ミシンで数学と技術家庭科を同時学習?「ルートや三平方の定理なんてどこで使うんだ?」「ここです!」毛糸ミシンと本縫いミシンを記者が勝手にコラボ!

  by 古川 智規  Tags :  

以前に巣ごもりアイテムを特集した際にミシンメーカーであるアックスヤマザキの「子育てにちょうどいいミシン」を紹介した。
同記事中で子供用に毛糸ミシンがあるので一家に一台ではなく、一人一台で楽しんでみてはどうだろうかと提案したのだが、件の毛糸ミシンがいったいどういうものなのかを確かめるために、今回は「毛糸ミシン ふわもこHug」を中心にレビューしたい。同時に「子育てにちょうどいいミシン」も使用して勝手にコラボしてみたので、親子で楽しむ際の参考にしていただきたい。
なお記事のボリュームが大きいので時間のある時に読み物として、お好きな項目からお読みいただきたい。

※参考記事
ステイホームでもできることはたくさんある!巣ごもりアイテム特集 ~モノづくり編~
https://rensai.jp/326277 [リンク]

毛糸ミシンとは

毛糸ミシンと銘打ってはいるがカテゴリーとしては玩具、つまりおもちゃの範疇である。よって対象年齢は6歳からと小さな子供でも安心して「遊べる」仕様になっている。遊ぶといっても創作できることには変わりがないので、教育上も親子の絆という意味でもいい教材になるだろう。また毛糸で縫うので、縫い目は当然ながら「ふわふわ」「もこもこ」になるわけで、若い女性はここに着目して子供よりも高度なかわいい小物を作ることができる。
さて、毛糸で縫うとはどういうことなのか。一般家庭世の本縫いミシンは、針に上糸を通し、ボビンに巻かれた下糸と2本の糸で縫う機械だ。英語では「ソーングマシーン」だが、そのマシーンを日本人が聞き間違えて「ミシン」になったという。一方、毛糸ミシンは下糸がないばかりか針に糸を通すこともない。これだけで、ボビンを巻くこと、針に糸を通すこと、糸調子を気にすることが不要になる。ところが針を見ると5本もある。これは特殊な形状をしたニードルで、この針で毛糸を連続的につつくことにより毛糸の繊維を布に絡めて縫うことができる。縫う糸が毛糸という指定があるだけで対象となる布は綿でも化学繊維でも、まさか絹を使用する人はいないだろうが、とにかく厚さに制限はあるものの何でもよい。

少し難しい話になるが、使用する毛糸を選ぶときに必要な知識なので知っていただきたい。毛糸をつつくだけで縫えてしまう原理は、最近流行の兆しを見せている「フエルトパンチャー」と同じである。毛糸のほとんどは羊毛からできているが、動物の毛にはご存じキューティクルがある。このキューティクルは熱、圧力、振動、アルカリ性の水溶液を加えると開き、繊維同士が絡み合ってそのまま安定する性質がある。これを縮絨(しゅくじゅう)といい、フエルト化ともいう。この性質を利用して毛糸を5本のニードルで手動ではなく自動的かつ連続的に布ごと突き刺して「縫う」ことを可能にしている。またフエルト化の名の通り、この毛糸の性質を利用したのが「フエルト」である。フエルトは布として織られているのではなく、毛糸の繊維を絡めてあるだけなので、毛糸で作った元祖不織布である。よって、本機でフエルトを縫い合わせる場合に限っては毛糸がなくても縫うことができる。毛糸をほぐしてお湯と石けん水(アルカリ性水溶液)をかけた後、圧迫するとフエルトができるので試していただきたい。このことから、のちに実験するが縫うための毛糸はウール100%のものが適している。手触りも見た目も良い化学繊維(主にポリエステル)の毛糸もあるが、本機で縫えないことはないが、糸が繊維と絡む前に切れたり絡まなかったりと安定しないのでおススメしない。毛糸の素材はウールを使うことでしっかりとした強度と縫い目が担保されるようだ。
写真はポリエステルとウールの毛糸で縫ってみたものだ。左の写真の左の縫い目がポリエステル毛糸で縫った表側で、右の縫い目がウールで縫った裏側。右の写真の左の縫い目がポリエステル毛糸を使った裏側で、右の縫い目がウールを使った表側だ。ややこしくて恐縮だが、ポリエステルは毛糸がよく切れるが、裏側から見ればフエルト生地と混ざり刺繍としてはいい出来だと思うので飾りつけに裏側を見せるように縫ってみてはいかがだろうか。ウールは強固に縫合できるし、縫い目は表から見ると皮を縫ったようなレザークラフト糸のように見え、裏側はフワフワの刺繍のように見えるので、お好みの面を見せることができるだろう。

写真は記者がフエルト生地を半分に折って縫っただけの「モバイルルーターケース」だが、毛糸を使用するので縫い目が「ふわもこ」の立体感ある刺繍が施されているようになる。
この機構について同社は特許第5945050号・複数枚の布の縫合及びその縫合用ミシンとして取得している。産業界ではよくあることだが、本件特許をめぐり過去に異議申し立てや無効請求の争いがあった。その際の特許庁の審決によれば要旨、『本件発明は「複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、毛糸の繊維を複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合する」ことにより、「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる。」という効果を奏する』として同社の発明を認め、特許無効の請求を退けた審決が確定している。この特許庁の審決が示す通り、本機の特徴はまさに複数の布を縫い合わせると同時に刺繍が行えるということに尽きる。

<コラム>玩具なのに高級機構

さて、記者が男であるがために機械的な機構が気になるところなので、その点について少し述べたい。機械的な機構に興味のない方はレビューには直接関係がないので、読み飛ばしていただいて構わない。
まず不具合が出た場合の針の交換はもちろん可能で、別売りの専用針ユニットを交換することができるのだが、安全面に配慮してユニットボックスはドライバーを使用して大人でないと交換ができないようになっている。また針を動かすためにモーターの回転運動を上下の往復運動に変換しているのは通常のミシンと同様だが、よく観察すると針を布に突き刺すために力(トルク)が必要なので、ちゃんと減速機を介してトルクを得るようになっている。また、本機はスタート/ストップを電子ミシンのようにボタン1つで行えるように極度に簡略化されており、同ボタンを押して停止させると針は必ず上昇して止まる、これまた電子ミシンのような高級機構が備わっている。それを可能にしているのが回転センサーでる。回転センサーで得た回転数を制御基板にフィードバックして停止時の針位置を制御し、また最適な回転数とトルクが得られるように制御しているようだった。さらに何らかの要因で針が途中で停止してしまった場合に手動で針を動かすために、はずみ車のように見えるものの中にボタンがあり、ボタンを押しながらボタンそのものを回転させると手動で針が動く機構になっている。これは子供が不用意に動かせないようになっているのみならず、直結させていれば回転しているボタンに触れる危険を排除している。このためだけにボタンと回転軸との間にクラッチを設けていることがすごい。最近はおもちゃでも電子基板を使うことは当たり前だが、フィードバック機構が付いているなんて聞いたことがない。そこはミシンメーカーのこだわりと意地で高級機構を付けたに違いない。子供にも安心して使ってもらいたいという同社の願いだろう。

何を作ろうか

本機の弱点はやはり縫うといっても繊維のからみを利用するだけなので、ミシンで縫ったような強度は出せないということだろう。もっとも子供が作る程度の小物であれば十分な強度なのだが、重量物を入れる袋物を作るときにはやはり本物のミシンが必要になるのではないだろうか。そこに親子コラボの余地が出てくる。

本機は昔ながらのミシンの形をしているが、そのほとんどがデザインで、縫うまでの準備としては電源の確保(乾電池でも別売りのACアダプターでも動作可能でACアダプターによる給電を優先する自動制御)と、毛糸を用意することのみである。電源を投入して毛糸をミシンでいう天秤(のような形をしたガイド部分)に引っ掛けて、ミシンでいう押さえ(のような形をした針ガード)の下に通して、あとは縫う対象の布を入れてスタート/ストップボタンを押すだけだ。布送りの機構はないので、自分の手で布を送っていく。ゆっくりと送れば強固に縫合できるので、送り具合は縫合する生地や枚数で試してみるとよい。写真は針の部分を横から撮影したものだが、5本のニードルが並んでいて指が入らないようになっているために、手で布を送っても危険はない。
本機を購入して開封すれば本体とマニュアルとともにすぐに使用開始できるように、ある程度の材料や、飽きの来ないほどのレシピ集、またご丁寧にも型紙までついている。その型紙もミシン目入りで子供が手で切り離せるように作ってある努力は波ものだ。子供の心理がわかっていないと、ここまでの用意はできないだろう。
今回は「毛糸ミシンふわもこHug」を子供が友達の家に持ち運び、外出先で遊ぶことを想定して本機を収納するバッグを作ることにした。正直に白状すると、その程度のものしか現在の記者の腕では作れないということでもある。なにせ最後にミシンを触ったのが35年前、中学校の技術家庭科の授業で足踏みミシンだったので、そもそもスキルゼロなのである。前回の記事を境に猛特訓して何とか縫える程度に使えるようにはなったという次第である。それでも子育てにちょうどいいミシンに標準で付属する「足踏みスイッチ」はまだ怖くて使えない。

材料はすべて100均でそろえた。フリークロス(45×88cm)、カバンテープ(25mm幅×1.2m)、ウール毛糸、フエルト3枚入りセットの以上である。これを「子育てにちょうどいいミシン」と「毛糸ミシンふわもこHug」との共同作業で仕上げる。実際にはすべて記者がやるのだが、ご家庭では毛糸ミシンは子供が、本縫いミシンは大人が使い分業している体でご覧いただきたい。ますは子供のお仕事から開始だ。

毛糸ミシンで子供のお仕事

まずはポケットにする予定のフエルト生地に刺繍を施す。彗星のつもりなのだが、そう見えるだろうか。
ミシンには当然にある布送りの機構が本機にはないので、自分の手で布を送っていく。そのため記者が断念した本縫いミシンによる刺繍は、本機でなら毛糸刺繍が簡単に完成する。また、針の部分にはガードが付いていて指が入り込まないようになっているので事故防止にも配慮されている。またLEDライトが常時点灯するので手元は明るい。異常停止した場合や、しばらく使用しないでいると自動的に電源回路が切断されLEDは消えスリープ状態になる。異常停止の原因を取り除き、スリープ状態の場合はそのままスタートボタンを押せばLEDが点灯しスタンバイ状態に復帰する。安全面に配慮したミシンメーカーならではの機械的な高級機構についてはコラム欄で述べているので興味があればお読みいただきたい。

本機にはマジカルキットなるものが付属している、普段は本縫いミシンの布送り機構にあたる部分の上はめ込んで、布が送りやすいような台になっている。このキットを外して毛糸を巻き、裏返して布と一緒に中央部分を縫い、輪になった部分の毛糸を切ると「ふわもこ」ができるというよく考えられたキットだ。何に使うのかはアイデア次第だが、参考になる例は付属のレシピ集や同社の動画に詳しく紹介されている。記者はポケットの飾りとして使うことにした。

写真は刺繍したポケットに上記の「ふわもこ」を取り付けた状態。「ふわもこ」の上部中央は少し開けてあるので、小物ポケットとしてチャコペンや糸切りバサミくらいなら入るだろう。

ポケットの布をバッグにそのまま貼り付けてもいいのだが、それではバッグの布地がポケットの裏地になり強度に問題が出るかもしれないし、まだ毛糸ミシンで布を縫い合わせるということをしていないので、このポケットを袋状にするためにフエルトをもう1枚使用して裏地を縫い合わせることにした。背面のフエルトを少し上に出して物が入れやすいように、また色違いなのでデザイン的に良いかどうかはわからないが、グラデーションが生かせるようにした。そうして三方を毛糸ミシンで縫い合わせたのが写真の完成したポケットである。
子供のお仕事はひとまず、これでおしまい。実際には大人の横で並行して、子供といっしょに楽しんでいただきたい。

子育てにちょうどいいミシンで大人の仕事

「子育てにちょうどいいミシン」は、軽量コンパクトで安価な本縫いミシンである。子育て中のママが初めて使うミシンとしては、高度な機能や自動化メニューを装備したコンピューターミシンとは異なるものの、基本に忠実なミシンなので使い方を学びながら将来、高級機を買うまでの練習機として実用性抜群のモデルである。また独身男性にもおススメしたい力強い助っ人だ。

では、毛糸ミシンを入れるバッグを縫っていくことにする。バッグの袋の部分は裏返して縫うので、完成した時点で縫い目は見えない。よって生地になじみ縫いやすいポリエステル撚糸(より合わせた普通のミシン糸)の60番手を使用する。一方ポケットの貼り付けには、せっかく毛糸ミシンで刺繍まで施したので通常のミシン糸の縫い目はなるべく見えないようにしたい。そこでポケットと持ち手に使用する糸は化学繊維(ナイロン)の透明糸60番手を使用する。透明糸はいわば釣り糸のようなものなので、見えない代わりに単糸なので縫いにくく、撚糸と比較して硬いのでミシンの機構にもなじみにくい。糸調子も合いにくいので積極的に推奨はしないが、慣れてから使用した方がいいのかもしれない。そのほかの利点は単糸なのでミシン針に糸を通しやすいことだろうか。なお番手とは糸の太さを表す規格で、繊維の種類により異なるが、一般的には番手の数字が大きいほど細くなる。
フリークロスを裏返し、上下に折って、左右を縫えば袋の完成である。

