国内ではまだあまり聞き馴染みのない“BaaS(Banking as a Service)”というビジネスモデルについて、デジタルバンク「みんなの銀行」でBaaS事業を推進する担当者が、その背景とともにざっくりご紹介します。
※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。
“Banking is necessary, banks are not.”――ビル・ゲイツ
皆さんが最後に銀行に行ったのはいつでしょうか? 転職により銀行員となった私自身、ATMを使うことはあっても、銀行の窓口に行ったのは1年近く遡ります……。誤解を恐れずに、自戒も込めて言わせてもらいます。GAFAなどのビッグテックと比べて、銀行のサービスってイケてないですよね?
銀行の窓口に行かないとできない手続きが多かったり、店舗に行ったら行ったですごく待たされて、ようやく自分の番だと思って記入した書類を提出したら、「手続きの結果は郵送にて……」って、その場で完了せんのかいっ! とがっかりしたことが何度かあります。私だけでしょうか?
ふくおかフィナンシャルグループの福岡銀行においては来店客数が直近10年で約30%減少、コロナ禍でさらに約10%減少する一方、インターネットバンキングの利用者は10年で約2.4倍に増加しています。このデータは、「銀行窓口には行きたくはないけど銀行のサービスは利用したい」という利用者のニーズを明確に表しているように思います。
また、かの有名なビル・ゲイツ氏は20年以上も前に銀行についてこんなことを語っています。
“Banking is necessary, banks are not.”――ビル・ゲイツ
直訳すると「銀行機能は必要だが、銀行は必要ない」という意味です。
銀行は必要ない! と言われてしまうとドキッとしてしまいますが、これを意訳すると「銀行のサービスは、銀行が“銀行の顔”で提供する必要はない」ということだと思います。
このビル・ゲイツ氏の言葉を反映するかのように特に欧米では、銀行ではない事業者、例えば小売企業やIT企業が、あたかも銀行のように預金や決済、ローンといった銀行のサービスを本業のサービスと一緒に提供しています。つまり銀行のサービスを利用したい時、銀行の店舗を訪れたり、インターネットバンキングにアクセスする必要がないのです。
買い物をする時、食事や旅行などのサービスを利用する時にお金は必要となるので、いつも行くお店や使っているネットサービス上で銀行サービスが一緒に利用できたら、とっても便利ですよね!
しかし、なぜ銀行じゃない事業者にそのようなことが可能なのでしょうか? その裏側には、BaaSというビジネスモデルが存在しています。ではBaaSとはどういったものなのか、海外の事例を参考に見てみましょう。
海外事例からひも解くBaaS(Banking as a Service)
銀行ではない事業者が銀行サービスを提供することには大きく3つのハードルがあります。
1. 多大なコスト
銀行はお客さまの大事なお金をお預かりする預金機能を持っています。お預りしたお金を正確に、また厳密に管理するため、銀行には非常に堅牢なシステムが必要となります。このシステムを構築するには膨大なコストと人的なリソースが必要となります。年末ジャンボ宝くじの1等に何回当選してもお金が足りないかもしれません。
2. 専門的なノウハウ
銀行ではお客さまからお預りした預金を他のお客さま、もしくは企業に貸し出したり、有価証券への投資をしたりといった資金運用益が主な収益源となっています。借りたい人にお貸しすればいいという単純なものではなく、お貸ししたお金が返ってこないということにならないように、貸付先の信用力を判断したり、貸し倒れのリスクを想定して自己資金を厚くしたりと、非常に専門的なノウハウが必要となります。
3. 法的規制
銀行としてサービスを提供するためには銀行業の営業免許が必要となります。各国で基準は異なりますが、銀行業の営業免許を取得するには、関係当局が定める厳格な審査基準をクリアしなければなりません。近年では金融関連の規制緩和が進んでおり、とくにキャッシュレス決済などは銀行ではない事業者でも様々提供することが可能になっていますが、預金を代表例として、銀行にしか認められていないサービスも依然としてあります。
これらのハードルをすべてクリアするのは至難の業なので、代替ソリューションとして海外ではすでにBaaSを活用し、銀行でない事業者=“非”金融事業者が銀行のBaaSパートナーとなり、あたかも自社サービスかのように銀行サービスを提供している事例が多数あります。
今回は一例としてドイツのA銀行と、そのBaaSパートナーであるドイツの自動車販売事業者を取り上げます。A銀行は開業後間もないドイツの銀行ですが、BaaSビジネスを展開し、いまではBaaSのパートナー企業を70社以上も抱えています。実のところA銀行は、銀行サービスを直接消費者向けに提供していません。あくまで裏方として、A銀行 のシステムやサービスを、API(Application Programming Interface)を通じてBaaSパートナーの企業に提供しており、ドイツの自動車販売事業者もその一つとなります。
BaaSパートナー企業は自社でシステムや専門人材を抱えたり、複雑なリスク管理が求められる銀行業務を行ったりする必要がなく、手軽に銀行サービスを提供できます。また各国の法規制や具体的なサービススキームに依存はしますが、基本的に銀行業の営業免許も不要です。
では、このA銀行のBaaSを活用して、BaaSパートナー企業である自動車販売事業者はどのようなサービスを提供しているのでしょう? このドイツの自動車販売事業者は、日本ではまだあまり一般的ではありませんが、自動車のECサイトを運営している会社です。そして A銀行のBaaSを活用し、以下のような顧客体験を実現しています。
1. 自社のECサイト上で購入したい自動車を選択、購入手続きに進む
2. 同一サイト上でオートローン申し込み画面へ遷移
3. 必要事項を入力し、ローンの申し込み、契約締結をオンラインで完結
4. ローンが実行され、自動車購入が完了
ローンの申し込みと借入のために 自動車販売サイトと銀行の間を行ったり来たりする必要がないため、利用者にとって煩雑さがなく、ひいては自動車販売事業者にとっても販売のチャンスを逃がさないことにつながります。このサービススキームはまさに、銀行が“銀行の顔”としてではなく、“パートナー企業の顔”で提供する銀行サービスです。
日本国内ではまだまだ認知度が低いBaaSですが、みんなの銀行もまたドイツのA銀行のように、銀行サービスの新しい形ともいえるBaaSビジネスを展開していきます。
BaaSで実現する近い未来の金融体験
最後に、BaaSによって実現できる近い未来の金融体験について想像してみます。金融体験、といってもBaaSのコンセプトは、普段皆さんがよく使っているあらゆるサービスに溶け込むことなのでサービス体験といえます。せっかくなので、コロナ禍でなかなか行けない「旅行」をテーマに、どんなシーンでBaaSが活用できそうか想像してみます。
【旅行前】
・日時、行先、人数を決める
・旅行代理店のアプリでツアーを探し、予約
・同じアプリ上の預金機能を使って観光に使うお金を積み立て準備 ←BaaS!
・アプリの旅行代金決済では口座即時決済や後払いが可能 ←BaaS!
【旅行中】
・寸暇を惜しんで観光を楽しむ
・旅先の飲食代金など、アプリのバーチャルデビットカードで決済 ←BaaS!
・決済に応じて、次回以降の旅行代金の決済に使えるポイント還元 ←BaaS!
【旅行後】
・旅行代金など精算金を人数割し、友人に集金依頼 ←BaaS!
・後払いとしていた旅行代金を友人から集金したお金でそのまま決済 ←BaaS!
・旅行中に得たポイントを次回旅行用の目的預金に組み入れ ←BaaS!
・楽しかった思い出に浸る
このように旅行というイベント一つをとってみても、様々なシーンでBaaSが活用できます。お金にまつわる煩わしいことを極力排除することによって、旅行をこれまで以上に存分に楽しむことができそうです。また旅行代理店などの事業者にとってもBaaSを活用することで顧客満足度が上がり、リピーターが増える、といったメリットがあります。
ここまで読んでくださった皆さんの中には、「BaaSで世の中のサービスがもっと便利になりそう」と期待される方がいる一方で、「じゃあなんで、どこの銀行もBaaSやってないの?」と疑問が浮かんでいる方もいるかもしれません。
その答えは簡潔に言うと「簡単にはできないから」ということなのですが、詳しくは次の機会にお話しできればと思います。