3.11から12年…当事者置き去りの「GX束ね法」「ALPS処理汚染水」海洋放出の原発回帰

  by tomokihidachi  Tags :  

[筆者イメージ画像コラージュ作成]

2023年3月11日、東日本大震災(3.11)から12年を迎えた。福島県では12回目の「慰霊祭」が催された。14時46分(発災時間)に全国で黙祷され激甚災害の犠牲者の方々の御霊が彷徨わず安寧にいられますよう、と日本中が想いを一つにした。

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<リード>
【1】出会いは「炊き出し」のボランティアから
【2】『科学技術』にもっと良い「汚染水処理や核のゴミ処理法」があれば国はその研究開発費に投資を
【3】避難者推移統計から漏れる「災害復興住宅住まいの避難者」帰りたくても帰れない
【4】岸田政権「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」束ね法案で原発回帰へミスリード
【5】原発維持コストは消費者から莫大な税金負担で賄っている
【6】繰り返す「電気代」是正と「賃上げ」… 実は「原発推進派」の「隠れ蓑」では?
【7】無責任な「次世代革新炉」新設推進で原発回帰へ
【8】経産省(エネ庁)と規制庁は「予め結論ありき」の演技をして国民を騙していた
【9】ALPS処理汚染水の「海洋放水」による「風評被害」に国と東電は「正確な説明責任」を果たせ
【10】闘う福島県魚連「国より厳しい魚類の放射性物質独自基準検査」と「福島鮮魚便」PRで「安全性」理解求める
【11】「国が滅ぶレベルの発災リスクシュミレーション」原子力政策を担う「覚悟」はあるのか?!
<結び>
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出会いは「炊き出し」のボランティアから

 

 箱崎トシ子さん(79)。福島県いわき市で2018年にタンカー船船長を勤めていた夫を亡くした。3.11の津波が生死を分けたわけではない。平時の港湾の近くで高波に攫われ、そのまま水没死したという。享年75歳。大災害で沖に出航していた箱崎正敏さんは翌日に帰宅した。だが、その3.11を生き延びても人の命を奪う厄災は、いつやってくるのか分からない。
箱崎さんと出会ったのは、2011年3月11日に東日本大震災が発災して二週間後に「炊き出しのボランティア」として福島県いわき市小名浜の江名小学校の現地入りをした時だった。

当時、体育館に避難した被災者は約150人。みな、津波で家が流され、帰る場所を失った人々だ。
 ここではいまだに断水が続き、「水道の復旧は来月末までかかる」と言われていた。そのため頻繁に自衛隊の給水車が立ち寄り、近隣の団地からも江名小へと水汲みのため、住民たちが足しげく通っていた。
 もちろんトイレの水も流せず、体育館に身を寄せた人々はルールを作って協力し合い、使用したトイレットペーパーはビニール袋に捨て、用を足したら、トイレ前に汲み置きしたバケツの水を流すようにしていた。
 私が当時、ボランティアの一人として加わった「甲州炊き出し隊」は試行錯誤しながらも、昼前には、その江名小学校に到着し、「ほうとう」の準備を始めることができた。
 その時、被災者の方たちは、自衛隊によるホテルまでのバスで運送され、無料の入浴サービスを受けて、久しぶりに避難所生活で鬱積した垢を洗い流し、温かい湯に浸かっていたため、約50人を残して避難所の半数以上の人々は出払っていた。
 そんな中、懸命にほうとうを作る「甲州炊き出し隊」を見て、江名小の避難所を取り仕切る、自治会長の金成克哉さん(75)から逆に貴重なトマトなどの配給を分けて頂いた。
 もちろん昼食を取る暇はなく、被災者の方の昼食に間に合うようにひたすら「ほうとう」を作り続けた。
 その「ほうとう」が出来上がってきた丁度昼過ぎに、被災者の方たちは風呂から戻ってきた。そして、温かい昼食を求めて並び始めた。
 炊き出しは、江名小体育館の側面にある出入り口を出た隅の場所で行った。
 大鍋二つで煮込んだ「ほうとう」をプラスチック容器に入れて目の前で並ぶ被災者の方たちに手渡しているうち、いつも同じ二人の人がそれぞれ器を受け取っていることに、私は気づいた。
 不意に手渡された容器を持って二人が行く先を見遣ると、体育館の出入り口の前に長机が置かれており、その上に割り箸袋だけが乗せられている。その長机の前に立ち並ぶ被災者に、その二人は容器に入れられた「ほうとう」を順番に渡していたのだ。被災者の方たちは混乱のないように、容器に入れられたほうとうを運ぶ係を自主的に決めて、体育館の中に秩序正しく列を作っているようだった。

 避難所になっている体育館の二階の柵には、この時「6年生ありがとう」の一文字一文字大きく書かれた貼り紙がしてあった。正面には福島原発事故の報道を流すテレビの向こうに日本国旗が掲揚されていた。この震災が起こる以前に確かにあった日常。江名小の六年生が3月で巣立つための卒業式が準備されていたままの状態だ。しかし、一階に視線を遣れば、被災者の方たち個人個人の段ボールと毛布が折り重なるように体育館中に敷き詰めてある。個人のプライバシーを守るための段ボールの仕切りなどはなく、一人一人に許された狭い空間に、それぞれ身を寄せ合っていた、その圧倒的な非日常の光景が、日常の光景を飲み込んでいた。
 