今回は毛糸ミシン専用の携行バッグを作るので、マチもそれに合わせる。マチの幅を概ね15cm取れば大丈夫そうなので、底の両端を三角形に折って底辺を縫えばマチができる。子供と一緒に作業するなら、ここで問題を出して勉強させるのもアリかもしれない。すなわち、折った三角形は直角二等辺三角形になるので何センチの所を折ればマチ(底辺)が15cmになるのかという中学生向けの問題である。
底辺は15cmで決定しているので、実際にメジャーで測る底辺以外の2辺は三平方の定理(直角二等辺三角形の3辺の比は1:1:√2)から、1:√2=x:15となり、比例式(内項と外項の積は等しい)を使い、√2x=15から、x=15/√2、x=15√2/2。よってマチとなる2辺はおよそ10.6cmとなる。これを計算させて測ってみれば、マチの幅はちゃんと15cmくらいになる。余談だが、直角二等辺三角形の3辺の比を知らなくても三平方の定理から、x^2(二乗)+x^2=15^2でも求めることができる。2x^2=225から、x^2=225/2となり、x^2=112.5で、x=√112.5である。よってx≒10.60が求められる。「勉強勉強って、平方根や三平方の定理を勉強してどこで使うんだ?」「ここです!」という、ぐうの音も出ない教育ができよう。大人も昔の数学を思い出して挑戦してみよう。

さて、マチの部分を縫ったら、三角形の部分は切り取ってしまってもいいのだが、記者はそのまま残した。後で必要であればダンボールでも切って底板として入れれば良い。

マチができたら今度は持ち手である。カバンテープを半分に切って2本にし、ほころび防止のために終端処理をする。良さげな位置に雑巾縫いの要領で持ち手を縫い付けたら、裏返っていたカバンそのものを、表に返してとりあえずの完成だ。

どの工程でも良いのだが、付けやすいところでポケットを縫い付ける。マチを付けた関係上、あまり端にポケットを付けてしまうと物が入らなくなるので注意だ。最低でも左右に15cmのマージンを見込んで待ち針で仮止めしてから縫い付ける。強度の関係から4辺を縫ったのだが、上を縫わなければ2重ポケットにもなる。ここには若干膨らんでしまうが、毛糸ミシンのACアダプターが入ることになった。

仕上げは子供のお仕事で

そして最後の仕上げは毛糸ミシンが登場する。
カバンの上部をぐるりと一周、毛糸で縁取り縫いをする。両端は厚みがあり毛糸ミシンでは縫えないので、表面と裏面とに分けて毛糸を縫い付ける。当然ながら、この仕上げ作業は子供のお仕事だ。開口部をぐるりと縫うので、若干のスキルが必要だがゆっくりとやれば出来ない作業ではない。

これで、一応の完成を見たが、できたバッグに毛糸ミシン本体と毛糸、フエルト等を収納してみた。高さにまだ余裕があるので、100均で売っている細身のプラスチックボックスをミシンの下に置けば裁縫道具を整理して収納することも可能だろう。なお、ポケットには予定通りACアダプターを入れた。

まとめ

子育てにちょうどいいミシンは、本棚にすっぽり入ってしまうほどの小型軽量な本縫いミシンで、高級機にある多くの機能は付いていないが、12種の縫い方ができるので一般的な用途には十分だ。男性でも持っているときっと役に立つ力強い存在になるだろう。乾電池でも駆動するので、ところ構わずミシンに没頭できることは高級機にはないフットワークの軽さだ。
一方、毛糸ミシンふわもこHugは、玩具とは言い難い完成度とミシンメーカーとしての技術力が培った特許に基づいて、楽しく遊び感覚でモノづくりができるように設計されている。子供の情操教育から、若い女性の好奇心まで幅広い層で楽しむことができるミシンである。
どちらも縫うという行為は同じでも使用する糸も用途も異なるので、出来上がる作品も違う。よって、両方あれば一層楽しい作品づくりができることだろう。

一家に一台あると便利なミシンだが、子供に与えるには危険な面があるので、子供には安全な毛糸ミシンを与えれば、大人がちょっとした飾り付けをしたいときに子供に「毛糸ミシン貸して!」という機会がきっとあるはずだ。さらに子供のためにミシンで縫った成果物に「毛糸ミシンがあるんだから自分でデコをしなさい!」と命ずることもできよう。そういう観点からも家庭では一人一台のミシンで楽しみながらものづくり、一人暮らしでも安価なので一人二台のミシンで個性を生かして、周囲との差別化を図ってみてはいかがだろうか。

※写真はすべて記者撮影

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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