マクドナルドと吉野家に見る低価格路線の終焉

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牛丼一筋80年。1979年のTVCMに流れた歌を覚えている人も少なくなった。

明治23年から続いた吉野家が、一杯280円の低価格路線を打ち出し、他の飲食店のビジネスモデルとして、華々しい復活を遂げたのも、ずいぶん久しい話題である。

そもそも外食チェーンというのは、安さを売りにする商売ではなかったのだ。しかし低価格帯にする前の吉野家は瀕死の状態だった。なにしろ牛丼の種類は、並盛り、大盛りといった量による区別しかなかったからだ。あんなにシンプルなメニューで勝負するのは、むしろラーメン屋であり、天ぷら屋ですら丼以外のメニューはあるぐらいだ。

しかし、かつて復活した吉野家に待っていたのは、もっと深刻なBSE問題だった。株式会社吉野家ホールディングスが、多角経営に舵を切るきっかけを作った事件でもある。主軸となる牛丼チェーン店において、ブランドイメージを失わないために、主力商品を販売休止にするなどは、当時の外食チェーン店の経営方針では異色である。

この決断は、かつて失敗学の著者、畑村洋太郎出演のTV特集であったように、失敗から学ぶ理想のビジネスモデルだった。主力商品を生産ラインから外すというのは、どの企業であっても暴挙でしかない。しかし株式会社吉野家はそれを選んだ。

それは逆に話題を呼び、当時それほど関心の高くない、ビジネスマンや学生以外の客層まで巻き込んで、”吉野家終焉ブーム”を作り上げた。正にBSE問題を逆手にとったマーケティングである。それにより、一層”吉野家復活劇”を期待する、隠れた市場を潜伏させることに成功したわけだ。完全にメニューから”牛”という文字を取り去った吉野家は、それでもブランドイメージを守るという理由を、吉野家の味を守るという戦略で挑戦した。

最初に280円の低価格で復活を遂げたと書いたのは、実は300円台の牛丼を提供するチェーン店がスタンダードな時代が長く続いたからだ。マスメディアも何故かそれは取り上げない。それどころか、今回の吉野家の方向転換を「価格競争が激化する」などと煽っている。ずいぶんと若いジャーナリストばかりなのか、過去を知らないのだ。

よく考えて欲しい。TPPが現実化した今、マクドナルドは原材料高騰を理由に、値上げを打ち出している。今現在、値下げ路線が収益に貢献すると踏んでいる経営者は、飲食チェーン店には少ないだろう。なのに敢えて、300円台を振り切って”値下げ”というかつての価格帯に戻したのを、低価格帯激化の兆候と見るのは、予測があまりに短絡的だ。

少なからずここに、そういうマスメディアと全く逆のことが言えるはずだ。低価格時代はついに終焉を迎えたのだ。旨い安いを復活させるという意味は、かつての価格に戻しても安いと思わせる時代が来たということなのだ。適正価格というグローバルスタンダードが到来したときこそ、本当の低価格は威力がある。モノの値段は原価以下には下げられないからだ。もし、原材料が安くなるなら、価格を据え置くこと。利幅を原材料変動に合わせるのは、経営としてあまりにもお粗末だ。それでは、商品価値が失われてしまう。100円で提供された商品は、150円になろうと消費者の価値は、依然100円のままだ。値上げの実感は固定客の足を遠のかせるはずだ。

つまり価格競争の存在する市場の波に、自社主力商品を流さなかった点が、吉野家が多角経営で数々の失敗から学んだ、ブランドの守備方法だったわけだ。従い280円は彼らにとって値下げではない。今が適正になると踏んでスタートしたわけだ。敵は、さすがにもう価格を限界まで下げてしまった。メニューも豊富で、売る商売が同じなら、結局同じパイを食いつぶして自滅するのを待つばかりだ。

吉野家は復活宣言の時、当時の価格帯よりも100円高い主力商品を提供しても、ブランドの力によって売れるはずと見込み、そして成功した。その後、他の企業は次々と時代の潮流に逆らえず、低価格帯を打ち出し、物量とシェアで一人勝ちしようともがいた。「我々は味で勝負する」という安部修仁 現吉野家ホールディングスの会長は、実は非常にしたたかな経営者でもある。他が店舗を拡大する状況の中で、彼らは整理整頓を行った。

吉野家の路線を、他店への追撃と書く記事もある。しかしよく考えて欲しい。仮に一杯180円の牛丼が販売できたとしても、もう外食チェーンは今がほぼ息切れ状態なのだ。どこまで自動化しても、最後は収益から人材、インフラ、店舗を削るしか方法がなくなる。伸びしろはもう残っていないはずだ。

そうした意味ではマクドナルドがいい好例だ。つまり、マクドナルドのキャラクターのあのピエロ、ドナルド・マクドナルドがCMに登場しなくなってから、マクドナルドは昼食メニューのひとつになったが、それはワンコインでなんとか腹持ちの良い昼食にありつける、ジャンクフードに成り下がった結果がもたらしたものだ。もう値上げ以外の手段がない。低価格を維持するために、やれる手段は出し尽くしてしまったからだ。

価格を引き上げるというのは、普通ならリスクと解釈するのが、マトモな経営者判断なはず。安易に変更するものではない。判断を誤ればブランド力ごと価値を失う。市場予測を見誤った経営者は、市場から退場する羽目にこれからは見舞われるはずだろう。既に価格破壊はダイエーの没落と共に、商売では終わった話なのだ。現在は効率という名の就労コントロールによって、より少ないコストで差益を生んでいるだけだ。適正価格に戻せば、全てが吹っ飛んでしまうだろう。金利による為替差益だけで、経営が順調になれるほどグローバル時代は甘くない。

店舗数を増やし、低価格帯商品を多量に発注し、圧倒的物量で市場に投入するために、犠牲にしたものは何かを考えればわかるはずだ。

限界まで価格も人材も削ってしまったスタイルは、シンプルで俊敏かもしれない。だが、それも外資系企業ならまだいいだろう、収益は自国の通貨に変えられるからだ。だが逆はかなり厳しい状況になりつつある。もう日本を出て他のマーケットを目指すしかない。可哀想だが、更に厳しい価格競争が存在する、低所得者の世界を目指し放浪するしかない。それが先進国であれば、斜陽にあえぐ国であるだろうし、そのマーケットに充実した安定収入のある所得者は少ないはず。

そうしたマーケットでは、もう”勝つ”ことが難しくなってきたのだ。

恐らく、他社の期間限定値引き競争も、もう長期にわたって継続するのは無理だろうということぐらいは、吉野家の経営陣は知ってるはずだ。彼らは値下げしたのではない。時計の針を戻しただけなのだ。

会社員やってましたが、自宅にてIDSネットワークを組むことにしたので自宅ワーカーに転じました。ブログ記事(1記事5000字で10記事程度)の”仕事”として2004年から単発的にやってましたが、腰を据えて力試しにやってみようかとエントリーしてみました。テーマなくても自由に書けでもなんでもやります。趣味はスパマーの実態調査です。

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