 この日、「甲州炊き出し隊」は200から300食分のほうとうを準備していったため、江名小に避難している地区会長さんが近隣の団地の代表者にも声掛けしてくれた。すると近隣の団地に住む箱崎トシ子さんが、鍋を持って江名小まで足を運んでくれた。団地の住民に分けて回ることになっていたからだ。
 箱崎さんは持参した二つの鍋いっぱいに「ほうとう」を詰めてから、「なにか御礼がしたい」と、私たち三人の連絡先をそれぞれ聞いた後に帰路に着いた。
 すると、私が帰京した自宅へ、27日付けで書かれたハガキが30日に届いた。なんと「ほうとう」を食べた当日に手紙を書いてくださったのだ。
 ここに、その一部を紹介したい。
 
「この度は災害の緊急援助本当にありがとうございました。
 頂いた名刺を見ますと(東京 山梨 神奈川等々)日本もまだまだ頑張れると思いました。
 ほうとうの温かい一椀を向こうに家路への背中を見ると目頭が熱くなります。皆様方の温情を程に頑張りたいと思っています。」 

 箱崎さん以外にも違う団地から車でやってきて、2重にしたポリ袋にほうとうを分けてほしいと車でやってきた老婦人とそのお孫さんもいた。順調にほうとうを全て配り終わると、最後に金成克哉自治会長が体育館の中に私たちを上げてくれ、マイクで「甲州炊き出し隊」を紹介してくださり、拍手が沸いた。

 福島県いわき市小名浜江名から帰路に着く際、初めて海岸沿いに出て南下した。左手に海が見え、灯台が建ち、7、8メートルはあるだろうか、堤防が見える。一瞬、津波など本当にあったのだろうかと訝しむほど平穏な光景に思えた。
 だが、他方右手の陸地を見て愕然となる。完膚なきまでにバラバラに砕かれた家屋。それも、屋根がやっと原型を留めて地に着いているのを目視して、初めてそれが「家」だと気づく。車がおもちゃのように森の中に流されて潮が引いたまま日干しになっている。その一方で耐震性が優良な家屋だったのか、二階建ての木造の人家が立て付けを残している。しかし津波によって破壊された木片の塊が一階に押し寄せてきたのだろう。これでは家人は家から逃げ出せたのか、逃げ出せたとしても家に帰ることはできそうにない。
 さらに車を走らせると、「洋向台薬局」という建物名が確認できた、レンガ造りの建物が側面の壁をそっくりそのまま剥ぎ取られたように中が筒抜けになって見えている。隣接する建物もガラスが割れ、ファミリーマットは鉄骨だけ残して看板は落ち、ショーウィンドウは砕かれ、辺り一帯はゴーストタウン化していた。
 今さっきまで、私たちが提供してきた「ほうとう」を笑顔で頬張っていた被災者の方たちが、人智を超えた大災害によってなんの抵抗も防備もできずに日常の全てを奪われた現実がそこにはあった。私はほうとうを作り、プラスチック容器に入れて配ることに追われ、最後に「甲州炊き出し隊」を避難所のみなさんに紹介してくださった金成さんとわずかに言葉を交わすだけで精一杯だった。そのため、被災者の方一人一人がどんな喪失体験をされたのか、聞いて回ることはできなかった。だが、帰路で見たこのどうしようもない破壊の現実は、目視するだけで江名小に避難していた被災者の方たちに代わり、その被害の甚大さ、彼らの家財や近しい人を亡くしたという事実を物語っていた。

 また、車を走らせる車中にあって、もう一つ気づいたことがあった。積み荷が軽くなったためか、道路を走っていると体が車ごと大きく上に跳ね上げられるのである。道路補修箇所を通っていたのだ。日本の誇るインフラ技術を持ってしても、これほどの激甚災害によって亀裂が走り、断裂した常磐道路は、しかし日本の優秀な土建業者の職人によって、東北道と並び、わずか6日で補修されていた。

その時見た福島県いわき市の被災者の方たちの懸命に生きる姿と津波で流されてきた瓦礫被害の惨さの光景が筆者には今でも脳裏に鮮明に蘇る。
あれから12年。毎年いただく年賀状に「夫を海の事故で亡くした」と書かれていた箱崎トシ子さんが心配になり電話をかけた。

『科学技術』にもっと良い「汚染水処理や核のゴミ処理法」があれば国はその研究開発費に投資を

「精神的にお辛くはないですか?」という筆者の心配が愚問だったようで、不慮の事故で夫に先立たれたトシ子さん(79歳)は親戚関係も夫と同じ漁業関係者(漁師・船主など)が多いという。箱崎さんはあの震災からの問題意識も明晰に持ち、既に前を向いていた。
 災害後、しばらくはいわき市の漁業関係者らは津波で海中をさらって押し流されてきた瓦礫などの「海洋ゴミ(震災ゴミ)」を収拾して日当を得ており、暮らし向きはなんとか助かっていた。魚も試験操業で線量を福島県水産業独自基準の鮮魚(50Bq/1kg)と厳格化した。
 トシ子さんは「水揚げされた鮮魚のスクリーニングは今でもしている。でも、結局あの「核のゴミ」のタンクやドラム缶はもう満杯になって置き場所が無くなっていくのでしょう。なんとかしないとしょうがない。」と現状の危機感を話した上で、「ただ、だからと言って(ALPS処理水みたいに海洋放水を)薄めて流すっていうのも、どの程度信用していいか分からない。けれどそうしないと、どんどんタンク(やドラム缶は)溜まっていく。それなら『科学技術』にもっといい方法(核のゴミの処理法)があれば、そっちの方に研究費や開発費にお金を投じてもらったり、いろいろもっと見直し案などを出してほしい。」と、どこかの政治家に比べても余程、箱崎さんの方が現実的な「利便性」の見える代替案を語った。

避難者推移統計から漏れる「災害復興住宅住まいの避難者」帰りたくても帰れない

 2023年3月11日に、環境NGO「(特活)FoE Japan」の満田夏花氏は「終わらない3.11…福島から」と題して講演した。

[出典:FoE Japan 満田夏花「終わらない3.11…福島から」]

[出典:FoE Japan 満田夏花「終わらない3.11…福島から」]

[出典:FoE Japan 満田夏花「終わらない3.11…福島から」]
 
「(特活)FoE Japan」の満田夏花 事務局長は国が急ぎ進める「避難困難区域」の解除を避難者置き去りの国の方針に憤る。
「2011年時、政府支援の避難地域ではないが、放射性線量がかなり高めのところに居住している被災者の方々が非常に懊悩されていた。海外の例でチェルノブイリ原発の時は、年間5mSvであれば「強制避難」。年間1m〜5mSvならば「移住の権利」と定められている。どちらの場合でも政府からの支援は受けられる。ところが日本は年間20mSv以上を避難区域に一律設定した。1か0か?の雑な決め方だ。福島県が公表している同県からの避難者は2012年5月の段階で16万人を超えていた。「共同通信」(2021年)の報道でも、県内の各自治体に問い合わせてたところ合計6万7000人もいたことを把握した。ところが、この数値の中からも漏れている避難者が相当数いるのではないか?原発近隣に住んでいた福島の被災者のかたが西の方へ避難された。また、本人が将来的に故郷に帰りたいと思っても、「災害復興住宅に一度入居されたら避難者から外れることになる。」
政府指示の避難地域以外に避難を強いられた人たちだ。賠償もなく自己責任で避難した方々が多数いた。徐々に数が減って直近の2023年2月には27399人にも上る。3.11から12年も経つのにそれでもまだ多すぎるくらいだ。また、一方で県内でも避難民になると「故郷を捨てるのか?」「賠償金をもらっているのではないか?」「まるで逃げるかのように立ち去った」などと、心にもない冷たい言葉を浴びせられた肩身の狭い思いをしている被災者のかたがやはり大勢いる。」と避難者の気持ちを代弁した。

 東京にも相当数の避難者が暮らしている。2017年3月に国がそれまで避難者に提供していた「住宅提供」を打ち切った。そこで東京都がアンケート調査を取ったところ、「避難者の世帯月収10万未満が約22%」と困窮していることが分かった。そこで、東京都は「公営住宅の優先的入居」を厳格な条件付きでセーフティーネットとして支援することとした。

「国は避難指示区域の解除を急がせてきた。今、帰還困難区域がポツポツと減っている。2023年4月にも解除されるところはある。ところが、ハードルが様々ある。避難が長引いたことで若い世代は避難先で新しい拠点を作ってしまった。今、解除された地域を訪ねていくと、ポツンポツンと高齢者が一人暮らしや夫婦で住まわれている。「帰りたい」と願う高齢者の方々は多いが病院などの社会インフラが未整備で、その上近所の人が一人も帰還しなければ、帰ってきても生活できない。また、帰っていなくても帰れない状況が続いている。それ以外にも放射線が降り注いでいるからと建物の撤去が進んでいる。それ自体も撤去しなければ線量が下がらないとして除染の一環に家屋がどんどん壊されている。」

「今までの街並みの面影が残っていない。まるで自分の故郷じゃないみたい。帰ってきても誰もいないし」

 そう、「帰還避難民の高齢者の方々は口々に話す」と満田氏は被災者に寄り添った気持ちを伝えた。

[出典:FoE Japan 満田夏花「終わらない3.11…福島から」]

 だが、同じ高齢者でも前出の箱崎トシ子さんは「何かにつけて高齢者っていう言葉が出るけれども、都合のいいところに高齢者って挙げられても、それは一部の声なんじゃないか?と思ってしまう。」と正直な気持ちを吐露する。トシ子さんは震災時に自宅で一緒に生き延びた2人の子供たちとも今や別々に暮らす。上のお子さんは東京で一人暮らしを始め学業と仕事の両立で約10年が経った。一人残されたトシ子さんは気丈にも前を向く。地元の女性たちで作るサークルのような会を立ち上げ、友人たちと共に震災前の美しかった郷土の写真と復興から見える写真など、街中を歩いてシャッターを切ったものも併せ暫く毎年、「写真展」をこじんまりと開いていたという。七夕になると、ペットボトルを半分カットし、レンジで温めて収縮させ、そこに鈴を付けて竹竿に吊るしたものを近隣にある神社持参して「風情を楽しむ」のだという。
 「私、後ろばかり振り返らないタチなの。前向きに考えなきゃ。」取材するスマホの向こうから弾んだ声を聞いて安堵すると共に逆に励まされる想いがした。

 では国はいま、福島の復興に何をやっているのか?といえば、「福島イノベーション・コースト構想推進機構」に満田氏は疑念の目を向ける。復興庁に投資される復興費の額が倍増している。産業拠点を作って、ロボットやIT、産官学連携の未来志向的な発想で復興しようとしている。従来のメイン産業である農業や漁業とは全く違う産業。そこに魅力を感じて産業関係の新規転入者はそれなりに入ってきているが、避難から帰還した地元の高齢者の方々が関わるには不可能なんじゃないか、と思えるような胡散臭い産業復興に国は巨額投資している。

[出典:公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構 理事長 斉藤保]

