人気漫画『セクシー田中さん』の作者として知られている漫画家・芦原妃名子さんが、漫画の実写ドラマ化に際して苦悩したのちに亡くなったと報じられている。亡くなった理由として確定した情報はないが、ドラマ内容に苦悩していたことが知られており、その影響が強くあったのではないかと言われている。
佐藤秀峰先生がドラマ化や映画化をした際の出来事をコメント
人気漫画家の佐藤秀峰先生は、『海猿』や『ブラックジャックによろしく』、そして『Stand by me 描クえもん』で人気を集めているカリスマ的漫画家。その彼が、かつて『海猿』のドラマ化や映画化をした際の出来事をコメントし、多くの人たちが注目している。
佐藤秀峰先生「作品が自分の手から奪われていく感覚がありました」
佐藤秀峰先生は『海猿』の映画化の際「作品が自分の手から奪われていく感覚」があったそうだ。そのときの心情をnoteに公開した佐藤秀峰先生。けっこうな長文なので、一部引用として掲載したいと思う。全文はnoteにてお読みいただきたい。
<佐藤秀峰先生のnote引用>
作品が自分の手から奪われていく感覚がありました。
「漫画と映像は全くの別物である」と考えました。
そうしないと心が壊れてしまいます。映画はDVD化されてから観ました。
クソ映画でした。
僕が漫画で描きたかったこととはまったく違いました。しかし、当時はそうした感想を漏らすことはしませんでした。
たくさんの人が関わって作品を盛り上げている時に、原作者が水を指すのは良くないのかなと。
自分を殺しました。こうして僕は映像に一切文句を言わない漫画家となりました。
一方、出版社への不信は募ります。
何も言わないことと、何も不満がないことは違います。言えることは、出版社、テレビ局とも漫画家に何も言わせないほうが都合が良いということです。
出版社とテレビ局は「映像化で一儲けしたい」という点で利害が一致していました。出版社はすみやかに映像化の契約を結んで本を売りたいのです。
映像化は本の良い宣伝になります。
だから、漫画家のために著作権使用料の引き上げ交渉などしません。
漫画家の懐にいくら入ったところで彼らの懐は暖まらないのです。
それより製作委員会に名を連ね、映画の利益を享受したい。
とにかくすみやかに契約することが重要。
著作権使用料で揉めて契約不成立などもっての外。テレビ局はできるだけ安く作品の権利を手にいれることができれば御の字。
漫画家と直接会って映像化の条件を細かく出されると動きにくいので、積極的には会いたがりません。
出版社も作家とテレビ局を引き合わせて日頃の言動の辻褄が合わなくなると困るので、テレビ局側の人間に会わせようとはしません。漫画家の中には出版社を通じて映像化に注文を付ける人もいますが、出版社がそれをテレビ局に伝えるかどうかは別問題です。
面倒な注文をつけて話がややこしくなったら企画が頓挫する可能性があります。
出版社は、テレビ局には「原作者は原作に忠実にやってほしいとは言っていますけど、漫画とテレビじゃ違いますから自由にやってください」と言います。
そして、漫画家には「原作に忠実にやってほしいとは伝えているんだけど、漫画通りにやっちゃうと予算が足りないみたい」などと言いくるめます。
引用:佐藤秀峰さんnote エントリー「死ぬほど嫌でした」より抜粋
https://note.com/shuho_sato/n/n37e9d6d4d8d9
— 佐藤智美 (@tomo_mi_el) February 2, 2024
主演俳優「原作者? しゃべんなきゃダメ!?」
映画『海猿』は4作まで作られるほどの大ヒット。その撮影の際、主演俳優と挨拶する機会があったらしいが、「原作者? しゃべんなきゃダメ!?」と吐き捨てられたという。
驚くほど嫌な対応ではあるが、そんな言葉を吐き捨てられるほど原作者はどうでもいい存在なのだろうか。原作ファンとしては、信じられない原作者に対する扱いである。なにより、映像化が進むことで原作者が「蚊帳の外」状態になっているようにも感じた。また、佐藤秀峰先生は以下のようなコメントもしている。
<佐藤秀峰先生のnoteコメント>
「他の漫画家がどんな目に遭っているかは知りません。だけど、そこにはブラックボックスがあります。それが良いほうに機能する場合もあれば、悪いほうに機能することもあるでしょう。作家のためを思って働いてくれる編集者もいるでしょう。誠実なテレビマンもいるはずです。不幸なケースもあれば、幸せなケースもあると思います。芦原さんについて「繊細な人だったんだろうな」という感想をいくつか見かけました。多分、普通の人だったんじゃないかと想像します。普通の人が傷つくように傷つき、悩んだのだと思います。」
どんな人も救われる作品作りになるとよいが
亡くなった芦原妃名子さんに対する「普通の人が傷つくように傷つき、悩んだのだと思います」という佐藤秀峰先生の気持ちも、深く心に突き刺さる。戦える人もいれば、委縮する人もいるし、消えようとする人もいる。どんな人も救われる作品作りになるとよいのだが、それはありえない話だろうか。
※冒頭イメージ画像はフリー素材サイト『写真AC』より