先日、 グーグルのキム・チョンサ氏の「AdMob で実現する無料アプリの収益化」という講演を聞く機会がありました。
急成長しているスマートフォンのアプリ業界において、企業はもちろんですが個人の開発者も素晴らしいアプリを開発しています。ただ個人では開発費やサーバー管理費など、どうしても資金の問題で開発を続けていくことが難しくなっていく場合があります。そんな時、自分が開発したアプリから収益をあげることができれば、さらに素晴らしいアプリが提供される可能性も出てきます。
今回のキム氏の講演は、人気アプリ開発や、アプリから収益を上げるヒントや事例が解説されており、スマートフォンアプリ開発者の悩みを解決するかもしれません。
日本のスマートフォン/アプリ環境
2011年7月末現在、日本では1億2000万台を超える携帯電話が利用されていて、そのうち約2000万台がスマートフォンとなっています。また、2014年には日本の携帯電話の過半数がスマートフォンになると予測されています。スマートフォン用のアプリマーケットも急拡大し、『App Store』(iPhone向けアプリマーケット)では42.5万本、『Android Market』では25万本のアプリが提供されています。
ただし無料アプリのダウンロード数は増加しているものの、有料アプリのダウンロード数は減少傾向となっており、そのため無料ユーザー層からの収益化(フリーミアムモデル)の構築を進めていかないと、今後アプリを収益源とするビジネスモデルは厳しい環境になると予想されます。
スマートフォンアプリで成功するためのポイント
1.コンテンツ内容をとことん考え抜く
適当に開発を始めてしまうと、余計にリソースが必要になったり、コスト高になったりする場合があります。アプリを開発する前に、マーケティング方法、ブランディングの方針、マネタイズの手法を充分に練っておくことが必要。
2.ユーザー目線でターゲット定義
43%のユーザーがアプリマーケットのRecommend(おすすめ)等で新たにアプリを発見してダウンロードしています。ダウンロードされやすいタイトル、アイコン、説明文を練り、満足できるダウンロード数値になるまで一つ一つテストを行う事が重要です。それでもダウンロード数が伸びない場合は、そもそもユーザーの嗜好とマッチしていないことが考えられます。
3.ソーシャル、バズのマネジメント
37%のユーザーが知り合いの紹介でアプリをダウンロードしています。『Facebook』や『Twitter』などのソーシャルメディアとの連携も重要で、ただ単に口コミを巻き起こすのではなく、ユーザーの要望をこまめにフォローする必要があります。『Angry Birds』(2009年12月に販売され、世界中で大ヒットしたアクションパズルゲーム)の『Twitter』は、ユーザーのコメントに逐一返信しており、満足度を上げています。
4.一つのアプリに頼らない
別のアプリマーケットに展開、スピンオフ作品の作成、別のアプリを作成。これらを活用し、収益のポートフォリオを組成することが重要です。自分の売れているアプリに広告やリンクを掲載し、クロスプロモーションを仕掛ける(ヒットアプリのトラフィックを利用し、新規アプリのダウンロードを促す)ことも必要です。
アクティブユーザーを増やすための工夫
無料(広告)モデルの場合は毎月のダウンロード数に収益は比例せず、アクティブユーザー数に比例するためファンを増やしていくことが重要になってきます。そのため、いかにユーザーにアプリを使ってもらうかの戦略が重要になります。
1.コンテンツ
配信頻度を増やす、内容を特化するなど、コアユーザーに何度も利用してもらえるような仕組みにする。
2.報酬・エンゲージメント
このサイトに来たら役に立つ、ワクワク感を提供してもらえる。
例) 『foursquare』 一つの場所にたくさんチェックインするとメイヤー(市長)の称号が貰える。
3.アップデート
大きな変更をする必要はない。細やかに、頻度を増やす。
例) 『Paper Toss』 背景を変える、距離を変える、風向きを変えるなど。
成功する広告配置/運用のポイント
1.広告をはっきり表示する
2.ユーザーの導線を意識して配置する
ユーザーの使い勝手を下げない。クリックしやすい位置にだますように配置しても、使い勝手が悪くなる→ユーザーが不満→アクセス減少→結果的に収益減少となる恐れがあります。