[出典:公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構 理事長 斉藤保]

議論を是々非々で切り分けると、「東日本大震災・原子力災害伝承館(情報発信拠点)」という取り組みは、県民の皆さんの想いに寄り添っているからこれは別としていいか。

[出典:公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構 理事長 斉藤保]

だが、国は3.11の原発事故という臭いものに蓋をしてドラム缶にぎっしり詰めた「核のゴミ」問題も捨て置き、ドラム缶やタンクがいっぱいになったら海洋放出してしまえ!と福島の漁師の方々の水産業の安全性まで「なかったことにしよう」という意向。反省するどころか、逆に原発回帰に施政方針を掌返しし、再エネよりも倍の倍も割高な原発の新設を目指す。
 その中の一つ、原子力基本法にもあるように「原発推進は地球温暖化を防ぐため」だという言葉遊びだけのお題目をかざしているのである。

岸田政権「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」束ね法案で原発回帰へミスリード

[出典:原発再稼働 YouTube]

そんな中、「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」という5つの「束ね法案」が岸田政権から突如、出てきた。問題が多いまま十分な議論も尽くさず閣議決定して間も無く国会の議事に上げられようとしている。
 この束ね法案には、大きく分けて2つのテーマがある。
①エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組み。
②「成長志向型カーボンブライジング構想」等の実現・実行。
中でも①は主に原子力関係の4つのポイントがあるうち、2)「再エネの主力電源化」3)「原子力の活用」の2つがミックスされた法案になっている。
2)は地域と共生した再エネ導入のための事業規制強化の議論。法律改正案として出てきている。

それ以外は以下の3)「原子力の活用」を日本政府は打ち出した。
●廃炉を決定した原発の敷地内での「次世代革新炉」への建て替えを具体化。
●厳格な安全審査を前提に40年+20年の運転期間制限を設けた上で、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認める。
●核燃サイクル推進(廃炉の着実かつ効果的な実現に向けた知見の共有や資金確保などの仕組みの整備)

 背景として、ウクライナ侵略による国際エネルギー市場の混乱でエネルギーが逼迫していること。「カーボンニュートラル」を宣言する国や地域が増加し、世界中で起きている流れからCO2廃止ゼロに向けてエネルギーの原子力経済の成長強化し、これからの日本は原子力を含めたエネルギー供給構造を進めていく必要がある。というのが日本政府として目指す「原発回帰」の方向性。エネルギー安全保障の問題があるという大義名分があるのでGX基本方針と共にこの5つの「束ね法案」が浮上した。

[出典:原子力資料情報室]
 この内、②「電気事業法」と⑤「再エネ特措法」は、「地域と共生した再エネの最大限導入拡大を支援」を謳う。
⑴送電線の整備計画の拡大:再エネの利用促進に資するものが電力広域的運営推進機関業務に追加投資を促す。
⑵関係法令などの違反事業者に「(注1)FIT /FIP」の国民負担による支援を一時留保する措置。 

(注*1)「FIT賦課金」:「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」とは、太陽光発電や風力発電などの再エネの買収に必要な費用を賄うための賦課金のこと。賦課金とは、実質的な「税金」のことを示す。その中で、「固定価格買収制度(FIT)」とは、

①電気使用者が全員負担 ②全国一律価格 ③電気利用量に比例して徴収 ④太陽光など再エネ利用分には課さないという制度のこと。

②原子力基本法②電気事業法③原子炉等規制法④再処理法は、「安全確保を大前提とした原子力の活用・廃炉の推進」を目指すとしている。
①「原子力基本法」では1)「原子力利用の価値の明確化と安全最優先」
一例として⑴安定供給の確保 ⑵GXへの貢献 ⑶自主的安全性向上や防災対策
2)国・事業者の責務の明確化

③「原子炉等規制法」では、老朽化した原子炉の規制厳格化のため、所管を「電気事業法」へと移行する。その抜け分の安全規制を見るために新しい法案を追加する

②「電気事業法」に前述、抜け分が移行されてくる一方、運転期間40年を認める。+20年未満の延長期間を停止期間を考慮して定める基礎とする。

④「再処理法」はこれまで電気事業者が積み立てていた廃止措置に関する原発の廃炉に関する資金について「外部積み立て(外部拠出)」にする。
さらに原子炉と使用済燃料再処理機構(NuRO)に業務を追加する。

【政策の具体的内容の議論「GX実行会議 第2回」(2023年8月24日)】
「足元の危機」を「施策の総動員」で克服する。
1)原子炉最大で9基(再稼働済み)を稼働。
→「冬の停電」の回避。
2)設置変更許可済7基(東日本含む)の再稼働を国が推進。
 →F1事故後の設置変更基準には「合格済み」だが、再稼働していない。
→国のお題目は:国富の流出回避(原子力17基稼働で約1.6兆円を確保)、エネルギー安全保障の確保。
そのために起きてくるのは、LNGや石炭火力分の確保が可能になる。

