※編集部追記(2021/05/09)・本文中の日本刀の歴史や取り扱い内容に関しては諸説あります。本記事では取材時の協力者様の意見をひとつの見解として掲載しておりますが、正解として保証するものではありません。また、日本刀の手入れ方法につきましては、ご自身の責任においてご判断くださいませ。
どうもライターの丸野裕行です。
悠久の歴史を感じてしまう「日本刀」。『鬼滅の刃』や『るろうに剣心』、『銀魂』、『ワンピース』などの人気のアニメでもその美しい姿をよく見かけることができます。
日本刀というものは、日本特有の折り返し鍛錬などの製造法を用いた反りのある刀。11~12世紀頃にはその製造方法が確立され、 日本刀は日本特有の武器というだけでなく、武士魂を表す信仰の対象になり、武士道精神の象徴にもなっていきました。
日本の歴史で千年を越えて大事に保存された日本刀は、今もなお、刀工、刀匠などと呼ばれる刀鍛冶が作られた当時の姿を伝えています。光り輝く日本刀は、他国に類を見ない日本が誇る文化財のひとつです。
しかし、日本人でも日本刀のことを知らないという人が多くいます。今回は、日本美術刀剣保存協会の元会員で居合抜きを学んでいたU氏に、“本当の日本刀の裏話”をお聞きしました。
各部位にはしっかりと名称がある
丸野(以下、丸)「日本刀の魅力とは?」
U氏「そうですね、昔ながらにある、例えば江戸時代のときから武器として日本刀ってあるわけじゃないですか。戦争に負けて、“神秘的”だと進駐軍に没収されたりとかして、現存しているものってやっぱりすごいわけですよね。迫力が違うというか。で、拳銃とかナイフって銃刀法によって規制されているんですが、日本刀だけは違って、美術品の登録なんです。あれは美術品として、この世の中に残っているものなんですね」
丸「美術品になると……」
<写真:所有許可証>
U氏「拳銃や猟銃というのは警察への登録が必要なのに対して、日本刀は美術品として近隣の教育委員会に登録するんですよ。実はこれって、戦後にアメリカから刀狩りにあった愛刀家が、日本刀を武器というわけではなく、美術品として残存させるための知恵だったそうです」
丸「大した知恵者ですね」
U氏「簡単に刀の部位の名称を説明していくんですが《刀身(とうしん)》というのは、刀剣本体の名称です。《鞘(さや)》に納まっている部位と《柄(つか)》に納まっている部位に分けられていて、柄に隠れているのが、《目釘穴(めくぎあな)》や《銘(めい)》というしっかり固定するための穴です。刃先の方に寄って白く浮かびあがっている《刃文(はもん)》、先端部にある《切先(きっさき)》の曲線《ふくら》など、各部にはしっかり名前がついています」
<写真:刀身本体>
<写真:鞘>
<写真:鮫皮が覗く柄>
<写真:右〇が目釘穴。刀身が柄から抜けおちないように固定する>
<写真:ふくら>
丸「やっぱり深いですね」
刀剣には刀鍛冶の流派や出身が強く影響する
U氏「刀身というのは、刀鍛冶や作った年代、その地域ごとに独特の模様や形状が表現される部分です。ですから、それぞれの部位の名前を覚えてもらうと、刀剣を鑑賞する楽しみを最大限味わえます。さらに、その刀剣が誰により、いつ作られたのか、武将や武士などの歴史を知ることができる上で重要になってきます。たとえば、京都(山城国)、奈良(大和国)、岐阜(美濃国)、岡山(備前国)、神奈川県(相模国)の5つの国が有名で、《五ヶ伝》と呼ばれます。さらに、三重(伊勢国)の村正や神奈川(相模国)の正宗・貞宗などが名刀を作る刀鍛冶といわれていますね。鍔とか柄とかに美学があって素晴らしい名刀です」
丸「ほほう。そんなに種類が」
U氏「どういう刀鍛冶が作出したのか、を彫っているのが《銘(めい)》といいます。銘がないものは《無銘(むめい)》という扱いになるわけです。無銘の日本刀は、名前を入れることを許されていない刀工が作った刀だったり、名匠がわざと《銘》を入れなくても“オレが作出した日本刀だとわかるだろう”という感じでわざと入れないものがあるそうで、無銘の刀でも《特別重要刀剣》という扱いになっているものもあります。誰のために作った日本刀かの裏側に、いつ、その刀剣が打たれたかを彫るんですね」
<写真:誰が制作したのかサインが彫られている>
丸「なるほど」
U氏「でもね、無銘の刀に、正宗やら名匠の名前を刻印した偽銘も存在するんですよ。新撰組の近藤勇の日本刀である《虎徹》は偽銘だった可能性もあるそうです」
薩摩隼人は指がなくなってもいい覚悟
U氏「丸野さんは鹿児島出身だとお聞きしたのですが、薩摩刀というものがありましてね。それは極端に鍔の部分が小さい。なぜ(通常の刀の)鍔が大きいかというと、切り合ったときに相手の刀で指を落としてしまう恐れがある。でも、薩摩隼人は“そうなってもよか!”という意気込みと気合が入っている鍔なんですね」
<写真:鍔>
<写真:切羽……これが詰まると刀が抜けなくなることから、[切羽詰まる]の語源>
丸「そんなに全国には名刀があるんですね」
U氏「刀剣というのは、蛍光灯の下とか太陽の明かりなどに照らすものではなく、裸電球の下で鑑賞して《沸え(にえ)》や波紋の形などその姿を楽しむものです。鋼を混ぜて打って、一本一本に個性があるわけです。“ああ、これは誰が打った”だとか“これはなに一門が打ったんだ”とかまったく違います。その中でも重要刀剣、貴重刀剣というものがあって、刀剣協会が保証しているかどうかでまた価格が違ってきます。錆びて、刃こぼれしている刀はまったく手入れがされていないので、それを研磨するのですが、薄い刀になればなるほど、価値は下がりますね」
妖刀らしきものもときどきある
丸「いわくつきの刀とかありますか?」
U氏「刀剣のプロになると、“ああ、これは人を斬ったことのある刀だね”とかわかるらしいですよ。なんだか、変な感じがするらしいです」
丸「マジですか!」
U氏「なんとも言えない感じがするらしく、自宅に置いていると相性が悪かったり、気分が悪いのですぐに売却される人もいますね。私にはわかりませんが……」
時代によって日本刀のスタイルも変化
「でも、私は鑑賞して楽しむというものと巻き藁を斬るというものも好きですね。とある有名な方の弟子になりまして、スパッ、スパッと切れるようになりました」
丸「ほお」
U氏「日本刀には研ぎ方もありまして、紙もスッと切れるという研ぎ方をすると、骨まで断てないんですね。ああいう、戦国時代の刀というとゴリゴリと切れるノコギリ状になっていたらしいですね。でも上から振り下ろすと、素人だと絶対に曲がります。平安時代に非常に刀が反っていたのは、馬に乗って上から首を落とすためです」
丸「そうなんですね」
U氏「平安時代中期に、日本刀の姿は《直刀》から、《太刀》へ変化するんですね。騎乗してから戦う武士にとっては、直刀というのはかなり抜刀しにくいわけです。斬りつけるのに、不便という欠点がありました。それを踏まえて、反りをつけた太刀が生まれます。《茎(なかご)》から強い腰反りの刀でで、馬上でも非常に抜刀しやすく、重宝されました。腰帯の左側に刃を下にぶら下げるスタイルになったわけですね」
丸「ははぁ~」
日本刀のリアルは違う
U氏「人を殺傷するのなら、旧日本軍が使っていたステンレス製の軍刀です。一番的に致命傷を与えられるのは、突きです。一番強いのは槍じゃないですか。槍は《市中引き回し張りつけ獄門》のときにも使われましたし、幕末の新撰組は常に突きに徹していたという風に聞いていますね」
丸「打ち粉みたいなのを手入れに使うじゃないですか? あれ本当なんですか?」
U氏「あれカッコいいんですが、あれは砥石の粉なので逆に傷がつきます。もったいない。一番いいのは、化学的なのもので『ピカール』とかあるじゃないですか? あれで磨くのが一番です(笑)
※編集部追記(2021/05/09)・本文中の日本刀の歴史や取り扱い内容に関しては諸説あります。本記事では取材時の協力者様の意見をひとつの見解として掲載しておりますが、正解として保証するものではありません。また、日本刀の手入れ方法につきましては、ご自身の責任においてご判断くださいませ。
最後にちょっと失礼になってしまうとは思いますが、時代劇のチャンバラや剣道の技で刀や竹刀を振り下ろしても、人なんて殺せません。つばぜり合いなんかやってたら、刃こぼれして仕方ないですよ(笑)」
歴史本や歴史サイトでは、あまり伝えられていない部分まで教えていただいたU氏。諸事情で刀剣協会からは脱会してしまった今でも、日本刀への愛情は尽きないといいます。
(C)写真AC