飲み物を購入する。
当然だが、飲む。
真夏日に炎天下を一日中歩いた末の最初の飲み物でない限り、数秒で一気に流し込むような飲み方はしないであろう。
だいたいは適宜インターバルを挟みながら味わって飲む。
ながらスマホの民たちは画面を見ながら飲み物を飲み干しているに違いない。
いかん、いかんぞ。
手持ち無沙汰に飲み物のラベルや枠内義務表示事項を見よ。
種類別名称や原材料名、賞味期限や開封後の取扱、これらは読み物である。
欄外注意事項はノンフィクションなのだ。
諸君よ、お金を払って購入したからには隅々にまで目を通せ。
それが消費者としての義務である。
【グリコのいちごオーレを味わって飲みながら手持ち無沙汰に読む】
「またこのパターンか」
「ココじゃダメやねんてば」
「あ。フリーダイアルやん、言わないと。ケータイってフリーダイアルいけるんやったかなァ…ええっと…0120…」
「えっ?!今すぐかけちゃうん?ココで?」
思い立ったら吉日と言うではないか。
実行力こそ大事なのであって、実行に移さない考えのことを机上の空論と言うのだ。
空論にしないために、世の中にはお客様相談室が存在するのだ。
「はい、グリコお客様相談室オオクボです」
「はい。今ね、グリコのいちごオーレを飲んでいるんですけどね」
「ありがとうございます」
「このパッケージの下のほうによく振ってお飲みくださいという一文があるでしょう?」
「ございます」
「これはこの位置ではダメだと思います。振らずに飲んで、途中で気付くというパターンなんですよねいつもいつもいつもいつも。じゃぁ何でもかんでも最初に振るようにしたらええかゆぅたら、振らずにお飲みくださいというジュースもあるわけですよ、他社の商品ですけどね。だから、このジュースならほら、クチの所にシールついてるでしょう?缶ではありませんて書いてるシール」
「ええ、ございます」
「そのシールの所に書けばとっても良いと思いますよ。缶じゃないのは持てばわかるわけやし」
「貴重なご意見をありがとうございます。こちらのご意見のほうは早速、商品事業部のほうへお伝えさせていただき、商品の改善に努めたいと思います」
「はい、是非ともそのようによろしくお願いします」
2012年5月29日にグリコのオオクボさんに提案した件、2017年霜月現在グリコいちごオーレのクチシールはこのような表記となっている。
貴重なご意見かれこれ5年、反映されず。
あまり貴重ではなかったようだ。
【ロッテのお客様相談室で求肥愛を叫ぶ】
私は、ロッテの『雪見だいふく』が好きだ。
年がら年じゅう食べたいほど好きなのに『雪見だいふく』は夏に売り場から姿を消す。
最終的に何月までならどの店に売っているかの情報を自分の足で探った結果、7月上旬までならドンキホーテで買えるが、これも在庫によりにけりでありどの店舗でも買えるわけではない。
初夏の雪見だいふくに安定供給は望めず運次第になってくるのだ。
運が悪いと5月の終わりには忽然と姿を消す年もあり、私の中ではちょっとした事件になる。
そんなわけで今回は探偵気取りで事件を調査である。
発信者番号非通知設定をしている我が家の固定電話でロッテのお客様相談室に電話をすると通知が必要とのアナウンスが流れるので、186発信でかけなおす。
『ロッテお客様相談室タダです』
「ちょっと相談したいことがあるんですが」
『はい、どういったことでしょうか』
お客様相談室の職務には初老の男性が就くのだろうか。
初老男性率が高めである。
最初は女性が出るけれども込み入った質問をすると専門的な知識を有する職人気質の初老の男性が折り返してくることもあるので、お客様相談室のキーマンは初老の男性なのかもしれない。
「雪見だいふくなんですけどね、これ夏にはなくなるでしょう?」
『はい、そうですね』