―「GX脱炭素電源法」の骨格の一つ「再処理法」についてどのような位置付けとなり、どこに最大のGXの論点があるのか?
原子力資料情報室の松久保 肇事務局長は「今回の『再処理法』の最終調整は普通の原発廃炉で電力会社が積み立てていって社内留保したものを外部拠出化させようという仕組みを導入するという話。大抵、これまでの再処理の話もそうだったけれども、電力自由化された後に電力会社が破綻した時でもきちんとお金は取っておきます、というロジック。資金作りが狙いだ。それを外部拠出すれば、使用済み燃料再処理機構に拠出化させることになったので、『再処理法が改正される運びとなった』というだけの話。私自身はこの『再処理法』に関しては最初から反対している。なぜなら問題はこれ、推進派側の組織になる。再処理を推進するための組織。原発を推進するための組織である。使用済み燃料再処理機構にお金を入れることがいいのか?お金を貯めて中立的な立場で管理するだけで良いなら、もっと中立・独立的な組織であれば全く構わなかったと思う。他にも資金管理団体はある。そういった廃炉団体の一つに預けるべきだったと思う。また、再処理自体がすごくリスキーな事業。廃炉もそういう意味では似たような事業とも言えるけど、再処理事業の方がさらにリスクが高いので、再処理機構が破綻した時に、そのお金がどうなるのか?が気になる問題であり、その資金管理団体が適切なのか否か、正直なところ判然としない」と筆者の質疑に応じた。
 

原発維持コストは消費者から莫大な税金負担で賄っている

[出典:原子力資料情報室]

 上記、グラフ(2011年〜2020年まで)の推移では10年間で合計約17兆円(一年あたり7兆円)約3549億kWh(kWhあたり48円)。
この数値は電力消費者が負担している額になる。
A)原子力事業者の原子力関連営業費用
B)うち、原発で1kWhも発電しなかった原子力事業者分が合計で約11.65兆円。
C)再生可能エネルギーはFIT賦課金(前述注釈参照)と買取電力は合計で約13.56兆円、約4961億kWh(kWhあたり27円)。
 一般的には割高と言われる「再生エネルギーよりも原発維持費のほうがデータ上、高いことを示す根拠となる。
特に、「FIT賦課金」(2022年度単価3.45円/kWh)は賦課金という形で明示化されているが、原発の維持費は、「発電原価の内訳」となっているため、消費者にはいくらくらい負担しているのか分からないようになっている。

 原発に投じられた国家予算がここ20〜30年間で4000億〜5000億推移している。1954年から原子力予算が付いたことから2022年までを総計すると19.36兆円になる。

 それらを俯瞰的に見ても国民の原子力負担額は
「原子力事業者の原発維持費概算」(<20兆円>2011〜2022年)+「原子力関連の国家予算」(<5兆円>2011〜2022年)
合計して25兆円になる。
すなわち、2011〜2022年の国民一人当たり原子力負担額は概算で20万人にも上る試算だ。

 原子力はその発電コストの初期投資が非常に高い。電力会社は自分の懐から資金を出したくないという本音がある。
今、原子力小委員会などで議論されている「事業環境整備する」とは、「原発の新たな建設費」を「国民に転嫁する」ための仕組みである。原発を再稼働してこれから使用していくと、むしろ「電気代」を上げていく方に繋がるのではないか?

繰り返す「電気代」是正と「賃上げ」… 実は「原発推進派」の「隠れ蓑」では?

 国民の血税である「電気代」について真摯に取り組んでいる真っ当な政治家はいるのか?
 第211回国会衆議院本会議(令和5年2月26日木曜)で 国民民主党の玉木雄一郎 代表は質疑した。

[出典:玉木雄一郎 事務所]
「電力各社の発表によれば、四月から電気代が三割から四割上がる見込みです。電気代高騰に苦しむ学生や、八割節電したのに電気代は逆に四割も増えた中小企業など、悲鳴のような声がネットにもあふれています。政府の支援策で下がるのは約二割なので、四月以降は電気代が差引き一割から二割上がります。賃上げの原資を確保し、また、『価格転嫁の家計』への影響を和らげるためにも、電気代を更に値下げすべきと考えます。予備費を活用し、燃料費調整の深掘りや再エネ賦課金の徴収停止などで、更に一割程度電気代を引き下げませんか。総理の見解を伺います。」

 「クリーンルームがある半導体製造拠点や電炉のある事業所、また大型ショッピングモールなど、大量の電力を消費する工場や事業所は二万ボルト以上の特別高圧の電力を利用していますが、特別高圧は政府の支援策の対象外となっています。中には十億円単位で電気代がアップするところもあって、賃上げの原資が電気代に消えてしまって、賃上げが困難になっています。予備費を活用して、特別高圧も電気代値下げの対象に追加しようではありませんか。総理の決断を求めます。」

 玉木雄一郎という政治家はITやSNSの発信力に長けた技術を持っているように思える。この代表質問もInstagramなどで断片だけ切り取って「電気代」と「賃上げ」という世論の支持率に繋がるような巧妙な編集をして発信しているが、実は議事録の詳細を読んでいくと

 「また、『電力需給逼迫の改善と電気代を下げるためには、原子力発電所の早期再稼働が必要です。』とりわけ東日本における安価で安定した電力供給のためには、柏崎刈羽原発の再稼働が急がれます。そのために国が前面に出て具体的にどのような役割を果たすのか、総理の見解を伺います」。と、実は「原発推進派」であることの「隠れ蓑」にしていたのではないか?という権力のチェック機能を必要とするように思える。

無責任な「次世代革新炉」新設推進で原発回帰へ

 政府は12年前の反省に立ち返るどころか 無責任な原発新設計画「次世代革新炉」推進に回帰しようとしている。
1)「次世代革新炉」
2)「小型軽水炉」
3)「高速炉」
4)「高温ガス炉」
5)「核融合」
その他)研究炉・実証炉の段階の一つ前のものを建てる
<GX投資+研究開発>
 一例として高温ガス炉、高速炉の実証炉の研究開発や設計(運転)などに今後10年間で約1兆円の投資。
 その中の一つ、高速増殖炉(もんじゅ)には2兆円投じたが上手くいかず廃炉になった。「SFR:ナトリウム冷却」を高速炉に使っているが、その扱いが難しい。
 高速炉開発先進国のロシアでさえ、70回もナトリウム火災を起こしている。災害のリスクや放射能漏れなどの事故が多発している。
 それでもロシアは開発を進めてきた。日本はそれでもロシアに習い進めるのか?

