「現場そのものが家族でした」映画『大綱引の恋』主演・三浦貴大、名匠・佐々部清監督作品の撮影を述懐

  by ときたたかし  Tags :  

日本アカデミー賞第34回新人俳優賞を受賞するなど演技力に定評がある俳優の三浦貴大さんが、映画『大綱引の恋』で主演を務めました。鹿児島県薩摩川内市に400年以上続く勇壮な“川内大綱引”(せんだいおおつなひき)に青春をかける鳶(とび)の跡取りと、甑島の診療所に勤務する韓国人女性研修医との切ない恋、そしてふたりを取り巻く家族模様を描く感動作で、三浦さんは鳶の三代目・有馬武志役を好演しています。オファーが来るまでお祭りのことは知らなかったそうですが、本作で描く人間ドラマは演じる三浦さんにも影響を与えたそうです。ご本人にお話をうかがいました。

■公式サイト:https://ohzuna-movie.jp/ [リンク]

■ストーリー

有馬武志は鳶職・有馬組の三代目だが、35歳にしてまだ独身。鳶の親方でもあり、“大綱引”の師匠でもある父親寛志(60)から常々「早う嫁を貰うて、しっかりとした跡継ぎになれ。」と、うるさく言われている。仕事柄女性とめぐり合う機会が少ない上に奥手の武志には、交際している女性がいない。

とある日、消防団員でもある武志が、川内駅のコンコースですれ違いざまに倒れた老人の救命措置をしているところに、甑島の診療所に勤務する韓国人女性研修医のヨ・ジヒョン(28)が通りかかり、連携プレーにより老人の命は救われる。お互いに名前を名乗ることもなく別れた二人だが、後日韓国からの訪問団の通訳のボランティアで、偶然にも再び出会う。大学で学んだ韓国語を得意とする武志は、ほどなくジヒョンと心を通わせるようになる。年に一度、秋分の日の前夜に催される“大綱引”が近づくにつれ、武志のジヒョンへの思いが覚悟へと変わり、結婚を意識するようになる。

しかし“大綱引”開催日直前に、武志はジヒョンから「あと2週間で研修期間が終わり、帰国して韓国の病院で勤務することになっているの…」と告げられる。果たして海を越えて日本と韓国とで離ればなれになる二人の恋のゆくえは?

家族愛をテーマにした作品を世に送り出し続けている佐々部清監督により、二人の恋愛を通して「結婚とは?」、「家族とは?」に迫る感動作。

●物語の舞台が地方や韓国など、文化的・土地的な広がりもある作品ですね。

タイトルにもある大綱引とは、鹿児島の薩摩川内市に昔から伝わる伝統あるお祭りなんですね。まずは地元の方たちが、そのお祭りに対してどういう想いを抱いているのかを知るべきだなと思い、僕も鹿児島に行った際、地元の人たちといろいろとお話をする機会を得ました。すると、すごく大切にされていることがわかった。そういうことをしっかりと理解して、役柄に落とし込まないといけないと思いました。それを主軸に家族関係も描かれているので、スケールの大きなドラマだなと思いました。

●とてつもない人数が参加するお祭りでしたが、ご存じでしたか?

このお話をいただくまで僕は知らなかったです。話に聞いているだけだと、綱引きをするのか、くらいのイメージでしたが、実際に見に行ってみると面白いお祭りだなと思いましたし、よくよく考えたらお祭りなのに勝ち負けがあるって、けっこう珍しいのかなと思いました。斬新だなとも思いました。

●実際に行ってみて初めてわかることも多そうですし、演じる上では責任感みたいなものも生まれそうです。

僕が落とし込めていなければ話自体もなりたたないし、地方のお祭りを描くにあたって失礼になってしまう部分もありますよね。地元の映画を撮る場合は地域の方々に応援していただかいと始まらないので、そこは大切にしようと思いました。

●地元の方々と交流もされたそうですが、どれくらいの期間だったのですか?

地元の方々とは撮影中、毎日飲みに行ってました(笑)。共演者の方たちと行くこともありましたが、だいたいは地元の人とでしたね。

●鹿児島の知人に乾杯がビールではなく焼酎から始まると聞いたことがありますが、飲みから始まる、お酒で意思を交わす文化が根付いている土地のようですね。

確かにそうでした。わざわざ飲みに行きましょう、という感じでもなかったですね。飯を食いましょう、当然飲むでしょう?みたいな。生活に根づいているというか、自然と浸透している感じですね。お祭りそのものも、この映画のものではなく歴代の大綱引のポスターが街中に貼ってあるほどで、特別なものだと思いました。

●お祭りを実際に体験していかがでしたか?

そうですね。いろいろな人の想いを乗せて一年に一回、このお祭りが行なわれているのだなと思いました。ただ単純にお祭りが行なわれているだけではなくて、いろいろな人の想いがあって、いろいろな人が関わっているもの。次の年も絶対に観に行こうと思いましたが、コロナで去年は中止になってしまいました。韓国のほうも観に行きたかったのですが、行くことができなくなってしまいました。

●お祭りの勝敗が日常生活に影響がありそうだなと、ちょっと気になりました。

昔は道を隔てて本当に仲が悪かったみたいな話もあったそうです。祭り前には一言も口をきかないみたいな。今そこまでのことはないそうで、下方と上方の人が一緒に飲むこともあるそうですよ。

●そして家族のありかたもテーマでしたよね。

佐々部監督が現場にいたことがすごく大きかったですね。監督が作る現場というものが、現場そのものが本当にまとめて家族、みたいな感じになるんです。それが佐々部監督の素晴らしいところであり、僕が大好きなところでもあります。恋とタイトルにありますが、結婚や家族のことも描いているので、何かしら感じるものはあると思います。ぜひ多くの人に観てほしいです。

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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo