どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
以前、懲役が長くなると“ムショぼけ”してしまうというその特徴についてお伝えしました。
『ドラマ化も好調!「本当の“ムショぼけ”」の特徴を元ヤクザに聞いた!』
https://getnews.jp/archives/3169666
そして今回、懲役刑累計で20数年を獄中で過ごした「受刑者が綴っていたノート」を手に入れました。書いたのは、ヤクザ社会で生き、傷害や恐喝、薬物使用、販売などを生業にしてきたX氏(50歳)。実際に塀の中で綴ったノートは、出所時にすべて返してもらえるとのこと。
そこには何が書かれているのか、彼は獄中で何を考え、何を思っていたのか。実際のノートの内容・画像を基に、彼の当時の記憶を辿ってみたいと思います。
自分の生活を管理すること
丸野(以下、丸)「獄中ではまず何を考えました?」
X氏「まずは、自らの罪を振り返ることですね。初犯の頃などはそんなことは考えていなかったんですが、やはり最後の懲役になれば、ノートに書き写して、自らの人生を振り返ってみるようになりました」
<写真:投獄されたときの一筆>
丸「自分の罪と刑期について考えたわけですね」
X氏「それからは、極道をやっていたときのどんぶり勘定だったときのクセを払しょくするように、徹底的に収支表に没頭します」
<写真:何をどれほど購入したのかについて日々綴る。チリ紙などは1日15枚。官物は15枚と決められている。約1ヵ月分が届く。月に1度の日用品購入で、購入する枚数も決まっている>
<写真:購入した落とし紙。房内での博打のかけ対象にもなる。ちなみに、その他NHKのど自慢や相撲などのテレビ行事では切手などもかけ対象になる>
丸「面会で、差し入れというものもあるんですよね」
X氏「いろいろと面会には来てくれましたよ。遠方からもあったり、兄弟分なんかも面会にやってきてくれましたね」
<写真:20数年の間に様々な親兄弟、友人、極道仲間が面会にやってきた>
丸「ここに母からの差し入れというのがありますね。このときのお気持ちわかりますよ」
X氏「やはり、親不孝をしたという気持ちが胸をかきむしりましたね。母もムリを押して、面会に来てくれているわけですし。自分は何をやっているんだ、と」
<写真:母からの差し入れ20万円に後悔の想いが募る>
獄中の日記
丸「リアルな獄中日記ですね。様々なことが書かれていますね」
X氏「まぁ、免業日などで時間が有り余っているときがありますから……」
<写真:“ケンカ騒ぎで風呂が最後”との表記。房の中の受刑者たちの連帯責任になるのだろうか。写経、電卓使用、コルセット、マスク使用なども願箋を出して許可をもらわないとなにをやっても罰則対象になる>
<写真:正月を迎えたときの日記。ミニおせちが出たという表記がある。ちなみに受刑者の食事代は彼らの作業報奨金から天引きされている。税金で食事代が賄われているわけではないのだ>
<写真:酷暑を房内で過ごす。拘置所からの刑務所へ移送された荷物が自分の手に届くまでは日数がかかる。はじめはもちろんシャツ・パンツなども官物。暑いのは当たり前。もちろん冷房はない>
単調な日々はずっと続く
丸「リアルな獄中日記でもありましたが、やはり時間が余っているという感じなんですか?」
X氏「そうですね。書くこともなくなってきますから、購入品リストを書き写したりすることで、時間を潰すことがあります。本を読むか、テレビを観るか、それくらいしかないんですよ」
<写真:暇つぶしがてら書いた購入品リストは数ページにわたる>
丸「いろんなものが購入できるんですね」
X氏「地獄の沙汰も金次第というわけですよね」
作業報奨金の安さはハンパではない
丸「刑務作業をされていて、《作業報奨金》というものが出るじゃないですか? あれっていくらぐらいもらえるものなんですか?」
X氏「本当に微々たるものです。こんな金額では、出所後に部屋も借りられないし、刑務所に逆戻りです。それか、古巣のヤクザに戻るか、半グレになるか……。結局のところ、この作業報奨金の制度を変えないといけないと思います。私は恵まれていた方だったので、今では自営業で生計を立てていますが、手に職のない、資格のない者の行く末を哀れに思います」
<写真:作業報奨金の額はご覧の通り、かなり少額。これでは、出所後の生活は立ち行かない>
学ぶことに没頭する
X氏「それからは片っ端から勉強をはじめました。シャバ(釈放)に出たら食うのに困ることはわかっているのに、結局何もしない受刑者が多い中で、ほんの一握りの受刑者たちは日々研鑽(けんさん)しているんです。実際にムショの中で勉強したことが今の仕事に非常に役立ってます」
丸「それにしても、様々な通信教育の資料請求や実際にテキスト購入して勉強されていたんですね」
X氏「刑務所の中の態度がよく、処遇対応が認められれば、法務省が認定した通信教育が認められる。たとえば、カラーコーディネーターであれば色見本のようなものは入ってきたとしても、茶封筒に入れて、自己保管しなければいけない。民法入門を3ヵ月間学んだのですが、いくら処遇対応がよくても、自分の所持金(私費)がなければ、何も教育を受けることができない。年に数回官費で通信教育が受けられる場合があります。それに関しては、余計に処遇審査が厳しいのです。ですから、私費を使って教育を受けた方が手続きが早いんです」
<写真:様々な資料を集め、資格取得の勉学に励んだ経験が今の職業に活かされているという>
読書は大切な部分を書き写すことで自らの血と骨にする
丸「購入品の収支の中にも書かれていますが、かなりの本の虫ですね、Xさんは?」
X氏「時間があるということもありますが、やはり一冊の本の中にはいろいろな発見がある。それを自分でも書き写して、書きためておくことが大切だと思いますね。ここにあるのは、東野圭吾さんの本の一説ですが、彼はすごく研究熱心で好きな作家さんの一人ですね」
<写真:東野圭吾さんの小説の一説には“盗癖のある人間は精神障害がある”とある>
人のことを考えること
丸「頭の中をフル回転させて、学び続けた20数年だったんですね」
X氏「学びがあれば、20数年も入っていません。しかし、勉強をするのが好きで、いろいろなことを悟ったときに、“人のことを考える”ようになりました。ここにあるのは、既往症のある受刑者への診療をないがしろにした医務の医師を糾弾したときの嘆願書です。本当に許せなかった。投薬治療をストップさせてしまった医師のせいで、悪化してしまったことの責任の所在はどこにあるのかと……」
<写真:受刑者へのひどい待遇が赤裸々に綴られている>
今回、X氏の獄中ノートを拝見させていただきましたが、かなり克明に収監の日々が綴られていました。x氏の協力を得て、これ以外の獄中ノートも閲覧させていただく予定です。
累計で20年間書き溜めてきた心情の変化、足を洗うキッカケになった出来事、今真っ当に暮らせていられる幸せをX氏は、満面の笑顔で語り、取材をした喫茶店を後にしました。
その背中には、“ただならぬ哀愁”が貼りついていて、しばらくの間筆者は彼の人生に想いをはせた次第です。