「ぬりかべ」という名前の妖怪がいます。ほぼ10年の間隔でアニメ化されている「ゲゲゲの鬼太郎」のレギュラー妖怪で、巨大な壁に目と手足がついたような恰好をしています。鬼太郎や猫娘と違ってあまり目立たないキャラですが、「ぬりかべ~」と言いながら出現し、その「壁」能力で仲間を助ける役どころの妖怪です。
現在放映中の「ゲゲゲの鬼太郎」のアイキャッチから
現在放映中の「ゲゲゲの鬼太郎」第63話『恋の七夕妖怪花』では、笹の妖精・星華を体を張って守りました
この妖怪「ぬりかべ」、実は福岡県出身の妖怪だというのはご存知でしょうか? 民俗学の父として知られる柳田国男の著書『妖怪談義』(柳田国男全集第四巻に収録)には「ヌリカベ 筑前遠賀郡の海岸でいふ。夜路をあるいて居ると急に行く先が壁になり、どこへも行けぬことがある。それを塗り壁といつて怖れられて居る。棒を以て下を拂ふと消えるが、上の方を敲いてもどうもならぬといふ」とあります。遠賀郡の海岸とあるので、海運で栄えた芦屋の辺りのことなのかもしれません。
しかし、福岡県には江戸時代から明治にかけて『筑前国続風土記』『筑前国続風土記附録』『筑前国続風土記拾遺』『福岡県地理全誌』などの優れた地理誌があるのですが、私は遠賀郡での「ぬりかべ」に関する記事を見たことがありません。
『妖怪談義』は昭和13年から昭和14年にかけて発行された雑誌『民間伝承』に連載されたもののようで、あるいは「ぬりかべの伝説」は明治後期から大正期にかけて生まれた意外と新しい伝説なのかもしれません。
☆遠賀町のぬりかべ岩を見に行こう!
そんなぬりかべですが、遠賀郡にある遠賀町には「ぬりかべ岩」なるものが存在し、遠賀町の観光パンフレットにも載っていたりします。場所は遠賀町浅木三丁目801番地の浅木公園内にあります。
意外とわかりにくい場所にあるのですが、浅木三丁目にある西光寺のすぐ南にあると思っていただければいいでしょう。
バス停は「浅木」で降りて、西光寺前の細い通りに入り、西光寺の門前を過ぎると、すぐ左手に小さな駐車場があり、その奥に浅木公園があります。
浅木バス停
正面の道を直進します
西光寺。浄土宗のお寺です
浅木公園の駐車場。右奥が浅木公園になります
浅木公園自体は小さな公園です
この浅木公園は、かつての村長宅の跡地を10数年前に緑地公園にしたものなのだそうです。印象は「緑と広場のある爽やかな空間」という感じですが、何か特別なものがある公園ではありません。(遊具のある公園なら、浅木二丁目にあるティラノサウルス型すべり台のある「ふれあい広場」がお勧めです)
ふれあい広場のティラノサウルス型滑り台
さて、肝心のぬりかべ岩ですが、浅木公園内にぽつんという感じで立っています。平たい感じは確かにぬりかべっぽいです。
これがぬりかべ岩
ぬりかべ岩を横から撮影。確かに平たいです
ぬりかべ岩を後ろから
この岩の存在から「ぬりかべ」という妖怪の伝説ができたと思われるかもしれませんが、ここは「筑前遠賀郡」ではありますが、海岸からは遠く離れています。村長を何人か出している有吉家の邸宅跡だったと聞いているので、元は有吉家の単なる庭石だったのでしょう。そし緑地公園化される時に形の面白さからそのままオブジェの一つとして公園に残されたのだと思われます。
では、なぜ庭石が「ぬりかべ岩」と呼ばれるようになったのでしょうか? やはり『妖怪談義』にヌリカベが「筑前遠賀郡」の妖怪だと書かれていることが一番大きく、形状が鬼太郎のぬりかべに似ていたからなのでしょう。
それから浅木公園の「ぬりかべ岩」は、よく見ると二つの岩が寄り添っているようにも見えます。浅木公園が整備されてからアニメされた「ゲゲゲの鬼太郎」は第五期の鬼太郎になります(アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第5シリーズ、2007年4月1日~2009年3月29日放映)。この第五期の「鬼太郎」に出てくるぬりかべですが、何と奥さんのぬりかべがいるという設定になっています(子供のぬりかべもいたような気がします)。浅木公園のぬりかべ岩も夫婦のぬりかべが寄り添っているようにも見えることから、第五期のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」を見た誰かが言い出したのではないでしょうか。
もしかするとこのぬりかべ岩には夫婦円満や良縁成就のご利益があったりするのかもしれませんね。(ぬりかべだけど(笑))