「夏にも食べたいから買いに行くのにいっつもなくなってるんですよね。それでスーパーのご意見箱に夏にも売ってくださいって投書したら、冬の季節商品だから無理だって回答が来たんですよ。売ってる店では7月まで置いてるから完全に無いってことでもないと思うねんけど、この商品っていつからいつまで出荷してるんです?あと、なんで冬限定で?アイスなんて夏の季節商品やのに」
『わたくしどもの商品を愛してくださいまして、大変ありがとうございます』
叫んだ求肥愛が早速タダさんに伝わる。
『まずはですね、こちらの雪見だいふくという商品のコンセプトがですね、雪を見ながら食べようということになっておりまして、ですので冬の商品ということになります』
タダさんの求肥愛は商品知識の豊富さ、私の求肥愛は足で稼ぐ情報、なかなかの勝負である。
『ですので、営業戦略として秋冬からプロモーションに入ります。発売期間でございますが9月中旬から3月前後です、だいたいは3月の頭くらいまでというのが発売期間だと把握しております』
「そうなの?早いな・・・でもウチの近所のスーパーでは5月の頭までは確実に置いてるかな。一番遅いところでも7月まである時もあるけど、毎年じゃないの。ない年はないし平均すると6月の1週目までかな。3月はさすがに早いですよねぇ」
雪国在住の人間に降雪確認を取ってみたら、3月は雪が降っているそうである。
積もるかどうかは別にして降るには降る3月、10日以上は降る模様。
週に2回は雪が見れる計算である。
雪深い山奥のスキー場が4月オープン、それまでは雪がありすぎるから。
危険を伴う雪見のだいふくではなく、風流に御簾を高く上げたれば雪のいと高う降りたるを見るのだいふくとまゐるなら、スキー場付近の雪国では4月からが本番ということである。
5月に雪が降ったこともあるらしいので、同じ日本でもこうも雪事情は違う。
九州南国生まれの私の経験上、南国の雪見など壊滅的であるが、雪の降らない九州でも私は子供の時からこれっぽっちも雪など見ずに雪見だいふくを食べてきた。
十数年に一度の雪の日に「さて雪見だいふくとしけこもうか」てな特別なアイスではなく、おばあちゃんが「しろくま買ってこい」とくれたお金で雪見だいふくを買っていた。
しろくまが大好きなおばあちゃんと食べる独断で勝手に変更した雪見だいふくは、格別である。
「じゃ、雪見だいふくは3月で作るのをやめちゃうってことですか?」
『作るのはですね、2月で終わります』
「はやっ2月で終わってるんですか?!」
『はい。2月で終わっております』
「作るのは2月にやめてるのに、7月に売ってる店があるわけだから、それは在庫を出してるってことですよね?だって商品は作ってないねんから。アイスって賞味期限ないねんから作るのやめんとお店にまかせたらどうです?売れるなら夏も売る方向で。私みたいに夏も食べたいひとがほかにもいると思うけどなァ」
『商品流通経路と致しましてですね、我々から直接スーパーに出荷しているわけではなく、問屋を介してスーパーへという流れとなっております。通常はゴールデンウィーク前から氷菓、氷の商品ですね、こちらのほうが売れ行き商品となるため、問屋としては売り場を変えたいという思いがありこちらの商品につきましては早く出荷する傾向にはあります』
問屋の思惑までしっかり把握しているタダさん。
「でもね、ファミリーパックの雪見だいふくあるでしょ?ちっちゃいのがたくさん入ってるヤツ」
『はい、ございます。ミニ雪見だいふくですね、9コ入りの』
「ああ、それそれ。あれは夏も売ってるで?ホンマは2コ入りのヤツがええけど、売ってないからしゃーなしそっちにしてるんです。あれは?あれは作り続けてるってことでしょ?」
『ええ。ミニ雪見だいふくは年間商材となっております』
「だったら雪見だいふくの2コ入りも是非とも年間商材で。」
『わたくしどもの商品を大変愛してくださり、ありがとうございます。貴重なご意見として今後に活かしていきたいと思います』
出たな!貴重なご意見の結び!