例)『乗換案内』サービスアプリ
広告の導入はユーザーの心情を第一に考えており、特に以下の3点を重要視しています。
1.経路検索中は広告を表示しない
2.オーバーレイ表示にしない(検索結果が見えなくなる恐れがある)
3.検索結果が表示されたのちに広告を表示させるようなプログラム(少しでも検索結果を先に表示させる)
3.広告位置を常にテストする
ユーザーの目に留まり、悪印象を与えない(邪魔にならない)、なおかつ収益が最も上がる位置を探る。
『AdMob』とは
『AdMob』とは、世界最大級のハイエンドモバイル向け広告ネットワークで、iPhone、iPad、Androidを中心としたスマートフォン向けのアプリやウェブサイトに広告を配信できるプラットフォームです。アプリ開発者は配信された広告がクリックされることにより、広告収入が得られる仕組みになっています。
『AdMob』の利点・特徴として以下の6点が挙げられます。
1.Android、iPhone、iPad、BlackBerryなど様々なプラットフォームに対応
2.200ヶ国を超える地域に対応しているため、海外でダウンロードされても各地域にターゲティングされた広告を配信
3.ハイエンド端末に特化した、リッチで先進的な広告フォーマットが利用可能
4.カテゴリやテキストでフィルタリングを行い、広告をコントロール可能(ライバル会社の広告を掲載させないなど)
5.自社広告機能で自社の別アプリへの誘導等の設定が容易
6.『AdMob』の広告がない場合には『Google Adsense』が表示されるため、フィルレートを常に100%に保つことが可能
『AdMob』を導入するためには公式サイト(http://jp.admob.com/)にてアカウントを作成し、自分のアプリケーションを登録。広告枠の組み込み作業に必要なSDK(ソフトウェア開発キット)をインストールしてアプリに実装しテストを行い、問題がなければ、商用モードに設定することにより自動的に広告が配信される仕組みになっています。
ただし注意点として2011年9月現在、支払い通貨は米ドルとなっており、『Paypal』の場合20ドル以上の収益に対して、銀行振り込みの場合100ドル以上の収益に対して支払いが実行されます。
『AdMob』成功事例
『Angry Birds』を提供しているROVIOではアプリ内課金、有料アプリ、広告を併用しています。
iPhone版『Angry Birds』は0.99ドルの有料アプリで提供されており、約1200万ダウンロードを記録。収益は6億円(手数料控除後)をあげています。Android版『Angry Birds』は無料(広告入り)アプリで提供しており、アプリをリリースした2010年10月の収入は1か月で8000万円となっています。無料アプリが好評だったため、iPhoneにも体験版として無料アプリ(広告入り)の提供を開始したそうです。
また、アプリ内課金サービスも導入し、アイテム(巨大な赤い鳥)を購入することで難しい面を簡単にクリアできるような仕組みを構築しています。
paper toss
『Paper Toss』を提供しているBackflip Studios社は月額50万ドルの広告収入を得ています。 これを1ドル(85円換算)の有料アプリに直すと、毎月新規で66万ダウンロードをさせないといけない計算になります。
先に書いた通り、無料(広告)モデルの場合は毎月のダウンロード数ではなくアクティブユーザー数に比例するため、アプリを常に利用してくれるファンを増やしていくことが重要になってきます。そのため『Paper Toss』の場合は頻繁なアップデート(背景を変える、距離を変える、風向きを変える)を行い、ユーザーに飽きさせない工夫をしています。
なお、Googleが運営する『The Guide to the App Galaxy(http://www.guidetotheappgalaxy.com/)』というサイトでも成功事例が図解入りで解説されています。
余程の人気アプリでない限り簡単に収益が上がるわけではないですが、アプリ開発者にとっては少しでも開発費の足しになる可能性のあるサービスなので、一度公式サイトを覗いてみるといいかもしれません。