1988年のOVAスタートから、常に“少し先の未来”を描いてきた『機動警察パトレイバー』。舞台を2030年代へと移した最新作『機動警察パトレイバー EZY』では、新たな特車二課のメンバーたちが活躍する一方で、かつてのキャラクターたちも“歳を重ねた姿”で登場する。
5月15日のFile 1公開を記念して、最新作の制作秘話から気になるキャラクターや世界観について出渕裕監督にインタビューを実施。
なぜ今、新世代の『パトレイバー』を描くのか。AIやSNSが当たり前になった時代に、人がレイバーに乗る意味をどう捉えているのか。そして、『EZY』で描きたかった“これからのパトレイバー”とは――。
ファン歴38年の担当ライターが出渕監督に様々な角度から質問させていただいた。
「キャラクターも、みんな歳を重ねている」――2030年代の『パトレイバー』と新たな特車二課
――監督として、あらためて令和の時代に『パトレイバー』を作る上で意識されたことはどんなことでしょうか?
出渕:『パトレイバー』という作品はリアルタイムで常に少し先の未来を描いてきた作品なので、制作している我々も、昔から『パトレイバー』を見てくださっているみなさんも、そして作中に登場するキャラクターたちもみんな歳を重ねているんですよね。昔のキャラクターをずっと好きでいてくれる方もいらっしゃると思うし、彼らの当時の姿のままでの活躍を望まれていた方もたくさんいると思うんですけど、2030年代の世界で、彼らは、おじさんやおばさんになっているし、中にはおじいちゃんになっている人もいますよね。そんな彼らが、登場する『パトレイバー』でいいのかなと。だから、彼らは出てくるけど、ちゃんと年齢を経た姿で出てくる。その上で、あくまで主役は若い新たな第二小隊のメンバーたちにしたいと思ったんです。彼らを主役に据えた上で、どれだけ魅力的なキャラクターとして描き、劇中で活躍させることができるのか、という部分は意識しました。
もちろん、昔からずっと『パトレイバー』を好きでいてくれるみなさんが旧作のキャラクターのその後を知りたいという気持ちで『EZY』に期待してくれている、ということもわかります。だから、実際、第3話に太田と進士が登場していますが、ゲストとして「歳を取った姿」で登場してもらおうと思ったわけです。永遠の少年、永遠の少女、永遠のかっこいい人たち、ではないかもしれないけれど、皆さんと一緒に歩んで、キャラクターも同じように歳を重ねていく――それを目撃できるように作りました。
30年という年月が経っているからこそ、「みなさんと一緒に歳を重ねたキャラクターたちと出会う」という、なかなかできない体験を提供できたのかもしれません。
――新しい第二小隊が主役で旧作のキャラクターたちはゲストとのことですが、2016年に『機動警察パトレイバーREBOOT』が公開されたとき、「『パトレイバー』のフォーマットを別のキャラでやっても、全然面白いな」と感じました。『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』(実写版)もありましたが、実写は元のキャラクターをなぞったようなキャラクターになっていたと思います。一方で『REBOOT』は、吉浦康裕監督がメインでキャラづけをされたと思いますが、これまでとは全く違うキャラクターが登場していました。林原めぐみさんが演じた隊長は『EZY』での隊長・佐伯貴美香のモデルにもなっていると思いますが、やはり後藤隊長とはちょっと違う感じがしました。そういう意味で『REBOOT』からの流れが、ビジュアル的にも『EZY』に影響を与えている部分もあると思いますが、新しいキャラクターを使って、この『EZY』でどんなことを描こうと考えられていたのでしょうか?