◆「次世代革新炉」とは?
 一般に原子力は「世代」で呼称が変わる。
 「第3世代」や「第3世代+」に革新軽水炉や小型軽水炉は分類される。海外では既に稼働中だが、日本では設計、建設段階。
 「第1世代」や「第4世代」に高温ガス炉や高速炉は分類される。「第1世代」から既に存在していたコンセプト1)SFR: ナトリウム冷却高速炉2)HTGR: 高温ガス炉は当初上手くいかなかったため第4世代で再挑戦するという国の意向。

[出典:原子力資料情報室]

◆経産省の定義:
「革新炉」によって「外部ハザード」(例:地震・津波・自然災害+航空機衝突などの人為的災害)への対応が可能になる。さらに自然循環や圧力差による冷却を含め「自然法則」を安全機能に採用した「受動的安全炉」の開発ができる。
プラスαで「革新軽水炉」では「コアキャッチャー」や放射性希ガスの分離・貯留設備なども付けられるということが「売り文句」になっている。
 ところが、既に中国で稼働中、欧米で建設中の(AP1000: ウェスティングハウス製加圧水型軽水炉)(EPR:欧州加圧水型軽水炉)などでは既に実装済みだという主張。
革新性がないのではないか?との問いかけに「AP1000やEPRにはない機能があり、一線を画している」との回答。定義としてはおかしいのではないか?という疑問がある。

[出典:原子力資料情報室]

国が大義名分として掲げる「CO2排出量削減コスト」の観点からも問題がある。
「原発安定供給」からもそうだが、「運転開始までに時間がかかりすぎる」。過去50年間に行われた273の電力プロジェクトの実際の建設期間によれば、
●太陽光や風力の平均建設期間は40ヶ月
●原子力の平均建設期間は90ヶ月(おおよそ再エネの2倍以上コスト)+建設場所選定を含めればさらに時間がかかる。
日本政府が2011年時点で行った見積もりではメガソーラーは1年程度と比較しても原子力は約20年(約20倍の差がある)。

老朽化が進むフランス原発
老朽化が進むとどんなことが問題になるのか?例えば、フランスでは約8割が原発依存。トラブル続出で停止する原発が続出。発電電力量低下で電力危機に拍車をかけている。その分をどこかからエネルギー確保しなくてはならなくなる。(400TWh以上→300TWh減)。日本でも福井県の高浜原発4号機で制御棒が落ち、原発が停止するという事故が起きた。これにより関西電力では高浜4号機で定期点検を延長した。日本の稼働年数別原発基数は平均33.1年だ。電力の安定電源どころか、フランスと同じリスクに陥らないという安全性は保証などできない。

経産省(エネ庁)と規制庁は「予め結論ありき」の演技をして国民を騙していた

[出典:原子力資料情報室]

  あまりに拙速な実質2ヶ月半程度の議論。何か裏があるのでは?と訝しまれても不思議ではない。
 2022年末「原子力資料情報室」に内部文書のリークがあった。8月24日に首相が「GX実行会議」で指示し、「原子力規制委員会」と「原子力小委員会」は9月22日に首相の指示事案、検討を初めて開始、10月5日に「ヒアリング」という議事次第の工程となっていた。
 ところが、12月1日に発覚したリーク資料によれば、7月28日の段階で経産省として炉規法改正を含む「束ね法」などを検討開始した旨、規制庁に伝達。既に規制庁が指示する前に規制委員会の方で先に「原子力規制法」という通常の法律を経産省が言っているように改正することが了承済みになっていた。
 「原子力資料情報室」の方で情報公開請求したところ、「10月5日に初めてヒアリングしたことになっているので、それ以前の資料はない」という。しかし「リークされた一次情報」を示すと、経産省から電話がかかってきて事実を認めた。
 つまり、9月22日の時点で、経産省は「これから規制当局とコミュニケーションを取っていかなければならない」という趣旨の発言をしていたため、エネ庁と規制庁は演技をしていたことになる。国民を騙していた。

ALPS処理汚染水の「海洋放水」による「風評被害」に国と東電は「正確な説明責任」を果たせ

[出典:FoE Japan 満田夏花]

[出典:FoE Japan 満田夏花]

 「ALPS処理汚染水」とは、福島第一原発の建屋内で高濃度の汚染水がある。「処理されている」ところだが、未だ放射性物質を含んだままだ。燃料デブリを冷やした水と地下水が混じり合った水のこと。この汚染水を汲み上げて、その内の一部をまた使っているという仕組み。それ以外は「(ALPS)多核種除去装置」を使って処理(浄化)し、タンクに貯めている。ところがタンクの置き場がなくなってしまい、もう時期満杯になってしまう。2023年夏前には「海洋放出を開始する」計画を岸田政権は強行しようとしている。地下水がどんどん建屋内に流れ込んでいく、その流れを本当は止めなくてはならない。現状、「陸側遮水壁」と「海側遮水壁」(凍土壁)を使用したところ、解決できなかった。
 水素(H2O)より重い重水素のトリチウムが約780兆ベクレルあるが、水素と同様の動きしかしないので、ALPSで上手く取り除く処理ができない状態。
 報道では「トリチウム」ばかりが取り沙汰されるが、表示濃度比較(貯蔵量の割合)実は3分の2以上が「トリチウム」以外の放射性物質についても基準超えしている。「処理汚染水(126万m3)<2021年12月31日>」その総量は不明。2021年5月時点で「共同通信」が報道し、その直後に東電も情報を公開した。

