映画『YUMENO ユメノ』以来、17年ぶりの再タッグとなった菜葉菜さん、鎌田義孝監督の最新作、映画『TOCKA[タスカー]』が公開中です。
本作は、死を決意した男が、自分を殺してくれる人を探す彷徨の旅を描く人間ドラマで、メインの登場人物の三人はそれぞれの過去を見つめながら、男の死に向き合っていく物語。鎌田監督は実際に起こった嘱託殺人事件や、身近な人間の死が本作を撮るきっかけになったと語ります。その鎌田監督、生きる意味を失う女性を演じた菜葉菜さんに話を聞きました。
■公式サイト:https://tocka-movie.com/ [リンク]
●まず公開おめでとうございます。菜葉菜さんは鎌田監督と久々の再会を果たされて、いかがだったでしょうか?
菜葉菜:わたしは鎌田監督の『YUMENO ユメノ』でデビューしているので、17年ぶりに呼んでいただけて自分の中で感慨深いですし。うれしい気持ちが一番にあります。この作品は、SNSの時代だからこそのテーマでもあるし、生と死は、どの年代にも関係ある物語だと思いました。身近な題材でもありますので、誰しもに関係あるテーマだなと思っています。
●命の終わり方、それの決め方について問いかける作品だと受け止めましたが、どういう経緯で映画化が始まったのでしょうか?
鎌田:僕の前作の『YUMENO ユメノ』が、言わば殺す側の物語で、その逆ではないのですが、殺される側、死を希望する側で物語を考えられないかと当時思っていました。(やがて)シナリオ作りを進める中で、2003年に日本で実際に起きたある嘱託殺人未遂事件と、同じ頃韓国で起きた嘱託殺人事件を知った。殺せなかった人と殺せなかった人の境界線というか、この紙一重の差は何だろうと思ったんです。
菜葉菜:これは人間の永遠のテーマでもありますよね。コロナ禍もあり、人間は孤独になることが最大の恐怖だと観終わって感じましたし、本当に人はひとりでは生きていけないなと思うんです。このわたしの役もそうなのですが、人との出会いで人は変われるということですよね。
鎌田:わたし自身の問題としても、死が身近になってきたんですね。映画を応援してくれていた高校時代の同級生と久々に会い、手伝ってくれると言いながら、翌月に自殺してしまった。その数年後、親父がガンで死に、おふくろが自殺未遂をしました。その時、人の死にたい想いを、一度受け止めてあげたいという考え方に固まっていったんです。
●まさしくこの映画で描いていることですよね。
菜葉菜:わたしの身近でも自ら命を絶った方がいて、それに直面した時に残された人間は生きていくしかないんですよね。でも、ずっと引きずっていくということではなくて、彼とのことについて永遠に向きあっていくものだなって、すごく今は思っています。
鎌田:死に向かうことを全面肯定はしないけれど1回想いを受け止めたい、そういう映画を作りました。日本、世界もそうかもしれないけれど、なんとか頑張って生きて行こうというだけだとそれは、僕にはうわっつらにしか聞こえなくてですね、キラキラ光っていた人が、突然いなくなったりすることもある。死にたくなったってことをご法度ではなく、オープンに話せるほうが豊かな社会になるような気がするんです。一方で死に方を選べない人も世界中にはたくさんいるから、非常に際どいテーマではあるとも思います。
●観客のみなさんにはどう受け止めてほしいですか?
鎌田:まず今回の映画は笑ってほしいとか泣いてほしいはなくて。みなさんどう思いますか?自由に考えてくださいという映画が一番素晴らしいと思うのですが、わたしは今回言いたいことを言ってしまっています。先ほどの死にたい想いを一度受け止めたいというなどもそう。そういう気持ちを認めたいと言い切ってしまっているんです。たとえば50・60代は想像出来ると思いますが、若い人ははたしてどう感じるだろうか。それは反応を見てみたいですし、話をしてみたいとは思います。
菜葉菜:幅広い年齢層の方に観てほしいなと思います。歳を取ると死を嫌でも身近に感じると思うのですが、今の若い世代にはSNSがあり、死がある意味で身近なことでもあるとは思うので、特に観てほしいと思います。この映画を観て話し合い、意見を言い合うことができたら、出ている人間としてうれしいなと思います。
鎌田:あとは、考える、考えると言いましたけれど、笑えるところもあります。俳優たちが素晴らしいから、そこまで重苦しくはないはずです。長いアルバムだけれど、最後まで聴いたらいいアルバムですよ、アナログですけどね、そんな感じです(笑)。
●今日はありがとうございました。
■ストーリー
谷川章二(金子清文)は、 北海道、オホーツク海沿岸の街でロシア人相手の中古電器店を営んでいたが、自分を殺してくれる人を捜していた。経営に行き詰まり、妻と息子に先立たれ、小学生の娘を老親に預けている彼は、せめて娘に多額の保険金を残して死のうと思っていたのだ。
本多早紀(菜葉菜)は、歌手活動をしていたが、売れないまま40歳近くなり、東京の芸能事務所をやめて、親に内緒で故郷の北海道に戻ってきた。結婚しようと思っていた相手とも彼の浮気が原因で別れ、借金には追われていたが、それが理由というわけではなく、なんとなく生きる意味を失っていた。
大久保幸人(佐野弘樹)は、詐欺まがいの廃品回収会社に勤め、その傍ら盗んだ灯油を売り歩いて生計を立てていた。父はおらず女手ひとつで育ててくれた母は、入院中。同居する妹は、行方知らずの男の子供を身籠り妊娠中。先の見えない生活に疲れていた。
章二は、自殺サイトで早紀と知り合い、自殺では保険金の額が少ないから、事故に見せかけて殺してくれと彼女に依頼する。彼は、ある理由で妻の遺体を自宅に隠していた。それを知った早紀と妻を埋葬するため深夜の空き地で穴を掘るふたりだったが、廃品を不法投棄しにきた幸人に見つかる。事情を知った幸人は、早紀とふたりで章二の希望をかなえようと計画するのだが…
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