出渕:「新しいキャラクターでどんなことを描くのか?」というよりも、キャラクターって動かしていくうちに、勝手に動いてくれちゃうんですよ。育っていくというか、自分で主張し始めちゃうところがあるので、そこはあまり心配せずに作ることができました。
実際、8本やってみると、キャラクターが勝手に主張してくる時はあるし、「もっとこう主張させたほうがいいな」というのも感じることもありました。特に、声優さんの声が入ると、「今後展開していくときは、こんな風に育てていこう」みたいな教育方針のようなものも見えてくるわけです。
最初の頃はもう小さすぎてわからない、子供すぎてわからないというキャラクターが、なんとなく「こうやって教育していくと、いい子に……いや、逆にいい子じゃなくて、はみ出しっ子になってほしい」みたいな。どちらかというと、はみ出しっ子になってほしいんですけどね(笑)。
「次はこう育てていこう」――アフレコ現場で生まれるキャラクター像
――舞台挨拶のときに上坂すみれさんが「演じているうちに太田さんの気持ちになってきた」とお話されていましたよね。
出渕:十和を太田にしたいわけではないんですけれどね(笑)。太田のような一面も感じられるキャラクターなのかもしれないし、上坂さんが「こっちは警察だぞ!警察!」みたいなアドリブを入れてくれたことは、それはそれでいいかな、と。
――声優さんの演技に関するお話ですと、例えば後藤隊長の大林隆介さんの演技は、今あらためて見返してみると『アーリーデイズ』(初期OVAシリーズ)のころは、クールな印象で、それがだんだん柔らかくなっていって、今の後藤隊長が出来上がったように感じました。
出渕:大林さんが後藤というキャラクターを掴んだんでしょうね。あの雰囲気が出来上がったのは、たぶん劇場版1作目のあたりじゃないですかね。『アーリーデイズ』の前後編(5話と6話「二課の一番長い日」)ぐらいのところで掴まれたんだと思うんですけど、大林さんの演技によって後藤というキャラクターが完成した感じですよね。
――『EZY』でも声優さんの演技でキャラクター性が変わっていったキャラクターはいるのでしょうか?
出渕:「変わっていった」というか、「変えていきたいな」というのはあります。声優さんと僕らのキャッチボールみたいな感じですよね。「次に作るときはこういうキャラクターにしていこう」みたいな想いは生まれましたね。
例えば小林親弘さんに演じていただいた間昭彦は、もうちょっと真面目というか――キャラクター紹介でも「第二小隊の名調整役」ということになっているんですけれど、こんな飄々とした演技は想定していなかったんですよ。「この人、もしかして隊内で一番とぼけてるんじゃないか」みたいな。それこそ、どんな出来事に対しても「事も無げ」といったスタンスで接するようなキャラクターをイメージしていたんですが、小林さんの演技が、どんな出来事に対しても「よっこいしょういち」みたいな飄々とした感じであたるキャラクターにしてくれたんですよね(笑)。本当にいい雰囲気のキャラクターにしてもらったので、ありがたいです。
打ち上げ花火では終わらせない――出渕裕が語る『EZY』のこれから
――先ほど『REBOOT』についてお話させていただきましたが、『アーリーデイズ』から『パトレイバー』を追いかけてきたファンとしては、『アーリーデイズ』から劇場版が作られて、テレビシリーズが放送されて、1993年に『機動警察パトレイバー2 the Movie』が公開されたことで、『パトレイバー』は一区切りを迎えたように感じていました。それだけに『REBOOT』が作られたことは嬉しく思いましたが、あらためて、今、メンバーを入れ替えてもう一度『パトレイバー』を作ろうと思われたのは、どんなきっかけからだったのでしょうか?
出渕:みんな「やりたい」って言うから(笑)。いや、おっしゃるように、僕は「パト2で本筋は終わってるじゃん」って思っていたんですよ、『パトレイバー』って。「基本的に実際の時代と並走している、常に近未来――10年後くらいを描いている作品」ということで2030年代を描くとなると、昔の特車二課のメンバーたちがまだあそこの埋立地に残っているということは、あり得ないんですよ。定年もそうですし、移動だってリアルに考えればありますし、それにあの人たちの気質だったらとっくに警察辞めているんじゃないか、とか。だったら新しいメンバーでやるしかないだろう、と。
――先ほどのお話につながる部分ですね。一方で『EZY』 を作ったことで、新しいメンバーでまだまだ『パトレイバー』を作っていけそうですね。
出渕:そうですね、作れると思いますし、作りたいですよね。せっかく、再始動して8本で終わっちゃうのはちょっと、ね。「やるぞ!」って打ち上げ花火をあげて、一発で終わって、あとは線香花火みたいにしゅんっと終わっちゃうのは良くないと思うんですよ。
――『アーリーデイズ』を追いかけていた当時、6話までリリースされて、7話や劇場版に繋がって行きましたが、『EZY』も8話までの公開を経て、さらに大きくなってくれたら嬉しいです。
出渕:大きくしていきたいですね。ただ、劇場版の1作目や2作目みたいな作品は、作りにくくなってますね。重たくない映画なら作れるかもしれないけど……。劇場版の1作目や2作目、それに『WXIII』などを見てきたみなさんからすると「『パトレイバー』の映画はヘビーなもの」と考えちゃうと思いますが、今、あらためてああいった作品を作るのはなかなか難しいですね。とは言いつつ、もし突破口が見つかればやれるかもしれないですけど。
「心情として“正義の味方でありたい”だけ」――出渕裕が語る警察像
――『アーリーデイズ』の5話や6話、劇場版の1作目や2作目は公務員という枠組みを越えて、後藤さんが動いていたお話だと思いますが、『EZY』のキャラクターが自分たちは「正義の味方だ」という思想をもって、国家を揺るがすようなレベルの事件に相対する物語は作りづらいということでしょうか?
出渕:「作りづらい」というか、やると嘘っぽくなっちゃうというか。特車二課って警察ではあるけど捜査権はありませんしね。警察だけど事件に絡みにくいというか、何かしらの媒介があって絡んでいくしかなくて。あと、彼らの「正義の味方」っていうのは思想じゃないんです、あれは。心情として「正義の味方でありたい」というだけで。
“女性版[有町1.1]シゲさん”寺田くるみと、十和&桔平の“絶妙な距離感”――File 2の注目ポイント
――公開されたFile 1では、1話で『パトレイバー』の王道ともいえるレイバー犯罪への対処をSNSを絡めた形で描き、2話では妄想ではありましたがレイバー戦が描かれ、3話は映画撮影のお話と、バラエティ豊かなエピソードを楽しませていただきました。File 2の公開も楽しみですが、File 2で注目してほしいキャラクターは誰ですか?
出渕:整備班の寺田くるみですかね。くるみって、要するに『EZY』版の斯波繁夫なんですよ。女性版のシゲさん(笑)。キャラのポジションとしては、とても使いやすいし、とても膨らませやすい。くるみが使いやすいキャラになった一方で班長の齋藤陽一は埋没していっちゃったんですけどね。班長なんだけど、そんなに目立たない班長みたいな(笑)。
―― File 2で気になることといえば、十和と桔平の関係性も気になります。File 1では野明と遊馬のように「フォワードとバックアップは一心同体」と言えるほどの関係性は感じられませんでしたが、物語を追っていくうちに、二人の関係性も変化して行くのでしょうか?
出渕:変化していくと思いますよ。変化したように見えて、また元に戻っているような気もしますが(笑)。
File 2ではちゃんと二人の関係性も描かれます。第6話『恋のサバイバル』は、ある意味で(NEW OVA第12話)『二人の軽井沢』みたいな感じですからね。いや、『二人の軽井沢』とストーリーそのものは全然違うんですよ。違うんだけど、孤立した二人になっちゃって、雨が降って……って、雨も同じか。台風じゃないんですけれど、二人でなんとかしなきゃいけないというところで、お互いの過去が描かれます。なんていうんですかね、絶妙な距離感みたいなものが、面白く描かれていると思うので、楽しみにしていてください。
『バビロンプロジェクト』はどうなった? 『EZY』における世界設定の裏側
――続いて、設定についてお聞かせください。1980年代後半に、当時から見ての近未来である1998年を描いて、『EZY』では2030年代を描いていますが、2030年代の『パトレイバー』の世界を描くにあたって、大切にしたポイントはありますか?
出渕:常に近未来――10年後、今回は7年後ぐらいか――を描くと言っても、基本は現代なんですよね。下手な未来予測をすると、すぐに現実に追いつかれちゃうんです。『EZY』の企画が動きはじめた時、伊藤さんから「AIをテーマにしようか」という話が出たこともあったんですよ。今になって思うと「やらなくてよかったな」と。当時の予想で下手にAIを犯罪に絡めて何かやっていたら、2026年の今よりも古いAIの描き方になっていたと思うんです。
――劇場版1作目の頃だと、あの当時、OSの話は最先端でしたし、数年後にPCが身近なものになって、OSも身近な存在となり、間違いなく近未来が描かれていたと思います。
出渕:当時はテクノロジーの進化も現在ほど早くなかったし、劇場版の1作目は1年で作っていましたから、リアルタイムで最新の話題を描けたというのもありますね。
――設定についてもう少しお聞かせください。旧作ではレイバーが存在する理由として「ハイパーテクノロジーの急速な発展」とともに、東京を襲った直下地震からの復興と、東京湾に大堤防を建設する『バビロンプロジェクト』により、レイバーが普及したという設定が存在しましたが、2030年代の世界で『バビロンプロジェクト』はどうなっているのでしょうか? すでに完遂されているのでしょうか?
出渕:『バビロンプロジェクト』は実は「完成させちゃいけないプロジェクト」なんですよ。東京湾を干拓するわけですからね。生態系もおかしくなるだろうし。『バビロンプロジェクト』というのは、レイバーが存在する未来を描く方便だったんですよ。劇場版1作目の時には方便として使いながら根幹にも関わってくる、いい形で機能したんですけれどね。
劇場版2作目になると押井さんは『バビロンプロジェクト』なんて一言も言わないどころか、上空から東京湾を眺めたときに、その痕跡も一切ないんですよ。押井さんとしては、「そういうものは忘れる」ということなんでしょうね。でも、設定としてはあるわけだからしょうがない。だから僕は『バビロンプロジェクト』は、頓挫したと思っています。途中で頓挫したか縮小して、「環境に優しいプロジェクトに変えよう」となったけど、結局は無理で名残だけ残っているといった感じでしょうか。
ツールは変わっても、人間は変わらない――『EZY』が描く“人間”の物語
——『EZY』ではレイバーにAIが搭載されていますが、AIに熟練者がアナログでレイバーを操作して勝利する展開も期待しています。
出渕:うーん、作劇的にはよくある作り方なんですけどね。一歩間違えると見ている人に「精神力で勝てる」という、誤った考え方を植えつけちゃうかなと。それに、作品としてはそれでもいいんですけど、どうしても嘘くさくなってしまう。なかなかそれが通用するような時代でもなくなってきていますよね。ただ、ツールが新しくなっても、人間そのものは基本的に変わらないと思うんですよ。考え方として変わってきている部分はあるのかもしれないけど、本質は変わらない。そんな人間ドラマを『パトレイバー』的な視点で見せていけるんじゃないかと。キャラクターのドラマをいろんな形で展開できるフォーマットとして『パトレイバー』という仕組みを機能させれば、まだまだ結構面白く作れるんじゃないでしょうか。今回の8話はそういう形で作っているつもりなので、これから続くとして、どういう形で続けられるのかと考えた時、個人的には1話完結のシリーズとして続けていくのがいいのかなと思います。
――1話完結のオムニバスアニメが少なくなってきた今、どんなジャンルのお話も内包できる『パトレイバー』のフォーマットは貴重ですね。
出渕:少なくなりましたね。『EZY』の公開を記念して実施された旧作を毎日配信する『毎日パトレイバー』でも初めて『パトレイバー』に触れてくれた若い人たちがたくさんコメントしてくれており、オムニバスならではの良さみたいなものが感じられました。当時からのファンの方々がコメントで解説をしながら「怖がらなくていいよ、僕たち怖いファンじゃないよ」といった感じで、若い方に接していたのはほほえましかったですね(笑)。
――『EZY』も『毎日パトレイバー』の時のようにみんなと一緒に見たい作品だと思いますので、配信などで世界中の人と一緒に見られる機会も楽しみにしております。本日はありがとうございました。
出渕:ありがとうございました。
『機動警察パトレイバー EZY』File 1は好評公開中
『機動警察パトレイバー EZY』File 2は8月14日(金)公開予定
© HEADGEAR / 機動警察パトレイバー EZY製作委員会
(執筆者:斎藤ゆうすけ/90年代のアニメとゲームを愛するライター。系放送作家&シナリオライターとしても活動。ゲームやアニメ、小説や漫画原作などシナリオの企画・制作も多数担当。専門学校でメディア論やシナリオ講座の講義も。https://x.com/saito_you)