このフレーズはお客様相談室からの最後のリアクションである。
これ以上のやりとりを望まないトメのワードが貴重なご意見なのだ。
それが証拠に、あんなに豊富な商品知識を丁寧に説明してくれたタダさんに翌日「昨日電話して質問に答えてもらった者なんですが、タダさんとおっしゃる男性、おられます?」と再アタックを試みたら、私の質問内容に対して最後は『よろしいでしょうか?』と結ばれた。
ミニ雪見だいふくのコンセプトも雪を見ながら食べようなら、年間商材にしてはそのこだわりがブレてしまうではないか、という私の疑問に対しタダさんはこう答えたのである。
『ミニ雪見だいふくはファミリー向け商材として、夏にも食べたいとおっしゃる要望に応えているカタチとなっております。雪見だいふくという商品はあくまでもメインは2コ入りのバニラ味です。雪見だいふく、といった場合の商品はこちらになります。よろしいでしょうか?』
2コ入りバニラじゃないと雪見だいふくを名乗れない、そんな決まりになっている、よろしいか。
【去りぎわに質問をひとつ】
去り際に電話口の相手に年齢を聞く、というお客様相談室への相談内容とはまったく関係のないことでそのひとの人間味を感じるのを恒例としていくことにしたので、今回もタダさんに質問する。
「ちなみにタダさんね、おいくつなんですか?」
『わたくしですか?』
「はい」
ひとは電話で年齢を質問されると、自分かな?と思うようである。
電話なので私とタダさん以外の登場人物はおらず、私が年齢を質問しているということはタダさんでなく誰の年齢なんだと私は思っているが、お客様相談室で商品の相談をされているシチュエーションから商品年齢のことかとよぎるのかもしれない。
『わたくし、年齢のほうが51です』
「51歳ですか、ありがとうございます」
51歳、商品知識豊富なタダさんがお客様相談室に配属された経緯に思いを馳せるが、その妄想は割愛する。
【おまけの大正製薬パブロン】
雪見だいふくを立て続けに食べていたのはほかでもない。
気管支炎を患うこと1ヶ月超、病院に3回も行ったのに気管支炎になったらそんなすぐには治らないと見放され、遅めのパブロンを気休めに服用しながら腫れた喉で食べておいしいのがアイスだったからである。
パブロンゴールドAは一箱44包入。
その44包をたったひとりで食べ尽くしたのに、私の咳は緩和と悪化を繰り返す。
パブロンよ、いったい私のドコに効いているというのだ。
そんなわけで、気管支炎の私のどの症状に効いているのかを大正製薬のお客様119番室で聞くことにした。
薬だと相談室ではなく119番室となるようだ。消防である。救急車が消防にあることを思えば救急車が病院に運ぶわけで、医療つながりの119番室なのかもしれないが、処方薬ではなく家庭薬ごときで散らしている病状なのだから、病院に運んで欲しイメージはない。今すぐのこの置かれている状況をなんとなく助けて欲しい、という解釈でいうならレスキューのほうが近い。心のレスキュー、プリーズ。だったら911番か。しかし緊急通報はなんでもかんでもまず911のアメリカとは違い、日本は911が存在しない。警察に電話するか消防に電話するかはかけるほうが決める。
110番でも119番でも911番でも、どういうわけだか「お客様」の枕詞がつくとなんとなく茶化してる感が否めない。
よってお客様119番室に電話をしてしまう私自身も119番室を茶化しているようにとられはしまいかとの不安にかられながら、119番室に電話をすると物腰の優しい女性が電話口に出た。
お客様相談室の電話に出るスタッフには男性も女性も物腰の優しい人が多いが、そもそも物腰の優しい人なのか物腰優しい話し方をするように指導されているのか、どっちだろうか。
『大正製薬お客様119番室マスオカです』
「ちょっと確認したいことがあるんですけども」
『はい、どのようなことでしょうか』
