ナチスによって退廃芸術とのレッテルを貼られ、消失したと考えられていた芸術作品、1500点余りが、2011年に税捜査局により、ミュンヘンのマンションから押収されていたことが明らかになった。作品の作者には、ピカソ、マチス、フランツ・マルク、クレー、ムンクなど、錚々たる名前が並ぶ。所有者は、コーネリウス・グルリット。彼は、父、ヒルデブラントからそれらを受け取ったとされている。2011年当時、この押収劇は秘密裏に行われ、その後も秘匿されてきたが、その理由は不明だ。
これらの作品群は、コーネリウスのミュンヘンにおけるマンションに隠されていた。その住居は暗く、ごみで溢れ、それらの間に、想像もできないような貴重な芸術作品が雑然と置かれていたのだ。息子であるコーネリウスは、父の残した絵画作品を売って生活の糧としていたらしい。というのは、ミュンヘンの住居から、絵画が取り外された額縁なども発見されたからだ。
2010年9月、コーネリウスはスイスからミュンヘンへ向かう電車の中で、偶然、検閲にかかり、その際、120万円程度を所持していたため嫌疑を掛けられた。そしてミュンヘンの住宅が捜索され、作品群の発見に至った。
では、これらの作品は、どのようにして、ヒルデブラント・グルリットの手に渡ったのだろうか。詳細は現在も捜査中であるが、以下のような事情によるらしい。
彼は、ドイツの美術館やユダヤ人が所有する退廃芸術作品を海外に販売する権利をナチスから許可されていたのみでなく、2万点にも及んだベルリンの退廃芸術作品保管庫への自由な出入りを許可されていた。また、占領下のフランスにて、リンツに計画されていた「総統美術館」への展示物を購入していた。それらは大部分がユダヤ人の所有物であった。加えてドレスデンの絵画美術館の館長であり、「総統美術館」計画に関与していたヘルマン・フォスと密接な関係にあった。
一方で、ヒルデブラントは、戦後、連合国からナチスの被害者とみなされた。戦時中には多くのユダヤ人を助け、逃亡資金を援助していた。そして、ドレスデンの絵画保管庫も空襲により焼失したと主張した。結果として、彼は、近代芸術の保護者となった訳だ。
今回押収された美術品の価値は、10億ユーロに相当するという。
Focus、Sueddeutsche-Zeitungを参照