 ALPS処理水は始め、「トリチウム水タスクフォース」が設置されて議論されていた。このタスクフォースは3つの処分方法ごとの基本要件を技術と規制の成立性からまとめている。

[出典:「ALPS 処理水の海洋放出」の政治決定をめぐる諸論点―原子力災害からの政府と漁業界の動向を踏まえてー]北海学園大学経済学部 濱田武士 教授(地域経済学)著]

1)「水蒸気放出」 2)海洋放出 3)「地下埋設」。
 この整理によれば、技術・規制の両面において既に事例や基準があるのは、「海洋放出」と「水蒸気放出」である。実現可能性が高いこの2案が有力となった。
 そこからさらに絞り込み、短期間、コスト少なし、規模が大きくないが三拍子揃っているのは「海洋放出」になった。また2次廃棄物がなく、作業員被爆についても「特段の留意事項なし」であった。この検討結果が取りまとめられた「トリチウム水タスクフォース報告書」として2016年6月3日に経産省が発表した公文書を「海洋放出」の合理性を示す根拠資料となった。
 この検討結果を受け、2016年9月27日開催された「汚染水対策処理委員会」は、「ALPS処理水小委員会」を設置するとし、2016年11月11日に第一回、同小委員会が開催されるに至った。当時、主として「ALPS処理水の取り扱い」および「風評被害対策」の有無について議論された。特に重要なのは、処分の決定や開始に基づき、消費者の「買い控え」が発生するであろうと流通業界が想定した場合、流通業界がリスクのある食品を仕入れなくなるという問題認識がある。それによって産地価格が落ち込み、生産者の生産意欲が失われ、かつ、観光需要が落ち込み、さらには地域住民も離れていく可能性があるということだ。「リスクコミュニケーション」が今、改めて問われている。
 2021年4月13日に首相官邸で「第5回 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」を開催し、政府は「海洋放出の方針」を正式に決定した。

[出典:東京電力 (図)ALPS処理水の海洋放出のための施設設置計画図]

 汚染水の発生を抑制したり、漏らしたりしない具体策として、主に1)「港湾側遮水壁の建設と地盤改良」2)「地下水バイパス計画」3)「サブドレンの復旧と地下水の処理・放水」
4)「凍土遮水壁の造成」5)「構内地面のフェーシング」がある。

 このうち、漁業者は2)にも3)にも反対した。

2)「地下水バイパス計画」は原発建屋に地下水が入り込む前の上流域で地下水を汲み上げて海洋放流する「地下水バイパスの設置」のこと。運用基準は、通常運転の1Fの排水基準(法定告示濃度)と比較しても極めて厳しい数値である。政府としては、抵抗する漁業者を納得させるための一面的な説明に終始していると言えるのではないか。

3)「サブドレンの復旧と地下水の処理・放水」は、建物周辺の地下水が建物の中に入らないように水位を調整する施設である。サブドレンで組み上げる地下水は汚染源に触れる前だが、建屋の周辺の水だけが若干汚染されている。その地下水は貯蔵されるのではなく、一時的に貯蔵されてALPSにより、浄化してから海洋放出するということだ。

 漁業者は「東京電力が信用できない」と「排水させてはならない」との懊悩から抵抗し続けてきたが、最終的には地下水が燃料デブリに触れた汚染水ではないこと、廃炉の推進であれば協力するとの意向によるものだった。ただし、原子炉建屋内に入って発生した汚染水については、例え浄化したとしても「認めない」と福島のみならず、全国の漁業者が切に思っている総意である。ALPS処理水の海洋放出は漁業の状況をよくするものではなく、もしかしたら「販売不振」が起こり、漁業者の暮らしむきが厳しい打撃を受けるのではないかと強く危惧して反対し続けてきた。
 
 2015年8月24日には「福島県漁業協同組合連合会」が国と東京電力に対して、「東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等排出に関する要望書について」を提出した。経済産業省は「トリチウム水については『検証結果については、まず、漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明など取り組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません』」と約束していたが、国と東京電力が当初想定していた「海洋放出」のスケジュールが遅滞し、汚染水処理で貯めていたタンクの不足分の確保が追いつかないため、またしても当事者置き去りで国は約束を反故にしたとの漁業関係者らに憤られても、もっともなことだ。
[出典:「ALPS 処理水の海洋放出」の政治決定をめぐる諸論点―原子力災害からの政府と漁業界の動向を踏まえてー]北海学園大学経済学部 濱田武士 教授(地域経済学)著]

闘う福島県魚連「国より厳しい魚類の放射性物質独自基準検査」と「福島鮮魚便」PRで「安全性」理解求める

[出典:筆者コラージュ]                  

