と生活の場を分けるという行為自体が懐疑的であるといえなくもないです。
グロピウスモデルからの脱却 集団から個の時代へ
21世紀は中国、インドを中心にして数百年ぶりにヨーロッパからアジアへの移行期にあると考えています。僕らの生活はすべて西洋から入れた建築ですが、これからはアジアから主体的に発するようになると信じています。現代都市の形成の仕方ですが、個が主体になり、地域ができ、それに合わせて建築ができていく。集まって同じ場所に定待った時間に、箱に詰めて働くのではなく、場所に限定されず、分散し、各々好きな時間に仕事をする。決まった時間に満員電車に乗る費用もない、個の趣味に合わせて、生活の場や住まいもできていく。その都市形成に専門家として建築・まちづくりの仕事に関われたらいいなと思っています。
20世紀型の箱に集まって、決まった時間に出社するという
経済と集団の時代から
個と環境に配慮した
アジア主導の21世紀型の都市ができると信じています