今さら「寅さん」

  by pape.佐野  Tags :  

今日、どこかのTVで、あるボランティア団体が、仮設住宅の被災者の方々に「男はつらいよ」の上映会をやっているのを見ました。なるほど、「寅さん」なら文句なしに笑顔が取り戻せるからなぁ、とボランティア団体のナイスチョイスに感心しました。
そこで、「男はつらいよ」全48作が終了して16年の今、唐突にこの記事を掲載することにしました。最近では女性ファッション誌『Domani』が腹巻付きボクサーパンツ「寅カジ」を発表、なんてありましたが、まぁ、この「寅さん」、何年たっても日本社会には定着しているようですね。まるっきりのJKだった娘なども「男はつらいよ」のDVDでケラケラ笑っていましたから、ジェネレーション・ギャップなしのトレンド。先日もレンタルショップで48作中15作のDVDがレンタル中でした。

ではなぜ、いつまでたっても「寅さん」が日本人には親しまれているのか、去年の2月に柴又をうろうろした時に撮った画像を散らしながら、語りたいと思います。

フーテンの自由気ままな生きざまというよりも、ちょっとやくざなその立居振舞の中に、常に、寅さんは、他人の不幸への共感と他人の幸福のために自己犠牲を厭わない心意気ってものを持ち合わせており、やたらと心が惹かれます。
やくざな立居振舞は、つまり、世知辛い俗世間に自分を同調させて生きている私たちそのものです。私たちの一挙一動は、確かに、紳士的だし協調性にも満ちていて、寅さんの傍若無人な態度とは大違いと思うかも知れませんが、自分の性分に合わせて生きていることには変わりありません。

やりたい放題も、世間の基準に仕方なく沿って生きるのも同じようなものです。寅さんの素敵なところは、自分はそうであるけれども「かっこよく行こう」とする生きざまです。いつも失恋しています。でも、その哀しみは我が身だけのもので、必ず相手の幸せを見通してのいさぎよい決意の末です。
思えば、ドラマの主人公ってものは、常にそんな生きざまを選んでいるものです。だから、感動を誘うのでしょうね。

でも、その感動を、我が身の犠牲のもと、つまり、頭の中の損得打算の収支をわきへどけて、自分の日常の中で演出できる人って、どれだけいるものでしょうか。

不思議ですよね。自分のことを中心に考えるドラマの中の愚か者を忌み嫌う心があるのに、現実の中では、その役回りを選んでしまっている私たち…..

寅さんだって、とらやのおいちゃん、おばちゃん、あるいは妹のさくらや隣りの印刷工場のタコ社長へは、けっこう無茶苦茶な態度をとって困らせます。「家族の中での問題児」なんですね。でも、一歩世間に出ると、この寅次郎、弱い者、哀しい境遇の者、虐げられた者に対して、とことん肩入れし、味方し、東奔西走してその助けとなろうと跳び回ります。

そして、そのあげくに、その心根に惚れこんだ相手からモーションがかかると、はたと「やくざ者」「フーテン」であるどうしようもない自分を思い出して、相手のためにと身を退く・・・。そんな、とことん自己中心性を捨てきった男の姿なんですね。

そのリバウンドで、家族・身内の中ではかなり我が儘な自分をさらしているのですが、世間に出れば絵に描いたような義理・人情で生きている。

 

所詮、山田洋次監督の創った世界の男….なんてクールで野暮ったい考えは抜きにしましょう。なんであれ、その創られた世界の男に対して、心を動かしている私たちがある以上は、そこに何かの投影、自分の隠された人格が具現化されているという事実があるのですから。

 

自分の損得を捨てて、とことん相手の幸福を一義的に考える生き方。それは、自然には出来ません。そのような生き方こそが大切である、否、何よりも大切なことであるという信念がなければ、その生き方を「選ぶ」ということはしないものです。

それを自然に出来るような人は、この世に生まれて来る必要はなかったはずです。(かなりスピリチュアルな見解ですが) 何であれ自己中心に思考して、損得で選択する本能を具備した「肉体」という存在に宿りながらも、「オレがなんとかしてやるよ」とか「こんなこと黙って見てりゃ、男じゃねぇよ」とか啖呵を切って、自分の行為を選択するという生きざま、それこそ、この人生の「目的」なのではないかなぁ、と思います。

難しいですよね、そんな決断。

でも、難しいから、ちょっと奇想天外だからこそ、多分、そこに、「生まれて来た意味」があるのですよ。だって、それ以外の生き方に、感動するようなご自分がありますか? 心が爽快になるような生きざまがありますか? ともかく、ありません。どう考えても、損得打算や自己中心という生き方には、心を動かす何ものもありません。なぜ、自分の心が動かないのか? なぜ、日頃、日常的に、損得打算・自己中心で考え、生きているくせに、その生き方には心が動かされず、そうではない生き方に心が動くのか、それを、もっと深層心理学的に解析して、本当の「自己」というものを認識した方が良いと思います。

「寒くなってきやがったなぁ」

 

 

「おにいちゃん、せめて正月まで家にいたら?」

 

「さくら、あの人によろしく言っといてくれよ。ヤツは旅に出たと。俺みてぇなヤクザな男はあの人に似合わねぇからよ。」

 

「でも、なんて言ったらいいのよ!」

 

「まぁ、適当に、うまく、頼むよ」

 

「本当に行っちゃうの?」

 

 

「正月は稼ぎ時だよ、家にいちゃ、借金のことばかり悩んでるタコ社長に申し訳ねぇ。じゃぁな、さくら。おいちゃん、あばちゃん、大切にな。博と仲良くな」

 

 

「おにいちゃん・・・」

 

「うん、ありがとよ。これが渡世人の辛ぇところよ」

 

....こんなやりとり、「男はつらいよ」シリーズではいつものことですよね。

「渡世人」って、この世を渡る人、つまり、寅さんだけじゃない。私たちのことです。「辛ぇ」思いも、たまには潔く決めたいものですね。

個人Blogより監修

30年のサラリーマン生活後、心理カウンセラーとしてNPO法人東京カウンセル設立、無料のメール・カウンセリングを行っています。「無料」そして「匿名メール」という気楽さから、多種多様な年齢層の恋愛問題から精神疾患まで、現代の「悩み」「トラブル」「精神医療の実態」全般に精通しています。日々の事件報道も、関わる個人の心理に踏み込んで行くと、物事の真相が理解でき、また悪いことも善いことも、共感の中に消化できるものです。少し違った視点からの記事をアップしていきたいと思います。

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