 「福島県漁業協同組合連合会」は「我々が海洋放出に反対しているのは、福島原発事故由来の風評被害がまず、前提にある。このまま「海洋放出」が進められてしまった場合に、更なる風評を呼ぶのではないか?という危惧があるから反対させて頂いている。もう一つは安全性に疑義があるからだ。ただ、風評被害に対して国民であり、消費者の皆様が決して悪いわけではない。しっかり放射能について。福島産の魚についても正しく知ってもらわない限りは、どう逆立ちしても風評は消えないと思う。消費者の皆さんが『福島の魚、安全じゃないから』と売れなければ、我々にしてみれば死活問題。なので、まずは政府・国側でしっかりと正しい説明をして国民の理解を求めてくださいという要望を我々は東電含めしている。また、我々自身は生産者としての説明責任を果たそうとして様々なPR活動の努力をしている」と語る。「風評被害」を理解しているか否かが生き残りを掛けた大問題だという。
 「平成24年6月から試験操業を始めてから11年が経つ。試験操業が終わって今年で震災から12年を迎える。我々にはどんな大臣や首相が福島に来て、意見交換しようとも、漁業者の置かれている環境は全く変わらない。まだ漁獲量2割しかいっていない。その中で我々が生産者側の責任として一所懸命安全を訴えてきた」。

 一例として「福島県産品の販促イベント」の実施に加え、イオン・リテール株式会社などの大型スーパーマーケットでも関東圏含み他県にも展開して水産品を売っている。

 福島県が「福島鮮魚便」という復興アクションを立ち上げた。大型スーパーマーケットを全国展開する「イオン・リテール(株)」と協働で小売り段階での「専門販売員」の配置を「福島鮮魚便」と銘打って、店舗ごとに女性のマネキンを派遣。福島産の水産品の試食販売促進していた。福島産の魚が放射能などの検査基準をクリアして出荷されているとしっかり福島県が正確な知識を研修し、広告塔になる発信をTwitterと共に発信して「安全性」をPRしているのだ。福島県産水産品はカレイやヒラメなど「底物」と呼ばれる魚類が強みだが、コロナ禍に遭って試食販売も難しい状況が続いていた。
 また、同県魚連は2023年4月8日、第11回「福島県漁業の今と試食会」を8:00〜12:00頃まで「築地魚河岸」3階で主催する。約1000食分の福島産鮮魚をプロの料理人の「匠の技」で、試食ブースに置くという。会場には3.11のF1事故から福島県漁業の歴史や放射能、厳格な検査体制などを分かりやすくパネル展示する予定だという。毎年3回を目処に開催し、中には親子連れも来訪するのだとか。

 県魚連によれば、試験操業は3種類の海産魚貝類(水ダコ・ヤナギダコ/シライトマキバイ)に国ではなく、福島県が行なっているモニタリングを担保に放射性物質規制基準をクリアしたというお墨付きをもらって始めた。同県魚連の安全性を図る1つの検査基準は、国や県のスクリーニングとは違い厳格化されたものだ。行政基準をクリアして本来であれば出荷することができる数値でも、我々の思いとしてはそもそも福島県産の魚が売れるのか否か?そして国民の消費者の皆さんに安心してもらえるか?が分からなかった。だからこそ、県漁連独自の自主基準を設けた。特に義務などはなかったが、あえて我々は獲れた魚を販売日ごとに自主的にその厳しい基準値で検査してから出荷することにしてきた」と強調する。
 「原発当地県民としても、国と東電を信用できないからと、対案を出しても意味がなくて『廃炉』っていうことをやっぱり漁業者としても考えていかなければならない。その中でも『海洋放出』には断固反対させていただく。」と県魚連の職員は物産の信頼回復に全力を投じている。今、福島に必要なのは私たち消費者が「食の安全とリスクを正確に知り共有する」ことと「生きる活力の源」を取り戻す分かち合いの心ではないだろうか。

「国が滅ぶレベルの発災リスクシュミレーション」原子力政策を担う「覚悟」はあるのか?!

「出典:原子力資料情報室 松久保 肇事務局長」

「出典:原子力資料情報室 松久保 肇事務局長」
 
 「東日本大震災(3.11)の福島原発事故の原点に立ち返る必要がある。当時(避難人口)8万8000人(面積)1100㎢だった。8割の放射性物質が海に流れていった。残り2割が陸上へ。事故の規模によってはもっと被害が酷くなり得た不幸中の幸いだったと言える。図に示したのは仮に福島原発4号機のプールで火災があったことを想定したシュミレーションだ」。
1)仮に海側へ風が吹いていたら、(避難人口)80万人(面積)2600㎢」
2)仮に陸地側へ風が吹いていたら(避難人口)2900万人(面積)2万5000㎢

 前出の「原子力資料情報室」の松久保 肇事務局長は「国が滅ぶくらいのリスクシュミレーション。それくらいの覚悟を持って原子力政策を担っているのか?背景には今ある資産を使いたい電力会社の望みと原子力政策に関する他の政策を考えることに思考停止して、エネルギー政策をこのまま推進していこうとする経産省の思惑の一致ではないか?無責任な原子力政策こそを、私は変えていきたい」と、この国のエネルギー政策の大転換に対し強い、強い危機感を警鐘していた。

結び

 あの日から12年。大手ジャーナリズムの傾向として権力の追及や不祥事のバッシング。専門家の高度な議論を報じる特徴がある。しかし、筆者のような市民ライターの目から見たら、災害弱者などの当事者、政府の打ち出してくる原発回帰施政方針が果たして毎日を一所懸命生きる原子力災害の原因の原発当地県民の方々にとって、本当に幸せでメリットを生むものなのか否かという国の政策を監視することが必然である。
 つまり、主役は国や東電ではなく、故郷を奪われ原子力政策に騙され続けてこなければならなかった帰還困難民を含めた福島県民の方々である。このような「当たり前」の事実もあえて伝えていかなければならない風化を強く懸念する。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライターとして執筆しながら16年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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