▲(写真:photo AC)
連日報道されるカスハラ関連のニュース。
「お前のせいだ、土下座しろ!」
「お客様は神様だろう!」
「言う通りにしないと殺すぞ!」
暴言の他にも、モノを投げられたり、暴力をふるわれたり。想像をはるかに超えたカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)がお店の中で次々と起きています。
どのようなに対応することが正解なのか?
ハードクレームやカスハラへの正しい対策について、某大手中古本・中古家電販売のチェーンでの百戦錬磨のカスハラ対応経験をもち、先日『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』を上梓した津田卓也氏に聞いてみました。
「できないなら土下座して謝れ」と強要される
▲(写真:photo AC)
――津田先生の研修先の企業で実際にあったカスハラ事例を教えてください。
津田:
旅館での事例です。あるお客様から「上階の利用客がうるさいので、代わりの部屋を用意しほしい」とのクレームを受けました。スタッフはお詫びをして別の部屋を用意しました。しかし翌朝、同じお客様はお怒りの様子で「隣の部屋の利用客がうるさくて眠れなかった」とスタッフに詰め寄ります。その日は連休中で空き部屋が少なく、両隣が空室の部屋を用意できなかったと丁寧に説明してお詫びしました。けれどもお客様の怒りは収まらず「どうして両隣も空室の部屋を用意してくれなかったんだ、睡眠不足で体調が悪くなったので宿泊代を安くしろ」「できないなら土下座して謝れ」……と要求がエスカレートしていきました。
最終的にはスタッフが土下座することでその場を収めることになりました。
――土下座……。いまどき本当にあるんですね。たしかに旅館やホテルといえば「おもてなし」文化の代表格となっていて、お客様の要求を断りづらそうなイメージはあります。
津田:
これまでは旅館業法により、特別な場合を除いてお客様の宿泊を拒否することができませんでした。そのため、「旅館のスタッフには多少の無理を言っても構わないだろう」という客側の意識もありました。しかし、この旅館業法は2023年12月改正されて、今回の事例のようなお客様の要求を拒否することもできるようになりました。
「殺すぞ」「土下座しろ」などの言葉が出てくればカスハラ
――理想の空き部屋が用意できなかったことはスタッフの落ち度ではないのでこのクレームは理不尽に思えますね。では、この要求にはどのように対応すればよかったのでしょうか。
津田:
まずは目の前のお客様の要求をよく聞き、「お客様対応モード」として真摯に対応すべき内容なのか否かを判断しましょう。要求の内容に正当性がない場合には「ハードクレーム対応モード」に切り替えて、毅然と断ってしまいましょう。
――お客様の要望でも、はっきりと断ってしまっていいのですか?
津田:
はい。従来のような「お客様は神様なので真摯に対応すべき」というスタンスでは、カスハラやハードクレームには対処しきれません。もちろん、お客様の要求内容を見極められるというのが大前提ですが。
――お客様の要求内容から「お客様対応モード」と「ハードクレーム対応モード」のどちらをとるべきか、見極める方法が知りたいです。
津田:カスハラチェックリストや分類表を作成しましょう。たとえば、「殺すぞ」「バカヤロウ」「土下座しろ」などの言葉が出てくればカスハラと判断できるという基準をつくり、それに該当する言動をとる場合には「ハードクレーム対応モード」に切り替えて毅然とした対応をとりましょう。
「声のボリュームを上げる」ことが重要
――お客様の要求を断るときには、どのようなことに気を付けると良いですか?
津田:
まずはお客様の気持ちに寄り添っているということは示しつつ、要求内容には答えられないとはっきり示すことが必要です。たとえば、「お時間をとらせてしまい申し訳ございません」「ご迷惑をおかけしており申し訳ございません」など部分的に謝罪することで、怒りを和らげることができます。そして、丁寧に対応しているという姿勢は崩さずに毅然とした態度をとるときのコツは、「声のボリュームを上げる」ことです。
津田:
お怒りのお客様に対して小声でボソボソと対応していると、相手からは「コイツは弱そうだな、もっと強く言えば要求が通るかもしれない」と思われ、つけ込まれます。
それを防ぐために、相手の声量に合わせてこちらも声を大きくして対応することです。これは意識してさえいれば簡単に実践できる上に相手の勢いを削ぐ効果が高く、私の研修受講生たちにも好評なテクニックです。
――相手の話すペースに合わせて声量を変える。これは接客業以外にも応用できそうですね。今回の事例のような土下座を要求された場合にはどうすればいいのでしょうか。
津田:
要求に対応できない旨を説明しているのにも関わらず土下座を迫る行為は「強要罪」にあたります。スタッフの対応に非がない場合には、「お客様の行為は強要罪にあたります、続けられる場合は警察に相談することになります」などはっきりと法的な対応に移行する姿勢を示しましょう。
津田:
その他、スタッフへの攻撃的な発言は「侮辱罪」や「脅迫罪」にあたる可能性があります。お客様から身の危険を感じるような言動をとられた際には、対応の様子を録音・録画しておくのがよいでしょう。
――ありがとうございました。次回は組織全体で行うべきハードクレーム対策についてお聞きします。
次回つづく
津田 卓也 氏 プロフィール:
株式会社キューブルーツ(Cube Roots)代表取締役
1995年ブックオフコーポレーション株式会社に入社し、2000年にはブックオフコーポレーションの年間MVP獲得。2005年にセミナー&研修会社キューブルーツを設立。特に、OJT(部下指導)研修・メンタルヘルスマネジメント研修・クレーム対応研修は、国内随一の登壇実績を持ち、2023年にはセミナー受講者数が15万人を突破。メディアでも活躍し、フジテレビ『バイキングMORE』、テレビ東京『解禁! 暴露ナイト』、テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』、NHK『あさイチ』等に出演。執筆活動にも力を入れており、雑誌では『日経ビジネスアソシエ』等にも寄稿。著書に『どんなクレームも絶対解決できる!』(あさ出版)、『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)など。