政府が閣議決定した第2期教育振興基本計画。その中で、留学中である私が注目したのは“グローバル人材等の養成”という部分だ。2020年を目途に日本の海外留学生数を倍増させることや、留学経費の支援や情報提供を強化し、就職時期の見直し等による留学しやすい環境を整備することなどが盛り込まれている。私のいる大学に限らず、アメリカでは日本人留学生は韓国人留学生や中国人留学生に比べて圧倒的に少数で、多くの日本人留学生が帰国後の日本での就職活動に不安を抱えていることを考えると、これは大いに効果を発揮しうると言えるだろう。
一方、英語圏への留学の基礎となる英語力に関してはどうだろう。本計画は学生や英語教員の英語力の向上にも言及しているのだが、政府の目指す方向性では日本の英語教育が抱える根本的な問題点が改善されないように思える。それは、英会話力、特にスピーキングだ。私自身、アメリカに来て他国の留学生の話すスピードや発音の流暢さに圧倒されることは多く、文法や語彙力では圧倒的に日本人留学生の方が勝っているのだが、会話という部分において日本人留学生は劣っていると言わざるを得ない。読み書きでは勝っているので一長一短と言ってしまえばそれまでだが、発音や英語のスピーキングが日本の英語教育が長年抱えてきた根本的な問題であることには間違いない。
なぜ日本人はスピーキングに弱いのか。大学入試制度など、様々な要因が考えられるが、私は、日本の英語教育が“大学において学術的な英語の論文を読む、書くこと”を長らく最終目標にしてきたことと、そのことにより“英語を流暢に話せる教員が少ないこと”がその一因ではないかと考えている。文部科学省が平成23年度に公立中学校・中等教育学校前期課程の常勤英語教諭を調査した結果によると、外国人教員や海外経験を積み高度な英語力をもつ日本人教員の採用状況は、全国で英語科教諭27,633人中1,802人。つまり、常勤教員に限っていえば、わずか6.5%しか、高度な英語力をもつ英語教員がいないことになる。スピーキングが苦手な英語教員の下で、流暢に英語を話す人材が育つとは考えにくい。
では、今回の教育振興基本計画では示された目標は、現状を改善しうる一手になるのだろうか。政府が掲げた数値目標では、英検準1級、TOEFL iBT80点、TOEIC730点以上を達成する英語教員の割合を、中学50%、高校では75%にするということが掲げられている。日本英語検定協会によると、英検準1級というのは大学中級程度で、社会生活レベルで求められる英語を十分理解し、使用できるとされている。2次試験にスピーキングもあるので、ある程度の英会話はそつなくこなせるといったレベルだろう。TOEFL iBT80点というのはアメリカの一般的なレベルの4年制大学への入学に必要とされる英語力で、内容は主にアカデミックな表現や語彙が目立つ。スピーキングのテストもあり、英検準1級と同様に難易度は高めだが、流暢というには程遠い。TOEICは主に就職活動や社会人が利用することで知られ、ビジネス分野での活用が目立つ。730点は簡単にはとれないのだが、そもそも一般的なTOEICにスピーキングは含まれていない。つまり、この目標設定では“高度な英語力”というには程遠いのである。
そして、日本の教員免許取得条件自体が、この英語教員の質が低い要因になっていることにも言及しておきたい。先に示した1,802名の高度な英語力をもつ教員のうち、外国人教諭はたったの2名だが、これは日本の教員免許は日本国内の大学を卒業した者でないと取得できないことが理由だ。そして、これは日本人留学生にもあてはまる。海外の大学を卒業しても、日本の大学に入学し直さないと教員免許が取得できないのだ。私の友人に日本で英語科の教員になりたいという日本人留学生がいるが、彼女はアメリカ留学を2年で切り上げて、日本の大学の3年生に編入することを模索している。日本の教育制度自体が、高度な英語力をもつ英語教員になりたいという彼女の夢を制限してしまっているのだ。
グローバリゼーションの時代と言われて久しい現在、国際社会で活躍するグローバルな日本人を育成するためには、留学を支援することと併せて、英語教育の根本的な見直しと教育制度そのものの改革が必要なのかもしれない。