どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
刑務所や受刑者に関することを毎回綴ってきたのですが、やはり刑務所は「奥が深い」。調べれば調べるほど、知らないことばかりです。
受刑者の中には、騒いだり自傷行為を起こしたり、別の受刑者に危害を加えるなど問題行動を起こすものもしばしば現れます。そういった問題のある受刑者に対して使用される、専用の部屋や器具というものが存在します。それが「保護室」や「静穏室」、「拘束具」と呼ばれるものです。
今回は、元刑務官であるW氏(62歳)から経験談を伺いつつ、これらの部屋や器具がどのようなものであるのかをレクチャーしていただきます。
「保護室」と「静穏室」とは?
丸野(以下、丸)「どんなときに保護室や静穏室に入れられるんでしょうか? 人権問題にはならないんですか?」
W氏「法律で決まった《刑事被収容者処遇法79条1項》で、受刑者を保護室に収容することは認められとるんよ。それが、《自分を傷つけるという恐れがある場合》《刑務官の指導に従わないで、大声や騒音を発する場合》《ほかの受刑者や刑務官に危害を加える恐れがある場合》《刑務所の設備や器具などを損壊したり、汚損する恐れがある場合》という風に決められてる。それに保護室と静穏室は、受刑者本人を落ちつかせるために入れる部屋だから同じようなもんやね」
丸「どのくらいの時間、こういった部屋に入れられるもんなんですか?」
W氏「《刑事被収容者処遇法79条3項》でいえば、保護室の収容期間は原則72時間、それから引き続き収容する必要があるときには、48時間ごとの更新になるんよね。まぁ、実際のところでは短いときには数時間、長期の場合でも3日くらいのもんよ」
丸「ああ、対象の受刑者が興奮していなかったり、ちょっと落ち着きを取り戻したときですね」
W氏「そうそう。前に入っていた房に戻しても大丈夫な状態かどうかが解除判断になるわけよね。明らかに興奮状態だったり、落ち着きなく中を歩き回ったり、ブツブツ独り言を言っていたりすると収容は解かれない」
丸「でしょうね」
どのような場所なのか?
W氏「保護室への収容やら延長は所長命令、健康状態については医務官の意見がいるんやけどね、静穏室はいらない」
丸「どんな感じの部屋なんですか?」
W氏「頭をぶつけたり体をぶつけたりしても大丈夫なようにクッション素材が壁や床に敷き詰められた部屋よね。精神病棟みたいな感じで、怪我がしないようになってる。トイレ用の穴がぽっかりと開いてて……。死刑囚の部屋には、柔らかい素材でできた机と椅子があるけどね。それと静穏室の方は、防音設備がある特別単独室で、あんまり普通の独居房と変わりない。騒がしい声とか、暴れたときの騒音なんかが響かないように受刑者の房とは離れたところにあるんやけどね」
丸「なるほど。テレビやラジオなんかの設備はあるんですか?」
W氏「いや。トイレは自分で流せるけど、娯楽的な設備はないわね。ちなみに保護室へ収容されたときに手錠を使用した場合には、その使用状況を室内の監視カメラで録画される。もちろん、刑務官が暴れる受刑者の体に触れて制止したりするときには、スマホカメラで録画もするよ、問題が起こったときのために……」
丸「受刑者からクレームが入ったときなんかに利用するんですか?」
W氏「ちゃんと帳簿に記載するよ。記録としてね。これは、被収容者身分帳簿の視察表に記録するわけ」
丸「今どきらしい理由ですね」
拘束具って名前が怖いんですが?
丸「拘束具について伺います。拘束具という名称がすでに怖いんですが、祖母とか祖父が認知症になったときにベッドに手足を縛られていた記憶があります。それ専用の器具があるということなんですか?」
W氏「拘束具の種類には、《手錠》《捕縄》《拘束衣》があるんよね。その中でも《手錠》の種類には、第1種と第2種があって用途によって使い分けとるよ。手錠と捕縄は、拘置所なんかに受刑者を護送するときに使うね。あと、逃走しようとしている、所内の器具や設備の破壊行為をしようとする、自分を傷つけたりほかの受刑者に危害を加えたりする、といった場合には使用可能になる」
丸「第2種というのは?」
W氏「第2種の手錠に関しては、たった今、自傷行為や自殺しそうな行為を防ぐという目的に使用されることが多いね。それに、刑務官に対する暴行や傷害の可能性が高いと認められると使われる」
丸「なるほど」
W氏「昔は、手錠を腰ベルトなんかで固定していたんやけども、それはなくなった。だから、代わりに両腕が自由にできないように両手を後ろに回すカタチで使われることが多いね。でも、これがうるさい。国選弁護人なんかにかかれば“両手を後ろに拘束したときには苦痛が大きい”と咎められることが多い。虐待、虐待ってうるさいからね」
手錠第2種の形状を調べてみましたが、一般的な手錠とは違い、連結板でつながれた腕輪のようなもので身体の自由を制限するというものでした。拘束具に関しては、《肩ベルト》《腰ベルト》《脚ベルト》でさらに身体の自由を奪うものでした。
正直、話を聞きながら寒気を感じてしまった筆者ですが、罪を犯した報いとしてやむを得ないものなのかもしれません。刑務官として数十年の実績と経験を持つWさんは、最後にこう締めくくりました。
「私は、もう同じ人間としてそれらの懲罰を与えるのが苦しくなった。なぜ人は罪を犯してしまうのか……そればかり考えると、刑務官の仕事は続けられなくなったわけですよ」
離職率が高い、移動が多いという刑務官の仕事。W氏は早期退職したといいます。被害者はもちろん、受刑者側、刑務官側にも精神的なダメージがある環境と言えそうです。
あなたは、刑務所という閉鎖された空間になにを思いますか?
(C)写真AC
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