「かれこれ1ヶ月ちょい風邪をひいてましてね、まァ風邪のひき始めにパブロンを飲んでいて、悪化したもんやからかかりつけに行ったら気管支炎になっててそれで抗生物質を服用したんですね。その間はパブロンじゃなくて処方薬のほうをもちろん飲んでました。それで抗生物質を飲み終わってそれでもやっぱりよくならないのでまた病院に行って今度は抗生物質は必要ないから炎症を抑える薬を処方されて、それも飲み切ってまだよくならなくてまた病院行ったら気管支炎になったら治るのには時間がかかるから日にち薬です、て言われて何の薬も処方されなかったんで、だいぶ遅めのパブロンを気休めに飲んでる状態なんですね。CMでは早目のパブロンてゆぅてますけど、これってどのくらい早目ってゆぅてるんですか?私の風邪の引きはじめもなかなか早目のパブロンでいったほうなんですけどねぇ」
『そうだったんですね・・・せっかくお飲みいただいたのに効かなかったということで・・・お役に立てず申し訳ありません』
いやいやいやいやマスオカさん、そこまで謝っていただかなくても。
大正製薬が私の風邪を何が何でもどうにかしなくてはいけない義理は、もちろんない。
風邪ごときと思って病院に行かなかった私にも非があるのだから。
大正製薬の製品を購入した「お客様」だというだけのことで、パブロンが効かないことを謝ってくれるマスオカさんは、早目のパブロンの早目にはとくにこれといった設定はないと言った。
『症状の程度によって効く効かないは変わってくるのですが、どのくらい早く、というのは難しいところで、少しでも早く、少しでも自覚症状を感じたら、ということになります』
「じゃ、遅めではダメなんですね」
『遅めでは効かないということではないのですが、どうしても悪化してしまうと緩和が難しくなってしまいます』
「そうでしたか。これね、パブロンの効能に、せき、たん、のどの痛み、くしゃみ、鼻みず、鼻づまり・・・この諸症状のほぼすべてに当てはまってるんですけど、どの症状に一番効くんですか?どれを一番に緩和します?」
『はい。こちらは書いてある全ての症状に効く成分がそれぞれ入っております。もともと病院で使われている成分でして、市販薬でも使えるようになり商品として薬局等でお買い求めいただけるのですが、やはり病院を受診していただくほうが、その時々の症状に合わせた薬が処方されますので、そちらのほうがより症状には合っている薬になります』
「そうなんですね・・・わかりました。それから最後にもうひとつ。ちなみになんですがマスオカさん、年齢はおいくつですか?」
「私の年齢でしょうか?」
決め台詞をキめると、やっぱり電話口のマスオカさんからも定型文が返ってきた。
「ええ。差支えなければ。」
「そう・・・ですねぇ・・・年齢のほうは、控えさせていただきたく思います」
女性は年齢の申告を避けるようだ。
それでも私だってココであっさりとは引かない。
人となりを垣間見るのはこの質問がカギとなるのだから。
「お客様119番の電話に出る人ってどんな人たちなんだろう、てふと疑問に思ったもんですからね、だって薬のことだし、知識とかもちゃんとあって答えて欲しいでしょ?私は40代なんですけどね、マスオカさんの雰囲気からだいたい同じくらいかなァなんて思うんだけど、どうでしょう?」
『そうでしたか・・・そうですねぇ、私の年齢は同じくらいと思っていただいたらと思います』
「あ~そうなんですね。119番の電話に出る方々はみなさんそのくらいの年齢ですか?男性もいますよね、きっと」
『いろんな年齢です。若い人も、もっと年齢が上の人も、男性も女性も、様々です』
「商品知識があるひとですか、みなさん?」
『もちろんです。商品知識があることもそうですが、成分について説明出来る人間が電話に出ております。医師や薬剤師などですね』
「それは心強くて安心できますね。パブロンは効かなかったけども聞いてよかったです」
『今回はお役に立てず申し訳ございませんでした。どうぞお大事になさってください』
40代のマスオカさんは、最後までパブロンが効かない私の体調を心配してくれた。
画像(題字):筆者撮影