福田麻由子「家族の呪いみたいなもの、どうしても断ち切れないものが映っている作品」 主演映画『グッドバイ』を語る

  by ときたたかし  Tags :  

福田麻由子さん主演の映画、『グッドバイ』が全国公開中です。本作は第15回大阪アジアン映画祭に正式出品され、その精緻な表現が高い評価を受けた注目作で、是枝裕和監督の元で映像制作を学び、本作が初長編監督作となる新鋭・宮崎彩さんが監督・脚本を手掛けています。娘から女性に成長する主人公さくらを演じた福田さんは、「つまらなく生きることを、どこかで自分で選んでいるんですね。そこが3年前の自分とさくらは似ているなと」と役柄への思いを明かしてくれました。自分自身との共通点も多く、さまざまな想いに駆られたという福田さんにお話をうかがいました。

■公式サイト:https://goodbye-film.com/ [リンク]

■ストーリー

郊外の住宅地、その一角にある上埜家。
さくら(福田麻由子)は母親(小林麻子)と二人で暮らしている。仕事を辞めたさくらは、友人の頼みから保育園で一時的に働くことに。そこで園児の保護者である、新藤(池上幸平)と出会う。やがて彼に、幼い頃から離れて暮らす父の姿を重ねるようになるさくら。
ある晩、新藤家で夕飯を作ることになった彼女は、かつての父親に関する“ある記憶”を思い出す。一方、古くなった家を手離すことに決めた母。
桜舞う春、久しぶりに父が帰ってくる──。

●監督とは世代が近いそうですね。同世代ならではの刺激や、相乗効果もあったのではないでしょうか?

そうですね。同世代なのですが、いろいろと教えてもらうことが多かったです。これまでは自分が作品をよくしたい思いでやってましだが、この作品では知らない間に監督が自分で気づかない部分までも映してくれていて、もっと監督に委ねていいということを知りました。委ねたらもっともっと新しい世界が見えて、新しい自分も見えるということを宮崎さんに教えてもらった感じがあります。

●描いた世界は小さな家族の世界ですが、でも普遍的で奥が深い物語だと思いました。

家族を描いている作品は多いと思うんです。でもここまで、根っこまで描いている作品はなかなかないかもしれない。わたしの家族も仲が悪いわけじゃなく関係もいいけれど、家族っていいよねって、手放しで言えるかって言うと、そんなこともないというか。いいものも悪いものも、どうしても家族は引き継いでしまう。それはある意味で呪いのような存在だなと思っているので、そういう家族の呪いみたいなものは、必ずしも負の側面だけだとは思わないけれど、いい面も悪い面も含め、どうしても断ち切れないものが映っている作品かなと思いますね。

●日本映画だと、どうしても絆がメインの家族ものが多いですよね。

もちろん、それも大事だと思うんです。いろいろあると思うから。ただ、この『グッドバイ』は、そういう視点で描いているのではないということだと思うんです。

●なんでも監督の説明だと、福田さんの目を通した世界を描きたかったそうですね。

正直、台本を読んだ時、遠からずなところもあるので、なんとなくわかるなと思いました。幼い頃から器用だけれど熱がないような人生で、そういう部分は何となく見透かされているというか、こういうイメージを持たれているんだろうなと(笑)。それと同時にさくらほどドライな人間ではないですし、家庭環境も近くはないんですよね。

実際に完成した作品を観た時に当て書きってこういうことだったのかということをすごく感じて、奥底にあるものがすごく通じていました。さくらとわたしは別の人間だけれども、わたし自身の根っこにあるコンプレックスや、普段フタをしている部分が映画に滲み出ていて、あーこんなところまでのぞかれていたのかと、びっくりした気分になりました。 監督にやられたという気持ちになりましたね(笑)。

●奥底にあったものとは?

それは言葉にすると、自分の欲みたいなものですね。恥ずかしいと思う気持ちがすごく強かったです。

当時は3年前の撮影だったので、かなり今は解きほぐされている感じはありますが、この当時はすごくがんじがらめになっていて、なんとなく子どもの頃から自分は仕事の面でもプライベートでも恵まれているなと思っていたんです。家族にも一人っ子で大事にしてもらってきたし、すごい苦労もしたことがない。

そのとても恵まれているということのコンプレックスですよね。何かを楽しむ、これをやりたいと言ったら叶ってしまう。そういう環境だったからこそ、そういう自分の欲みたいなものは汚いと思っていたんです。

●ある種の罪悪感みたいなものでしょうか。

罪悪感というのか、何かを楽しむ、自分のやりたいことをやりたいようにやる、そういうことが申し訳ないみたいな、そういう気持ちがすごくありました。申し訳ないと言うと聞こえがいいのですが、自分がしたいことをやらない、やりたいことをしないという逃げみたいな感情も常に自分の周りにつきまとっていました。恥ずかしい気持ちや、自分はこう思うと発信することへの恐怖。いろいろなものに囚われていて、しかも勝手に囚われている感じこそが、すごくさくらに似ているなと。自分の欲や色を勝手に消しに行って、勝手に縛られている。そこにすごく共感してしまって。生き方のつまらなさみたいなところがすごく似ていると思いました。

●家族の問題もあるものですが、最終的には自分次第なんですよね。

つまらなく生きることを、どこかで自分で選んでいるんですね。そこが3年前の自分とさくらは似ているなと。ただ、本当に無欲な人間かと言われたら、さくらもわたしもたぶん違う。そこと向き合わなくちゃいけなくなって向き合ったみたいな、そういう感じがすごく似ていたなと今は思います。

●家族の話は本当は、家庭の数だけ複雑そうですよね。

みんなやっぱり何かありますよね。さくらもハタから観たら、特別に何かが目立っている人間ではないと思うのですが、そういう普通に生きているとされる人にここまで近寄った時に、ここまでの広い世界があったのかと、映画の魅力ってそういうところだと思うんですよね。普通の人なんてどこにもいなくて、誰かひとりに近寄った時に、ものすごい大きなエネルギーが誰しもの心に渦巻いていて、そういうのも映し出されるのが映画の魅力だと思うのですが、それをものすごくシンプルにやっているのがこの映画なのかなと思います。

『グッドバイ』
(C) AyaMIYAZAKI
配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
全国公開中

<キャスト・スタッフ>
【キャスト】
福田麻由子
小林麻子
池上幸平
井桁弘恵
佐倉星
彩衣
吉家章人

監督・脚本・編集:宮崎彩
撮影:倉持治
照明:佐藤仁
録音:堀口悠、浅井隆
助監督:杉山千果、吉田大樹
制作:泉志乃、長井遥香
美術:田中麻子
ヘアメイク:ほんだなお
衣裳:橋本麻未
フードコーディネート:山田祥子
スチール:持田薫
整音効果:中島浩一
ダビングミキサー:高木創
音楽:杉本佳一

配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
共同配給:ミカタ・エンタテインメント
2020年|66分|16:9|5.1ch

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo