どうも特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
もし、あなたの住所や名前が、なんの根拠もないのに「有名人の家族だ」「親戚だ」と勝手にさらされたらどうしますか?
身に覚えもない犯罪の加害者としてネットにさらされるという事件はしばしば耳にします。有名人の親族だといって、自宅に押しかけられたりすれば、「なにか危害を加えられるのではないか……」となんだか恐ろしいですよね。
今回お話をお聞きした女性は、今をときめく“人気アイドル・AのNくんの実家”として、自宅住所をネットにさらされました。
自宅ファンが押しかけてきたというNさん(仮名)の身になにが起こったのか、どんな事件が起こったのか、リポートしたいと思います。
いきなりポストが手紙でいっぱいになる
Nさんは、父と母と同居する会社員。事務の仕事をしていて、本人曰く毎日が平々凡々と過ぎていく感じだったといいます。
しかし、ある日のこと。状況は一変しました。
丸野(以下、丸)「一体なにがあったんですか?」
Nさん「ある日突然、ポストいっぱいに手紙が届いてたんです。ポストに入らないから、郵便局員さんに“直接受け取ってください”ということで、段ボールいっぱいの荷物が……。中を見てみると、Nくんへのファンレターでした。もう意味がわからなくて……」
丸「それは怖いですね」
Nさん「それで友人に相談したら、Webに詳しい人にそれを伝えてくれて……」
知らないうちにネットに掲載される恐怖
丸「どうなったんですか?」
Nさん「掲示板にNくんの実家として掲載されていて、晒されていると……。まことしやかに解説が追加されていたようです。その元ネタになったというのが、葛飾区の小学校、中学校卒業という情報が載っていた《有名人の実家まとめ》サイトだったわけです。恐らく熱狂的なファンが作ったサイトだったのか、アクセスを狙って作ったのでしょう、と。すべて公立だった彼の出身校は、学区ごとに区切られているので、その学区内に実家があるとしか考えられないとなったんでしょう。それで私の家が目をつけられたのだと思います」
丸「思い込みなんですか?」
Nさん「いえ。そのうえ、そのサイトではNくんのことを執拗に追っているので、テレビ番組で実家の情報があると、スクショして、それがのサイトに掲載されているんですよね。たとえば、“はす向かいがお米屋さんですから”とか。地域と、お米屋さんを特定すれば、実家がわかるという話で……」
丸「Nさんの家もお米屋さんが近くに?」
Nさん「はす向かいではないですけど……」
丸「それでも、苗字が一緒だったから特定したということなんですかね」
Nさん「そうだと思います」
プレゼントやチョコ、脅迫文まで
Nさん「それからは、Nくんに対する誕生日プレゼントやバレンタインデーのチョコなどが届くようになったわけです。もう実家の父も母も、訳が分からないものばかりが届くので、半分ノイローゼでしたね。そのまとめサイトにも記載されていたのですが、Nくん本人は港区の超高級タワーマンションに住んでいるらしく、プレゼントすら送ることはできないし、だからといって、事務所に送るのはなにか違うし、実家に送れば距離が縮まる感覚があるみたいなんですよね」
丸「そんなもんなんですか? ちょっと僕には理解できないですけど……」
Nさん「そんなときに、どうもストーカー気質のファンからの無言電話がかかってきたり、脅迫文が届いたんですよね。“Nくんのことが好きで好きで仕方がないけど、結婚の約束もしたんだけど、親のあなたたちはそんな彼にまだあんなアイドル活動をさせているの?”と。やり場のない怒りを、赤の他人の私たちにぶつけられても、困惑するだけですから……」
丸「そりゃそうですよね。でもその彼女、エスカレートしたりとかはしなかったんですか?」
Nさん「しました、しました。ある日、“ないがしろにされるのはイヤです”、“ご一家全員殺しに行きますね(笑)”、“実家を血の海にすれば本人もわかってくれるはず”という手紙が届きました。さすがに警察に駆け込んで被害届を出しましたけど、脅迫文に関しては受理されましたが、プライバシーの侵害というのかネット上に住所を晒すこと自体には、刑事罰がないので、刑事責任を追及することはできないとのことでした」
丸「結局、なにも対応してもらえなかったわけですか……」
Nさん「そうですね」
ファンが訪問してきた時点で弁護士へ相談
Nさん「後で聞いたんですが、度を過ぎて迷惑行為をするファンのことを《裏オリキ》、その他《ヤラカシ》と呼ぶそうです。彼女たちには限度がないようで、深夜に私の自宅周辺で待ち伏せていたり、プレゼントを投げ入れたり、庭に忍び込んでNくんのものと間違えて、私の靴を盗んだりされたこともありましたよ」
丸「散々な目に遭ってますね」
Nさん「一番は、ファンが午後10時くらいに訪問してきたことですね。Nくんの誕生日に手作りのケーキを持ってきました。浮世離れした目つきが恐くて、“Nくんが帰ってこないのなら、ご家族で食べてください!”と言われて……。さすがに恐ろしくなって、すぐに弁護士事務所へ駆け込みました。もちろん住所の削除依頼です」
住所を勝手に晒されることはプライバシー権侵害
Nさん「掲示板に載っているといっていたWebに強い方の紹介で、サイバー犯罪に強い弁護士さんを紹介してもらい、相談しました。まずは、書き込みがあるSNSや掲示板などのサイトへの削除依頼を行うことが第一だということでした。大きなサイトであればあるほど、個人情報の書き込みを利用規約が禁じられているので、サイトルールに従って削除依頼を出すことによって、削除してもらえる可能性が高いという説明を受け、費用をお支払いしました。バカみたいですよ、こちらにはなんの落ち度もないのに……」
丸「ですよね、本当に」
Nさん「プライバシー権は、私生活上の情報を公開されない権利のことです。いくつか情報公開に正当性がある場合を除いて禁止されています。弁護士の先生にお願いして、約1ヵ月ほどでうちの住所の情報公開が消えました」
丸「それからは大丈夫だったんですか?」
Nさん「本音をいうなら、住所を晒した犯人本人を訴えたいという気持ちはありました。でも、そのためには、加害者に対して責任追及をするためには、その身元を特定する動きを取らなければいけません。住所が載っていたサイトへ投稿者のIPアドレス開示を請求し、IPアドレスでプロバイダの特定を行い、プロバイダへ投稿者の情報開示請求、、加害者の特定と結構な時間がかかってしまうんです」
丸「らしいですね。サイトやプロバイダに請求を断られた場合は、裁判所の仮処分とかを勝ち取らないといけないんでしょ?」
Nさん「そうなんです。犯人の特定にかかる時間って、開示請求から加害者特定までに6ヵ月~1年がかかります。通信ログというのは短期間で消えてしまうらしく、IPアドレスの開示請求というのは、投稿から1ヶ月半以内には着手しなければいけないという鉄則があるらしいんです。結局、削除したあとにしつこく晒されるようなこともなかったので、悪質ではないということで、それ以上追うことはなくなりました」
今回ご紹介したNさんの住所ネット公開トラブルは決して他人事ではありません。
IPアドレスでの犯人情報開示の法律も近々に改正されるということなので、なにかあった際にはネット犯罪に詳しい弁護士さんを頼ることをオススメします。
(C)写真AC
※写真はイメージです